第1話 転生したら魔王城の清掃員だった
新連載です!
異世界に転生した主人公が手に入れた職業は、まさかの「清掃員」。
モップ一本から始まる、こっそり最強無双をお楽しみください!
「……ここ、どこだ?」
目を覚ますと、知らない天井があった。
石造り。
薄暗い。
しかも、なんか寒い。
俺はゆっくり身体を起こした。
「確か俺……」
仕事帰りだった。
残業を終えて、コンビニで弁当を買って。
信号を渡って――
そこから先がない。
いや。
なんとなく覚えている。
クラクション。
眩しいライト。
急ブレーキの音。
「……死んだのか?」
口に出した瞬間。
目の前に、半透明の文字が浮かんだ。
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名前:レン
種族:人間
レベル:1
職業:清掃員
HP:30
MP:10
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「…………」
俺は何度か瞬きをした。
消えない。
「ステータス?」
異世界転生。
その言葉が真っ先に浮かんだ。
まさか。
本当に?
だったら、これはアレじゃないのか。
剣と魔法。
冒険者。
勇者。
チート能力。
そして、俺だけが使える最強スキル。
胸が高鳴る。
もう一度、ステータスを見た。
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職業:清掃員
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「清掃員じゃねえか!」
思わず叫んだ。
勇者じゃない。
賢者でもない。
剣聖でもない。
魔法使いですらない。
清掃員。
「異世界まで来て掃除するのかよ……」
前世でも会社員だった。
特別な才能なんてなかった。
朝起きて。
働いて。
帰って寝る。
その繰り返し。
せっかく転生したのに、また普通に働くのか。
俺が頭を抱えていると、部屋の扉が勢いよく開いた。
「おい、新入り!」
入ってきたのは、大柄な男だった。
人間――ではない。
額から太い角が2本生えている。
肌も赤黒い。
どう見ても魔族だ。
「いつまで寝てやがる! 今日から仕事だぞ!」
「仕事?」
「そうだ。とっとと来い!」
男は俺の腕を掴んだ。
力が強い。
そのまま廊下へ引っ張り出される。
「ちょ、ちょっと待ってください! ここ、どこなんですか?」
「あ?」
男が振り返る。
そして、当たり前のように答えた。
「魔王城だ」
「…………」
魔王城。
聞き間違いか?
「今なんて?」
「だから魔王城だ。魔王陛下がお住まいになっている、世界最大の魔族拠点」
マジか。
異世界転生して。
職業は清掃員。
しかも就職先が魔王城。
俺の異世界人生、始まって数分でもうだいぶおかしい。
「俺はガルド。この城の清掃部で班長をやってる」
「清掃部……」
「お前は今日から地下区画担当だ」
やっぱり掃除するらしい。
ガルドに連れられ、長い階段を下りる。
魔王城はとにかく広かった。
黒い石でできた壁。
天井には青白い炎。
廊下を歩くのは、人間ではない者ばかりだ。
牙の生えた兵士。
全身鎧の巨人。
宙に浮かぶ目玉。
首のない騎士。
「すげえ……」
思わず声が漏れる。
本当に異世界だ。
その光景だけは、ちょっと感動した。
だが。
地下に近づくにつれ、その感動は消えていった。
「……汚ねえ」
廊下が汚い。
ものすごく汚い。
床には泥。
黒い染み。
謎の液体。
壁には爪痕。
そして明らかに血っぽい跡まである。
「これ……全部掃除するんですか?」
「当たり前だ」
ガルドが俺にモップを押しつけた。
さらに木桶と雑巾。
「地下第7廊下。今日はそこを全部やれ」
「全部?」
先を見る。
長い。
めちゃくちゃ長い。
終わりが見えない。
「無理じゃないですか?」
「終わるまで帰るな」
ブラック企業だった。
異世界でもブラック企業だった。
「あと気をつけろよ」
「何をです?」
「たまに魔物が出る」
「掃除場所に!?」
「地下だからな」
「清掃員の仕事じゃないでしょ、それ!」
「出たら逃げろ」
雑。
あまりにも雑だ。
ガルドは笑いながら去っていった。
残されたのは俺とモップだけ。
「……やるしかないか」
転生初日から無職になるのも嫌だ。
俺はため息をつき、モップを水に浸した。
そして床を擦る。
ゴシゴシ。
黒い汚れが少し落ちる。
「お?」
意外と気持ちいい。
もう一度。
ゴシゴシ。
その瞬間だった。
ピロン。
頭の中で、音がした。
「ん?」
目の前に文字が浮かぶ。
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《地下第7廊下の残留魔力を吸収しました》
MP+3
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「……は?」
何だ、これ。
俺はモップを止めた。
残留魔力?
