値
部屋だ。
薄暗く照らされ、ひとつの電球だけが部屋を照らしている。俺は木の椅子に座っている。向かいには、もう一人の人物がいる。
その顔は、興味を宿しながらも、何の感情もない――まるで人工の生息環境の中でアリを観察しているかのような表情だ。それは軽蔑に満ちた表情だが、物理的な指標はまったくない。ただ、そうであるとわかる。
そうだ、俺の向かいに座っている少年は、他でもない「カイト」だ。
だが、奇妙なことに、その髪は下ろされている、俺のものとは対照的に。長い紺色の前髪が特徴を覆っているが、大まかな詳細を見て取るには十分だ。
「カイト」。
彼が俺を見つめる。
俺は誰だ?
俺も「カイト」だ。
そうだよな?
いや、これは「カイト」じゃない。
これは、██████だ。
ああ、名前を忘れていた。
こいつは誰だ?
これは俺じゃない。
俺たちの上の光が前後に揺れ、一度にどちらか一方だけを照らす。ギシ。ギシ。ギシ。狂気じみた光の筋が、大げさに俺たちの顔を暴き出す。いや。彼の顔が見えない。
脚を上下に揺らす。
これが嫌いだ。
██████の顔は、この時点までずっと光に隠されていた。見えるのはただ、目があるはずの隙間だけで、それも眉骨の下にできる影だけで表されている。
イポクリティス隊長がまだここにいる。だが彼は隅にいる。それを見つめている。彼は、見つめ返してくる壁を見つめている。壁は見つめ返してくるんだ、わかるだろ? 壁には目がある、ただ全部隠されているだけだ。奴らは絶えずお前を見張っている。奴らは絶えずお前を裁いている。
ギシィィィ。
光が██████の顔を完全に照らし出す。
██████は、イポクリティスの顔をしている。あの、何があっても決して揺らぐことのない、勝ち誇った英雄的な笑み。彼は、何千人もが見つめ、笑い返すあの英雄的な笑みを持っている。誰もがイポクリティス隊長を愛している。
だが誰も██████を愛さない。
だから、もし██████がイポクリティスの顔を持っているなら、誰もが彼を愛するようになる。誰もが彼を崇拝するようになる。そのせいで、俺は██████を見つめる。
部屋が川へと変わる。完璧な青空に縁取られた、美しく流れる川。ふわふわした雲がのんびりと漂い、太陽が幸せそうに見守っている。すべてが踊っている。
今、俺と██████だけだ。
俺と██████。
俺と。
俺。
カイト。
俺は。
俺は██████の向かいに座る。俺たちはまだ同じ椅子に座っている。ただ、その椅子が川の真ん中にあるだけだ。水が、俺たちの椅子の脚の周りを物理的に迂回する必要がある。
下を見る。
川が流れ過ぎていく。俺たちの存在なんて気にしない。俺たちがその真ん中にいることなんて気にしない。なんで止まらないんだ? なんでただ見てくれないんだ? なんでただ俺を称賛してくれないんだ?
