第28章 宴
ユギルとエレナは城を見て周る事に決めると案内人を待っていた。
(宴かぁどんな料理が出てくるんだろ、楽しみだなぁ)
コンコン
「失礼します」
扉がノックされ入ってきたのは野営地で正装をしていた男だった。
「今回城を案内する侍従のアトスです、昨日は本当にありがとうございました」
『案内宜しくお願いします』
「では行きましょう」
まず来たのは訓練場だった。
野球場くらいの広い所であちこちで兵士が剣を振っている。
「ここは訓練場です。護衛の方も良ければ利用できますのでその際兵士に指導して貰えると助かります」
ユギルは訓練を見ながら答える。
「気が向いたらな」
「その隣にはマナの訓練所があります。行きましょう」
次に来た場所はさっきより狭い広さの場所で的が置いてある。
「この国にはマナ使いを育成する学校がありますのでそちらに行く城のマナ使いも多いですね。聖女様も暇があればここでマナのご教授をお願いします」
『出来るか分かりませんが』
「来て頂けるだけで士気が上がります」
次に来たのは書物庫だった。
膨大な本がならんでいるまさに図書館だ。
「こちらは書物庫となっていて誰でも入ることができますが重要な本が置いてある部屋には大臣の許可がないと入れません」
(ここで少しこの世界のことを勉強したいな、早速明日来よう)
階段を降りて行くといい匂いがしてくる。
「ここが兵士の食堂です。この上には家臣の食堂、さらに上には王とその家族の食堂があります」
調理場では青い服を着たコック達が忙しそうに動き回っていた。
「もうすぐ宴が始まりますので身なりを整えましょう」
そう言われてエレナはメイドに連れられてきた部屋で青色の豪華なドレスを着させてもらい、化粧もしてもらっていた。
(うわあドレスなんて初めて着たけど意外と重いしキツいし動き辛いし女の人って大変だったんだな)
エレナは重いドレスに女性の辛さを感じていた。
周りのメイド達がウットリした目でエレナを見て口を開く。
「何て美しいのかしら……」
「化粧をしてさらに美しさが増したわ」
「人形みたい……これはもう芸術よ!」
ドアがノックされアトスと違う正装をした男が入ってきた。
「宴の準備が出来ましたので案内しま……」
エレナを見た瞬間あまりの美しさに見とれたまま止まっている。
コホン!
メイドのひとりがわざと咳払いすると男は正気に戻った。
「は! すいませんこちらへ」
エレナはメイドや迎えに来た男に囲まれて会場へ向かった。
実は宴はもう始まっており各貴族や有名人も参加していたがエレナが来るとは聞いておらずサプライズ演出を企画されていた。
エレナが会場入り口の前に来ると扉の向こう側では既にガヤガヤとしていたのが聞こえドキドキと緊張していた。
(あれ? もう人が集まっているんだ、緊張するなぁ)
宴が始まり会場では殆どがいつものメンツになっている為和やかな雰囲気になっていた。
「つまらんな」
そう呟いたリンドラ王国の大手商会の社長であるラバーツは酒を手に会場をつまらなそうに眺めていた。
ラバーツは商会も軌道に乗っており退屈な日々を過ごしていた。
(もう帰るか……)
「皆の者今日のゲストの登場だ入り口を見よ!」
エレナが到着したと報告を受けた王は皆にそう告げると入り口の扉が開いていく。
(ゲストだと?)
