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FRACTURED://EDEN  作者: DALG0ZA
第一篇『侵入』
12/13

開幕

夜だった。セイブル・ヴェイルを排除するために暗殺者たちが派遣されてから、まだ数時間しか経っていなかった。この特定の暗殺者たちは、とうの昔に名声から転落し、今では自らの刃を錆びさせないためだけに依頼を追いかける一族に属していた。風魔一族。


かつて誇り高かった血統にとって、それは悲しい運命だった。だが現実は決して、人の望み通りには形作られない。どれほど強固な基盤であっても、いずれはひびが入る。


「ふふ、ゴルスロ様、本当に面白い人ですね!」


女性の声、無理やり陽気さを装ったものだった。


「本当に、芸人になった方がいいですよ!」


もうひとつの声が加わる、より高く、ほとんど浮かれたような。


太った男、ゴルスロとしてしか知られていないその男が中央に陣取り、大きな両腕を欲深く二人の女性に巻きつけていた。彼女たちはワイングラスを握りしめ、その笑い声はあまりにも大きく、うつろに響いていた。


どんな観察者にとっても、その光景はまったくもって哀れなものだった。おそらく彼にとっては、それは至福だった。外の世界の裁きから切り離された、個人的な聖域。いや、より正確に言えば、彼は自分自身の妄想の中に沈み込んでいた。


愛を欠き、敬意を剥ぎ取られ、自らの強欲の中で腐りゆく男。その虚無を埋めるため、彼は同伴者を金で買うという哀れな行為に頼っていた。自分よりもはるかに恵まれない女性たちに金を払い、他の人間であれば自由に受け取れるであろう愛情のかけらを求めて。


哀れな光景だった。繋がりを渇望しながら、決して変わろうとしない男。


彼は決して追い求めなかった。彼はただ、消費した。


彼が「愛情」と呼んでいたものは、単なる欲情でしかなかった。その最も剥き出しで醜い形の欲情。欲情とは、愛の歪んだ反映にすぎず、一瞬だけ美として仮面をかぶることができても、いずれは必然的に、そのおぞましく歪んだ本来の姿を露わにする。


そして、これほど多くの人間がこの真実を知っていてもなお、彼らは自ら進んで同じ罠に飛び込んでいく。


富める者たちも例外ではない。むしろ、その富こそが彼らを弱くする。彼らにとって、欲望は儚く、簡単に満たされ、簡単に取り換えられるものだ。彼らの思考は単純だ――この体に飽きたら、捨てて、別のものを買えばいい。


人間はこのような力を持つべきではない。それを無頓着に振るうことは、精神を蝕む。特権意識が膿み、自我が肥大化し、内なる人間性が腐り始める。


それが、ゴルスロ・ヴォララの場合だった。


彼の心は毒され、その快楽には際限がなかった。彼の目には、女性は女性として映っていなかった。彼女たちは給料だった。彼女たちはただの「肉体」だった。取り、使い、興奮が薄れれば捨てる対象だった。


そして、彼の隣にいる女性たちにとって、この場所には何の華やかさもなかった。彼女たちの物語は、より重く、より残酷だった。彼女たちは彼の自発的な同伴者などではなく、彼の犠牲者だった。家も、生計も、尊厳も剥ぎ取られ、他に生き延びる手段が残されていなかった――売れる最後のものを、売る以外には。


自分自身を。


残念ながら、これはこの世界において唯一の事例ではなかった。


おそらく彼女たちは、別の道を長く探し求めた末に、何も見つけられなかったのだろう。結局、彼女たちは罠にはまり、彼のような男たちの影の中で、うつろな存在を生きるよう定められていた。


その男の、膨れて脂ぎった手が、カラという名の女性の胸元へと、さらに低く滑っていく。


女性は緊張し、そっと身を引く。かろうじて残る尊厳のかけらを守ろうとするかのように。自分に残されたものを、まとわりつく汚れに冒されないようにするために。


「ああ、頼むよカラ、少しくらい肌に触れたって構わないだろう? それ以上は絶対にしないから」


彼は大きく笑い、ランプの光の下で、わずかに黄ばんだ歯を見せる。


カラの胃がひっくり返る。魂のあらゆる力を込めて、彼を殴りたかった。あの歯を陥没させたかった。この世界から、あの得意げで膨れた顔を消し去りたかった。


彼の言葉に潜む無頓着な下品さが、吐き気を催させる。


これは、支払いが遅れた者たちを承知の上で拷問する、同じ男だった。これは、家族を意図的に引き裂き、飢えた子供たちを生み出す、この男だった――自分自身を養うためだけに、豚のように。


彼女の手が握りしめられる。


彼女は、金のために最後の誇りを手放すつもりなのか? この悪魔のような男に所有されることを許すつもりなのか?


ゴルスロの手が、さらに、ゆっくりと、意図的に滑っていく。


彼女は屈するのか? ここで彼女の尊厳は砕けるのか?


カラの目が閉じる。


両親の顔が心に浮かぶ。いつも彼女を大切にし、彼女が価値ある人間になると信じてくれていた母と父。彼女の知性を称賛し、より大きなことを成し遂げる運命の少女だと呼んでくれた教師たち、恩師たち。彼らの声を、クラスの頂点に立ったときの彼らの誇らしげな様子を、思い出すことができる。


そのすべてが、ここで押し潰されるのか?


鋭い音。


彼女の手が飛び出し、彼の手を叩き払う。


それは本能的な、ほとんど必死な行動だった。行動した瞬間、報復への恐怖が胸の中で燃え上がったが、もう後戻りはできなかった。


彼女は立ち上がる、震えながらも堂々と、拳を固く握りしめて。


ゴルスロの顔が、信じられないという表情で歪む。彼のおもちゃの一つが、彼に逆らう勇気を見せたのだ。


彼は自分自身に、彼女が自分を崇拝しているのだと、彼女の笑顔が本物だったのだと、彼女の従順さが本物だったのだと、思い込ませていた。彼の心の中で、彼は与える者だった、提供者だった。彼は支払い、耽溺し、そして終われば捨てた。


彼女は、彼のもとへと何度も何度も這い戻り、施しを乞うはずだった。


彼のショックが、怒りへと凝固していく。眉が寄せられ、膨れた体が立ち上がる。


彼にとって、それはまるで道具が動作を拒否したかのようだった。彼の苛立ちはすぐに憤怒へと変わっていった。他人を道具としか見なさないこの男は、その怒りに自分の行動を支配させ始めていた。


周囲のあらゆる者を家畜のように支配する男。


もう一人の女性は恐怖に固まり、後ずさる。


「この汚らわしい売女め!」彼は咆哮した、顔を赤くし、唾を飛ばしながら。「お前の周りにあるもの全部を与えてやってるのに、これがその礼か? 俺はお前の生命線なんだぞ!」