椅子の上に立ち上がる。
██████の方へと歩み寄る。
俺は現実が嫌いだ。
俺の足音が水の中でびちゃびちゃと音を立て、動きやすくするためにそれを高く上げる。水は気にしない。
俺は責任が嫌いだ。
██████はただそこに座り、俺を見つめている。笑みは決して揺らがない。あの忌まわしい笑みは、お前のものですらない。クソ野郎が。
俺は自分自身であることが嫌いだ。
俺は俺が嫌いだ。
いや、俺は俺が嫌いなんじゃない。
俺はお前が嫌いだ。
俺は「お前」に指を巻きつける。
彼の首は柔らかい。
お前はもう存在しちゃいけない。
お前は同じままではいられない。
誰もお前のことなんて気にしない。
誰も決して、お前を本当のお前として認めることはない。それは彼らのせいですらない。
お前は死ななきゃいけない。
影が、投げかけられる。
それでも、その源を見つめる――
光を、避けろ。
俺は締め付ける。
俺の番だ。
俺が「在る」番だ。
消えろ、お前。
―――――――――――――――――――――――
目がぱっと開く、見慣れた光景が視界を覆う。逆さまの城。俺がその上に立てるらしい、ガラスのような水面。背景の遠い空が、あたりに漂い、俺を見つめている。
ここは、生者と死者の間の世界で、俺は以前にも何度もここに来たことがある。最初の数回はショックを受けていたが、慣れてきた。まるで、この惑星の他の部分から隔離された、隠された空間のようなものだ。
立ち上がり、この空っぽの空間の中で唯一方向を示している目印へと歩いていく。
目の前に、あの逆さまの城へと続く階段がある。具体的には窓へ。
最初の段に足を置き、上を見上げる。
特別長いわけじゃないが、この階段全部を上るには時間がかかるだろう。心の中でため息をつき、これ以上時間を無駄にしないよう、素早く自分を押し上げて旅を始めることにする。上っていくにつれて、考えが頭に流れ込み始める。
しばらく自分自身について振り返る機会がなかった。長い時間だった。この世界に来てから4ヶ月ほど、訓練を始めてから1ヶ月になる。
屋敷での様々な用事を処理することも、ケイン先生との訓練も、本当に俺を消耗させている。一人になるといつも、俺はただ気を失って眠ってしまう。自己実現は、あまり優先事項じゃなかった。
まあ、今の時点で、自分自身について気づくべきことはあまりない。
気づけば、階段の頂上に到達している。
背後を振り返ると、迫ってくる下の床が目に入る、その距離がどんどん広がっていくように見える。高所恐怖症が俺を襲い、これ以上見つめないよう、素早く前方へと頭を向ける。
目の前には、小さな石の開口部がある。それは綺麗に切り取られていて、宮殿の外観デザインにぴったり収まっている。右手をその側面に置き、足元の小さな出っ張りをまたぐ。
「マスター、この部屋の掃除をしなきゃ……」
少女に属する声が呟く。
「んんんー……」
くぐもった声に属する音が響き渡る。
「もうこの番組ずっと見てるじゃない! もう何ヶ月も!」少女の声が応える。
「んー……」
「このシーンで、あいつはこう言うんだよね:『ポテトチップを一枚食べる』!」
「んんんー……」
「私個人的には、あのシーンは、あいつが自分の殺人劇にちょっと調子に乗りすぎてるって見てるけどな。ある人たちにはユーモラスに見えるかもしれないけど、明らかに精神的に不健全で、それが最終的に――」
「……いや、続けて」
完全に番組に夢中になってるじゃないか?!
目の前の光景に瞬きする。
何……
これは何の光景なんだ……?
目の前で、アザが枕に顔を伏せて横たわっていて、うめいている。アザって誰かって? 彼女は……何か理解不能な存在で、俺に彼女のための壮大な仕事――この世界の「天体存在」を全員排除することを含むかもしれない、含まないかもしれない――をやってもらう見返りに、俺を助けることに決めた。
彼女がかわいい女の子として現れる唯一の理由は、彼女自身の言葉で言えば、俺が「声帯が裂けるまで叫ぶだろう」からだ。
彼女は、金のアクセントが施された壮大なベッドの上にいる、この世界での彼女の地位の証だ。ベッドは整えられていない、ブランケットとシーツの中にある、様々な、それも大量のしわがそれを明らかにしている。もう一人の少女がベッドにいて、何かの番組のかすかな映像を映し出している壁を見つめている。彼女の傍らに座り、手に埃払いを持っている緑髪の少女はリリーとして知られている。彼女は、アザが自分に何らかの話し相手を持たせるために作った、一種の人工人間だ。
理解不能な存在が、なんで話し相手を必要とするのか、よくわからないけど……
リリーは、クールじゃないときは、とんでもない毒舌家だ。彼女は無邪気なふりをするが、わざと本気で意地悪なコメントをする。でもそれを指摘すると、彼女はただとぼけて、何のことか聞いてくる。誰かの一部分にしては、彼女はしっかり自分自身の人格を持っている。
床には無作為のアイテムが散らばっていて、いくつかは驚くほど現代的だ。あれはキーブレードか?
