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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第二章 城塞都市・王都シャンポール
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第二章9 建前と本音


 俺はラスさんラローズさん率いる、王国騎士団第一部隊の面々と久しぶりの挨拶を交わした後。

 今後お世話になる召使の方たちも紹介してもらう。


「筆頭執事を任されている『ゲベルツ』と申します。 ソーテルヌ閣下の元で働けること光栄に存じます。 私以下この一〇〇名の召使が閣下のお世話をさせて頂きます。 何なりと申し付けくださいませ」


 ゲベルツさんが挨拶をしたあと――

 後ろにずらりと控えている召使の人達一〇〇人ほどが一斉に頭を下げる。

 その一糸乱れぬお辞儀に、お辞儀一つにしろ厳しい訓練を受けてきた事を感じさせる。


「ちょっ! なっ……何ですかこの使用人さんの数は!?」


 すると『よく聞いてくれたわね!』とラローズさんが説明してくれる。


「ディケム君は何も分からないと思って全てこちらで手配して置いたわよ。 これだけ広いと最低この人数は必要よ。 安心してさすがにこの人数は伯爵の給料じゃ難しいから国が払ってくれるわ」


『あ、はぁ…… ありがとうございます』

 正直ラローズさんからお金の心配は要らないと聞いて、俺はホッとしていた。


「もぅ凄かったんだから! 『アルザスの奇跡ソーテルヌ伯爵邸の召使募集』って求人出したら凄い数の応募が来たのよ。 そしたらゲベルツが張り切って人材を厳選して、ディケムくんが来るまでに完璧に仕上げるって……もう軍隊顔負けの特訓ぶりだったわよ」


「………………」⦅ゲベルツさん 怖っ!⦆


「あぁそうそう。 一応伝えておくけどゲベルツは男爵位を持つ歴とした中級貴族だからね。 しかもとても特殊な魔法に特化した魔法師で執事として優秀で大人気なのよ」


「特殊な魔法…… ですか?」


「そう、簡単に言うと紅茶やコーヒーを美味しく淹れられるの。 執事として最高でしょ!? 実はゲベルツは陛下が執事に是非迎え入れたいと言う願いを断ってあなたの執事に志願して来てくれたの」


「へ、陛下の願いを断って……ですか?」


「恐縮でございます。 わたくしアルザス戦役の話を聞いたときに本当に感動したのです。 そしていつかソーテルヌ閣下の下で働きたいとずっと心に決めていたのです。  あと……少しだけ自分の夢もございます」


「夢……ですか?」


「はい。私……小さい頃からずっと精霊様とお会いする事を夢見てきたのです! その夢が今やっと…… わたくしディケム様の肩に座っていらっしゃるウンディーネ様を拝見して感動しております。 今後ともずっとお側で働かせて下さい」


「は、はい…… よろしくお願いします」

 ⦅また変な人が来てしまったかもしれない……⦆


 ゲベルツさんの怖いくらいの熱い視線は気になるけど……

 仕事は一流と言うラローズさんの言葉を信じる事にする。


 気を取り直して――

 取り敢えずゲベルツさんに招かれて屋敷に入り、いろいろ説明を受ける。

 ダイニングルーム、バスルーム、ベッドルーム……etc

 そして食事の用意も、お風呂の用意も、洗濯も、掃除も全て召使の方々がしてくれると言う。


 『え……でもそんな………』と俺が恐縮しているとラローズさんに注意される。


「ディケムくん。 基本、屋敷の仕事は全てゲベルツを筆頭に先ほどの召使達がします。 前も言ったけど(あるじ)殿(でん)と構えて居ないと馬目よ! 彼らに屋敷の仕事をさせないのは逆に彼らの仕事を奪うことになるの! 仕事が出来なくなると彼らは不要とみなされ食べていけなくなるわ」


「な、なるほど…… 俺たちが気を使ってする事が、彼らには逆の意味になるのですね」


「そう! 彼らは家事のプロ。 そしてあなたは国を守るプロになるの。 適材適所と言う事よ」


 ここの貴族街に来るまでの事もそうだった。

 俺の遠慮が下につく人達から見れば逆に迷惑になる。

 平民だった時の美徳や常識が貴族社会では通用しない。


 ⦅仕える貴族がこんなとか…… ホントゴメンって感じだな⦆


「それからディケムくん。 この貴族街の基本も教えておくわね」

「はい」

「この貴族街は階級順と警備のための並びになっているの。 この町の一番奥が王の住む居城。 そして次からは階級順に奥から町に向かって階級が下がっていく並びです。 同じ列では中央道に近いほうが上」