胸が波打ち、荒い呼吸を繰り返した後、彼は感じてもいない落ち着きを無理やり装う。息を吸い、吐き、髪を撫でつけ、嘲るような表情とともに落ち着きを取り戻す。


悪魔が、別の仮面をつけたのだ。


「……今、何も言わずに戻ってくれば」彼は席を指しながら呟く。「この件は見逃してやる」


カラは、彼が示した席に目もくれなかった。視線は彼に固定されたまま、揺るがず、部屋の薄暗いもやを切り裂くほど鋭かった。


「いいえ、ゴルスロ……」


彼女は深く息を吸い、拳を握りしめる。


「あなたのような寄生虫に、自分を売ったりしません」


彼女の声は落ち着いていたが、一言一言に毒がにじんでいた。まるで、彼に自分をねじ曲げさせるくらいなら、その言葉に自ら喉を詰まらせる方がましだと言わんばかりに。


「……お前!!」


男が勢いよく立ち上がる、首の血管が張り詰め、突然の起立で服がしわを寄せる。


もう一人の女性がびくりとする。振り上げられた拳が空中で震え、その努力によって肺から息が引きずり出される。彼は、カラを殴る一瞬手前だった、その威圧的な影がほとんど彼女の全身を覆っていた。


そのとき、ドアの蝶番のきしむ音が、その瞬間を遮った。


その中断が、彼に一撃を飲み込ませ、即座に手を下ろさせる。彼は体をひねり、シャツを撫でつけ、まるでいたずらを見つかった少年のようにネクタイを直す。


哀れだった。仮面が引き裂かれて見つかった後の、この尊厳の演技は。


戸口には、少年が立っていた。金髪で、年齢のわりに背が高く、せいぜい17歳。肩に垂れる髪の房が横に流されている。青い目が、彼の姿にほとんど気品すら添えていた。


「サミュエル?」


「……お忙しいところのようですね、父上」彼の言葉には、怒りも、説明を求める必要もなかった。ただ、その口調だけで嫌悪が明らかだった。


全員が理解していた。ゴルスロを除いて。彼は無視するふりをした。息子の声にある軽蔑を聞かなかったふりをした。ふりをした、なぜなら、それしか彼にはできなかったから。


ふりをする、ふりをする、ふりをする。


残酷な現実は、自分の犯した行為を知る男自身が、その中で生きているということだった。ふり。いつ崩壊してもおかしくないと自分でわかっている、偽りの世界。


サミュエル・ヴォララは、父親とは正反対だった。ゴルスロが残酷さの中で活き活きとする一方、サミュエルはそれから身を引いた。彼は、この男が敵を拷問し、村人から強奪し、税を払えない無実の者たちを罰する姿を見て育ってきた。少年は彼を憎んでいた、彼が体現するものを憎んでいた。


彼はその姓を共有していることを憎んでいた。


そして、おそらく、彼もまた憎まれていた。町では、サミュエルは正統な後継者ではなく、忘れられた不倫の産物、ゴルスロの耽溺の跡に残されたもうひとりの庶子だと囁かれていた。母親の遺伝子がより優性に働いた結果、端正な容姿を得たために、拾われただけの存在だと。


ゴルスロは、一体何人の子供をもうけ、捨ててきたのだろうか? 何人が、彼の影の重みの下で育てられてきたのだろうか?


二人の女性が、サミュエルの脇をすり抜けていく、視線を逸らしながら。カラの顔には、明白な安堵が浮かんでいた。まるで、たった今、絞首台から引きずり降ろされたかのように。


「……ああ、そうだ、お前の父親が――」


「それについては、これ以上コメントいたしません。あなたが閉じたドアの向こうで何をしようと、私には関係のないことです」サミュエルの声が、言い訳が紡がれる前に、部屋を鋭く断ち切る。


ゴルスロはただ、こわばった様子で頷き、ネクタイを引っ張りながら、何事もなかったかのように席に戻る。テーブルの上の二本のワインボトルが、かすかに揺れ、中の液体が先ほどの緊張の余波でさざめいている。ランプの光は薄暗い。


「座ってくれ」


「結構です」サミュエルは壁にもたれ、腕を組み、目を閉じたまま言う。「ローラ様からの情報を伝えに来ただけです。彼女は伝聞によれば『病気』になったそうです」


その言葉が、空中に留まる。それが口にされた瞬間、ゴルスロの表情が、かすかにひび割れる。目が細まり、顎の端がぴくりと動く。だが、次の呼吸で、彼はそれを取り繕う。


その男が何をしたのかは明らかだった。それについてこれ以上言及すれば、この二人の男を繋いでいる、どんな細い糸であれ、断ち切られてしまうだろう。


大半の父親は、自分の息子がより良い人間になることを願う。過ちを犯した父親は、それが見つからないように振る舞う。だがゴルスロは、大半の父親とは違った。彼は自分の罪を息子の前に見せびらかし、それを「力」と呼んだ。そしてサミュエルは、それを見ないふりをするのを、とうの昔にやめていた。不幸なことに、その少年は、唯一の親からではなく、幼い頃から周囲の人々や自分自身の経験に頼らざるを得なかった。


おそらくそれこそが、彼の道徳の羅針盤が、はるかにしっかりと発達している理由だったのだろう。


「ああ、そうか?」


「はい」サミュエルの口調が変わる、緊張を切り裂きながら。


「セイブル・ヴェイルの後を追わせた暗殺者たちは、全員、町の外で発見され、家畜のように縛り上げられていました」


ゴルスロの手が、肘掛けの上で丸まる、関節が白くなっている。彼のような男たち――自己陶酔者たち――にとって、敗北は単なる失敗ではなかった。それは屈辱だった。自己陶酔者は、間接的にであっても自分が間違っていたと証明されることの重みに耐えられない。


「あいつらに、よほど高い報酬を払ったに違いない……くそ」彼はグラスの中の酒を回しながら、その赤い液体を見つめる。まるでそれが、この不名誉を説明してくれるとでも言うかのように。


「そろそろ軍隊が俺を追ってくると思ってたが、あいつら必死すぎて傭兵を送り込んできたのか……」


「父上、いっそ彼らを買収してみてはいかがですか? もし彼らが金のために働いているのなら、より高い額を積めば、雇い主を裏切るはずです」


「それは無理だ」ゴルスロの声が短く切れる。「セイブル・ヴェイルは契約を尊重する。最初の依頼人が優先される。常にな」


彼は立ち上がり、窓の方へと歩み寄り、まるで外の世界が自分のものであるかのように夜を見つめる。


「心配することはない。もし暗殺者たちが風魔に殺されなかったとしても、少なくとも使い物にならないほど痛めつけられているだろう」


「……父上、それは無謀なほど楽観的すぎます。風魔一族との戦いの結果すら、まだ確認していないでしょう」


少年の視線が、父の背後の床のあちこちにある染みへと移る。部屋には何か不快な臭いが漂っている。彼が言いたくない何かの臭いが。


「楽観主義は、慎重さよりも、はるかに遠くまで俺を連れていってくれるものだ。俺がここまでどうやって成り上がったと思う?」


それは、それなりに真実だった。忌まわしい人間ではあったが、彼の狡猾さとカリスマは、運が運んでくれる以上に彼を高みへと押し上げてきた。彼の残酷さは、知性によって研ぎ澄まされていた。それこそが、彼を危険な存在にしていた。