床は装飾されていないが、他の場所に明らかな混沌があるにもかかわらず、信じられないほど輝いている。綺麗なベージュで、灰色の天井と綺麗な対照を成している。天井と言えば、大きなシャンデリアがあって、そのデザインがあまりにも混乱していて、見ていて頭が痛くなる。一瞬、自分が夢のような世界にいることを忘れていたが、これを見て、自分がどこにいるのか思い出させられる。
下に降りる方法がないか見渡すと、奇妙な光景に出くわす。滑らかな滑り台。まるで、以前はそこに階段があったのに、段が全部取り除かれたかのようだ。ため息をつく。これは、環境に何か味付けをしようとする試みか何かなのか?
目を閉じ、実質的に自分を滑り台に投げ出す。皮肉っぽく、両手を空中に上げながら、下まで全部ため息をつく。風が顔を通り過ぎていくが、正直、こういう状況にはもう適応することを学んでいる。
底に近づくと、身構え、目をさらにきつく閉じる。スニーカーが床にきしむような大きな甲高い音とともに、底に到達する、足が地面に触れる感覚がそれを教えてくれる。頭を抱え、まだどういうわけか生きていることに驚きながら、床に手を置いて自分を持ち上げる――
「カイト!!」
声が甲高く叫ぶ。アザだ、今、まるでクソライオンのように俺に向かって跳びかかっている。そうだ、彼女がどうやって完璧な垂直跳躍を達成できるのか、よくわからないが、何でもありだ。数瞬のうちに、俺は再び滑り台の上にいて、胸に新しい重みが乗っている。比喩的にも、物理的にも。
少女が俺の胸から頭を上げる、幸せそうな表情を浮かべながら。マジで、笑顔がこんなに大きく広がるなんて、怖いんだけど。
「ついに突き止めた!」
「何を突き止めたんだ?」
「二次元の女の子! あなたの記憶を長い時間かけて慎重に選り分けた結果、あなたが一番好きな二つのものを組み合わせることに成功した!」
「はぁ?」
よし、これをなんとか面白おかしく説明してみよう。アザは、ビデオゲームの中の最大レベルのプレイヤーみたいなものだ。彼女はゲームをプレイすることでも、物理的にゲームのエンジンを開いてコードを理解することでも、あらゆるものを見てきた。俺がやってきたとき、というかこの場合はゲームに参加したとき、俺は彼女が今まで見たことのないDLCアイテムを持っていた。
だから彼女は、俺が持っているアイテムを研究して、それを複製しようとしている。少なくとも、俺はそう思っている、ハハ。だって、全知の存在が、俺みたいな人間にこんなに興味を持つ理由なんて、他にあるか?
要するに、彼女は俺の地球での記憶に馴染みがなくて、それに興味を持っている。だから、彼女は俺の心を通り抜けるのが好きだ。でも、個人的な感情に関しては、彼女は本当に理解できないから、それを探るのを避ける傾向がある。彼女は人間をデータとしてしか見られない、それ以上ではない。
瞬きする。
アザの顔が完全に、見覚えのない誰かへと変形する。いや、違う、この人物は完全に見覚えがある。
「顔がロニー・コールマンになった!!!」
その顔が笑い声を上げる、本当に低い笑い声を、それから空気の中へと消えていく、塵の集まりへと分解しながら。ほんの数瞬前まで俺の体を押さえつけていた重みが消える。
素早く立ち上がり、体についた残留物を払う。
「え? それが完璧なお帰りなさいギフトとして機能すると思ったのに。あなた、ジムとアニメが好きでしょ、だから二つを組み合わせれば、論理的にあなたを喜ばせるはずだって」
アザが目の前から言う、手を顎に当てながら。これが本物のアザなんだと思う。俺に跳びかかってきたのは偽物だったんだろう。まあ、明らかに、塵になったんだから。
