第二章36 王都防衛会議
ロワール平原から月の精霊ルナを連れてきた翌日、普通に学校に通学なのだが……
おれは赤い大きな卵を抱えて馬車に乗っている。
神獣の卵って、しばらくは俺のマナを絶えず流して、俺のマナの色に染まるまでは一緒に居ないと駄目らしい。
かと言って、一気にマナを流して染めてしまうと、刺激が強くて死んでしまう可能性がある。
とても大変だが、そうする事で孵ったときに、親と認めてくれるらしい。
俺はしばらく常に卵を抱えて移動する羽目になった。
通学の馬車の中はいい…… だけれど学校は結構きつい。
案の定、学校の校舎入り口、武器を預ける窓口で待ったがかかった。
「そ、それは武器では無いですね…… でも、まずは担任の先生の所に確認に行きましょう」
武器ではないから、持ち込み許可が欲しいと言ってみたが…… 担任の先生案件だと一時保留になった。
職員室に連れていかれ……
「あらおはようディケム君。 その卵だけれど、神獣の卵はとても貴重で興味深く、観察出来る機会なんてもうないかもしれないから『ぜひ、頑張ってほしい!』と校長から許可をもらっています。 全力で羽化頑張ってね!」
許可はすんなり下りた。 とてもレアなので学校も全面協力してくれるらしい。
でも…… 赤い大きな卵を抱えて歩く俺は、廊下を歩いても、教室に入っても注目の的。
この卵いつ羽化してくれるのだろうか……
そして週末、関係者を集めて、前から予定していた王都防衛会議を開催した。
「それではみなさま、王都防衛会議を始めます。 初めに断っておきますが、この卵を持って居るのは、決してふざけているのではありません。 羽化させるためには、マナが染まるまで離してはいけないという事なので、ご了承ください」
一応、断りを入れてから始める。
「え~、会議ですから皆さんの意見も聞きたいのですが…… これから行う予定の事を最初に全部話します。 それを聞いたうえで皆様の意見を聞かせてください」
『はい』と皆真剣に聞いてくれている。
『それでは進行役のラローズさん、お願いします』おれの指示でラローズ先生が説明を始める。
「まず1つ目。 今日集まってくれた、精霊使い6名は、これから出来る限りソーテルヌ邸で訓練して頂きます。 ソーテルヌ邸の訓練場は、マナ濃度を上げて最も精霊使いの訓練に適した場所にしています。 ですからここで訓練を重ねて、必ず全員精霊と契約を果たしてください、まず契約するのがスタートラインです。 そして契約できた人は、ひたすら精霊の強化です」
白魔法師として学んできたポートが、いきなり精霊使いとなり、この軍事会議の当事者になっている。
少し戸惑っているが…… 自分で選んだ道だ、大丈夫だろう。
俺が少し補足を入れる。
「皆さんがよくご存じの通り、ラローズさんは水のウォーターエレメントと契約しています。 そして先日、新たな精霊との契約者が誕生しました。 ルビー男爵の御令嬢ポートさんです。 ポートさんはドライアドの眷属、木霊と契約を果たしました」
『おぉ~!』とか『2人目の精霊使いが!』とかの声が聞こえる。
⦅俺が人数に入っていない…… ナゼダ⦆
「私が現在契約している精霊は、水のウンディーネ、火のイフリート、木のドライアド、月のルナ、この4柱です」
ドライアドとルナの事を知らない兵士も居たようだ。 4精霊とすでに契約していると聞いて驚いている。
「私が契約している4柱の、精霊の眷属なら皆さんも契約しやすいと思います。 私の今後の目標は、契約精霊を増やす事、私の契約精霊が増えれば、みなさんも相性のいい契約しやすい精霊が増える事でしょう」
頃合いを見てラローズさんが続ける。
「2つ目。 今日来てもらった王国騎士団第一部隊の精鋭の皆さん。 皆さんも、今日から出来るだけラス・カーズ将軍とこのソーテルヌ邸で訓練して頂きます」
さすがに戸惑う騎士達が数人いる。
「すでに何人かはご存じの方も居るかと思いますが。 ここの訓練場はマナの濃度が濃くなっています。 皆さまご存じのサンソー村の訓練場以上です!」
『おぉ!』と驚きの声が聞こえる。
「さらには特別訓練場もあります。 ここは常時は使えませんが定期的に使わせて頂きたいと思っています」
『特別訓練場ってなんでしょう?』と疑問の声が上がる。
『特別訓練場は、固有結界内に作っています!』とこの疑問に俺が答える。
『こ、固有結界内って……』さらに疑問の声が上がる。
「ここでの訓練は、他の場所での訓練の3倍の経験が得られると思ってください。 体験してみてもらえばわかります。 そして固有結界内で得られた経験は、現実に上書きされますので、結界から出てもそのまま皆様の力として残ります」
『おぉぉぉ!』騎士の皆、感嘆の声を上げる。
ラローズさんが続ける。
「そして今回のスペシャルゲストが、彼、フィノです。 彼はソーテルヌ卿の薬師部門を任されています。 彼はここの薬草園で大量のポーションを作ってくれています。 皆さんは、もちろん基本は、白魔術師の回復魔法で回復してください、白魔法師の訓練になりますから。 しかしこの人数の回復は魔法師だけでは不可能です。 その時気兼ねなくポーションを使うようにとソーテルヌ卿より指示を頂いています。 それは 彼フィノの訓練にもなるそうです」
『ポーションが使い放題って大丈夫なの?』と疑問の声が上がる。
普通、回復ポーションは高価なものだ。 だから皆、ここぞという時の為に基本は使わない。