富を維持する富裕層は、しばしば欺瞞と嘘という腐敗した世界に頼らざるを得ない。


「なるほど」その言葉には、わずかな憤りがこもっていた。まるで、相手の言葉をこれ以上聞けば、限界を超えてしまうかのように。「では、暗殺者たちはどうしますか?」


「処分しろ。殺すなり、売るなり、俺は気にしない……」


彼の顔に笑みがよぎる。自らの過ちから決して学ぶことのない男に張り付いた、忌まわしい笑み。


「だが、あのゴルゴンの女は連れて――」


「彼女はすでに死んでいます。傷が原因で息を引き取りました」サミュエルの遮りは鋭かった。


「……」


「まあいい、この屋敷については、俺を殺すために金を払われた奴らがいるのは避けられない事実だ。だから警備を倍にしろ、必要なら資金を全部使え。使用人一人につき、その倍の数の警備を配置しろ。屋根の上にも忘れずにな。監視の目が届かない隙間が、ひとつたりともないようにしろ」


男は一口酒をすする。


「この屋敷は、1時間以内に難攻不落の要塞になるだろう。あいつらは技量を持っているかもしれないが、技量は圧倒的な数には敵わない」


「はい、父上」


「では、下がるがいい、息子よ」男がついに言い、振り返る。


ゴルスロの唇に浮かんだ笑みは、人間には似つかわしくない類のものだった。それは大きく、歪み、腐敗の臭いを放つ笑みだった。怪物の笑み。


サミュエルの胃がひっくり返る、嫌悪があまりにも激しく押し寄せ、自分自身でも驚くほどだった。


「……私を、あなたの息子と呼ばないでください」


「……」


「私があなたを『父上』と呼ぶのは、単なる敬意からです。あなたには、私の父としての義務など負う資格はありません。私を、あなたの息子と呼ばないでください」


冷たく、断固としたメッセージ。


「くっ……」


そう言うと、部屋は空になり、少年の代わりに閉じられたドアだけが残された。


こんな状況に置かれれば、まともな人間ならこれまでの決断を真剣に見直すはずだ。自分の実の息子に憎まれるに至った、どの選択が原因だったのかを考えるはずだ。まともに機能する人間なら誰でも、これを考え、熟考するはずだ。


だが、ゴルスロ・ヴォララの場合は、そうではなかった。


『俺はもうやりすぎた、今さら止まるわけにはいかない』これが、彼が自分自身に与えた正当化だった。それは単に、蛮行を続けるための言い訳にすぎなかった。


まさにこの考え方こそが、この黒幕の破滅を招くことになる。


―――――――――――――――――――――――


鼓動。


鼓動。


鼓動。


それが、速くなっていく。大きくなっていく。


大きく。大きく――


そして――


目がぱっと開く。


頭上の空は青く塗られ、遊び心に満ちた白い雲が、広大なキャンバスの上をのんびりと漂っている。日光が顔に降り注ぎ、温かく柔らかに、俺を明るさで包んでいる。


草が腕と首をかすめる、軽く冷たい。地面に横たわっている。太陽で目が痛むが、どういうわけか見つめても痛くない。目を細める必要がない、まるでただのランプであるかのように、まっすぐに見つめられる。


大地に手を押し当てる、草の葉が手のひらに沿って曲がる、深く息を吸う。


上半身を持ち上げ、座り直す。手はまだ草の中を漂わせたままだ。目の前には果てしない平原が広がる、うねる丘陵が、緩やかな波を打ちながら、緑の海となっている。木は一本もない、ただ草だけが、風の中でゆっくりと揺れている、まるで大地そのものが生きているかのように。


右手を上げ、それを見つめる。手のひらの皺が、見つめ返してくる。


ここは、どこだ?


記憶が、消えかかる炎のように、頭の中でちらつく。俺は幽谷にいた。洞窟の深く。ナヴィを抱えて、あの機械から逃げていた……あの化け物から。


いや……あの地点を超えていた……くそ、思い出せない。


また、死んだのか?


手を下ろし、ついに最初にすべきだったことをする。


見上げる。


そして、そこ、頭上に、論理が砕け散る。


逆さまの城が、空を支配している。


その質量は、途方もない。地平線を覆い隠し、尖塔がねじれ、下方へと湾曲し、地面に向かって爪のように丸まっている。その暗い体が、平原の半分を飲み込む影を落としている。それは揺れない。浮かんでもいない。ただ、そこに「ある」、まるでそこで生まれたかのように固定されている。空中そのものに根を張った、不可能で巨大な成長物だ。


頂点は見えない。視界の外まで伸びている。


うめきながら、脚を突っ張って立ち上がる。脚は張り詰めて重く、まるで何日も立っていなかったかのように硬い。骨がきしみ、伸びをするたびに、かすかな痛みが体を波打つ。


「ここは、天国か?」


こんな美しさを目にすれば、誰でもそう問うだろう。平原はまるで、俺が足を踏み入れた絵画のようだ、その静けさにおいて完璧な。空気は清らかな味がする、ありえないほど清らかな。空は無限に感じられる。頭がくらくらする、これが現実だと信じることを拒みながら。


「……いいえ、これはあなたの言う天国ではありません」


「――?!」


その声が、俺を切り裂く。


女性の声。柔らかいが、確固としている。


俺の前方から。


だが、そこには何もない。俺はただの空っぽの平原を見つめている。ただ草だけだ。ただ城の影だけだ。それなのに、明らかに俺に呼びかけている声がある。この声は俺の頭の中にあるのか? 幻覚を見ているのか?


瞬きする。


そして、再び目を開けたとき、世界が変わっている。


玉座が目の前にある。巨大で、俺の二倍ほどの大きさで、まるでずっとそこにあったかのように、頭上にそびえている。その表面には、俺が理解できない模様が刻まれている、追おうとするたびに形を変える意匠。交差する線のモチーフ、X字型、洗練され異質で、ほとんど未来的だ。


そして、その玉座の上に、彼女が待っている。


唯一ふさわしい言葉は「浮世離れ」だ。


彼女の美しさは、何か違法なものだ、俺の目が耐えるようには作られていない何か。あまりにも長く見つめることは、間違っているように感じる、まるで現実そのものに対して不法侵入しているかのように。彼女は人間性の縁に佇んでいる、女神とさらに高次の何かの間の、その薄い一線の上でバランスを取りながら。


彼女の髪は銀の絹だ、体に沿って流れ落ち、きらめく川のように。まつ毛は青白く輝き、じっとしていない瞳を縁取っている、色が移り変わり互いに折り重なっていく、支配的な赤が別の何かへと道を譲り、それからまた別の何かへと。


