初心者インタビュー
2月に入ってパースニップ農家のレベルが9に到達した。
この次ってなにが待ち構えているのだろう?
作物はエクストラ品質を維持しつつ、一部を収穫後ちょっと放置して★5まで下がってから加工して出品する、ということをやり始めた。
だってエクストラ品質のまま加工するとかなり高くなるじゃない。
それで今まで買ってくれてた人が買えなくなったら、買ってる人が困る気がする。
エクストラ品質でも農業組合に出荷すればお金にはなるけれど、組合に売ったものはプレイヤーには回らないし。
こっそりギルドの交流掲示板を覗くと、豪農だった人が名士になったらしい。
転職による大きな変化はないけれど、職業の説明に「領主クエストが発生しやすくなる」とあり、掲示板が活気づいていた。
領主とかいるのか。
街にそれらしい建物はなかった気がするし、高原のほうにいるのかな。
領主クエストは普通のクエストより報酬が高めなので、たまたま発生したクエストで戦闘パーティを募集したらすぐ埋まったし、パーティの後方支援職として勧誘もされた、と。
同じパーティに領主クエストを発生させやすい職業の人を置いておきたい、というのはわかるけれども、今まで農家に見向きもしなかった人がお金に釣られてパーティに誘ってくるのは、私なら嫌だな。
私は次にいっても名士にならない気がするけど。
……パースニップ名士とかじゃないといいなあ。
なんかちょっと名乗りたくないよね。
あと急にポルカの街で売られている靴の品質が上がった、ステータス補正も入る、という話題を見てどきりとする。
油を塗るだけで効果が出るからと、アルビダさんが街の革職人たちに試してもらっているんだろうか。
悪いことをしたわけではないのだけれど、見つかったら面倒だなあという心理はいたずらをした悪ガキに近いものを感じる。
なにが効果を発揮しているのかを知られない限り、なにかあったのだろうと思われるのは職人系プレイヤーだとは思うけれど。
真っ先に生産職を思い浮かべることはあるまい。
なおクリエさんにいただいた春色のスカーフは大変便利ですね。
農作業で減ったHPをじわじわと回復してくれるので、農地の面積が増えたことによる体力不足が解消された。
対策もなしに農地を一気に増やすと作業するだけで死にかける。
ドードーさんちゃんと学んだよ。
さて現在、現実世界は平日の日中です。
出勤もせずに自宅で何故ログインしているかというと、これからインタビューがあるからなので、会社公認で堂々と平日プレイですよ!
そろそろ約束の時間なので私の農場へ湖出さんがやってくるはずだけど、見たらわかるのかな?
農場の入口で往来を眺めていると、こちらに向かって歩いてくる黒っぽい人がいる。
黒い全身鎧に黒い兜……あれきっと湖出さんだな。
先日お会いしたときも全身真っ黒ファッションだったし。
黒い人は私の姿を確認すると駆け寄ってきた。
走ると足元から黒いもやもやエフェクトが出て、お化けみたいでちょっと怖い。
「お待たせしましたドードーさん。湖出です」
「こんにちは湖出さん。今日はよろしくお願いします。他のプレイヤーさんに見られるとまずいでしょうし、とりあえず家にご案内しますね」
「あ、ちょっと待ってください。家の設定が初期のままならフレンドしか中に入れないと思うので、念のためフレンド申請飛ばしておきますね。インタビューが終わったらフレンド削除していただいて結構ですので」
家の設定?
