第二章20 魔法学校へ入学 2
校庭でディック、ギーズ、ララ達と別れて、各自の教室に向かう。
校舎入口の受付で、皆自分の杖や武器を預ける。
神珠の杖は宙に浮くので、結構悪目立ちする。 受付の人も慌てていた。
そしてF組の教室に向かい中に入る。
席順は男女に1列ずつ分かれて、名前順らしい。
1クラス50程のクラスだ。
「ソーテルヌ卿! 同じクラスになるとは神のお導きか!」
そう声をかけてきたのは、王都へ来る最中に、ゴブリン騒動で知り合った、ジョルジュ王国の子爵公子マルケ・アドリアだ。
「ほんと偶然ね、運命を感じますわ」
さらには同じゴブリン騒動で知り合った、マルサネ王国の子爵公女プーリア・ネグロだ。
「いや…… お二人とも同じ魔法学校で同じ年、マルケ様は黒魔法と青魔法。 プーリア様は黒魔法と白魔法…… これはF組で我々が再会するのは当り前でしょう……」
「まぁ…… そうですわね」
「………………。」
「これから4年間、よろしくお願いしますね」
そんな再会もあり、席に着き待っていると、担任の教師が入ってくる。
「っな! なんだと………」
思わず声が出てしまい、隣の女子に睨まれた…… コワイ
「今日からこのクラスを受け持つことになった【ラローズ・グリュオ】です。 グリュオ伯爵の娘で、王国騎士団第一部隊の副隊長をしていますが…… この学校に身分は一切関係ありません。 ですが! 唯一の上下関係は、先生と生徒です! 学校内に王族や上級貴族が何人も居ますが、学校では先生が一番偉い、そこだけは覚えておくように!」
⦅初めから威圧に入った…… この人 コワイ⦆
その後は、クラス単位で講堂に移動して入学式を行った。
今年の1年生徒代表挨拶は【マルサネ王国のコート王子】だ。
そして、在校生の代表挨拶は、3年の【ジョルジュ王国のルーミエ王子】、今年最終学年の4年生には王族は居ない。
挨拶が両方王子だったことを考えると…… 生徒同士の上下関係は無いと言われているが、やはりそれは建前なのだろう。
式もつつがなく終わり。
教室に戻り、リクリエーション。 生徒の自己紹介だ。
各々、名前と自分の才能を発表していく。
自己紹介を聞いていると、だいたいこのクラスは、黒だけ、白だけなどと才能がはっきり分かれていない生徒が多かった。
黒と白両方の才能があると、凄いように思うが力が分散されて、どちらも中途半端に終わることが多い。
黒魔法特化のクラスに入っても、授業についていけなくなる。 やはりF組は問題児が多いクラスなのだろう。
自己紹介を聞いていると、一人気になる女子がいた。
リグーリアという精霊使いの女の子だ、ラローズさんが言っていた、同年代の精霊使い、その人だろう。
リグーリアは精霊使いだがほとんど魔法が使えず、この学校に入学することをためらっていたが、ラローズさんが説得してくれたらしい。
そして俺の自己紹介は…… 目立ちたくないのだけれど、やはり目立ってしまう。
あの凱旋パレードがいけない。
このクラスの皆は、ほとんどが自信が無く、卑屈な雰囲気だ。
まぁ俺の名前ぐらいで、少しは希望になるのなら、それでいいだろう。
そして、恐れていたクラス委員長決め……
推薦、多数決、全員一致で俺になってしまった…… ヒドイ
そして副委員長は、魔法では何もクラスに貢献できないので…… と言って精霊使いのリグーリアがなってくれた。
そして放課後。
そのまま帰ろうと思っていると……
ラローズ先生にガシっと腕をつかまれて止められる―――
「ッ――! 痛いです先生。 なんでしょう?」
そしてやっぱり始まる、校庭での力試し大会!
「先生、止めないで良いのですか?」
「なんでこんな面白い事――― ゴホン。 いえ、これは入学初日の大事なイベントのような物! 権力の上下が無い分、皆のストレスをこうやって定期的にガス抜きさせるの」
⦅イマ! 面白いって言いましたよね! いま?⦆
「ほら、ごらんなさい。 先生方も上級生もみな見ています。 初日のこの力比べが、学生生活をどのように過ごすかの分かれ道。 もちろん暗黙の了解で、致死のダメージは禁止! 治癒魔法の救護班も、ほらあそこに待機してます。 誰もが知っている魔法学校の一種のお祭りよ」
「………。 初耳です」
「ほらディケム君も杖持ってらっしゃい! どう避けたってチャレンジされるから!」
「え…… 本当に嫌なのですが……」
「学生にとっては、公然にそして安全にあなたにチャレンジできる、最高の舞台なの。 いつも言ってるでしょ、力がある人の義務だって」
「………。 公然では無いでしょ? 公然では……」
とりあえず正門の受付に行って杖を返してもらう、このまま帰りたい。
引き返して校庭への門をくぐると…… 30人ほどの生徒達がこちらを見ている。
⦅………え? 嘘でしょ? 力試しって1対1ですよね?⦆
一斉に30人から火炎球が打ち出される!
⦅ちょ! 致死の攻撃は禁止って言ってたでしょ! ヤバイヤバイ!⦆
俺はとっさに頭上に2個浮かべている迷彩の精霊珠を火炎球に向かわせ、直前で2つの精霊珠を衝突させる。
凝縮された精霊珠がぶつかり合った時、マナの衝撃波が発生する。
その衝撃波が渦を巻き、すべて火炎球を霧散させた。
魔法は基本、マナを呪文で力に変換するものだ、だから炎に変わっても基本はマナなのだ。
そこにさらに強いマナをぶつければ、より弱いマナはかき消える。
自分たちの放った火炎球がかき消される………
その光景に目を見張り固まった魔法師たち、しかしリーダー的な人物から再度の命令が飛ぶ!
再度発射された火炎球を、俺も再度かき消す。
3度ほど同じ事を繰り返した後……
「切りがない………」
俺は魔法の杖を校庭に突き立てる!
一気にマナを吸い上げ、俺を攻撃している生徒たちの前に、100個ほどのウォーターエレメントを呼び出す。
正直、この生徒のレベルなら、いくら30人ほど居ても、ウォーターエレメント5個もあれば十分だろう…… しかしこれはこれからの学生生活を有意義に過ごすための力試し。
圧倒的に勝たなければ意味がない!
それでも俺は上位精霊を出さなかっただけでも、手加減しているつもりだ。
俺はエレメントにウオーターの魔法を命じる!
100匹のウォーターエレメントから放たれる水の魔法は、うねりとなり水龍に姿を変えた!
そして水龍となった大量の水が校庭の生徒全員を押し流した。
「これなら、ケガはしないでしょ」
しばらく校庭でそのまま誰か戻ってくるのを待っていたが…… これで終わりらしい。
「ラローズ先生。 よろしでしょうか?」
「う、うん…… 良いと思います。 今年は血が流れず残念ね……」
⦅ん? 今何か不穏なワードが聞こえたような気がしたが?……)