「えっ? ですが……この屋敷は」


「そう。 王城のすぐ前、さっきの説明では一番階級が上の場所になる、だから警備も考慮してと言ったの。 階級で行くとあなたの伯爵位の上には辺境伯、侯爵、公爵、さらに大公があるわ。 でもあなたは新しい英雄【王国軍英雄勲章】も持っている。 正直国としては侯爵、公爵、大公よりも大切な存在なの。 それとね守る対象であるあなたは王を守れる最強の盾でもあるの。 最強の盾は一番近くに置かないと意味無いでしょ? だから私とラスの屋敷も王の護衛として同じ並びに住んでいるのよ」


「ちょっと俺なんかを持ち上げ過ぎですよ」


「建前だけでも意味があると前に教えたでしょ。 人族は弱いの、強い光が無いと不安でしょうがないのよ。 仕事だと思ってあきらめる事ね。 フフフ」



「そしてね、ここにきてあなたの名前は建前だけじゃなく価値がさらに上がったの。 先日、人族と魔神族の同盟が成立したのよ」


「人族と魔神族の同盟……ですか」


 同盟の事をラスさんが興奮気味に話してくれる。

「そぅ君も知っているだろ? 魔神族は種族勢力最強の一角だ。 だが人族は先の魔族との戦争に勝ったと言っても未だに最弱の種族なのは変わらない。 そんな人族が最強の同盟国を得る事が出来たんだ! それも普通なら属国にされても文句を言えない相手と対等な立場でだ」


「それは凄いですね。 おめでとうございます」


 正直俺には話の内容が大きすぎて、あまりピンと来ていなかった。


「ディケム君…… 他人事では無いのよ。 この同盟は魔神族から申し入れが来たの。 それも魔神族のボー・カステル皇帝自ら直々にね。 ボー・カステル皇帝の同盟条件はただ一つ『ディケムを頼む』その一言だけ」


「えっ……? 俺は魔神族の皇帝と会ったことなど無いですけど?」


「ボー・カステル皇帝はこうおっしゃられたそうよ。 『ラフィットは…… 今の生まれ変わりはディケムと言ったか。 やつは俺の一番大切な友の一人だ。 俺はやつと敵対などするつもりはない、だから同盟を結ばないか? もちろん対等な同盟だ。 こちらからの要望は『ディケムを頼む』その事だけだ』と……」


「なっ、なんで…… 魔神族の皇帝が一人の武将の為だけにそこまで……?」


「あなたは知らないでしょう、でも私たちの年代は皆知っているわ。 魔神軍には王と対等の将軍が五人いる。 その筆頭ともいえるのが『剣鬼ラフィット将軍』だったの。 それは凄い武人だったわ。 生ける伝説と言ってもいいくらいだった。 その武人が身内の裏切りに遭い我々人族に討たれたのよ。 全種族に激震が走ったわ、だからその隙に人族が一気に逆転攻勢に出られたの。 裏切りが原因だからか分からないけど、なぜか魔神軍はラフィット将軍が打たれた後一切動かなくなったのよ」


「俺はそんな凄い人の生まれ変わりなんですね…… もっと頑張らないとダメですね」


「いやいや、君は頑張っているからこれ以上無理はするな。 焦ってもいい結果は出ないぞ!」


「は、はい……」


「そんなわけで貴方は人族で今最も重要な人って事! あ……入学前の学生に重い話ばかりしてゴメンね。 そんな建前は有るけど学校に入学したら普通の学生として勉学に励んでね」


「は、はい……」

 俺は素直にうなずく。

 複雑な気持ちは有るけど……

 俺にはまだ聞いた話を全て自分の事と割り切る事は出来ない。



「そぅそぅ…… ちなみに私の実家グリュオ伯爵家はあなたの邸宅と中央道はさんで隣り…… 貴方の下座よ」


 ⦅うっ…… なんか棘があるのは気のせいか?⦆


「冗談冗談、ご近所さん仲良くしましょうね!」


「あの一つ質問なんですが、なんか俺の敷地異様に広くないですか?」


「ハハ気づいたか! その通りだ、四つ分の敷地をぶち抜いて広くしてるからな」


「なっ! 四つ分? ラスさん……な、なぜでしょう?」


「実は二年前のサンソー村での訓練の報告書を陛下と宰相が読んでしまってな。 だから君に軍の強化を期待しているんだよ。 広いのは訓練場のスペースを十分確保出来るようにと……もちろん命令ではない、ただの期待だ。 みなウンディーネ様が怖いからね、この広大な敷地をただ楽しんでくれても結構だよ」


「………………」


 屋敷も召使も……

 破格の給料も貰っている手前…… 働くしか無いのでは?


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公はまだ魔神の生まれ変わりという事を納得してない感じですか?私個人的には魔神との同盟の話を聞いても結構他人事の様に感じてる、と言う風に感じるのが読んだ感想です。今後、魔神の将軍だっ…
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