見つめれば見つめるほど、その色は変化していき、目というものがどんな見た目をしているべきかを思い出すことが、どんどん難しくなっていく。


話せない。呼吸すらほとんどできない。


これは一目惚れじゃない。これは畏怖だ。恐怖だ。人々が太陽を長く見つめすぎたときに感じる、あの種の畏敬だ、それが自分を灰に変えかねないと知りながら。


彼女の衣装は奇妙だ。異世界的だ。肩は露わで、腕は前腕まで覆われている。ドレスは足元まで流れ落ち、その長さに沿って黒い筋が走り、白と黒が完璧なバランスで配されている。大きな十字が、鋭く大胆に、彼女の胸と胴を横切って刻まれ、その姿を、揺るぎない終局性で結びつけている。


そして彼女の頭上には、冠が浮かんでいる。


金属ではない。宝石でもない。


光だ。


そしておそらく最も奇妙な詳細として、それは頭蓋骨の周りを周回する8つの黄金の光の破片だ、ゆっくりと回転し、その輝きを体中に投げかけている。それらは、惑星の周りを回る衛星のように動いている。


「この世界」彼女が言う、その声はあまりにも容易く響き渡る。「死者と生者の間の世界です。中間の場所。あなたの言葉で言えば……煉獄」


彼女は顎に触れ、考え込むように頭を傾ける。


「うーん……とはいえ、煉獄というものは、もっと荒涼としているべきなんでしょうね? 少し綺麗に作りすぎたかもしれません」


その言い方が、あまりにも人間らしいカジュアルさで、背筋に冷たいものが這い上る。


もし年齢を推測しなければならないなら、19、いや20歳くらいだろう。だが、その仕草は、あの不可能な美しさと衝突している。彼女はあまりにも人間らしい。不快なほどに人間らしい。


彼女の目が、突然俺に固定される。


「ああ、そうだ! あなた! 『カイト』!」


彼女は俺の名前を知っている。


まあ……本当の名前じゃないが。


「あら、バカにしないで。それも知ってますよ」


「??!?!!」


彼女は軽く微笑み、目をきらめかせる。「あなたの考えって、うるさいんですよ。耳元でささやかれてるみたいに」


心臓がつまずく。一歩後ずさる。


彼女は俺の心を読める。


まずい。


まったく、まずい。


「わかってます、わかってます。もし誰かに頭の中をほじくり返されたら、私だって怒るでしょう。でも心配しないで! 誰にも言いませんから」


彼女は身を乗り出す、ほとんど玉座から転げ落ちそうになりながら、笑みがあまりにも明るく、あまりにも大きい。


彼女は、俺から何らかの反応を引き出そうとしている。


「……」


「ああ、私が嘘をついてると信じたいんでしょうけど、あなたの中の何かは、そうじゃないってわかってる。私は、あなたが今まで出会ってきた何よりも上の存在。信じないわけにはいかないんです」


彼女の目がわずかに細まり、唇が満足げに歪む。


「あなたの名前は█████████。あなたは████で生まれ――」


「もういい!」思わず叫び、彼女の言葉を遮る。


彼女は顎を手に乗せ、半ば閉じた目でまっすぐ俺を見つめる。あまりにも人間らしい、それでいて人間じゃない表情。不気味だ、より深く、より奇妙な何かの上に取り付けられた仮面。虚ろというより、間違っている。魂を不安にさせるちょうどいい具合に歪んだ操り人形。


「さて」彼女が柔らかく言う。「話を戻しますね――ああ、待って。あなた、ここにどうやって来たか覚えてないんですね」


彼女の歯が唇を捉える、優しく噛みしめながら。


そして――痛み。


記憶が、千のガラスの破片のように俺の心に押し寄せる。喉が焼ける。顔が痛む。今、思い出した。首を撃たれた。ゆっくりと出血し、死を待っていた。冷たい闇を待っていた。


俺には決まった数の命があったのか?


「いいえ」彼女が優しく言う。「あなたがここにいるのは、私が連れてきたからです。私からの伝言があったので」


彼女は劇的に手を上げ、それから素早く俺を指す。


「あなた! カイトーーー!! 私のアバターになりなさい! ずっと退屈だったの!」


「……」


嫌悪が顔に歪みを作る。それは微妙なものじゃない。ただの睨みや顰め面じゃない、まさに今この瞬間感じていることの正確な反映だ。彼女を見ているだけで肌が粟立つ。一歩後ずさる、まるで、これ以上近づけば、その存在に焼かれてしまうかのように。


「……俺の同意もなくこの場所に連れてきて、記憶を漁って、それで俺がただ笑って頷くとでも思ってるのか? ふざけるな」


彼女に向けた鋭い視線が、さらにその点を強調する。


大それた契約なんて結ぶつもりはない。神を装って闊歩する狂人と、何の取引も約束も交わすつもりはない。二度と、俺は自分自身を何かに鎖で繋ぎたくない。俺は、自分の運命を自分で書きたい。俺は、自分の力で頂点に登り、自分にとっての「力」の意味を刻みたい。俺の首を、誰か別の人間に、ましてやこの狂った女に、繋がせるつもりはない。俺はこの世界に、幸運によって放り込まれた、百万分の一の偶然によって。それを、彼女に爪を食い込ませられて無駄にするなんて、絶対に許さない。俺はもう一度烙印を押された、二度とそんな目には遭わない。


「はっ。そう言うと思ってました。でも、あなたが断らないと確信してる、魅力的な提案があるんですよ」


歯を食いしばる。彼女に何を言われようと、俺を屈させることはない。何もない。俺はすでに、砂の上に線を引いた。もう二度と、他人の歪んだゲームに飲み込まれたりしない。


「この世界について、3つの質問をしていいですよ。私は何でも知っていますから」


「答える気はない。とにかく、俺をここから出してくれ」腕を胸の前で組み、顔を背け、声を平静に保とうと努める。


彼女の笑みは動かない。「あなたがここにいる本当の理由、私は知っているかもしれませんよ。それに……もしかしたら……あなたのあの小さな死の能力の裏に何があるかも」


眉が、抑えきれずにぴくりと動く。


「あなたが尋ねる3つの質問には、完全に正直に答えます」


視線が彼女に流れる。彼女は玉座の上で女王のように寛いでいる、得意げだが鋭く、その全身が、冗談じゃないと語っている。彼女は本気だ。胃がねじれる。本当に、3つの答えのために自分自身を売り渡すのか? 本当に、自分を押し潰しかねない何かに、自分を繋ぎ止めるのか?