その少女の青白い肌は、ルビー色の瞳とよく合っている。彼女のまつ毛は完璧な長さで、長すぎず、短すぎない。彼女の絹のような白髪は背後に伸びていて、腰の下まで伸びているようで、先端に向かって巻いている。「女性らしさ」という言葉の完璧な体現だ。それでも、そう見えるにもかかわらず、彼女はただ、その呼称を単に模倣しているだけの存在にすぎない。おそらく、彼女の頭の周りを漂う光の破片が、その指標なのだろう。
「いや、それ、キモいぞ」呟く。
「はあぁ……?」彼女が感情豊かに答える、その困惑を強調するかのように体をひねりながら。
「何?」
アザとリリー、両方とも呆然とした目で俺を見る。まるで俺が彼らの目の前で巨大なピンクの象に変身したかのように。
「あなたたち二人、どうしたんだ?」
二人とも身を乗り出し、目を細める。俺の顔から数インチのところまで近づいてくる。それから、その調査が終わると、アザが後方に跳び、両手を腰に当てる。
「久しぶりなのはわかってるけど、あなたがこんなに変わってるとは驚いたわ、カイト」
「お前が何かにつけて曖昧なの、一体何なんだよ……」
「まあ、それが言いたいのは、あなたがツッコミ役をやらなかったってこと」
「もう一回言ってくれ?」
「ジムとアニメを組み合わせればあなたを喜ばせるって言ったとき、あなたは『それって文字通り組み合わせろって意味じゃないだろ!!』みたいなツッコミを返さなかった。単に、普通の人みたいに自分の状況を説明しただけだった、いつもの、オチを叫ぶあなたのやり方じゃなくて」
「じゃあ、それが変だってわかってて、ただ反応が欲しかっただけってことか……」眉がぴくりと動く。
「ふむ、この空白期間の間に、いろいろ起きたに違いないわね。まだあなたの記憶を通り抜けてないから、そうさせてもらうわ」
「おい、無視するな」
俺がこの領域に入るたびに、アザは記憶をふるいにかけて、何が起きているのか「確認」するのが好きだ。彼女は現実世界を見ることができないから、俺を一種の記録装置として使っている。
ため息をつく。
「俺に選択肢なんてないんだろ?」
―――――――――――――――――――――――
「そうやって、ネズミをファッションデザイナーに育てる訓練に成功したの」リリーが箒にもたれながら俺に説明する。彼女はなぜか、恐ろしいほど自分に誇りを持っているようだ。
俺はベッドに座っていて、彼女がこの10分間ずっと話していた一言一言を聞いている。
「ありがとう、絶対にその情報、将来使わせてもらうよ」
「どういたしまして!」
俺の喜びじゃないけどな。
アザが記憶を通り抜けることを提案してから、彼女はそれを尋ねたときと同じ姿勢のままだ。ただ固まっていて、動かない。リリーは、彼女が積極的に探しているんだと教えてくれるが、俺の視点からは、誰かが彼女に一時停止ボタンを押したように見える。
ベッドに寄りかかり、ため息をつく。背中がマットレスに沈み込み、柔らかさが体を包み込む。これ、気持ちいいな――
「終わった!!」
びくりとし、姿勢を正して座り直す。
「あなた、結構いろいろ経験したのね、カイト! ほぼ10回死んでる! ヤバいわね!」
アザがあまりにも熱心にそれを言うので、気分が悪くなる。彼女の表情は、彼女が話している話題の深刻さを完全に裏切っている。まるで、俺の死が、彼女の視聴体験のための安っぽい衝撃価値要素にすぎないかのように。これを知っている唯一の存在が彼女なのに……
彼女には理解できない。
彼女はただ、まるで何でもないかのように話を進める。
まるで俺が、新しい結果を出した何かの実験にすぎないかのように。それが俺にとっての彼女なのか、いや、それなのか?
