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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第二章 城塞都市・王都シャンポール
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第二章3 公女プーリア


 俺達が酒場の料理に舌鼓を打っていると、ちかくの席のやり取りが聞こえてくる。


「あらやだっ! ちょっとメルカスこの料理美味しいわよ。 あらこっちも」

「お、お嬢! もっと行儀よく……」

「メスカル要らないなら貰うわよ。 ほんとここの料理は最高よ!」


「お嬢ちゃん良いねぇ! 気に入った追加の料理はサービスにしておくよ」

「まぁっ! おばちゃんありがとう。 ここの料理最高よ」


 俺達もここの酒場の料理は気に入っている。

 聞こえてくる冒険者風二人のやり取りに同意しながら、俺達も料理を追加する。


「ちょっとそこの四人組! あなた達もまだ若そうだけど…… もしかしてシャンポール王都の学校に行く途中なの?」


 突然、俺達が気になっていた冒険者風の二人組の『お嬢』と呼ばれている方に声をかけられる。


「はい。 私たちはここから西に行った場所にある、サンソー村から王都の魔法学校に向かう途中の者です」


「へぇ〜 村からって……… そのサンソー村から四人も全員魔法使いなの?」

「はい……」


「村ってことは人の数は八〇〇人以下って事でしょ? 魔法使いが四人も出るのおかしいじゃない!?」

「いや、その…… ですが嘘ではないので」


 ⦅現実はサンソー村の人口は二〇〇人以下。おかしいのは十分わかっている⦆


「フ〜ン…… なにか怪しいわね」

「お嬢っ! それ位にしてください。 みなさんホントすみません」


「あらごめんなさい。 別に喧嘩をしに来たんじゃなかったわ、ただ私は嘘が嫌いなだけ。 でも……人それぞれ色々理由もあるのでしょうから素直に謝ります」


 そう言って二人組の冒険者は俺達に頭を下げ名前を名乗った。


「私はアマーロ。 そしてこっちがメスカル。 王都を目指しているのだけれど…… あなた達と一緒でここで足止めを食らっているわ。 でも安心して、私たちが近々解決してあげるから!」


「解決と言いますと…… ゴブリン討伐の目途でも立っているのですか?」


「そう! ゴブリンの二〇匹や三〇匹、私たちの部隊ですぐに退治してやりますわ!」


 ⦅二〇~三〇匹……? 情報が間違っている⦆


「あのアマーロ様! 我々が集めた情報ですとゴブリンの数は一〇〇匹近く居ると、しかもキングとヴィザードの個体も確認したと聞いています」


「ッ――なっ! それは本当なの!?」


「さらには村人、領主の討伐軍に捕虜になっている人々もいると聞いています」


「………………。そ、それは不味いわね。 それであなた達はなんでそんな情報を知っているの?」


「私達もゴブリン討伐に加わろうかと思いたので、まずは情報収集していたのです」


「討伐参加って…… ゴブリン一〇〇匹とキングの話を聞いたのに言っているの?」


「はい。 ですが人質の話を聞いて迂闊に動けなくて困っていたところです。 明日にでもこの村に駐留して居ると聞くジョルジュ王国のマルケ・アドリア様とマルサネ王国のプーリア・ネグロ様のキャンプに行ってみようと話していたところです」


 (プーリア・ネグロ様のくだりで、アマーロ様が異常に反応したような気がしたが……)


「そ、そう…… それではあなた達には人質が居なければゴブリンの軍勢に勝てる算段があると言うの?」


 アマーロ様が興味津々と言った目で見てくる。


「私たちはそれなりに今まで魔法の訓練を行ってきました。 ですから正面から戦えればゴブリンに後れを取ることはございません」


 ディックの言葉を聞いてアマーロ様が失望の顔色を見せた。


「あなた達…… 少し村で訓練をしたからと言って戦いを侮ってはなりません。 ゴブリンと言えど一〇〇匹を超えれば脅威になります。 しかもキングが居ればその統率力は軍隊にも匹敵します。 悪いことは言いません今回は関わることを止めなさい。 命を大切になさい」


