爆塵
けたたましい轟音と共に巻き起こる硝煙にクララは何一つ動じない。
一旦目の前のモンスターを撃つと決めた彼女の心臓は停止し、引き金を絞るだけの機械となっていた。
鼓動すら止めるのは狙いを安定させるため。
鼓動で指先が狂わぬように、目と耳と指先以外を停止させたクララはマガジン一本をすぐに撃ち尽くした。
狙い通りに核には当たったが、あれで破壊できたであろうか?
疑問を抱えつつも、その疑問すらも切り捨てたクララは次のマガジンをヴェスパーに差し込んだ。
彼女が呼吸をするのはマガジンを取り替えるこの瞬間だけ。
一瞬で肺にいっぱいの空気を鼻から吸い込んだ彼女は、狙いをつけながらゆっくりと息を吐き出している。
体中の酸素が綺麗になり、肺の空気が全て吐き出されたところで再び呼吸と心臓を止める彼女は続けざまの連続精密射撃。
彼女からは硝煙で判断できていないが、ここまでの三十一発すべての銃弾はモンスターの核を正確に捉えていた。
俗に言う蓮根状態になったモンスターは尾の先端からジリジリと雲散霧消していく。
これは核によって形を得ていたエーテルが大気中に散らばっていくからなのだが、この速度では落下までに完全消滅するのは無理のようだ。
「(しまった!)」
迎撃に失敗しモンスターを倒しきれなかったことを悔しがるクララ。
あの様子でだいぶダメージを与えたのであろうが、最後っ屁の突進は免れない。
これはもうハイジの防御に頼らないといけないのかと自分の役割をこなしきれずに悔やむクララの肩に、パウロは軽く手を乗せた。
「あとは私に任せなさい」
そう呟いた彼はクララの肩から手を離すと、棒を両手で握りしめた。
こんな事もあろうかと。
そういう心構えで用意していたパウロ最大の攻撃魔法が火を吹く。
「クララと聖帝号をしっかりガードしろよ、灰村!」
「りょ!」
ハイジは言われるがまま、展開している防壁を二重にして守りを固める。
それに合わせてジャンプ一回で防壁の内側から外に出たパウロは、自分を弾こうとする防壁の上に乗ってしゃがむと、雄叫びとともにもう一度飛び上がった。
目の前に迫るモンスターの大口の中へと飛び込みながら。
「イクスプロージア!!!」
パウロの棒の先端がモンスターの口に入ったところで、クララの連射よりもはるかに大きな轟音が周囲に響き渡った。
パウロの手により名前の通り「爆塵」の魔法が発動し、崩壊しかけていたモンスターの肉片が一気に周囲へと飛び散る。
この魔法はレベルが高ければ射程が長くなるので術者自身が突撃する必要はないのだが、パウロの場合は急ごしらえ故の不格好。
本来ならば射程が短くて使い物にならないレベル1の状態でも使用できるのはGMだからこそだ。
射程の短さは接近して補い、自爆の危険はGM魔法による防御と併用することでカバー。
神父だけに許された裏技であろう。
「ヒュー!」
ハイジも称賛の意味で口笛を吹くほど綺麗に爆塵が入ったことで、モンスターは完全に消滅した。
着地の際に少しよろめいてパウロは膝を折るがその程度はご愛嬌。
「やりましたね」
戻ってきたパウロをなんとか労おうと考えたクララは、タッチの意味で両手を突き出した。
「ハハハ。私のことも、これでもっと信用してくれたかな」
その手にタッチで返すパウロは、女の子の手を久々に触ったことで内心ドキドキが止まらない状態になっていた。
その後は停車したついでに周囲の散策をした三人なのだが、なぜ街を出てすぐの場所にこれだけ巨大なモンスターが出現したのかはわからなかった。
それらしい巣になりそうなものもなく、そのわりに他のネオスドリフトとは遭遇した記録が一切なかったので、生真面目なパウロは小首を傾げざる。
クララはこの世界に来て初めてのモンスターだったので言及するほどの経験もなく、偶然の一言で片付けるハイジは楽天的な意見。
一人で怪しんでもこれ以上は埒が明かないと、パウロはこの件を教会へと報告するだけに留めて先に進むこととした。




