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第1話 転生したら魔王城の清掃員だった

新連載です!


異世界に転生した主人公が手に入れた職業は、まさかの「清掃員」。


モップ一本から始まる、こっそり最強無双をお楽しみください!



「……ここ、どこだ?」


目を覚ますと、知らない天井があった。


石造り。


薄暗い。


しかも、なんか寒い。


俺はゆっくり身体を起こした。


「確か俺……」


仕事帰りだった。


残業を終えて、コンビニで弁当を買って。


信号を渡って――


そこから先がない。


いや。


なんとなく覚えている。


クラクション。


眩しいライト。


急ブレーキの音。


「……死んだのか?」


口に出した瞬間。


目の前に、半透明の文字が浮かんだ。


==========


名前:レン


種族:人間


レベル:1


職業:清掃員


HP:30


MP:10


==========


「…………」


俺は何度か瞬きをした。


消えない。


「ステータス?」


異世界転生。


その言葉が真っ先に浮かんだ。


まさか。


本当に?


だったら、これはアレじゃないのか。


剣と魔法。


冒険者。


勇者。


チート能力。


そして、俺だけが使える最強スキル。


胸が高鳴る。


もう一度、ステータスを見た。


==========


職業:清掃員


==========


「清掃員じゃねえか!」


思わず叫んだ。


勇者じゃない。


賢者でもない。


剣聖でもない。


魔法使いですらない。


清掃員。


「異世界まで来て掃除するのかよ……」


前世でも会社員だった。


特別な才能なんてなかった。


朝起きて。


働いて。


帰って寝る。


その繰り返し。


せっかく転生したのに、また普通に働くのか。


俺が頭を抱えていると、部屋の扉が勢いよく開いた。


「おい、新入り!」


入ってきたのは、大柄な男だった。


人間――ではない。


額から太い角が2本生えている。


肌も赤黒い。


どう見ても魔族だ。


「いつまで寝てやがる! 今日から仕事だぞ!」


「仕事?」


「そうだ。とっとと来い!」


男は俺の腕を掴んだ。


力が強い。


そのまま廊下へ引っ張り出される。


「ちょ、ちょっと待ってください! ここ、どこなんですか?」


「あ?」


男が振り返る。


そして、当たり前のように答えた。


「魔王城だ」


「…………」


魔王城。


聞き間違いか?


「今なんて?」


「だから魔王城だ。魔王陛下がお住まいになっている、世界最大の魔族拠点」


マジか。


異世界転生して。


職業は清掃員。


しかも就職先が魔王城。


俺の異世界人生、始まって数分でもうだいぶおかしい。


「俺はガルド。この城の清掃部で班長をやってる」


「清掃部……」


「お前は今日から地下区画担当だ」


やっぱり掃除するらしい。


ガルドに連れられ、長い階段を下りる。


魔王城はとにかく広かった。


黒い石でできた壁。


天井には青白い炎。


廊下を歩くのは、人間ではない者ばかりだ。


牙の生えた兵士。


全身鎧の巨人。


宙に浮かぶ目玉。


首のない騎士。


「すげえ……」


思わず声が漏れる。


本当に異世界だ。


その光景だけは、ちょっと感動した。


だが。


地下に近づくにつれ、その感動は消えていった。


「……汚ねえ」


廊下が汚い。


ものすごく汚い。


床には泥。


黒い染み。


謎の液体。


壁には爪痕。


そして明らかに血っぽい跡まである。


「これ……全部掃除するんですか?」


「当たり前だ」


ガルドが俺にモップを押しつけた。


さらに木桶と雑巾。


「地下第7廊下。今日はそこを全部やれ」


「全部?」


先を見る。


長い。


めちゃくちゃ長い。


終わりが見えない。


「無理じゃないですか?」


「終わるまで帰るな」


ブラック企業だった。


異世界でもブラック企業だった。


「あと気をつけろよ」


「何をです?」


「たまに魔物が出る」


「掃除場所に!?」


「地下だからな」


「清掃員の仕事じゃないでしょ、それ!」


「出たら逃げろ」


雑。


あまりにも雑だ。


ガルドは笑いながら去っていった。


残されたのは俺とモップだけ。


「……やるしかないか」


転生初日から無職になるのも嫌だ。


俺はため息をつき、モップを水に浸した。


そして床を擦る。


ゴシゴシ。


黒い汚れが少し落ちる。


「お?」


意外と気持ちいい。


もう一度。


ゴシゴシ。


その瞬間だった。


ピロン。


頭の中で、音がした。


「ん?」


目の前に文字が浮かぶ。


==========


《地下第7廊下の残留魔力を吸収しました》


MP+3


==========


「……は?」


何だ、これ。


俺はモップを止めた。


残留魔力?