「あなたのアバターになる条件は何――」


口が閉じる。目が合う。二人の間に火花が走る。彼女は俺を罠にかけようとしていた。


もしその質問を最後まで言い終えていたら、彼女はにやりと笑って「それでひとつ数えますね」と言っていただろう。彼女は、俺が本当に大切なことに触れる前に、チャンスを無駄にさせたかったのだ。こういうタイプの人間には、以前にも会ったことがある。


笑顔の裏に牙を隠す嘘つきたち。


「まさに、それこそが、あなたを私のアバターにしたい理由なんです。その疑い深さが、あなたを殺すのをずっと難しくしてくれる」


「俺は死なないけどな……」


「ああ、そうそう、あの、あなたのちょっとしたトリックですね。でも、それでも。さあ、聞いてください!」


彼女は玉座にさらに深くもたれかかり、顎を手に乗せ、目が俺に穴を穿つように見つめてくる。


うめきながら、髪に手を通し、草の上に崩れ落ちる。地面は冷たく、ざらついている、そして彼女は、巨人のように俺の上に聳え立っている。


彼女の髪の冠の背後の日光が、そのシルエットをさらに耐え難いものにしている。ドレスの下で脚を組んでいる、几帳面で意図的に、まるでその動きすら俺に彼女の支配を思い出させるためのものであるかのように。


「わかった。俺はお前の『アバター』とやらになる、お前が俺にイカれたことをやらせない限りは。本気だからな!」


彼女を指差しながら叫ぶ。


「俺の能力を超えることを強制されたら、その瞬間、俺は辞める!」


「よくできました! 信じてください、あなたの能力を超えることは何もさせませんから!」


「……」


「その口調、本当は逆のことを信じさせるんだけど……」


「心配しないで、人間って結構強いんですよ。もっとも、本質的には弱くもあり強くもありますが。あれは何て言ったかしら……」


「ああ、そうだ、ブレーズ・パスカルがこう言っていました――『人間はひとつの葦にすぎない、自然の中で最も弱いものだ。だが、それは考える葦である』」


その突然の名前の登場に、思わず眉を上げる。


「人間が宇宙の中に存在するという概念は、彼らが弱いことを示唆していますが、彼らが自分がその中にいることを理解しているという点で、強くもあるのです」


ブレーズ・パスカル……16世紀の哲学者で、学校で読まされた本の著者だ。確か『パンセ』というタイトルだったと思う。


こいつ、本当に俺の記憶を全部読み込んでるんだな……


「もっとも、人間が理解できることには限界があります。説明は様々な源から生まれることがありますが、それらが絶対的な真実になることは決してありません。あなたの世界の『科学』が絶えず変化し続けているのには理由があるんですよ」


「でも、その限界がある理由については、私が個人的に教えてあげましょう」


彼女は腕を伸ばす。


「人間が理解できることに限界がある理由は、まさに、彼らが『人間』であるという、その単純な事実によるものなんです」


「……」


正直、何と言えばいいのかわからない。


「ああ、ごめんなさい、どうぞ続けて」


少女は座っている俺の上に、まだ聳え立っている、その存在感の重さを振り払えない。呼吸がより難しくなる。慎重に考えなければならない。この3つの質問がすべてだ。呪われたランプに願いをかけるのと同じことだ。


犬歯が互いに押し付け合う。


もしひとつでも無駄にすれば、また闇の中でよろめきながら、目の見えない状態に戻される。


よし。最初のものは明白だ。俺の死の能力。死んだ後に戻ってくる力、墓場から這い上がってリセットする力。その限界を知る必要がある、ルール、隠された代償。もし完全に把握できれば、闇の中で手探りするのではなく、それを刃として振るえるようになる。


二つ目は、俺が召喚された理由。この世界を憎んでいるわけじゃないが、ここに引きずり込まれたという事実が、絶えず心を蝕んでいる。何の力が俺を引き込んだんだ? 誰が、俺の人生を、自分のチェスの駒のように動かせるものだと決めたんだ?


そして最後……彼女だ。この、そこに座る女性。俺の思考を切り裂き、空間を紙のように曲げ、真実を餌のようにぶら下げることができる。彼女は人間じゃない。人間に近いものですらない。


「どうぞ、続けてください」


眉をひそめる。彼女はすでに俺の頭の中を本のように読めるのに、なぜ声に出して言わせるんだ? これは彼女の娯楽なのか、俺が自分の絶望を口にするのを聞くのが? 自分の舌で懇願させることで、より甘く感じるのか?


いずれにせよ、彼女に嘘をつくことはできない。


拳を握りしめ、深く息を吸う。胸が重く感じる、まるであらゆる一滴の空気が、入ることを拒んでいるかのように。


「よし……ひとつめの質問……」


喉が震える。


「あなたの死の能力とは何ですか?」彼女が割り込む。


「声に出して言わせるつもりなら、せめて最後まで自分で言わせろよ!!」


「はは……ごめんなさい……」


「――ちっ。でも、そう、それが俺の質問だ」


あの痛みと苦難の時間が、頭の中に爪を立てて戻ってくる。骨の砕ける音のひとつひとつ、窒息するような苦悶の一秒一秒、絶望の中で体が崩れ落ち、また立ち上がっては、再び苦しむ。それぞれの死の生々しさを、まだ感じることができる、俺の中に焼き付けられている。それらから目覚めることは、決して「目覚める」ようには感じられなかった。それは、悪夢から引きちぎられるようなものだった、ただ別の悪夢が待っているだけの。


「俺の時間ループ能力」


その言葉が口から出た瞬間、少女が頭を傾ける。髪がその動きに合わせて揺れ、かすかな光を捉え、水面のさざ波のように尾を引く。困惑した表情が顔に広がる、あざけるようなものではなく、ほとんど……哀れむような。


「ループ? あなたはループなんてしていませんよ」


「?!」


息が喉に詰まる。体が本能的に、まるで刺されたかのように後ずさる。彼女が正しいはずがない。あり得ない。だが、彼女は明らかに、これらすべてについて俺よりも多くを知る存在だ。もし何かなら、彼女の言葉は、何の努力もなく俺の言葉を押し潰す。


でも……


「でも、そうでなきゃおかしい! 俺は何度も死んだ! その後、何度も目を覚ました! 俺が幻覚を見てたって言うのか――いや、俺は未来を見てたのか?! 俺のことをイカれてるって言いたいのか?!」


他に何かであるはずがない。


あるはずがない。


「ちょっと、私が言い終える前に遮ったでしょ」彼女の声がうめくように、俺の言葉を押し潰す。まるで高校生の少女のように口を尖らせている。


「あなたが大変な思いをしてきたのは理解してますけど、説明させてください」


呼吸がゆっくりになる、荒く震えながら、まるでエンジンがほとんど止まりかけた後に、リズムへと苦労して戻ろうとしているかのように。胸が焼ける、体を落ち着かせようとしながら。指がぴくつく。筋肉がこわばり、それから緩む。


こわばりながら頷く。


「さて」彼女が始める、指を一本上げ、まるで俺の頭蓋骨を直接指しているかのように。「あなたの能力――私が『デス・デトゥア』と名付けたもの――は、頭蓋骨の刻まれたルーンとして顕現します。そのひとつが置かれると、それはポイントとして機能します。死んだ後に戻れる、固定された地点として」彼女は顎に手を当てる。


