第二章8 再会
俺達は様々な出店、珍しい物を見ては、はしゃぎながら街中を歩く。
田舎者丸出しだったのは疑いようもない。
すると、今まで静かに出てこなかったウンディーネが突然俺の肩に顕現する。
「ちょっ……ウンディーネ! こんなところで出てきちゃ目立つだろ!?」
「はたしてそうかの?」
「ん?……」
ウンディーネの意味ありげな口ぶりに街中の子供たちを見てみると、俺と同じ肩の上にウンディーネの人形を乗せている子供たちがチラホラみられる。
「えっ!?」
「なんだディケム。 あんなに色々物珍しそうに見てたのに気が付かなかったのか?」
「あぁ…… 何だあれは?」
「どう見てもソーテルヌ伯爵様ごっこ、おまえの格好を子供たちが真似ているのだろう」
「そうじゃ、あれを見て妾も顕現してもバレないと思ったのじゃ」
「なるほど…… たしかに」
「さぁディケムよ! クレープ屋に行くのじゃ! 妾はクレープをご所望じゃ」
「やった~! 賛成」
甘い物の時はウンディーネとララの意見が合う。
二人の圧に屈し、皆でクレープを食べながら町を見物する。
『おっ! 兄ちゃんのウンディーネ様人形すごくリアルだな! まるで生きているみたいだ。 どこで作っているのか教えてくれよ、娘が大ファンなんだ!』
そんなヒヤッとする場面もあったが、この人の多さに紛れて事なきを得た。
そんな感じで街中を観光しながら歩いていたが、とても一日では回り切れない。
俺達は程よいところで切り上げて、今日の最終目的地へと向かう事にする。
「それでディケム…… いやこれからはソーテルヌ伯爵様か?」
「やめろって……恥ずかしい」
「でもまじめな話、学校では身分の勉強や礼儀作法も学ぶのでしょ? そのうち一緒に戦場に出るのだから意思疎通のため、これも大事な事でしょ?」
「……お前らにそんな他人行儀な話し方されるの嫌だよ。 それにラスさんのパーティーだって、メンバー内では愛称だったぞ! 俺ら四人はパーティーだろ?」
「あ~ たしかにそうだったな。 分かった! ディケムがそう言ってくれるなら、パーティーで行動の時は今まで通り。 だがラスさん達もそうだったが公の場ではちゃんとしよう」
「うん」「ですね」「ありがとう」
「そう言えばディケムは親御さんどうするんだ? 伯爵様の両親が田舎で木こりとかダメだろう?」
「身辺警備の点でもアウトですね」
「ラスさんから、ココでの生活に慣れて落ち着いたら必ず呼び寄せるように言われてる。 名前が売れていると親も狙われる可能性がゼロじゃないから、警備を分散するとお金がかかるんだって」
「やっぱりそうなんだ」
「でもディケムはもう親孝行出来てるんだね~ 王都に親を呼べるなんて。 私も頑張って爵位ゲットだ!」
「ララ、命は大事にだ…… アルザスの戦いでは俺らは震えて見ていることしか出来なかった。 焦るな、俺たちは凡人だコツコツ努力だ」
「ディック、中々わかって来ておるの~」
肩でウンディーネが嬉しそうにクレープを食べている。
まったく威厳が無い……
「そいえば、あの魔神のきれいな人、あれから連絡有ったのか?」
ララになぜかにらまれた…… ゲセヌ
「ラトゥールさんね、あの日から国の通信ライン使って毎日連絡来るから、せめて通信メールにしてもらうことにした」
「ま、毎日………」
なぜかララの顔が青い……
「でも正直、魔神軍のしかもあの五将の一人から情報もらえるのって凄い事だと思う」
「うん、俺もそう思うから毎日メールは返すようにしている」
「毎日…… 毎日……」
「ラ、ララ…… どうした? ……怖いぞ」
街中を抜け王都街の最奥に、高い壁に囲われた今までの街とは一線を隔す雰囲気のエリアがある。
貴族街である。
貴族街の最奥には王の居城があり、その王城の前に貴族だけが住むことを許されたエリアがある。
しかも男爵以上の貴族…… 俺達が今まで貴族様と頭を下げていた、準男爵、騎士爵は厳密にいうと貴族ではない、平民と貴族の間に位置する者なのだとか。
この高い塀の奥は…… 男爵以上の貴族しか住むことが許されない特権階級の世界。
俺は名誉伯爵位を王から叙爵(爵位を授けられること)されたとき色々と貰ったのだが……。
その中の一つが貴族街に屋敷を一軒まるまるだった。
大きな家は苦手だがラローズさんから。
『貴族が色々な場所に住むと、警備費がかさむから迷惑なのよ』と言われては逆らえない。
俺たち四人は、とりあえず俺の家に住むことにした。
ラローズさんも『良いんじゃないの』と言ってくれた。
『なんか冒険パーティーのホームみたいでカッコいいじゃん!』なんて思って来たのだが……
そんな隠れ家的なイメージじゃなかった。