MP+3?


慌ててステータスを開く。


==========


名前:レン


レベル:1


職業:清掃員


HP:30


MP:13


==========


「増えてる……」


さっきまでMPは10だった。


今は13。


「掃除したから?」


そんなわけあるか。


偶然だ。


俺はもう一度、床を擦った。


ゴシゴシ。


ピロン。


==========


《残留魔力を吸収しました》


MP+2


==========


「マジかよ」


もう一度。


ゴシゴシ。


==========


《残留魔力を吸収しました》


MP+4


==========


「…………」


俺はモップを見る。


普通のモップだ。


木の棒に布がついているだけ。


「まさか」


床ではなく、壁を雑巾で拭いてみる。


ピロン。


==========


《残留魔力を吸収しました》


MP+1


==========


「掃除した場所の魔力を吸収してる?」


心臓が速くなる。


俺は次々と試した。


壁。


床。


柱。


扉。


汚れが落ちるたびに通知が出る。


==========


MP+2


MP+5


MP+3


MP+6


==========


「ちょっと待て」


これ。


ヤバくないか?


魔王城だぞ。


魔族の頂点である魔王が住む城。


そんな場所なら――


城中に魔力が染みついていてもおかしくない。


つまり。


「掃除すればするほど、俺の魔力が増える?」


俺は廊下を見る。


さっきまで絶望しか感じなかった、果てしなく長い廊下。


今は違う。


全部、経験値に見える。


いや。


経験値よりすごい。


掃除するだけで強くなれる。


戦わなくていい。


命を張らなくていい。


床を磨くだけ。


「……やるか」


俺はモップを握り直した。


そして。


全力で掃除を始めた。


「うおおおおお!」


ゴシゴシ。


ゴシゴシ。


ゴシゴシゴシゴシ。


==========


MP+3


MP+4


MP+2


MP+7


MP+5


==========


「まだだ!」


床を磨く。


汚れを落とす。


壁も拭く。


窓も拭く。


石像の埃まで取る。


気づけば、作業開始から数時間が経っていた。


「ふう……」


廊下は見違えるほど綺麗になった。


床がうっすら光を反射している。


達成感がすごい。


俺は額の汗を拭った。


「ステータス」


==========


名前:レン


種族:人間


レベル:1


職業:清掃員


HP:30


MP:486


==========


「486!?」


10だったのに。


一日で約50倍。


「レベルは上がってないけど……」


MPだけ異常に高い。


普通の人間がどれくらいなのか知らない。


でも絶対におかしい。


「これ、誰かに知られたらまずいよな」


何が起きるか分からない。


珍しい能力なら利用されるかもしれない。


魔王城だ。


下手をすれば実験台だってあり得る。


「黙っておこう」


そう決めた。


俺はあくまで清掃員。


普通に掃除する。


ただし。


こっそり強くなる。


それでいい。


その時。


ガルドが戻ってきた。


「おい、新入り! どこまで――」


言葉が止まる。


「……は?」


綺麗になった廊下を見て、目を丸くした。


「お前、これ全部やったのか?」


「はい」


「今日中に?」


「はい」


ガルドはしばらく黙っていた。


「……変な奴だな」


「そうですか?」


「普通は半分も終わらねえぞ」


先に言ってくれ。


ガルドは床を指でなぞる。


汚れひとつない。


「まあいい。明日は地下牢をやってもらう」


「地下牢?」


「ああ」


ガルドが嫌そうな顔をした。


「30年くらい、誰もまともに掃除してない場所だ」


俺の手が止まる。


30年。


誰も掃除していない?


「昔、強力な魔族や魔物を閉じ込めてた場所でな」


ガルドは続ける。


「魔力が濃すぎて、今じゃ誰も近づきたがらねえ」


「…………」


魔力が濃い。


その言葉だけが頭に残った。


「大丈夫だ。今は牢屋もほとんど空だ」


ガルドが俺の肩を叩く。


「死ぬようなことはねえよ。たぶんな」


「たぶん!?」


笑いながら去っていくガルド。


俺はしばらくその背中を見送った。


そして。


小さく呟く。


「30年分……」


誰も掃除していない。


しかも魔力が濃い。


俺は自分でも気づかないうちに、笑っていた。


翌日。


地下牢をひと拭きした俺は知ることになる。


魔王城で掃除をするということが。


俺の想像より、はるかにヤバいことだったと。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


「続きが気になる」「レンがどこまで強くなるのか見てみたい」と思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


感想も大歓迎です!


次回――30年間、誰もまともに掃除していない地下牢へ。


一体どれだけの魔力が溜まっているのか……?

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