 アマーロ様の無謀な討伐を諫めるつもりが逆に諫められてしまった……

 まぁ結果としては良かったのか。


 俺達の情報を得てアマーロ様は『作戦の練り直しだ』とメスカル様を連れて酒場を去っていった。

 連携をしたかったが…… 俺達を戦力とは見てくれなかったようだ。



 翌日俺達は本命と思っていたジョルジュ王国の子爵公子マルケ・アドリア様のキャンプを訪ねた。

 結果は門前払い取り合う事すらしてくれなかった。


 正直、マルケ・アドリア様とは直接会えなかったのでその人となりは分からない。

 でも後から考えれば、自分の爵位も何も告げずに訪問したのだから従者が取り次がないのも当たり前だった。

 自分の非で相手を感じ悪いと決めつけるのは駄目だろう。


 気を取り直して俺達はマルサネ王国の子爵公女プーリア・ネグロ様のキャンプを訪ねる事にした。

 俺はマルケ様のキャンプでの失敗を踏まえ、生まれて初めて名乗りを上げてみる事にした……


 ⦅ララ達の前で名乗るとか…… もう恥ずかしくて死にそうだ⦆


「マルサネ王国の子爵公女プーリア・ネグロ様のキャンプとお見受けいたします」


 プーリア様の従者が『平民の子供が何をしに来た?』と俺たちを見下すのが分かる。


「私はシャンポール王国伯爵のディケム・ソーテルヌと申します! 公女プーリア様にお取次ぎを願いたい」


 俺の拙い名乗りを聞いて、隣に立つディック達三人も緊張してるのが伝わってくる。

 そして俺が名乗った伯爵位の身分を聞きプーリア様の従者がひきつっている。


 (これはダメかな?)と思っていると……

 騒ぎを聞きつけ、キャンプのテントから従者の上司が出てく来た。

 そしてその人は見覚えのある顔だった。


「騒ぎを聞きつけ来てみれば昨日の坊主たちか…… そう言えば昨日くると言っていたな」


「これはメスカル様、昨日はお世話になりました。 公女プーリア様のキャンプでお会いするとは思いませんでしたが……、 プーリア様にお取次ぎをお願いしたい」


 先ほど俺が名乗った従者がメスカル様に耳打ちする。

 するとメスカル様が目を見開き俺を凝視している。


「従者共が…… 君がシャンポール王国のソーテルヌ伯爵卿だと名乗ったと言っているが……相違ないか?」


「はい、そう名乗りました」


「失礼を承知の上で問いたい。 それを証明できるものはお持ちか? 申し訳ないが君を見て伯爵様と名乗られても素直に信じる者は居ないだろう。 それに君が名乗った名は……」


 ⦅ですよね………⦆

 ディック達も『でしょうね……』と困った顔をしている。


 ⦅お前たちが名乗れと言ったんじゃないか………ヒドイ⦆


 俺はシャンポール王より授与された紋章(エンブレム)を取り出して見せる。


「これで信じてもらえませんか?」


 紋章は貴族にとって身分証明書のようなものだ。貴族のたしなみとして自国の貴族の紋章は全て覚えておかなければならない。

 しかしプーリア様は同盟国のマルサネ王国の子爵令嬢、さすがに同盟国貴族の紋章まで知らないかもしれない。


 メスカル様が俺の紋章を凝視してすぐにテントに消えていく……

 信じてくれたの? ダメだったの? どっち??

 俺達は緊張しながら待つしかなかった。


 メスカル様がテントからすぐに出てきて俺達を中に招き入れる。

 テントの中では公女プーリア様を含め従者全員が傅いて待っていた。


「ソーテルヌ伯爵様。お待たせいたしました! マルサネ王国ネグロ子爵の娘プーリアと申します。 このような辺境の地でお会いできるとは光栄であります」


 顔を上げ挨拶をしてきたのは昨日酒場で会ったアマーロと言う女性だった。


「アマーロさん?」


「はい。恥ずかしながら冒険者名をアマーロと名乗っています。 私はその土地の文化を好み旅先では酒場に行くことを好んでおります。 貴族として行けば面倒がありますので…… 冒険中は冒険者名を名乗っております」


「アマーロ様。 私は伯爵と言えど同じただの貴族、王ではないので傅くのはおやめください」


「先日の酒場での非礼の数々、ご容赦いただきたく存じます」


「何も気にしていませんので大丈夫ですよ」


「ありがとうございます」


 そう言って、やっとプーリアさんはニッパっと笑い傅くのを止めてくれた。

 そこからはむしろ少しは自重してくださいと思うほどフレンドリーな対応だった。


「しかしあの居酒屋で偶然出会ったのがアルザスの奇蹟! ソーテルヌ卿とは運命を感じずにはいられませんね」


「は、はぁ………」


「それでソーテルヌ卿。ジョルジュ王国の子爵公子マルケ・アドリア卿はどうでしたか?」


「それが…… 名乗りを上げないで訪ねてみたら門前払いでした」


「…………それはそうでしょう。 申し訳ないがソーテルヌ卿は今の見た目では普通の平民の子供にしか見えません。こちらの心臓に悪いのでそれ相応の格好をお願いしたい」


 メスカルさんに怒られた。


「王都でそこらへんは学ばさせて頂きます」


「我々が先ほど入手した情報ですと、残念ながらマルケ殿の軍は既に討伐に向かわれ壊滅したそうです。 マルケ卿の安否も今のところ不明です」


「ッ――なっ!」


「事は一刻を争います軍議に入りましょう!」


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