「お、俺達はこの塀の中で生きていく事ができるのだろうか……」
「お、お前がビビってたら居候の俺達はどうなるんだよ……」
「お、俺…… ちょっとサンソー村へ帰りたくなったよ」
「俺も」「僕も」
「そぉ? こんな所に住めるなんて夢みたいじゃない♪」
ララだけは乙女の目になっている。
とりあえず俺たちは水路で隔たれたそのエリアにかかる大きな橋に向かい、衛兵に話しかける。
「お前たち見かけない顔だが、どこの貴族様の下働きだ? あまりキョロキョロしていると怪しまれて捕まってしまうぞ! 早く仕事に慣れなさい」
「あ…いや…… あの、わたくしディケム・ソーテルヌと言いまして、二年前にシャンポール国王陛下からお屋敷を頂きましたので…… その、このたび引っ越してこようかなと、うかがいました……」
「…………………ん?」
衛兵がいぶかし気に俺達を見る。
「ソーテルヌって、今日ソーテルヌ伯爵閣下がお見えになると聞き、俺達は馬車が来るのをずっと楽しみにしていたのだが………」
衛兵がどうしていいか分からなくなっている……
俺はシャンポール王から頂いている、勲章を衛兵に見せる。
「こ、これは大変失礼いたしました! ソーテルヌ伯爵閣下に対し大変失礼な言動を致しました。 お許しください!」
「いや、こちらこそこんな紛らわしい恰好ですみませんでした」
衛兵に橋を通してもらい俺達は貴族街に入る。
確かに貴族街で道を歩いているのは、俺達のような平民の恰好をした下働きの人たちだけだ。
貴族は基本歩かない。移動は馬車でするものらしい……
「おれ……恰好ってあまりこだわったこと無いけれど、ここにきてそれなりの恰好って大切なんだなと痛感してるよ」
「あぁ、入城の時にしても今の衛兵にしても俺達ってとても迷惑だよな…… もし俺が衛兵だったら『伯爵ならそれらしい恰好で来てくれよ』と文句言うと思う。 失礼を咎められるのはいつでも下の者だからな……」
「なぁ俺たちここで生活していけるのかな……」
「って言うか、この貴族街に合う服って何処で売ってるんだよ?」
「町では見かけなかったな………」
俺達はすっかり委縮して貴族街を歩く。
貴族街は門からすぐに迎賓館が立ち並び、公園を挟み奥に貴族の屋敷が立ち並ぶ。
屋敷は奥に進むにつれ大きくなる。
大きくなると言う事は、奥の方が偉いのだろう……
貴族街の家は豪邸ばかりが立ち並んでいる。
「それで、ディケム伯爵様のご自宅はどこでしょうか?」
「まさかディケムの家もこんな感じじゃないよね? もっと素朴な家だよね? ね?」
ギーズがおどおどしている………
ララだけはキラキラした目で周りの家々を見ている……
嫌な予感しかしない。
「場所だけ聞いただけだから見たこと無いんだよ…… たしかラローズさんの家の近くだって言われた。 伯爵同士近いほうが警備上良いみたい」
周辺の豪邸っぷりに、さすがの俺も心配になってきた。
不安だけが大きくなっていく中そこに辿り着いた……
いや、たどり着いてしまった……
「うそ…… ここ?」
「違うと思う……」
「でも、門のところに金のプレートで【ソーテルヌ伯爵邸】って……」
「ディ、ディケムごめん! 俺、宿探して――」
俺はガシっとディックの腕をつかむ!
「あ! ぼ、僕もちょっとトイレに――」
さらにギーズの腕をつかむ
「お前ら逃げられると思うなよ。俺たちはパーティーだ! この困難は皆で協力して解決していくんだよ…… フフフ」
「わぁ~~~ すご~い~! ね~ね~ココなの? ほんとにココがディケムの家なの? ディケム、私こんな家に住むの夢だったの~ アハハ~」
⦅ララだけは別の世界に生きているようだ……⦆
そして恐る恐る門番に話しかける。
恰好が平民なので門前払いされるのではと話しかけたが……
事前に連絡が来ていたらしい、すんなりと俺がソーテルヌ伯爵だと信じてくれた。
大きな門が開くと―――
門から屋敷の長い道の両脇に兵士がずらりと並んでいる。
見知った顔があるから王国騎士団第一部隊の人たちだろう。
すると聞き覚えのある大きな声が聞こえてくる――!
「ディケム・ソーテルヌ伯爵様 御一行に敬礼!!」
兵士たちが一斉に敬礼する。
あまりの事にフリーズして固まっている俺たちのところに、ラスさんとラローズさんが二人で歩いてくる。
「待っていたぞ、ディケム君! 今日は君たちが来ると聞いていたので騎士団第一部隊連れて待っていたんだ。 驚かせて悪かったな」
「ディケム君久しぶり、そんなところで固まっていないで君の家なんだから~ さぁ入って入って」
俺達は懐かしい顔ぶれに囲まれ、二年ぶりに再会を喜び合った。