MP+3?
慌ててステータスを開く。
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名前:レン
レベル:1
職業:清掃員
HP:30
MP:13
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「増えてる……」
さっきまでMPは10だった。
今は13。
「掃除したから?」
そんなわけあるか。
偶然だ。
俺はもう一度、床を擦った。
ゴシゴシ。
ピロン。
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《残留魔力を吸収しました》
MP+2
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「マジかよ」
もう一度。
ゴシゴシ。
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《残留魔力を吸収しました》
MP+4
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「…………」
俺はモップを見る。
普通のモップだ。
木の棒に布がついているだけ。
「まさか」
床ではなく、壁を雑巾で拭いてみる。
ピロン。
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《残留魔力を吸収しました》
MP+1
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「掃除した場所の魔力を吸収してる?」
心臓が速くなる。
俺は次々と試した。
壁。
床。
柱。
扉。
汚れが落ちるたびに通知が出る。
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MP+2
MP+5
MP+3
MP+6
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「ちょっと待て」
これ。
ヤバくないか?
魔王城だぞ。
魔族の頂点である魔王が住む城。
そんな場所なら――
城中に魔力が染みついていてもおかしくない。
つまり。
「掃除すればするほど、俺の魔力が増える?」
俺は廊下を見る。
さっきまで絶望しか感じなかった、果てしなく長い廊下。
今は違う。
全部、経験値に見える。
いや。
経験値よりすごい。
掃除するだけで強くなれる。
戦わなくていい。
命を張らなくていい。
床を磨くだけ。
「……やるか」
俺はモップを握り直した。
そして。
全力で掃除を始めた。
「うおおおおお!」
ゴシゴシ。
ゴシゴシ。
ゴシゴシゴシゴシ。
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MP+3
MP+4
MP+2
MP+7
MP+5
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「まだだ!」
床を磨く。
汚れを落とす。
壁も拭く。
窓も拭く。
石像の埃まで取る。
気づけば、作業開始から数時間が経っていた。
「ふう……」
廊下は見違えるほど綺麗になった。
床がうっすら光を反射している。
達成感がすごい。
俺は額の汗を拭った。
「ステータス」
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名前:レン
種族:人間
レベル:1
職業:清掃員
HP:30
MP:486
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「486!?」
10だったのに。
一日で約50倍。
「レベルは上がってないけど……」
MPだけ異常に高い。
普通の人間がどれくらいなのか知らない。
でも絶対におかしい。
「これ、誰かに知られたらまずいよな」
何が起きるか分からない。
珍しい能力なら利用されるかもしれない。
魔王城だ。
下手をすれば実験台だってあり得る。
「黙っておこう」
そう決めた。
俺はあくまで清掃員。
普通に掃除する。
ただし。
こっそり強くなる。
それでいい。
その時。
ガルドが戻ってきた。
「おい、新入り! どこまで――」
言葉が止まる。
「……は?」
綺麗になった廊下を見て、目を丸くした。
「お前、これ全部やったのか?」
「はい」
「今日中に?」
「はい」
ガルドはしばらく黙っていた。
「……変な奴だな」
「そうですか?」
「普通は半分も終わらねえぞ」
先に言ってくれ。
ガルドは床を指でなぞる。
汚れひとつない。
「まあいい。明日は地下牢をやってもらう」
「地下牢?」
「ああ」
ガルドが嫌そうな顔をした。
「30年くらい、誰もまともに掃除してない場所だ」
俺の手が止まる。
30年。
誰も掃除していない?
「昔、強力な魔族や魔物を閉じ込めてた場所でな」
ガルドは続ける。
「魔力が濃すぎて、今じゃ誰も近づきたがらねえ」
「…………」
魔力が濃い。
その言葉だけが頭に残った。
「大丈夫だ。今は牢屋もほとんど空だ」
ガルドが俺の肩を叩く。
「死ぬようなことはねえよ。たぶんな」
「たぶん!?」
笑いながら去っていくガルド。
俺はしばらくその背中を見送った。
そして。
小さく呟く。
「30年分……」
誰も掃除していない。
しかも魔力が濃い。
俺は自分でも気づかないうちに、笑っていた。
翌日。
地下牢をひと拭きした俺は知ることになる。
魔王城で掃除をするということが。
俺の想像より、はるかにヤバいことだったと。
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次回――30年間、誰もまともに掃除していない地下牢へ。
一体どれだけの魔力が溜まっているのか……?