それをたかだか訓練で気兼ねなく使えという……
今までの常識では疑問に思うのは当然だ。
『大丈夫です。 ラローズさんにも見てもらいましたが、ポーションの大量生産できる仕組みは既に出来上がっています』と俺が補足してみたが……
「………………」
みな言葉もなく、黙ってしまっている。
まぁ、今までの常識からはそう簡単には信じてもらえないだろう。
現実に使ってもらえれば分かる事だ。
そして俺の目配せでラローズさんが、話を続ける。
「そして3つ目。 本題の王都の防御についてです」
皆が姿勢を正す。
「これについては、第一部隊の皆に作ってもらった地図をもとに大規模な工事も行います」
『大規模な工事?』みなが戸惑いを見せる。
「工事の目的は、この王都全体に大規模な結界を張る為です!」
『王都全体を覆うほどの結界を?!』 みな息をのむ。
「そう、この大規模な結界を成功させるために、マナの通り道となる、水路と井戸の整備をします」
結界について俺が補足する。
「今回の結界は、私の精霊4柱分の力を使います。1柱5層の結界で、全部で20層まで構築します。 王都全体の大規模結界を常駐型にするのには、王都全体のマナを調整して利用しなければなりません。 井戸や水路整備、植樹などを行いますが、それはこのためだと理解ください。 成功すれば堅牢な王都になるでしょう!」
『おぉぉぉぉ――!!』騎士たちは盛り上がる。
「結界構築の当日は、民衆が大騒ぎになると思いますので、民の皆さまの誘導をお願いします。 それと補足ですが、この王都に張る結界は、ここのソーテルヌ邸の結界と同じではありません。 悪意がある物を全て遠ざけていては、王都が機能しなくなります。 ですから攻撃に対してのみ発動する結界を張ります。 平常時は普通に敵国の兵は王都に入って来る事が可能です。 ですので今まで通り警備は万全にお願いします」
『はっ!』騎士たちは了解の意を示す。
「次に防衛用のゴーレム兵の設置です。 ソーテルヌ卿に防御目的でクリスタルドラゴンを王城付近に2体。 地図に記した町の各場所にクリスタルゴーレムを配置してもらいます」
これも俺が補足。
「ゴーレムは非常時にしか動きませんので心配しないでください。 町にクリスタルで出来たアート像を設置したと思ってください。 水晶だからとても神秘的で、景観のジャマにはならないと思います。 造形はごつくならない様に精霊ルナと相談します」
「次は町中に植樹を行います。 地図に記した町の各所に植樹を行います」
「わ、我々が植樹ですか? 騎士団が植樹を行う理由を教えてください?!」
防衛目的のゴーレムは理解できるが、植樹の意味が分からないと騎士たちは戸惑う。
俺が補足する。
「植樹に関しては、植木のプロの指導のもと植えてもらいます。 それでその意味ですが…… 植えて頂いた町中の植木と神木をドライアドが繋げます。 町中の植木から王都の情報がすべて集められるようになります。 イメージとしては、魔の森をドライアドがすべて管理していたように。 情報は最大の武器です。 さらに緊急時にはその植木からドライアドがトレントなどの木人兵を出すことが出来ます。 これはクリスタルゴーレムと一緒でとても強力です。 町の防御に役立ちます。 町に木を植えれば植えるほど、ドライアドは王都で力が増します」
『おぉぉぉぉ―――!!!』理由を聞き、騎士たちは盛り上がる。
俺はそのまま話を続ける。
「初めに話した、水場、井戸の設置の補足ですが、この王都には水路が張り巡らされています。 水の都の代名詞として、いたるところに湧き水が沸いています。 皆さまが整備した後に、私が個人で回り魔法陣と精霊結晶を設置していきます。 私以外は触れられませんので、触らないでください危険です。 そして湧き水からマナを吸い上げ、水路で町中にマナを巡らせ結界の威力を高めます。 もちろん王都全体なので、ここソーテルヌ邸ほどのマナ濃度にはなりませんが…… 他の町とは比べるまでもないマナの活性した街になるでしょう」
『この美しい街が、さらにキレイになるの?』とマナが活性化すると聞き、特に女性騎士が期待している。
「今のところはこんな感じです。 今までの事を聞いて質問のある方は挙手してください」
ババっと説明したが、内容が濃すぎたのか、みな聞いたことを消化するのに時間が掛かりそうだ。
『あ、あの……』 1人の女性騎士が手を上げる。
「あの、話が壮大過ぎて驚いています。 王国民としてとても感謝しているのですが…… 国民の利ばかりで、ソーテルヌ辺境伯の利が無いように思われます」
⦅ほぉ…… 嬉しい事を言っている⦆
「私の利は…… これらの事業は私の経験になる、このマナによる強大な結界、王都全体に張り巡らせる、情報網、これには膨大なマナも必要とする。 これを成し遂げれば、凄い経験になると思うんです」
「………………」
「そ、それだけですか?」
「あ、いや…… 今後の人族存続のため、皆が強くなってくれないと、勝ち残れないんです。 みな強くなって、私を守ってください。 ハハハ あ…… それから、この結界が完成したら、両親を安全な王都に連れて来ようと思っています。 そんな感じです……」
全員『え、それだけ?』と微妙な顔をしていたが、この度の計画に賛同してくれた。
「この【王都防衛計画】を立案して頂いた、ソーテルヌ辺境伯に敬意をこめて―― 敬礼!」
みな喜んでくれたみたいで良かった。