手が優しく、俺の顎をその方向へと持ち上げる。
俺はこの存在と顔を突き合わせている。
「カイト、あなたに理解してほしいことがあるの。私はあなたを理解できないってことを理解して。私の視点からは、同情も共感もできない、でも、あなたが経験していることを、単に認識することはできる。私はわざとあなたの窮状を理解しないことを選んでるわけじゃないの。ただ、そういうものなの。私の目的は、あなたに方向性を与えること、慰めじゃない」
「じゃあ……なんで……?」
「なんでこんな風に振る舞うのかって? なんで陽気で明るい女の子のように振る舞うのかって? なんで絶えず自分の好きなものを引用するのかって? なんで絶えず無邪気なふりをするのかって? それは全部、状況への訴えよ。前にも言ったでしょ。これは全部、演技。あなたなら誰よりもそれを知ってるはずよね」
「……」
「さて、あなたがコウホウの訓練でずいぶん先まで進んだのに気づいたわ。すごいわね、本当に力を追求することを決めたのね。これはきっと、あなたの天体存在への十字軍で役に立つでしょう。あなたが最初のそれと対面するのも、時間の問題ね。個人的には――」
彼女が話している間、拳を握りしめる。
俺には、崩れ落ちられる場所がないのか? ただ永遠に立ち続けなきゃいけないのか? これがずっと続くのか?
「――目の下のクマや、その疲れた表情を見れば明らかね」
このすべてを通して……俺は、自分が経験していることを誰かが知っているという事実に頼っていた。それが俺に力を与えていた。でも今……いや、それはもう重要じゃない。重要なのは、他人が俺をどう見ているかだ。もし彼女が俺の本当の姿を知っているなら、それが何だっていうんだ? 彼女はこの場所から出られない。
瞬きする。
そして世界が変わる。
部屋へと。
以前この世界に存在していた少年に属する、孤独な部屋へと。
ひどく普通に見える部屋だ。ベッド。デスク。本棚。
アザが俺の、いや、彼のベッドに座る。あの少年のベッドに。
「どこに俺を……?」
「あなたの部屋。というより、かつてそうだったものの構築物ね。あなたの記憶を使って、これが私にできる最も正確な構築よ」
「……」
窓辺へと数歩踏み出す。
「なんで俺をここに連れ戻したんだ? 人生についてのつまらない脱線話でも聞かせたいのか?」
外に目をやる。見慣れた街灯、道路、それに様々な白い家々が、まるで俺を歓迎するかのように見つめ返してくる。夜だから、視界は悪いが、同時に、憂鬱の感覚がわずかに俺の中で沸き起こる。
自転車が放置されている、それぞれの街灯柱に繋がれて。車も放置されている、過ぎ去った時代の機械の生き物だ。いや、少なくとも、俺が二度と見ることのない時代の。
あまり深く考えたくない。
今は。
「気分はどう?」アザが尋ねる、ベッドの上で姿勢を変えながら。
彼女の脇を通り過ぎ、以前は俺のものだったドアへと向かう。ノブを優しくひねり、ドアを前方に押す。
それがきしみながら開き、小さな廊下が現れる。床は木の板でできていて、誰かが残していった様々な衣類が床に散らばっている。
自分のどの部分が俺を動かしているのかわからないが、何かが俺を導いている。
鋭く左に曲がる、視線は前方に固定したまま。数歩のうちに、ベージュのドアが目の前に立っている、周囲と同じくらい厳かに。
このドア。
これに何か見覚えがある気がする。
過去にこのドアを見たことがあるような。記憶の川に沿って漂う、半透明の形をした砕けた花弁。それが花弁だとはわかるが、色も大きさも判別できない。
これはかつて俺の日常生活の一部だった何かの、残滓だ。
誰かがここに住んでいた。
誰かが、この家に俺と一緒に住んでいた。
でも、誰なのかはわからない。
手が俺の肩に置かれる。
素早く振り返る、あの失われた欠片が、たった今俺に触れた人物であることを期待しながら。俺は興奮しているのか? 悲しんでいるのか? もしかしたら、ただ知りたいだけなのかもしれない。
それがただのアザだと気づき、ため息をつく。
「なんで俺をここに連れてきたんだ?」尋ねる、囁きよりも大きくない声で。アザが眉をひそめる。
「昔の家が恋しくないの? 私の人間についての理解では、人間は自分の家から引き離されると、憧れの感覚を発達させる。もっと踏み込んで私の考えを言うなら:家を持つ幸せな人間から、家を引くと、悲しい人間になる」
「……」
唇を噛む。
「……いや」
この場所が恋しくないわけじゃない。ただ……俺の一部は、この壁への嫌悪を表明している。俺の人生は……いや、なんでもない。
「なるほど。うーん。この贈り物の価値を、もっと上げなきゃいけないみたいね。理由もなく、私のアバターにほぼ不可能な戦いを戦わせるわけにはいかないもの。あなたは報われるべきよ」
報い?
