第三章9 十三年の時を経て……
ラトゥール視点になります。
アルザス渓谷での人族と魔族の戦いから3年……
まだディケム様は私に『来い』と言ってくれない。
この頃不安になる事が有る、もうディケム様には『私は必要無いのではないか?』と………。
ディケム様の声が聴きたい…… 今はそれすらも叶わない。
ただ一つ…… 毎晩送られてくる通信メールのみ。
この通信メールの先に、ディケム様がいらしゃるのに……
通話回線をつなぐことが出来ない。
⦅もし…… このメールすら届かなくなったら、私はどうすればいい?⦆
「ラトゥール様! 今緊急の情報が入りました!」
「なんだ!」
「エルフ族が、人族に宣戦布告!」
「な、なんだと――!」
「さらにその直後―――! エルフ軍がシャンポール王都にメガメテオ発動との知らせ!」
「ッ―――なっ! シャンポール王都はディケム様がいらっしゃる町だぞ―――!」
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ―――!! おのれエルフ、殺してやる! 殺してやるぞ!!」
⦅嫌だ! また私の手の届かない所で、あの人が居なくなってしまう!⦆
私はすぐにカステル王の所に走る――!
「カステル王! すぐにエルフ族を殲滅させてくれ―――!!」
「………………。 人族のディケムの事だな、よりにもよって王都にメガメテオとは………、エルフめなにを考えているのやら」
「ッ――! カステル王!! なにをそんなに悠長に!」
「ま~ラトゥール、少し落ち着け!」
「私が落ちつける訳が無いのは、王もご存じの――」
カステル王に遮られる。
「ラトゥール! ディケムは生きている! これで落ち着いたか?」
『えっ………! ディケム様はご無事!?』 私は力が抜け膝から崩れ落ちた。
「ラトゥールよ、お前は本当に妬けるほど、奴の事を愛しているのだな」
「そのような事は、聞くまでも無いでしょう」
「フン。 ラトゥール、あ奴凄いぞ! この報告書読んでみろ! 想像以上だ! ラフィットはどこに行っても楽しませてくれる!」
報告書には―――
メガメテオはディケム様の張った結界に阻まれ崩壊。
エルフ軍は即時反撃に出たディケム様により半壊。
そして…… エルフ族の最大兵器メガメテオの大魔法師団―――
ディケム様によって消滅!!
「ッ――な! あ、あのメガメテオを阻んだと……。 しかも、どの種族も恐れて手が出せなかったメガメテオの大魔法師団を殲滅………」
「ハハ、さすがに俺も驚いたぞ! 流石は俺をふったお前が惚れた男よな。 面白い、面白くなってきたぞ!」
その時『ボー・カステル陛下、失礼いたします』と緊急通信の伝令が来る。
「ラトゥール様への緊急通信です。 ただいま同盟国のディケム・ソーテルヌ様からの緊急通信が入りました。 どういたしますか?」
「すぐに行く! カステル王、少し外させてください」
「あぁ、のちほど報告忘れるな」
私はすぐに、カステル王に退室を願い通信室に急ぐ!
⦅ディケム様の声が聞ける、早くお会いしたい!⦆
「ディケム様――! お待たせしました!」
「ラトゥール将軍、お呼び建てして申し訳ありません」
「エルフどもの宣戦布告伺いました! ご無事なご様子…… 安堵いたしました。 お怪我はございませんか?」
ディケム様の声を聴いて、安堵の為涙がこみ上げる……
「はい、ご心配ありがとうございます。 大丈夫です。 ………ん? ラトゥールさん? 大丈夫ですか?」
「す、すみません。 ディケム様の御無事な声を聴いて……… 張り詰めていた糸が切れたようです……… グス」
「………………。 ご心配かけたようですね、すみませんでした」
「いえ。 それで緊急の連絡とは?」
「はい。 エルフ軍の事ですが…… 体勢を立て直し三日後にまた、この街に攻めてくるようです。 私はこのタイミングにエルフ軍に打撃を与え、二週間ほど王都を離れたいのです。 勝手なお願いなのですが…… 三日後に援軍を頂けないでしょうか? そして私が離れている二週間ほど王都を守って頂けないでしょうか? 信頼できるのがラトゥール将軍だけなものですから―――」
「かしこまりました、必ず援軍にまいります!」
「あ…… いや、あのラトゥール将軍、カステル王に聞いてからでは無いと………」
「必要ありません! ディケム様の為ならば、すぐに駆けつけます!」
「あ、ありがとうございます………」
ディケム様との通信を切るのは名残惜しいが……、今ディケム様は火急な時、お手間を取らせてしまい、面倒くさい女だと思われたくはない。
