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壷の魔神  作者: 坂月つかさ
第六章
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第六話 信頼 後編

『わ、笑うなんて失礼だと思います!』

イオティアの賢人は涙を指で拭いながら言った。

「いや、これは申し訳ない・・・。ですが、ファウストの人柄を偲べる良いエピソードでありました。年頃の娘をもつ男親など、どんな境遇に有ろうとそう代わりは無いのだと知りました」

今やプルタークの姫を見つめる眼差しには、親愛の情さえ籠もっていた。

「こんな事を言うのは僭越かも知れませんが、私は貴女の事を兵器扱いする勢力から、何としてもお守りしたいと感じました。帝にもそう進言する積もりです」


   ◇   ◇   ◇


メナンドロスは、事の成り行きを見守りながら呆然としていた。

モニター越しに行われていた成り行きが、見ていて信じられなかった。

あの老練で石頭のプルタークをたらし込む手口は、鮮やか過ぎて、まるで魔法を見ているみたいだったのだ。


帰り際のプルタークをメナンドロスが捕まえる。元々、知己の間柄でもあった。

「プルターク、あなた大丈夫?」

イオティアの賢人は、滝に打たれた後のようなさっぱりとした顔をしている。

「私があっさりと丸め込まれた事がかね? 大丈夫だよミリンダ。今更意見を違えたりはしないさ」

「勿論それも有るけど、それだけでは無くて・・・」

賢人が、分かっているとばかりに、旧友に微笑む。

「彼女の能力云々の話だね? ハインドに聞かされた時には放っては置けないと思ったが、あれはお姫様の言う事が正しいよ」

「けど・・・」

「便利な力に違い無いのだろうけれど、所詮はそれだけの物だ。世の中は、決してそんな力では動かない。彼女の言うように、ファウストが努力の人だったのは誰もが知る事実だからね。それに、お姫様はファウストから、もっと重要な力を受け継いでいる」

賢人は笑って言った。

「それは魅力だよ。彼女の為に何かをさせたいと思わせる力。それには世の中を動かすだけの力がある。ファウストの複製達ナンバーズを集めて、怪しげな事を企んでいると聞いていたが、彼女に会えばそうで無い事位は分かる。あれではナンバーズも放っては置けまい。お姫様には、明らかな英雄の相がある」

「英雄の相って、あなた・・・」


幾ら何でも持ち上げすぎではないかと思ったが、プルタークは至って本気の様子だった。

「何よりも私は、ハインドの遣り方が気にくわない。奴は流言によって悪心を吹き込み、人の心を惑わせようとする。奴と話した後は気分が塞ぐ。お姫様とは正反対だ」

そして、何かを思いついた顔をする。

「そうだ。お姫様が負担なら、うちで預かっても良い。決して粗略に扱わない事を約束しよう。何なら、うちの年頃の皇子に娶らせても・・・」

『結構です!』

プルタークが、今にも橘媛を連れて帰りそうな勢いで、メナンドロスは慌てて首を振った。

そして、今更ながら橘媛の遣り方が正しいのだと気が付いていた。

ハインドの過去を暴いて追い落とそうとすれば、結局彼と同レベルに成ってしまう。

悪人に、こちらから相手をする必要は無い。

そんな事をするよりも、人は、自分の目標に向かって力を注ぐべきなのだ。


   ◇   ◇   ◇


プルタークとの会談を境に、連邦に加わる星々の首脳から橘媛への面会依頼が舞い込み始めた。

それまでネットワーク動画で徐々に知名度を上げていた事が後押ししていて、パンジャーブのメナンドロス公主に加えて、ブランディッシュの皇帝が姫の後見人の立場を表明した事で、ハインドに対する遠慮が要ら無くなったのだ。

経済に強いとの橘媛の評判は盤石な物と成っていて、星の指導者が孫娘程も年の離れた姫に教えを請う姿は滑稽でさえあったが、それでも橘姫の助言はいつも的確だった。

姫の助言は経済の他、教育、医療、政治にも及んだ。

評判が評判を呼び、星の民は挙って、十五歳の少女に救いを求めたのだ。


橘媛は沢山の要人達と会談を行った。

特に五大同盟国以外の、傍流の星々の要人達とは、積極的に交流を持った。

大国とは違って経済的に抑圧されて来た彼らにこそ、一番の成長の目がある事に気が付いていたからだ。

姫は、自然食品事業で雪だるま式に膨れ上がった資産を、そうした後進の星々に投下し始めた。

後進の星々の経済が循環する事で、ワールドの景気が底上げされて行く。


けれど、そうした中で姫の助言を受け入れなかった星々の経済は、相対的に沈んで行った。

特に橘媛に敵対的であった、ラジャスタン、パリヤーナの二ヶ国の経済の落ち込みは厳しく、元々主要な産業が軍需であった事もそれに拍車を掛ける原因となって、国内では指導者に対する突き上げが始まっていた。


あくまで平和的な発展を望む橘媛の希望とは裏腹に、きな臭い気配が漂い始めていた。


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