彼女はこれを報いと見ているのか? 俺がかつて存在していた場所の、偽りの模倣を?
「じゃあ、他に何が欲しいの?」彼女が答える、俺の考えを読みながら。
そして世界が変わる、まるで明かりのスイッチが入るかのように。それは即座に、文字通りあらゆる意味で即座だ。変形もなく、フェードもなく、何もない。まるでこの世界がずっとここにあって、俺がただそれを見る時間を取らなかっただけであるかのように。
待て。
この床。
この床。
この床。
この床。
この床。
この床。
この床。
この床。
この床。
この床。
この床。
この床。
この床。
この床。
壁に目をやる。
この壁。
この壁。
この壁。
この壁。
この壁。
この壁。
この壁。
この壁。
この壁。
この壁。
この壁。
この壁。
天井に目をやる。
この天井。
この天井。
この天井。
この天井。
この天井。
この天井。
この天井。
この天井。
この天井。
この天井。
俺はこの場所を知っている。俺はこの場所を知っている。俺はこの場所を知っている。
汗をかいている。体が犬みたいに汗を垂れ流している。目は壊れたヘッドライトのように激しく点滅している。歯は震動のようにガチガチと鳴っている。なんで俺はここにいるんだ? なんで俺はここにいるんだ? なんで俺はここにいるんだ?
「……アザ」
「ん?」少女が答える。
「お前は俺の記憶を読める」
「そうよ」
「じゃあなんで……」
振り返り、歯を互いに食いしばる。目の眼窩があまりにも大きく開いていて、眼球が今にも落ちそうだ。俺は精神異常者みたいに見える。
「……俺をここに連れてきたんだ?」
「あなたの過去の記憶は弱――」
「ここから出せ!!」腕を振って強調しながら叫ぶ。
少女が頭を傾ける、俺の爆発を無視しながら。
「……え? これはあなたの元の家でしょう? 私があなたをここに連れてきた理由は、ほぼ10回の死を経験した後の慰めを提供するためよ。あなたは何年もここに来ていない。それに、統計的に言えば、この場所は、あなたの心の中の他のどの場所よりも、より多くの感情を宿している。論理的に、あなたは何よりもここにいたいはずよ。あなたの感情は――」
「感情は全部同じじゃない! なんでお前はわからないんだ――」
彼女には理解できない。彼女は人間じゃない。他のどんな例も、状況への訴えにすぎない。
「――ぐっ!!! 人間はただの0と1じゃない!!」叫ぶ。
目の前の生物の偽りの仮面が崩れる。破片がすべて地面に崩れ落ち、俺の理解を超えた何かを露わにする。視覚的には、すべて同じだが、それ以外のあらゆる意味において、それは認識を超えている。
「いいえ、あなたはそうよ」
「?!」
「もしある個人がいて、その人にお金を与えれば、幸せになる。もしある個人がいて、その人の目の前で両親を殺せば、悲しくなる。あなたの感情、あなたの人格、あなたのアイデンティティ、それらはすべて、他の要因、あるいは『値』によって影響されている。父親を持たない人間は、しばしば父親を求める。父親に虐待された人間は、しばしば父親の不在を求める。異なる値。異なる出力」
肌が粟立つ。
「大半の人間はこれを複雑さとして解釈する。予測を超えた何かとして。その解釈は都合がいいの。それによって、自分が影響を受けていないと信じられるから。あなたが『選択』と呼ぶものは、あなたの入力が、それが所有権のように感じられる形で揃った瞬間にすぎない」
彼女が微笑む。
「だから、私はあなたが『値』として判断されることから自由だとは思わない。あなたは単に、それらによって再配置されているだけだと思う」
「……」
