パースニップの魔法使い
――パースニップ農家レベル10に上がりました――
――レベルカンストにより、パースニップの魔法使いレベル1になりました――
あれ私、農家じゃなくなった?
いつも通り収穫していると、レベルアップと、転職のご案内。
先日までの私とは違いますから、まずはステータスポイントを振ってから、職業の説明を見るね。
それで説明は……育てたパースニップがたまにマンドラゴラ化する。
……マンドラゴラとは一体?
どこかで聞いたことがあるような、ないような。
ドラゴンかなにか?
ベラドンナ?
こういうときは悩むより調べるのが一番。
一旦ログアウトして、国語辞典を取り出した。
えーと、マンドラゴラ……マンドレイクの別称。
マンドレイクは、実在及び架空の植物。
どっちなの?
あるようでない、みたいな説明に困惑する。
でもとりあえず植物ではあるようだ。
引き抜くときの悲鳴を聞くと死ぬとかあるけど。
植物なのに殺意が高い。
ゲームだし身の危険はないと思うけれど、自分の畑で作物の叫び声聞いて死んだらかなり残念な人っぽいから気を付けよう。
説明書きは「たまに」だし、そんなすぐには遭遇しないでしょ。
というわけで再ログイン。
種を蒔いて、いつも通り緑の歌を、と……
――スキル「大地の歌」を覚えました――
おや、レベルアップ後じゃなくてこのタイミングで新スキル?
取得の条件が、緑の歌を一定回数以上使用。歌いまくってるから一定回数が何回なのかまるでわからない。
使用すると、作物に効果付与とマンドラゴラの士気を上げる。
効果付与多過ぎじゃない?
そんなに効果付けても……クリエさんとアルビダさんは喜ぶか。
試しにやってみて、実際に効果が増えたら、ポルカに行ってクリエさんに見せてみよう。
そして大地の歌を使ってみたせいで士気が上がってしまったのか、しばらくして収穫しに畑に戻ると、股が分かれて手足のようになったパースニップが畑の上で正座していた。
目も口も無いのに確固たる意思は感じる。
彼ら?は私に気付くと立ち上がってとことこと歩き、私の前で2列に整列した。
近付くとなんとなく意思の疎通ができる気がする。
職業の技能なのかな?
「えっと、こっちの列は出荷されてもいい子で、こっちの列は出荷されたくない子、で合ってる?」
同意するようにわさわさと葉を揺らして意思表示される。
出荷されたくない子はどうやらここに住んで私の手伝いをするらしい。
「そんなに手伝ってもらうこともないけど、出荷されたくないなら無理に出荷しないから安心して」
そして出荷されてもいいという子を手に取って、試しに出荷画面を開いてみる。
パースニップ・マンドラゴラ。売価は18万レント。今回パースニップを植えた畑の半分くらいはマンドラゴラになって、そのうち半分くらいは出荷されてもいいと言う。
……1000万レント以上?
それで加工すると……売価が54万レント……全部加工して売ったら3000万レント超えるのだけど。
いや、それは流石に、誰も買わないのでは?
「それとも、こんなに高くなるほど需要あるの、君?」
思わずマンドラゴラに尋ねると、彼らは大きく葉っぱを揺らした。
きっとあるところにはあるんだね。
そんな感じでパースニップ御殿に同居人が増えた。
同居パースニップ?
どうやら私が留守中でも、パースニップの種を蒔き、収穫して、野菜保管庫に入れてくれるらしい。
緑の歌も大地の歌も緑の手も覚えてるって。パースニップなのに。
というかどうやって歌うの?
とはいえ、しばらくぼっちだった私の農家生活が少し賑やかになりそうな予感がして、少し心が弾む。
彼らが加わった新しい生活はどんな日常になるのかな?