第二章18 閑話 ソーテルヌ卿の力を見極めろ2
ラローズの弟、カミュゼ・グリュオ視点になります。
「ラローズさん。 ここの環境、良いと思いませんか?」
ソーテルヌ卿が、何かを含んだ表情で、そう姉上に問いかける。
「だからさっきから素晴らしいって言って…… え!?」
ソーテルヌ卿はニヤッと笑う。
「ディ、ディケム君…… ここで精霊使いを育ててくれるの!?」
「それも良いかなって。 今までラローズさん達が、俺達を守ってくれたように、次は俺が皆を守らなければいけないと思って…… ラモットさんも、契約まで出来ませんでしたからね。 ウンディーネは手伝ってくれるよね?」
……ん? ウンディーネ?
遠くの草の上に寝ている、精霊様が初めて目に入る!
「主の考えだからな、しょうがないじゃろ。 それにサンソー村と違って、かなり施設も整ってきたしな」
「ウンディーネ様!! ありがとうございます! ディケム君もありがとう―――!!」
姉が、このように喜ぶのを初めて見た。
私が知らない姉上の表情を、これ程に引き出すソーテルヌ卿に嫉妬すらしてしまう。
今のソーテルヌ卿の提案は、軍にとってすごい事なのだろう。
「あの…… 私も来ても良いですか? エレメントが来たいって凄いのです」
「ラローズ! オヌシこそ鍛え直さないとダメじゃな!」
「え、そんな………」
あの姉上が『ッ――しまった!』って顔をしている!
今までの姉上のクールなイメージが、今日は崩れていくけれど……
俺は今日で、姉上と少し近くなれた気がする。
「オヌシあれからサボっているな! 2年間でウォーターエレメントが全然昇格しておらぬゾ!戦争がひと段落したと思って、だらけ過ぎじゃ!」
「はいっ! ごめんなさい!」
おぉ! こんな姉上も初めて見たな!
目を見開いて、姉上を見ていたら蹴られた…… ヒドイ。
「ラローズよ、魔神族と同盟を結んだところで、人族が弱小種族なのは変わっておらぬぞ!しかもな、人族が滅亡するとき、魔神族はディケムだけを助けて去っていくであろう。 今現在、魔神族から見た人族の価値はディケムのみ! 同盟の時、言われたであろう、ボー・カステル王から『こちらからの要望は、ディケムを頼む、その事だけだ』と…… 皆、友情だのと賛美していたが、言葉の信意を理解せねば、ただの阿呆じゃぞ! 魔神族からは人族には価値が無いと思われている! そういう事じゃぞ!」
姉も私しも目を見張り固まってしまった。
危機感の欠如、グウの音も出ない。
「早急に人族の価値を上げ、魔神族にディケムではなく人族の価値を認めてもらえ! 今、魔神族は品定めしている最中じゃ!」
「は、はい!」
「まったく…… 腑抜けているおぬしたちを見ていると、先の事を考え、今も一生懸命努力しているディケム達が妾はかわいそうでしょうがない」
『面目次第もございません!』と姉上が気合を入れて謝罪する。
「ディケム様、ウンディーネ様。 私も姉と一緒に訓練に参加させていただけないでしょうか? 正直私も、カヴァ将軍に勝ったことで浮かれておりました。 次の戦いのときには、私はあなたの隣に立てるだけの男になっていたい!」
「カミュゼありがとう。 一緒に頑張ろう!」
ディケム様は笑顔で受け入れてくれた。
「その訓練について、この後に少し見せたい場所があるのですが良いですか?」
「もちろん! むしろ見せてください」
『では行きましょうか』と言ってディケム様が手を伸ばすと…… 何処からか見事な魔法の杖が飛んできた。
『ち、ちょっと! その杖凄くない!?』と姉上が驚く。
「あ、姉上! この杖も精霊結晶で出来ていますよ!」
「この前作ったんですよ。 【神珠の杖】と名付けました。 私の故郷で祭られているご神木の枝を使い、杖の上部に精霊結晶の玉をつけてみました。 すこし精霊結晶で柄をつけたのですが、カッコいいと思いません?」
いや! カッコいいとか軽く言う代物では無くないか?