ディケム様の援軍に駆け付ける為、わたしはすぐにカステル王に上申した。
「行かせていただきます!」
「ラトゥールよ、まずは行かせてくださいだろう?」
「ダメなのですか?」
「いやダメではないが………」
「………。 面倒くさい男だな………」
「………………! お、俺が悪いのか?! ………………。」
「まぁ良い、ラトゥール。 この度のディケムの功績は非常に大きい、メガメテオを潰してくれたのだからな。 これを持っていけ!」
「これは! 妖炎獄甲冑が格納されている指輪! 妖炎獄甲冑は魔神族の国宝:鬼丸国綱に並ぶ逸品!」
「ディケムにくれてやる! まぁ 使いこなせればの話だけどな」
「ディケム様が使いこなせないはずが無いでしょう」
「まぁそうだろうな~ ラフィットのやつはどんな装備でも使いこなしやがったからな………」
「それにしても、あ奴…… 動きが早すぎるだろう、今日エルフ軍を撃退したところだろうに、もう次の手を打つのか! 面白い」
「はい。 さすがディケム様です。 それではカステル王、時間がありませんので行ってまいります!」
「あぁ、ディケムによろしくな」
「はい!」
私は三日三晩走り続け、馬を潰し戦場に向かう。
流石は魔神族の騎士達、三〇〇〇の兵を連れてきたが、脱落者は居ない。
とんだ無茶ぶりだが、愛する者に言われた無茶ぶりは信頼が上での言葉。
必ずたどり着いて見せる!
そして三日後、シャンポール王都が見えてきたとき―――
シャンポール王都東門前、エルフ軍五〇〇〇の前に一人の男が立ちはだかっているのが見える。
⦅あんな無謀な事をするのは、ディケム様しかいない―――!⦆
ディケム様が百体ものイフリートを顕現させ、エルフ軍に爆炎を撒き散らす。
その攻撃でエルフ軍は炎と煙に包まれ、爆音で我々援軍に気づかない。
⦅さすがはディケム様、絶妙のタイミングです―――!⦆
私は三日三晩走り続けた兵をそのまま、エルフ軍の側面に突撃させる。
「われは魔神族の将軍ラトゥールだ! 我らが盟友ディケム様の呼びかけに、同盟の責務を果たしに来た―――!」
魔神族には気後れする者など居ない、兵士たちは一瞬の迷いもなく、エルフ軍の側面に突撃をする!
むしろ休む前に戦わせろと言わんばかりの気魄だ!
爆炎に包まれているエルフ軍を、側面から切り裂き分断する。
副官に指揮を頼み、私はディケム様の傍に行く。
「ラフィット様! いえディケム様お待たせいたしました!」
ディケム様は優しい笑顔で迎えてくれる。
あぁ……… 三日間の強行軍が全て報われる。
もっとゆっくり話したいが、今は戦場。 ディケム様を負けさせる訳には行かない。
ディケム様に、カステル王から渡された、【妖炎獄甲冑の指輪】を渡す。
カステル王は『使いこなせたらな――』と言っていたが………
ディケム様は指輪を受け取り、発動する―――
妖炎獄甲冑がディケム様を主と認めたことがすぐにわかる。
『流石です! ディケム様』
そして、妖炎獄甲冑を纏ったディケム様が、片手を空に上げる――!
突然上空にフェニックスが出現し、ディケム様に向かい、そして妖炎獄甲冑に宿った!
妖炎獄甲冑は燃え盛る炎を纏う!
な、なんだこれは…… まるで妖炎獄甲冑の本来の姿であるような姿!
するとディケム様が――
『妖炎獄甲冑とフェニックス、抜群の相性だと思わないか?』と、このとんでもない事を、事も無げに話される……。
⦅あぁ……… 懐かしいやり取りだ。 貴方はいつも私をドキドキさせてくれた⦆
そしてディケム様は――、
『それでは行ってくる!』と私に言う。
『お気をつけて!』それが、私がいつも貴方に返す言葉だった……
むかし何度となく、このやり取りを繰り返した。
そして、ラフィット様は必ず私の元に戻ってきてくれた。
それが、十三年前のあの日………
いつもと同じやり取り、あの時――!
もう貴方に会うことが出来なくなるなど思いもしなかった。
でもラフィット様は帰ってこなかった………。
それが今、十三年の時を経て……。
今一度、あの言葉を聞くことが出来るなんて!
私は零れそうな涙をこらえる、ディケム様を見送る。
ディケム様が旅立つまでは泣くことは許されぬ!
炎を纏ったディケム様が戦場を駆け抜ける―――!
その後ろ姿を、見えなくなっても探し続ける………
あぁ…… ディケム様、もう私を一人にしないでください。
もう私を置いていかないで―――!
もう私はあの悲しみに耐えられそうに有りません………




