第二章35 精霊たちの楽園
ロワール平原から戻り、時間は既に夕暮れ時。
明日改めて皆にはソーテルヌ邸に集まってもらう事にして、今日は早々に解散とした。
俺も、今日中にルナの居場所を作らなければいけないからだ。
俺はソーテルヌ邸の地下宝物庫に行き、そこからさらに地下にクリスタル洞窟を作るように精霊ルナに指示した。
ルナの手際は鮮やかだ、一瞬にしてロワール平原地下の洞窟と同じ規模の洞窟が出来上がる。
違いは入り口がきちんとある事だ。
そしておれはウンディーネの精霊結晶を作り、それを洞窟に設置、精霊結晶を起点に洞窟と神木の根をマナで繋ぐ。
これでルナとドライアド、神木が繋がり相乗効果で力が増す。
俺はこの頃、精霊結晶を何度も作る事で、ある事に気が付いてきた。
どの精霊でも精霊結晶は作れる。
だが、何かと繋ぎ合わせる事に使うには、ウンディーネの精霊結晶が一地番最適だ。
それが水の精霊だからなのか? もしくはウンディーネがまだ明かさない、固有スキルに依るところなのかは分からない。
それから俺は洞窟に宝物庫を作り、素材などもそこに置いて、不純なマナを浄化してもらい、月の神聖力を浴びさせる。
ここに置いておけば、ゆっくりゆっくりと、武器や素材が強化されていく!
なんか考えるだけでドキドキしてくる。
宝物庫は大きめに作ったから、素材だけではなく、いろんな武器や防具も集めて置くことにしよう。
手始めはこれくらいだろう、今日はここまで。
今後ルナとドライアドには王都防衛に、かなり頑張ってもらう予定だ。
作業を全て終え、すでに夜になった夜空を見上げていると……
執事のゲベルツが待っていた。
「ディケム様、お疲れ様でございます。 テラスにお茶の用意が出来てございます。 どうぞお寛ぎください」
⦅おぉ! なんて気が利く執事だ! ゲベルツ優秀!⦆
神木の下のテラスに行くと、ルナとドライアドが楽しそうにお茶を飲んで笑っている姿が見える。
おれは邪魔しないように、違うテーブルに着くとゲベルツが紅茶を入れてくれる。
一仕事終え、これからリラックスの時は、コーヒーではなく紅茶だろう。
ゲベルツは俺の好みを分かっている。
ゲベルツの執事特化の能力で入れた紅茶は格別だ。
俺が『ほッ』っと力を抜き、寛いでいると……
ヒョコっとララが顔を出す。
「ん? どうしたララ?」
「ん……。 屋敷に戻ってからディケムの姿が消えたから、どこ行ったのかな~と思って…… そしたらゲベルツさんがテラスに連れてきてくれたの」
⦅……ホント、ゲベルツ優秀だな⦆
「ルナの洞窟作って居場所を作ってたんだ。 あと宝物庫と、ルナの洞窟と神木を繋げたり…… 今日はさすがに疲れたよ~」
「お疲れさま」
『ララ、少しお茶に付き合ってくれよ……』と俺が言うと…
『うん』とララは素直に椅子に座って付き合ってくれる。
ゲベルツがララの紅茶も用意して、気を利かせて去っていく。
「執事のゲベルツさん、さっきまでルナ様を見て目をキラキラさせて大燥ぎだったよ、ディケムの前ではあんなに凛としてるのね…… フフ」
「ゲベルツは妖精と会うのが昔からの夢だったと言っていたからね」
「うん、ドライアド様の時も燥いでたから! 『ここに就職してよかった~』って フフ」
その夜はそのまま、ゲベルツが気を利かせてくれて、ララとテラスで一緒に夕食を楽しんだ。
神木の周りには、まるで大きな蛍のように下級精霊たちが仄かに光り漂っている。
そして神木にも変化があった、夜闇に神木もうっすらと光っているのだ……
ルナの洞窟と繋いだ効果なのだろう、とても神秘的だ。
このマナの大河と繋がる神木は、精霊たちの楽園だ。
ルナの洞窟を繋ぐことで、さらに快適になったようだ。
その精霊たちの楽園を、俺達が覗かせてもらっている。
ここは夢のようなとても幻想的な場所だ、これ程の景色を見ながら食事をできる場所は、王都ではここだけだろう。 俺の一番のお気に入りの場所だ。
皆にも見せてやりたいが…… あまり大勢を呼ぶと精霊に迷惑なので、限られた人しかここには呼ばない。
⦅さすがにいつか、陛下ぐらいは招待しないとダメだろうな……⦆
「ディケムありがと~、私し一度ここで夕食、食べたかったんだよね~ 夜はとくに精霊様が寛いでいらっしゃるから、ディケムあまりここには人呼びたがらないじゃない」
「あぁ、ここは精霊たちの楽園だ。 あまり大勢で覗かれるのは嫌だろ?」
「うん」
「でも、あまり遠ざけていても関りが薄くなる。 ちょうど良い距離感を保って交流するのが良いんだ。 ララ、ディック、ギーズは定期的にここで食事をとろう」
「うん、楽しみにしています」
『わぁ~すごい! 神木も光ってるのね……』食事をしながら、ララがつぶやく。
「あぁ、ルナの洞窟と繋いだ効果みたいだ、神木もドライアドも活性化している。 これで王都防衛策の下準備は整ったから、これからまた忙しくなるぞ」
「ディケム、ずっと大忙しだから…… あまり無理しないでね」
「これが終わったら、すこしゆっくりするよ」
「そう言えばララ、この神木はイグドラシルまで昇格したら、その葉は蘇生すらできる素材になるらしい」
「ッ―――なっ!」
「白魔法師のララには凄い情報だろ? 今はまだ幼体だから蘇生は無理だけど、今でもかなりの回復素材になるみたいだ」
「ホント! 凄い!」
「だけれど、神木から葉っぱ千切っちゃダメ!」
「うっぐっ! ………は、はい」
「神木は夜のうちに、溜め込んだマナが飽和になった葉を、稀に落とす事が有る。 【イグドラシルの恵み】と言われているのだけれど。 それを毎朝確認して集めているんだ。 いつもは薬師のフィノに渡しているんだけど、白魔法師の観点からも研究してほしいんだ」
『これ、マディラ達と研究に使ってくれ』と数枚の葉の束を渡した。
「ありがとう! ディケム。 ちょうど学校のグループ研究の題材をマディラ達と探してたの! これ見たらきっと驚くわ!」
「今回ルナが来て、見ての通り神木も活性化している。 これから拾える葉っぱは、さらに効力が上がると思う。 また拾えたら少しあげるよ、比較してみれば良い研究教材になると思う。 楽しみだな」
「うん」
後日談だが、あの晩、突如神木が光り出したので貴族街が大騒ぎになったらしい。
陛下より直接呼び出しを受けた俺は、精霊ルナを従属させた事、神木を活性化させた事を陛下に説明した。
王都の防衛も強化されると説明したら、逆にとても感謝された。