「……あなたの世界の『ビデオゲーム』に似たようなものですね。あなたも、それくらいはすでに気づいているはずです」


再び頷く、今度はより慎重に。


彼女の指が、空中に留まる。


「さて、次の部分は推測です。私は、あなたにその能力を与えた者ではありませんし、あなたの存在を知ったのも、ほんの数日前です。だから、それを念頭に置いてください」


「え? てっきり知ってるものだと思ってたよ、だって……まあ、お前はお前だし」


「まあ、私だってすべてを知っているわけではありません」


彼女の正直さは、俺を安心させない。むしろ、それが俺をさらに不安にさせる。あまり期待すべきじゃない。彼女が本当は何者なのかすら、俺はほとんど知らない。俺の知る限り、彼女はただ演技をしていて、俺の反応を見るために断片を与えているだけかもしれない。もしかしたら、あの心を読む話全体が、ただの――


かすかな口をとがらせる様子が、頭の中を巡る疑念の螺旋を遮る。彼女は、ほとんどイライラしているように見える。


「んん。とにかく。ビデオゲームでは、キャラクターが死ぬと、前のセーブポイントに戻りますよね。世界そのものが、その瞬間に合わせてリセットされる、そうでしょう?」


頷く、今度はよりゆっくりと。


「明らかに、あなたはそういうゲームの知識から、自分の能力が同じものだと想定したはずです。世界のリセット」


ああ。まさに、俺が思っていたことだ。それは筋が通っていた。ゲームでも、アニメでも、主人公はいつもその特権を得る。彼らは苦しむ、確かに、だがすべては消し去られる。破滅した時間軸は消える、まるで最初から存在しなかったかのように。キャラクターは苦痛から救われる、なぜなら作者が自分の創造物を溺れさせることを拒むから。それは物語的な保険だ。慈悲は、フィクションに組み込まれている。


それが、俺が持っていると思っていたものだった。


「ですが」


その一言が、どんな刃よりも鋭く突き刺さる。喉が瞬時に乾く、舌が口蓋に張り付く。汗が顔を伝う。血が引いていくのを感じる、肌が青白くなっていく。


すでに、何が来るかわかっている。


点が繋がっていく、そして俺は、自分が見え始めている像が、その通りにならないことを祈っている。


「あなたが死んだ世界は……」


言わないでくれ。


言わないでくれ。


「……リセットされません」


その言葉が、頭蓋骨の中で爆発する。目があまりにも大きく見開かれ、眼窩から飛び出しそうな感覚がある。叫びたいが、何も出てこない。沈黙が俺を絞め殺す。


そして、彼女は止まらない。


「無数の線として考えてください。あなたが今いる世界は、一番上の線です――未来、先にあるもの。その下の線は、あなた自身の別バージョンが存在する世界です。彼らはほとんど同じ道を辿ります、あなたの選択を映し出しながら。ですが、彼らはあなたの時間軸より遅れています。あなたは常に、その先にいるのです」


頭を抱える。あの世界たち、俺が……あんなことをした世界たち……


それらは、続いている。


あれ以降、止まっていない。


つまり、誰かがあの死体を見つけたということだ。彼らの死骸はまだそこにある、あの谷の中で腐りゆきながら。いずれ誰かがそれに出くわすだろう。俺は、まだ殺人者だ。何をしようと、俺の行為は永遠に残り続ける。俺はそれを洗い流すことができない。否定することができない。


俺は、まだ忌まわしいクズだ。


俺は、まだ殺人者だ。


リセットされなかった。


リセットボタンなどなかった。それを消し去る魔法の「消去」機能などなかった。


自分には見えないとわかっている……だが、それがまだ存在すると知ること、まだ起きていると知ること――


待て。


待て、そもそも、彼女が言っていることが本当だと、どうしてわかるんだ?


いや違う、カイト、この馬鹿野郎、自分に嘘をつくな。彼女はすべてを知る何らかの生物だ。彼女は正しい。彼女は正しい。彼女は正しい。


俺は殺人者だ。


女性は話し続ける、その声が、俺のパニックの霧をメスのように切り裂きながら。


「さて、この世界の『あなた』が『チェックポイント』を設置すると、それは他のすべての世界に広がります……あなたがそれを設置した世界を除いて。それはある意味で、次の世界線への扉として機能します」


彼女の言葉が反響するが、それは俺の頭蓋骨の中の鼓動をほとんど貫かない。


彼女の声は聞こえている。だが、俺が考えられるのは、あの世界たちのことだけだ。俺が見捨てた世界たち。まだ血を流している世界たち。まだ叫んでいる世界たち。まだ腐りゆいている世界たち。


だめだだめだだめだだめだ


彼女の目が一瞬、俺の上に落ちる。その視線には、何か哀れみに近いものがある……ほとんど……だが、それは声には届かない。


「もし私から何か反応を期待しているなら、それはしません。ごめんなさい。ですが、時間は差し上げますよ」


首を振り続ける、指の関節を頭皮に食い込ませながら。罪悪感が、肉を引き裂く歯のように蝕んでくる。止まらない。息をさせてくれない。ようやく折り合いをつけられたと思っていたのに。


これと共に生きることなんてできない。


なんで、これは消えてくれないんだ?


いや、そんなことを考えること自体が、身勝手だ。俺にはそう考える権利すらない。俺のせいだった。俺があいつらを殺した。


10分が経つ。


10分間の、沈黙の中で軋み続ける狂気。


ようやく、内なる嵐が和らぐ、辛うじて息ができる程度にまで。胸が上下する、安定していく。


もし、あの世界たちを消し去れないなら、俺はそれを上回るしかない。何かより良いもので、無効化するしかない。未来から腐敗を一掃するしかない。それが、俺にできるすべてだ。


「悪い。頼む……続けてくれ」


「はい。あなたのデス・デトゥアは、本質的にはあなたの意識を、チェックポイントを橋として使い、世界線を通して転送させます。物事をやり直すことを可能にするのです。実に興味深いことです。まるで宇宙そのものがあなたを消し去ろうとしているのに……何かがそれを手放すことを拒み、あなたをさらに深く引きずり込んでいるかのように」


顔をこすり、髪を後ろへとかき上げる、まるでそれが頭蓋骨の中の混沌を押し戻してくれるかのように。


「それは……とんでもない事実だな」


だが、鋭い考えが差し込む。もし彼女がこれをすべて知っていたなら、もしずっと見守っていたなら――


なぜもっと早く手を差し伸べなかったんだ? 彼女は俺が苦しむのを見ていた。俺が苦しむのを見ていた。彼女は知っていた。


そして、彼女はただ見ていた。彼女はそれを楽しんでいたのか? 手を差し伸べるだけの理由がなかったのか? それは難しすぎたのか?


「二つ目の質問をどうぞ」


嵐を押し殺し、首を振って糾弾の群れを振り払い、また我を失う前に急いで質問を絞り出す。


「なぜ俺はここにいるんだ? 何が俺をこの世界に送ったんだ?」


「それについてはコメントできません。あなたがなぜ召喚されたのか、私には見当もつきません。あなたが唯一の事例かどうかすら、確信が持てません」


「ちっ……」


「ですが、これだけは言っておきましょう――あなたは、あの世界への私の唯一の代理人です。私はその境界の外に存在しています。外からでさえ、覗き見ることはできません。ですが、外からやってきたあなたは、私にあなたの目を通して見ることを可能にしてくれる」


彼女は今、より形式的な口調で話している、まるで一瞬でスイッチを切り替えて人格を変えるかのように。


彼女の答えが、さらに俺を深く抉る。


この女性は、一体何者なんだ?