彼女の表情が突然和らぎ、俺の方へと歩み寄る。俺の顔に浮かぶ狂った表情に気づいたようだ。
柔らかい手が俺の頬を撫でる。
冷たい。
冷たい。
「でも、あなたは違う。あなたは他とは違う。あなたは、『値』によって人生を支配されている者たちのカテゴリーには当てはまらない。あなたは、私が理解できない、内側にある『何か』によって、あなたの値、あなたの決断がすべて計算されている。その心の枠組みの中に、あなたは何か別のものを持っている。何か、そう、『何か』。私はその特定の『何か』に興味を持つようになった。それだけじゃない、さらに、あなたが命に戻れる能力もまた、私の興味を引く重要な要因のひとつよ。死がどんな過ちに対しても代償として機能するという事実のせいで、あなたの決断はますます計算されたものになっていく」
彼女が目を和らげる。
「要するに、あなたの心の中の何かと、あなたのデス・デトゥアのおかげで、あなたは自分自身の人生の主導権を握る能力を持っている。これが本当に私の興味を引く点なの。私はこの世界であなたに存在の理由を与えられるだけじゃない、あなたを本当に、自分の運命を制御できる存在にすることができる」
「私が望むのは、あなたが自分の持つその『何か』を、私に打ち明けてくれることよ」
言葉を組み立てようとして、舌と歯が一瞬互いにぶつかり合う。ただ「かはっ」という音を発するだけだ。
俺の運命を制御する……
彼女は俺を天体存在にするつもりなのか?
指が一本ずつ、手のひらへと丸まっていく。
「理解してくれることを願うわ。実は、あなたならわかってると思う。私がこの世界にもっと存在するようになれば、あなたが望むものは何でも与えるから」
「どうやって知ればいいんだ……」切り出す。唇が震える。
「どうやって知ればいいんだ……お前がそれを全部やった後、俺を裏切らないって? どうやって知ればいいんだ、お前がただ俺を操って、お前の望むことをやらせようとしてるだけじゃないって? どうやって知ればいいんだ、お前が俺を置いていかないって……?」
少女が、頭の上に浮かぶ光の破片に手を置く。明らかに汗が顔を伝う中、彼女はその破片を引っ張り始める。力を込めるにつれて、砕ける音とはじける音が響き渡る。血が流れ始める、どこからともなく現れたかのように。少女は引っ張るたびにうめき、顔をしかめる。
それから――
ぐちゃっとはじける音が、その苦闘を終わらせる。
その光の破片を手に持ち、少女はそれを俺の手に置く。
ほとんど感じることすらできない。表面があまりにも軽くて、感じることすらできない。重さが存在しない。
彼女が微笑む。
「私自身の一部を、ひとつに凝縮したもの。これがあれば、これ以上の努力をすることなく、ほぼ即座にパターンを見つめて見られるようになる。もっとやってあげたいけど、あなたには自分でコウホウを学べるようになってほしいの」
その光の破片を見つめる、言葉が出ないまま。
少女が俺の手を握り、俺の目を見上げる。俺は自分自身の反射を見ることができる、完全に呆然とした表情で。
「私は決してあなたを見捨てない、カイト。あなたが経験していることを私は知っているし、そう感じたときはいつでも、私に打ち明けていいのよ」
俺は休める。
俺は本当に休める。
もし俺が寄りかかっている柱が柔らかくなくても、それでも俺は寄りかかっていられる。
頷く。
「俺に選択肢なんてないんだろ?」冗談を言う。
―――――――――――――――――――――――
目が覚める。
部屋は暗い。
俺は暗闇が嫌いだ。
壁を見つめる。
そして、見つめ続ける。
俺は今、カイトだ。




