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10人の{厄災}と4人の魔女  作者: Aster/蝦夷菊
第一章 旅の始まり、西風受けて
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第八話 射るその掌に何を乗せる

 手に取ったのは、簡単な構造をした弓。えびらをシャロームから受け取り、深呼吸をして構えてみる。


「案外、様になってるじゃないか」


 横でそう言っていたが、彼は僕の前の方へ歩いていくと、自分の頭上にリンゴを乗せて眼前に立った。間は大体十メートル。困惑していると、彼はリンゴを指差して、


「ほら、射ってみ」


 とだけ言って笑う。


 緊張で指先が震える。瞑目して、僕は矢先をゆっくりと、彼の頭上に向けて────放った。



 ※ ※ ※ ※ ※


「……手紙?」


 窓からするりと落ちたそれを拾う。見知った花で封をされたそれは、二代目の南の魔女────エリザ・ダムナティオからのものだった。

 中身を確認すると、どうやら茶会に招きたいようで。しかし、私への恨みは筆跡から溢れんばかりと漏れ出しているのが分かる。彼女からの疑念から逃げた私にも責任がある。このままでは、ただただ怨念の積み重ねだ。葡萄と狐のように、現実から目をそむけてはならないのだろう。


 私は手紙を机上の端にそえて、それから伝書鳩を呼んで手早く返事を書く。



「おねがいね」


 飛び立つ鳩は羽を一二本落としながら空へ消えてゆく。それを見送ってから、私は家の外、二人の元へ。

 扉を開き外に出ると、日が体を照らさんと輝いている。私はブーツの踵を少し調整して、それから庭へ回る。そこに、的になるシャロームと、弓を構えるアルブスの姿があった。


「…………」


 目だけをこちらに向け、シャルはアルブスの腕前を見極めている。彼の方は、恐らく緊張や不安といったもので胸の内を覆われ、それ故に体の震えを感じているだろう。

 私は邪魔をしてはいけないと思い、気配を消して草影に隠れるようにして見守ることにする。




 放たれた矢は静かに、そしてたしかに、彼の狙い通りリンゴの中心に突き刺さった。アルブスは達成感に口をほころばせ、シャルもそれに続いてハイタッチをする。


「アルブス、おつかれさま」


「えっ、アセリア!? 居たの?」


 驚きを隠さず目を白黒とさせながら、彼が飛び跳ねる。


「うん。ちょっと前からね。……それにしても、弓に適正があるとは……私的には、狼だし近接武器かと思ってたけれど」


「まあ、遠距離だけじゃ危ないし、一応、聖獣の力とか引き出せれば良いんだけど」


 シャルがそういうと、例えば、とアルブスの手首を握って爪を軽く自分の爪先でつつく。それがくすぐったいのか、彼は口を一文字に結んで、肩を僅かに震わせていた。


 そして、


「────うわっ」


 この場の全員が唖然とする。

 アルブスの手から、爪のような形の光が伸びてきたのだ。


「……ホントに、引き出せちゃった…………」


 おそらくは、シャルの“奇跡”だろう。本人としては無意識だったろうが。

 私はくすくす、と笑い、アルブスの光るそれに手をかざしてみる。興味本位の行動は、私に想像を超える結果を示してくれる。


 ポロッ、と、かざした手が落ちる。手首から先が離れ、シャルは額に手を当てて呆れ、アルブスは目を更に小さくさせた。


「姉ちゃん、流石に馬鹿」


「……ちょっと、口悪くないかしら」


「なんでそんな冷静なの? ちょ、大丈夫?」


 私は頷いて、手慣れた手つきで手を嵌め、治癒魔法をかける。唖然としたまま、アルブスは私の常識を疑っているような目でこちらを見つめているので、私は苦笑した。


「あぁ、そうだ。二人とも、明日何か用事ある?」


 私の問いに、二人とも「ないよ」と首を横に振る。


「呼ばれたの?」


「そうね。エリザから、お茶会のお誘いが来たの。一応、二人も着いてきてくれると嬉しいわ」


「勿論、良いけど……エリザって、誰?」


 アルブスが小首をかしげる。シャルは掌から花を出し、空いた手の指先から火を灯した。


「エリザ・ダムナティオ。シリウスから南の魔女の血を継承した、彼女の妹に当たる人物さ。……ただ」


「私に対して、姉の仇という恨みを持たれているのよね。恐らく、汚い手を使ってくるでしょうし……幸いなのは、あの子が深く戦略を練ることができないということかしら」


 遠回しに馬鹿と言っているようで申し訳ないが、最後に行った魔女会での戦闘は、とてもじゃないが知的な戦い方とは言えなかった。


「彼女の戦法は完全な近接攻撃。それと、炎属性の魔法にも気をつけて。火球を飛ばしてきたり、火柱を出現させたりしてくるから」


「戦う前提なの……? 僕、足を引っ張る気しかしないよ…………」


「じゃあ、ボクと戦う練習、しなきゃね」


 シャルがいきいきと言う。アルブスの肩に手を置き、ニヤリと口角を上げた。

 そう、何を隠そう私の弟は、奇跡を扱い事象を書き換えるだけでなく、すべての種類の武器を扱うことができる。姉の私からしても、その天才さを分けてもらいたかったくらいだ。


 しかし、それが私にとっては厚い信頼を置けるカードになる。手札は多いか、少なくても質が良ければ……加えて、知に富み、冷静に物事を判断できれば、何でも良い。というのが、私の考えだ。


 ※ ※ ※ ※ ※


「アセリア・アタナシア。偽装死体の嘘つき者」


 拳を握りしめる。

 ニタリ、彼女は姉から継いだその魂石を愛おしそうに眺め、それから自分の紺色の髪を撫ぜる。それから、彼女から受け継いだ形見の花飾りを着け直し、城跡地にて場違いにも感じられる綺麗な机と椅子を並べていた。


「……姉さん。今度こそ、嘘を剥がし、真実を吐かせてやるから」


 姉のシリウス・ダムナティオは、正義感に燃える魔女であった。妹とアセリア、そして仲間である他の厄災達をよく気に掛け、精一杯力になろうとする。同じように、自身の正義を持つ針の魔女ペロネーと親友であり、彼女と共に行動することもあったようだ。

 しかし、厄災は滅んだ。継承された十人の2代目魔女達は、塔に集まり顔を合わせたものの、エリザだけは違和感に気付いたのだ。


 アセリアが吐こうとした嘘を。いや、吐いていた嘘を。


 だからこそ、彼女は嘘でなく真実を求めていた。すべての魔女を騙し、陥れているのだと、強くアセリアに疑念を抱いたのだ。姉の不自然な死に、いや彼女の違和感に、エリザはひどく納得いかないようだ。


 殺したいほど、許せない────しかし、エリザは分かっている。


「あいつには勝てない」


 ────だからアタシは、あいつをよく観察してみようと思い立ったわけだ。



 ※ ※ ※ ※ ※


【図鑑】

エリザ・ダムナティオ

 二代目の南の魔女。アセリアをひどく恨み、嫌っている。

 魔女の中でも魔女らしくない戦い方であるが、それは彼女の気の短さと自身を大きく見せる心理が関係しているようだ。


伝書鳩

 平均一時間で大体国を二個横断できるスピードを利用し、手紙の運搬用に飼育されている鳩。知能が高く、鳩でない生物にも同じようなのが居るとか。

 全ての世界にあたりまえのように存在しているが、実は枯花参玉から出てきたため、水鏡面之世の全てを知っているらしい。しかし、作者の一部を継承したわけでもないため、ゴーストライターには分類されない。

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