そして、それが俺の最後の質問だ。俺の最後のチャンス。取引を決定づけるもの。何でも屋。カードを正しく切らなければならない。もし運が良ければ、彼女が何者なのか、その力の限界、そして、もしかしたら彼女が……


くそ、彼女が俺の思考を聞けることを忘れてた。


視線を細め、彼女の姿を見つめる。白と黒の衣装が日光の下でかすかに揺らめいている。彼女の姿勢は堂々としていて、揺るがない。身を乗り出す、その質問の重みが物理的な負担となる。


「最後の質問。お前は何者なんだ?」


もし彼女のことを知れば、彼女が何を望んでいるかがわかる。彼女が何であるかが……


「あら、実を言うと、もし私があなたに教えたら、あなたは自分の耳を引き裂き、目をえぐり出すことになりますよ」


二度瞬きする、その言葉が鈍器のように打ちつけてくる。あまりにも無頓着な言い方の絶対的な滑稽さに、思わず笑いそうになる。まるで天気予報のように、あまりにもカジュアルに。


「――――今、何て言った?」


「ああ、教えたら、あなたは正気を失うだろうって言ったんです」


「……」


「私は人間の理解を超えた何かです。生物――いや、意識、時間そのものよりも古い。私はあらゆる次元を超えて存在し、見えるものすべてを見てきました」


無理だ。


無理――


彼女は一体、何を言ってるんだ?


いや。彼女を信じたくない、その無頓着な口調をただの傲慢さとして片付けたい、だが、何かもっと深いものが俺を貫く。何か鋭いもの。何か原始的なもの。それが魂を蝕み、彼女を信じろと告げてくる。信じなければならないと告げてくる。


彼女の視線が空虚になる。冷たく。空気が濃くなり、息を詰まらせる。世界が凍りつく。雲は動きの途中で止まり、草は揺れの途中で固まる。俺の心臓すら、鼓動の途中で止まっている。


俺は、何か恐ろしいものの前に立っている。汗が額を伝い、地面へと落ちていく、必死に逃げようとするかのように。


「ふむ、実は、私が何であるか、少しヒントをあげられますよ」


彼女は劇的な仕草で俺を指差し、ウィンクする。それは間違っている。あまりにも間違っている。彼女のようなものは、遊ぶべきじゃない。だが、彼女はそうする、なぜなら、そうできるから。なぜなら、何も彼女を縛っていないから。なぜなら、俺のような者を悩ませることは、ただの暇つぶしにすぎないから。


彼女は前触れもなく、あちこちの人格を切り替える。


「あなた、知ってますか、あの……何て名前だったかしら……何とか……『H』……」


彼女は顎をとんとんと叩き、まるで空が答えを囁いてくれるかのように上を見上げる。いや、おそらく彼女は答えを知っている。演技しているのか? それとも、思い出す価値すらないと本当に思っているのか? その演出された好奇心が、胃をねじる。


最初、この会話には気軽な雰囲気で臨んでいたが、今、この瞬間の冷たさが俺を恐怖させる。


彼女の顔が、突然の感情とともに変わる、表情が輝き、それが彼女の虚ろさよりもさらに俺を怖がらせる。


「まあ、それは置いておきましょう。とにかく、先ほど、あなたのことを知っていたのに、なぜもっと早く介入しなかったのかと不思議に思っていましたよね」


彼女の声が歪む。わずかだが、十分に。まるで、あらゆる音節にまとわりつく静電気のように。彼女の言葉を引きずる幽霊のように。世界が完全に静止しているときにしか気づけない類の、間違い。


「そうですね、これがあなたを傷つけるなら謝りますが、私は何の哀れみも感じませんでした。あなたの苦しみを楽しんでいたわけではありません。ですが、私にとって、あなたは――重ねて許してください――ただの原子にすぎません。人間はアリを哀れみます。人間はゴキブリを哀れみます。でも、私は人間ではありません。私はそういうものを感じません。私は、おおむね、感情を持ちません」


彼女の輝く目が、わずかに閉じながら、俺の頭蓋骨に穴を穿つ。


「もしかしたら、あなたはこう思っているかもしれません。『まあ、彼女も俺と同じレベルの存在だろう、遊んで、あらゆる感情を見せているんだから』と。それは違います。私がやっていることはすべて、人間の感情の安っぽい模倣にすぎません。これは単に、あなたの状況に合わせた演出です」


俺は女性の前に立ったまま、視線がゆっくりと下へと落ちていく、まるでこの存在に対して、自分の意志に反してお辞儀をしているかのように。目は瞬きを拒む。ただ、頭蓋骨に強制的に押し込まれたばかりの情報の洪水に、17歳の少年の脆弱な心に固定されているだけだ、それまでの最大の悩みが学校に何時に起きなきゃいけないかだった少年の。


「……お前は神なのか?」


この質問は、正当なものじゃないだろうか? これほどの圧倒的な激しさに直面し、あらゆる既存の論理の観念に反する説明不可能な現象に直面したとき、これこそが尋ねるべき正しい質問なんじゃないだろうか?


彼女は、すでに十分に俺に見せてくれた。


もはや、俺には、意志のない動物のように頷くこと以外、できることは何もない。


「人間は『神』と呼ぶ、自分の理解が尽きるところから始まるものを……」


彼女の声は経典のように響くが、彼女はただ、かすかに笑みを浮かべているだけだ。


「あなたにとって私がどれほど威圧的に見えようと、私は神ではありません。それに近くすらありません。私のような者や、私よりもはるかに下の者が存在します、皆それぞれの限界に縛られ、あの高みへと昇ることができないのです。不幸にも、彼らは『神々』と呼ばれています。あなたが知っている者もいるでしょう。アフロディーテ、トール、天照……あるいは、あなたの故郷では別の名前で呼ばれているんでしょうか?」


口が乾く。「……待て。それがここに存在するのか? トールが、本当にこの世界に存在するのか?」


俺の故郷では、それらはただの物語だ、古い未亡人たちが幼子に語り継ぐために作られた物語や文化によって作り出された。それぞれの文化の力を体現する、架空の象徴だった。捏造されたものだったにもかかわらず、それら自体が人々の勝利を導いた。


もし、あの存在たちがこの世界を歩いているとしたら……


彼女がほとんど退屈そうに割り込む。「興奮しないでください。あなたが知っている者たちは偽りの姿です。すべて理想化され、希釈されたバージョンの、本物の天体存在です。ええ、その呼び方の方が適切ですね。『天体存在』。それぞれが、絶対的な権威をもって、その狭い領域を統治しています」


しぶしぶ頷く。すでにこの世界の残酷な冗談を学んでいる――ゴブリン、コボルド、あらゆる生き物が、俺が想像していたよりもはるかに醜く、はるかに残酷なものへと歪められている。その神々が違うと考える理由が、どこにあるだろうか?


