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第三王子はお姫様  作者: はにか えむ


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1.女装子、異世界転生する

 大好きなクラシカルロリィタを美しく着こなすために、いつだってヒールの高い靴を履いていた。

 

 ロリィタブランドの服の多くが一着三万円前後だ。高いものでは六万円を超えるものもある。家賃節約のために駅から離れた住宅街に部屋を借りて、稼いだお金のほとんどを服や小物に使う。

 そんな僕の職業は動画配信者。高校生の時に動画配信を始めて、五年経った今ではその界隈の有名人だ。

 僕はいわゆる男の娘。いや区分的には女装子、クロスドレッサーというのが正しいか。とにかく身も心も男だけど、可愛い女性の格好をするのが大好きな人種だった。

 動画の配信内容は服のレビューやメイク。あとは歌ったり踊ったりコスプレしたりゲームをやったりなど多岐にわたる。とくに歌は大好きなので、女装子を集めてバンドを組んだりしていた。

 これ以上ないくらい充実した人生。好きなことを思いっきりやって、それで稼いだお金で大好きなロリィタ服を買い集める。

 ブランドからのオファーでモデルをやらせてもらえるくらい、カワイイを極めた人生。

 そんなんだったから、帰り道の歩道橋で足首がぐねって階段から転落した時も、僕は服が汚れてしまうことを心配した。まさか死んでしまうなんて、思っていなかったから。

 

 目を覚ましたら赤子だった。まだ目はよく見えず、音だけが聞こえる。耳に届く音は知らない言語だったが、思考しかできることがなかったために理解できるようになるのは早かった。

 記憶を持ったまま生まれ変わったことはすぐわかった。よりによって知らない言語の国かとがっかりしたのを覚えている。だって言語を新しく覚えるのは面倒だからね。

 これは異国どころか異世界では? と気がついた時にはもう、歩けるようになっていた。だって明らかに現代の暮らしではない。今時水道がない、車や自転車すらない国なんて存在しないだろう。いやもしかしたらあるのかもしれないが、少なくとも僕は知らない。

 

 そして周囲にいる人たちを見て、さらに気がついたことがある。もしかしてこの転生、大当たりでは?

 この世界、文明が発達していない割には衣服の生地の種類と色が豊富だった。この国自体が繊維産業で成り上がった国らしく、服のデザインは僕が憧れていた西洋のお姫様風。つまりリアルクラシカルロリィタだ。

 使用人のお仕着せさえ、僕の好みど真ん中だ。何より僕の母、アルタナ様の衣装が毎日カワイイ。

 まだ幼児の僕は使用人と母と祖父にしか会ったことがない。僕はこの国の第三王子というやんごとない身分だったから、なおさらだ。父とも会えないとか、王族って薄情だなと思った。

 

「アリアン。こちらにおいで」

 

 金髪碧眼。お人形のように可愛らしい顔立ちで、まだ十代。そんな母がぼくに手を伸ばす。

 今日の母のドレスはカラシ色の絹のドレス。軽い素材だがスカートを軽くパニエで膨らませて、裾から上等な刺繍のレースがのぞく姫仕様。胸元と袖はたっぷりのフリルとレースとリボンで飾られている。

 本物の西洋のプリンセスだ。惜しむらくは室内なので頭もの、すなわちヘアアクセサリーが無いことだろうか。それでも姫感がにじみ出る母の美しさに感動する。

 

「お母様、カワイイ!」

 

 僕が褒めると、母はいつも僕を抱き上げる。王もたずねてこなくてこの小さな別邸に一人きり、寂しいのだろうと思う。元々儚げな容姿なのに、最近さらにやつれた気がする。

 ぬいぐるみにするように僕に頬を寄せてぎゅっと抱きしめた母は、本当にカワイイお姫様だ。

 

 そんなカワイイものに囲まれた夢のような毎日だが、問題があるとするなら男子はドレスが着られないことだ。つまり大好きな服を着た人がたくさんいるのに、僕は見るだけしか許されないのだ。

 なんとか女装がしたい。僕は毎日そんな事ばかり考えていた。

短編を連載化しました!

ゆっくり更新です。

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