ラバーツはゆっくりと開く扉を見ていた。
そしてそこに立っていた人物を見て未だかつてない程の衝撃を受けその場に立ち尽くしていた。
(えーと、扉が開いたら王様の所に行けばいいんだっけ)
エレナは頭で先程メイド長に聞いた事を思い出していた。
衣装に着替える前にメイド長から歩き方など作法を教えてもらっていたのだった。
ゆっくりと大きな扉がエレナの前で開いていった。
大きな部屋には大勢の人がいて皆エレナを驚きや羨望のまなざしで見ていた。
(うわぁ人がいっぱいだ、緊張する)
エレナは皆の視線が集まる中、王の元へ歩いて行く。
中は静まりかえっておりコツコツとエレナの歩く音だけが響きわたっていた。
やっとの思いで王の隣りに来ると王は口を開く。
「ほう、この美しさに皆声も出んか」
王はしてやったりの顔をして周りを見渡す。
「聖女エレナ殿だ」
王はエレナに頷いて「さあ」と前にエレナを行かせた。
『エレナです宜しくお願いします』
エレナは先程練習した挨拶のポーズを決めた。
会場はどよめき立つ。
「あれが噂の聖女様か……」
「何という美しさだ」
「この世の人とは思えん」
「綺麗……」
どよめく会場を王は手を上げて静めると前に出た。
「さあ宴もまだまだこれからだ。あまり聖女殿に長話するでないぞ、皆に挨拶できなくなるからな」
小さな笑いが起こりまた宴が始まるとエレナは次々と来る人達に挨拶をしていた。
それは止まることなく目の前の料理が食べられずまさにエレナからすれば拷問だった。
やがて若い男が緊張した顔をしてエレナの前にやって来た。
(20代後半かな? なかなかのイケメンだ)
「は、初めまして聖女様。私はラバーツと申します、この国でガード商会をやっています。何でも揃えれますので是非ご利用ください」
『ありがとうございます。色々食材に興味がありまして今度お願いしてもいいですか?』
エレナの依頼に飛び跳ねるくらいに嬉しさを表すと子供のような嬉しそうな笑顔で答えた。
「本当ですか! では後ほど使いを寄越します!」
エレナは食材を集めるツテができた事に心の中でガッツポーズした。
「ではこれにて失礼します」
そう言って男は物凄い笑顔で去って行った。
次にきたのは仲の良さそうな家族だった。
「初めまして聖女様、私はアスフェルと申します。この国のマナ学園の理事をしています」
「妻のサリアです」
一緒にいた男の子はエレナをじっと見て緊張しているのか母親にしがみついている。
「ほら挨拶しなさい。聖女様よ」
「すいませんこの子はあなたの活躍を聞いてすっかりファンになってしまいまして、緊張しているんです」
アスフェルはそう説明するとエレナは男の子のそばに行きしゃがんで挨拶をした。
『初めまして宜しくね』
すると男の子は笑顔になる。
「はじめましてノイシュです」
(ん?この子……)
エレナはノイシュの片腕が無かった事に気が付いた。
それに気づきエレナが腕を見ているとアスフェルが辛そうな顔で話し始めた。
「この子は3歳のときに事故で片腕が……私がちゃんと見ていなかったばかりに」
母親のサリアは泣きそうな顔で話を続けた。
「その頃からあまり外に出なくってしまいまして、出来る事なら私の腕をあげたい」
エレナはノイシュの腕がない方の肩に触れた。
目を閉じてマナを流していくとノイシュの肩から光が溢れていった。
アスフェルとサリアはエレナが何をしているのか分からなかったが腕がない服の袖から手が見えた瞬間目を見開いてその様子を見ていた。
「手が……手があるよ!」
ノイシュは両手を見て泣いて喜んだ。
それを見た周りの者達はどよめき立つ。
「まさか!」
「何と腕を再生されたぞ!」
「奇跡だ……奇跡を目の当たりにしたんだ!」
「聖女様ありがとう!」
ノイシュはエレナ抱きつくとエレナはノイシュの頭を撫でた。
アスフェルとサリアは泣いていた。
「聖女様ありがとうございます……あなたの力になる事を誓います」
「うぅ、聖女様何てお礼を言ったら良いか」
『出来る事をしたまでですので、お気になさらず。この子を立派に育ててください』
「「はい!」」
全員の挨拶も終わった頃宴が終わり着替えて部屋に戻った。
『うぅ、疲れた……お腹すいたぁ』
結局ほとんど料理は食べられなかった事をエレナに辛い記憶として残るのであった。