あることすら気付いてないですね。
――「カラス」さんからフレンド申請が届きました――
えっとこれどうしよう。
「すみません、フレンドってどうやって登録するんでしょう?」
「メニューの中のフレンドってところが点滅してませんか? そこの承認待ちってところを選んで、名前を選んで承認って押してください」
「よし、できました!」
兜で表情は見えないけれど、やたらほほえましい目で見られている気がする。
仕方ないじゃないですか、初めてのフレンド登録なんですから。
「あの、これあとで削除しなきゃだめですか? 初めてのフレンドなので消したくなくて……」
「別にそのままでもいいですけど、このアバターは巡回とかゲーム内で用事があるとき用なので、一緒に遊んだりとかはできませんよ?」
「それは大丈夫です。消すのがちょっと寂しかっただけですので」
「非アクティブでも山の賑わいくらいにはなりますね」
インタビュー自体は一通り質問に答えたりして、素の状態の書きおこしを見ながら削除する箇所と隠す箇所を確認して、大体3時間くらいで一区切りがついた。
途中、レベルアップの度にもらっていたらしいステータスポイントという数値を私が全く振り分けてないということが判明して、爆笑されながら「ここのくだりは採用ですね」と言われて心穏やかではないけれど。
私が本当にゲーム慣れしてないプレイヤーっていうのがわかりやすいから、ゲームに不慣れな人へのアピールにいいと言われたら了承するしかないじゃない。
笑いはされたけれど、バカにした雰囲気ではなく、あとからちゃんと振り分け方を教えてくれたから引きずらないようにする。
私の失敗が後のプレイヤーの糧になるなら、なんてことは言わない。
みんな私と同じ失敗してね!
「ところで湖出さんはくろうさんだから、プレイヤー名がカラスなんですよね?」
「そうですね」
「プレイヤー名が鳥の名前でお揃いだから、ちょっと親近感が湧きます」
「……装備が真っ黒なのもカラスだからなんですよ。ゲーム中の黒子役って意味もありますけど」
湖出さんからちょっと戸惑いを感じたので、お揃いとか言っちゃったの、ちょっと馴れ馴れしかったな。
あくまで彼は仕事相手で友達じゃないのだから親し気にし過ぎないように気を付けよう。
「ああ、そうだ。フレンドに残すのだったら、いつも開発に送ってくださってる感想とかのメールを個別メッセージで送っていただいてもいいですよ。フレンド欄から送れますから。形式も簡素に、これ面白かった、とかの一言でもどんどん送ってください」
「流石にそこまで簡素なのは失礼では」
「個別メッセージなら見るのは俺だけなので気にしないでください」
なんかさりげなく、個別メッセージの練習台に使っていいですよって言われた気がする。
そうですね、いつかちゃんとフレンドができたときのために練習しておかないといけませんよね。
何度かインタビュー原稿のやり取りをして、最終稿が出たのでチェックに加わる。
ちょっとコミカルな雰囲気で、でも私を落とすことなく、よくまとめられていると思う。
「グッスリの広報さんからもOK出ました。ここまでひとつも修正依頼出てこないとか、懐の広い会社ですね」
「懐が広いというか、社風が面白いこと好きなので」
「ドードーさんも、仕事は楽しいですか?」
「そうですね。でも周りに比べて私は優秀ではないので、毎日上司や先輩に助けてもらってます」
「まだ2年目、3年目くらいなら、段々上の人との経験の差が見えてきてるだけですから、優秀じゃないとかそんなことはないです。本当に優秀ではない人はその差に気付けなかったりするものです」
「……ありがとうございます」
周囲との差を感じ取ることができるだけの成長を本当にしているなら嬉しいと思う。
「あー……セクハラになったら申し訳ないんですけど、先日来社されたときに、ドードーさんが持つとても柔らかい雰囲気が帰られた後も残っていて、うちの人間がいつもより気持ちよく働けていた気がします。寝具メーカーにいるのが全く不思議ではないというか、天職というか。きっと普段からそんな雰囲気でしょうから、同じ会社の方の仕事の効率をあなたが上げているのかもしれませんよ?」
「それは流石に無いと思いますけど……でも周囲にいい影響を与えられる職場に必要な人間になれたら素敵ですね」
今後深く関わり合いになることがない目上の人相手だからか、吐く必要のない弱音をうっかり吐いてしまった気がする。
冷静になるとだいぶ恥ずかしい。
こういうのは考え続けるとドツボにはまるから、頑張って忘れよう。
今夜は布団にくるまっても足をバタバタさせないよ。