彼女は息を吐き、まるでその考えを払いのけるかのように手を回す。左手に顎を乗せる。


「本当に、もし私の立場から物事を見ることができたら、彼らはまるで、自分にはふさわしくないおもちゃで遊んでいる子供のように見えるでしょう」


それが俺を驚かせる。彼女は実際……苛立っているように聞こえる。だが、聞き返す前に、彼女がその考えを断ち切る。


「ええ、私は感情を持ちません。でもだからこそ、あなたにあの呪われた場所で私のアバターになってほしいんです」


「……?」


俺から漏れる沈黙は、不自然だ。俺はじっと座って何もかも飲み込むタイプじゃない。何か聞くべきだ、冗談を言うべきだ、何でもいい。だが、言葉が出てこない。


「悲しいことに、私の……敵たちが、私をここに封じ込めていて、今、彼らはあちらで力を自分たちのものにしています」彼女はため息をつく、それはどういうわけか俺の骨の中で反響する音だ。


俺にのしかかっていた重みが、ゆっくりと持ち上がっていく、だが、自由に呼吸できるほどではない。


「あの世界での私の役割は……いや、だった、というべきかしら。彼らを見守ること、彼らが争いにならないよう抑えること。母親のようなもの、と言えばいいでしょうか」


つまり、権威的な存在ということか。


「よし、質問コーナーはこれで終わり! じゃあ次は、あなたの職務についてです!」


陽気な口調に切り替わる。


「私のアバターとしてのあなたの職務は、見つけ次第、彼らのカルトを破壊すること――少なくとも試みることです。どれだけ時間がかかっても構いません。あなたは大勢の人間というわけじゃないんですから」


「はぁ?」ようやく声が漏れる、視線が跳ね上がる。


「宗教をひとつ丸ごと破壊しろって言うのか? しかも複数!?」


「大丈夫ですよ! あれらは本物の宗教じゃありません、ただの小さなカルトです。それに、彼らの行いは、人間の道徳から見ても忌まわしいものです。それで、あなたが彼らを叩き潰す理由としては、十分でしょう?」


彼女は俺を止められない怪物だと思っているか、あるいは存在史上最大の間違いを犯したかのどちらかだ。


「いいえ、間違った選択はしていません。あなたは完璧なタイミングで来たんです。私はもう少しで、もう一人の下僕に世界全体を殲滅するよう命じるところだったんですから」


「……はぁ? もう一人の下僕? 俺だけかと思ってた」


彼女はそれを手で払う、おもちゃを思い出す子供のように微笑みながら。「関係ないですよ」


「ああそうだ、忘れるところだった!」


「話を逸らすな! そんなふうに突然話題を放り込むなよ!」


「かっこいい力、欲しいでしょ?」


俺の沈黙が、俺を裏切る。激しく頷く。自分がどれだけ早く切り替えたかに、正直かなり恥ずかしくなる。


彼女が指を鳴らす。


何も起きない。


「はい。次にピンチのときに、サプライズがありますよ」


「……あんまり安心できないな。せめて、もう少し教えてくれ……」


「では、まとめましょう」


うめく。


彼女が指を一本立てる。「あなたの能力、デス・デトゥアは、あなたの意識を、死んだ後、世界線――あるいは時間軸――を通して移動させます。ただし、あなたが死んだ地点よりも、時間的に後方にある世界線にのみです」


二本目の指。


「……」


「……あなたがなぜここに召喚されたのか、私にはまったく見当がつきません!」


「なんて詐欺じみた神様だよ!!」


三本目の指。「私が何者かについては、私は███████ ███です。アザと呼んでください」


「何だって?!」


彼女は両手を合わせる、優しい終止符とともに。


「さて、これで話は片付きました……」


彼女が玉座から降りてくる、足が滑るように降りていく、まるで空気そのものが彼女を運んでいるかのように。ドレスの白い布が彼女の足取りを隠し、まるで地上を漂っているように見せている。


近づいてくる。


一歩一歩が、俺たちの間の空間を侵食していく、そしてその空間の中で、俺の心は掻き乱される。


デス・デトゥアの真実以外、実質的な収穫は何もなかった。強力ではある、そうだ、だが、それは俺が控えめにしか振るえない刃だ。それを松葉杖のように扱えば、自殺行為になる。もし彼女が真実を語っているなら、この能力は、救いを装った呪いだ。


なぜ俺が召喚されたのかについては……彼女は知らない。だが、もし俺のような他の者たちがいるなら、彼らを通して答えを見つけられるかもしれない。


でも、くそったれえええええ。俺はただ、静かに暮らしたかった。ダンジョンをクリアして、自分のペースで強くなって。それが今じゃ、この、白をまとった、外なる恐怖に縛られてしまった、美しさを仮面にした生物に。


もっとも、すべてを知っていると主張する割には、彼女は多くのことについて、恐ろしく確信を持てていないようだが。あるいは、それもまた別のゲームなのか――


いや。やめろ。今、その考えを終わらせるな。


思考が、温かさに遮られる。青白く柔らかい手が、俺の口に押し当てられる。


「……ん?!」


彼女の顔が下りてくる、目が俺の目に燃え込み、まつ毛が絹の糸のようにカールしている。彼女の唇が自分の手の甲に押し当てられ、息が止まる。彼女の青白い肌が、俺の肌と比べて眩く輝いている。


彼女の腕が首に沿って滑り、俺を安定させ、その場に留める。


一瞬、俺の「世界」の中にあるのは、彼女の顔だけだ。


彼女は自分の手にキスをする、それだけが、彼女の唇と俺の唇を隔てているものだ。


もし彼女が美しくないと言えば、嘘になる。それは客観的な真実に反することになる。よく、美しさには測る基準がないと言われるが、ここに限っては、そうじゃないだろう。


俺の「世界」が突然消える。彼女が体を引く、それでも手は俺の口の上に留まったままだ。


「これで。契約は成立しました」


「送り返す前に、何か言い残したいことはありますか?」


彼女の指が離れる、ちょうど話せる程度に。


「まあ……特に他には、本当に。でも、外の誰かが自分と同じことを経験してるって知れて、良かったよ。あるいは、少なくとも知っててくれるってことが」


彼女は頭を傾ける、声は平坦だ。「何を言ってるんですか? 私はあなたが跳躍することを『経験』できません。毎回、違う『あなた』ですから。デス・デトゥアについて知っているのだって、あなたの心を探ったからです。あなたの心を読むまで、あなたの以前の死は私にとって未知のものでした」


「……いや、いい、気にしないでくれ」


答えない。その考えには触れすらしない。それを漂わせておこう、繋ぎ止められないまま、何もないところへと。


「準備できたよ、アザ」


「行きなさい、私のアバターよ。壊れたものを直しなさい」


彼女の手が俺の額を弾き、世界が傾いて消えていく。体が後ろに倒れ、空が視界に流れ込んでくる。


そして、地面が俺を飲み込む直前――


暗闇。

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