表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10人の{厄災}と4人の魔女  作者: Aster/蝦夷菊
第三章 雨垂れ石を穿つ
PR
29/50

第二十六話 どこまでだって

 スペクターがエンチーシスとエリザを両脇に抱えつつ、全速力で平原を駆けて行く。


「雪山は飛んだ方が早いな────!」


 足が浮き、地面に付いてを繰り返すその間があまりにも短すぎて、細かい振動が重なって一周回り快適でさえあるのかもしれない。が、馬鹿みたいに早いので、当然二人は何も発することができずにただこちらを殴る空気に翻弄されている。

 と思えば、それに加えて浮遊感と下から空気に支えられるような不可思議な感覚が襲ってくる。


 叫ぼうと口は開けるものの、目線の先にある雪山の中、開けた場所に見えるあの村の光景が遠くから覗いてくる。木々の合間からはっきりと見えた瞬間、不安が絶望と焦燥感になってにじり寄って来るのを感じながら、彼らは村に降り立った。


「…………血の臭いと、重い空気。こりゃ手遅れか……?」


「────」


「エンティ、大丈夫? 顔色が悪いよ」


 走って追い付いたアルブスが、息も切らさずにエンチーシスの肩に手を添える。彼は首を横に振って、


「スペクターさんの動きが早すぎて、三半規管がグチャグチャになりますよ…………」


「わり、反省しなきゃだな。にしても、こっからどうするんだ? エリザ、手立ては──」


 振り向いたスペクターに、エリザは気付いてそらしていた双眸をこちらに向ける。その瞳には多少の不安と焦燥感が混じっていて、アルブス達はアセロラのことを思い浮かべた。

 エリザとアセロラは、先代の二人が仲の良い関係であったのもあり、関係は良好。友人の危機とあらば、死を塗りたくったような顔でアルブス達の所へ走ってくるほどだ。彼女は深呼吸を一つ挟んで、アルブスの手首を掴み引き寄せる。


「エリザ?」


「アタシとアルブスが、教会の方に行ってくるよ。シスターの安否を確認してくるから、スペクター達は先に村の方を見てきて。アセロラのことも、お願い」


 少しだけ、震えている声で、エリザは三人に言い放つ。深々と頭を下げて。


「……お願い」


 スペクターは目を細めて、顔の見えないエリザの頭を眺める。エンチーシスが不安そうに彼女の顔を見上げたが、その心配も杞憂なもので、ギザギザな歯を顕にさせて笑う。

 それからエリザの頭を撫ぜ、クルリと踵を返させて、背中を叩き押した。


「わっ」


「アルブス、エリザを頼んだぜ!」


 すぐさまエンチーシスを担ぎ、走り出す。アルブスは息を思い切り吸い込む。


「──うん、任せて!」



 ※ ※ ※



 ひたすらに走り、教会を目指す。しんと静まり返ったこの山は、どうにも悪い想像ばかりを掻き立てる嫌な場所へと様変わりしてしまっている。アルブスはざわつく胸を抑えながら、俯きがちなエリザの背中を見つめて走った。

 と、少し開けた丘のようなところに、教会を見つける。二人は顔を見合わせて、その扉を叩いた。


「フロッサ、大丈夫? アルブスだよ! 一体何が────っ」


「退いて、壊したほうが早いよ!」


 エリザは拳を握りしめ、力強く振りかぶって扉に叩きつける。殴られた板は容易く壊れ、中の光景を二人に差し出した。すぐに入ったエリザに続いて、アルブスも中に踏み込み、そして目の当たりにする。


 モノクロームな姿のシスター────フロッサが、教会の床に書かれた円形の模様の中心で倒れ込んでいるのを。

 血だまりの上に浮かぶようにして居るフロッサは、まだかすかに息を繋いでいるようだった。しかし、灯火が消えるのも時間の問題だろう。察したアルブスが、固まるエリザを追い抜いて彼女の体を起こし、声を掛ける。


「……フロッサ」


「────……う、…………アルブス?」


 焦点の合わない瞳が、ひたすらに靄がかかった視界でアルブスの影を見つめる。


「誰にやられたのか、覚えてる?」


「えぇ……覚えてるわ。…………ローブを被った、十三騎士の一人。少し変わった口調の…………生意気な子供」


「……伝書鳩は国を一瞬で跨げる程速いのに。アセロラが鳩を飛ばしたのと、アタシ達が着くまでに、時間は然程空いてないはずでしょ…………」


 エリザは信じられない、といった様子。アルブスも、ここまで手を回すのが早いとは思わなかった。村と山の異様な静けさが、全てを物語っていた。


「アセロラ……。あぁ、あの子は……今頃、ローブの子と応戦していると思うわ。早く向かったほうが……いいわよ」


「それは心配要らない。アタシ達だけじゃないのよ、ここに来たのは。後で合流するわ……今は、あんたの治療を」


「──死は皆、平等に与えられる」


 彼女の言葉を遮るように、フロッサはボソリとこぼす。その言葉に、エリザが目を細め、アルブスが耳を垂れ下げる。

 フロッサは神を信じている。今も尚、神の意向に沿おうとしている。


 死は平等。魔女たちにとっては、死は無いと言えるもの。あるともいえるもの。それでも、他と比べれば、死の見方は変わっている。

 フロッサは唇を震わせて、手を前に伸ばした。


「死を覚悟したんだもの……今更、レグルスに合わせる顔が無いわ。…………ねぇ、魔女さん」


「……何」


「貴女はきっと、……魔女のことを知ってしまったのでしょう? ……ペロネーが、そうであったように」


 目を見張る。魔女を毛嫌いしていたように見える彼女の口から、魔女の名が出てくるのだ。それも、友人や知り合いの中に居るかのように言うのだ。

 アルブスが彼女の目元を見る。輝いていた彼女の唯一の色は、もうどこかへ消え去っていて。代わりに鮮血の赤が、彼女の体に彩りを与えている。


「あの人のこと、知って──」


「昔、城の地下から助けてもらったの。エンチーシスという名前の、…………確か、王族の隠し子だったかしら。その子と一緒に……地下牢に閉じ込められていて」


「王族…………」


「優しい人だった。…………私は、恐怖にまけて……裏切ってしまったけれど」


 ふっと、フロッサの口から息がもれる。


「……ふふ、そろそろおしまいね。アルブス、ペロネー…………エンティ……────貴方達に、栄光たる祝福が、あらんことを」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