信じられないが、ディケム様は精霊結晶を作ったと言っている……
「ほら! 見てくださいこの杖、手を放しても浮いているんです! いいでしょ?」
「ほ、本当だ! こんな杖見たこと無いわ! ディケム君! 私も欲しい!」
「コラ! ラローズ! オヌシもディック達と同じじゃな! 分不相応じゃ! カミュゼとやらは理解できるじゃろ、精霊結晶がどれほどの素材なのかを! 過ぎた力は身を亡ぼすぞ!」
「はい! すみませんでした。」
ディケム様はその杖を持っているという事は、ウンディーネ様はディケム様にはその資格があると…… まぁ当たり前か、自分で作れるのだから資格も何もない。
「では行きましょう」
「見せたいのは、その杖じゃないのね?」
「これはただの趣味ですよ~」
「その杖が趣味って………」
ディケム様に連れられて、訓練場に来たが……
な…… なんなんだ、これは。
いろいろおかしなことになっている!
「ここで訓練すると、普通の3倍くらいの経験が得られるんですよ~ ハハハ」
「ハハハじゃない! これはヤバくないですか?」
「空間おかしなことになってますよ! 経験3倍ってなんですか?」
いろいろ説明を受けたが、結局理解できるはずがない。
なんだ心象世界って、ことわりを上書きするってなに?
訓練場では、男2人 女4人が訓練していた。
「皆少しいいかな!」
「ラローズさんと弟のカミュゼです」
ディケム様の幼なじみ3人と教会でヒールを勉強している友人だそうだ。
知っている顔が2人いる。
ボアル准男爵の娘さんのマディラ嬢と、ルビー准男爵の娘さんポート嬢………
いや、ルビー準男爵は……元か。
「マディラ嬢お久しぶりです。 そしてポート嬢もご無沙汰しております」
「カミュゼ殿下お久しぶりです」
「あ…… カミュゼ様。 私など…… 覚えてくれていたのですね」
「当り前じゃないですか! 私があなたを忘れるわけがない」
「ありがとうございます」
「あ、あのポート。 お兄さんの事はとても残念だった…… そして貴女の家の事は、うちが何も力になれなくて…… ホントに申し訳ない。 ……あの、できれば今度――」
「――カミュゼ様! あのときグリュオ伯爵様には、良くして頂きました。 どうぞお気になされないように」
そう言うと、ポートはこの話はここでおしまいと、打ち切ってしまった。
「ラローズさん、この練習場はまだ作ったばかりで、友人だけで使っているのですが、そのうち色々な事で使おうと思っています。 戦士志望のカミュゼは、ここでの訓練は特に良いと思うよ」
ディケム様の好意で、後日からここでの訓練に参加させてもらう事にした。
ここに来れば、身分が離れてしまい、なかなか会えなくなってしまったポートとも、また昔のように会えるかもしれない。
今日の、ソーテルヌ伯爵邸訪問はとても有意義だった。
今までの概念が崩れていく気がした。
その日の夜、姉と私は食事をしながら父に報告をした。
「ご近所さんは最新の軍事施設でした、ぜひ利用させて頂きたいたいかと………」
⦅あ、姉上! なんという言い方を―――!⦆
「お父様。 ウンディーネ様に叱られました。 魔神族に早急に人族の価値を見せなければ、見捨てられると。 今後、ソーテルヌ伯爵邸で有望な人材の育成をしていくそうです。 私たちも参加させてほしいとお願いしてきました」
「分かった、グリュオ家で協力できることは惜しまない、ソーテルヌ伯爵に協力して、人族の未来を救ってくれ!」
「そしてラローズよ、カミュゼをソーテルヌ卿に紹介してくれて…… ありがとう」




