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勇者の盾は、もう要らず。  作者: あんころもち
第一歴、勇者の盾、その決別。
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第九話

 ──だから、


「そうだろう? 居ないんだろう? 足りないんだろう? 何もかもが、何もかもが。

ほら、考えてもみろよ。このままだったら、このままだったら──どうなると思う?」


「このまま、だったら……?」


「そうだ、このままだったら──何もないままだったら、何も出来ない、……何も守れないぜ?」


「あ……そうよ、このままじゃ、このままじゃ……」


「そう。例えば……侵攻。侵略。奪略。殺戮……奪われる、殺される、なす術無く、なす術無く。


──それで、いいのか?」


「……!


い、いいわけ……良いわけないじゃない! そんな、ただ、ただ奪われるだけなんて……殺されるだけなんて……そんな、そんなの……!「……だったら、掴めよ」……え?」


「掴んじまえよ、俺を。俺の手を──躊躇うことなんて、何もない。

それだけで……ほら。お前らは、救われる」


 こうして、垂らしてやる──自分じゃどうにもできない一歩を、無理矢理引っ張る蜘蛛の糸(言いわけ)を。


「あ、あ……あたし、は……」


「守ってやる。守ってやるよ。約束する、約束するとも──お前ら魔族を、あらゆる脅威から防いでやる、と。

ああ、だが、信じきれないよな──かつて自身たちを滅ぼした種族(やつら)の言葉なんて……」


 だったら、と。まだ惑いと迷いを残している彼女の前で、空いている手をゆっくりと、自身の心の臓の上にぺたりと置く。


「──この、命を懸けよう。

さっきの言葉、約束、約定──違えることがあらば、俺はこの下にあるそれ(・・)を、お前……いや、きみの目の前で、自ら潰す」


「……え、あ……」


「それでは、不満か?」


 そこでじっと、彼女の目を……夜空に浮かぶ銀色の河のような瞳を、見つめる。


 それにはまだ、色濃い迷いと躊躇いが、ふらふら、ふらふらと中で揺れていたけれど。


「……不満、なんてあるわけないじゃない。


いいわ、さっきの言葉と、それから約束──それをあんたが守る気でいるってのは、まあ、信じてあげる」


 やがてそのブレは、彼女の言葉に呼応するように、徐々に収まっていき──


「でも、一つだけ質問。


どうしてあんたは、そこまでして──」


「ん? んー……そう、そうか。確かに会って一日も経ってないヤツに命とか使うのは、ちょっとおかしいか。

うーん、まー……一言で言うのはちょいとムズいんだが……」


「…………」


「それでも、簡単に言うなら。


──それしか持っているもんがなかったから、かねえ」


 俺からの答えを聞いたときには。すっかり、跡形もなく、まるで最初からそうであったかのように、無くなってしまっていた。


 そして──


「ぷっ……」


 ──破顔。


「あっははふふふ……! 確かにね。あんた、今のあんたじゃほんと、それぐらいしか持ってないわ、おかしい……!」


 ころころと、おかしそうに……楽しそうに、鈴を転がしたような澄んだ声で、笑う。のは、いいんだが……いや、そんな笑わんでも。今の俺、一応キメ顔してんだぜ? なんか恥ずかしいじゃんよ、ここで笑われると。


 しかし……命を懸ける、か。まあ、実際今の俺にはどうでもいいものだし、別に減るもんじゃねえからなあ……むしろこれだけで信用が得られるなら安いもんだ。


 さあ、なんとも奇妙なことになっちまったが、まあこれも、長い余生だ……これからは何でもどうとでもなれの精神でいくとしよう。


「うし、じゃあこいつは離させてもらうぜ……つか悪かったな、ずっと握ってて」


「いや、いいわよ別に……あたしも悪かったわ、急にあんなことして。

それで……えっと……その……」


 すっ、と。彼女の手が、目の前に差し出される。


 これは一体──なんておとぼけかますほど、俺の感性は鈍くない。


「おう。これからよろしくな」


 なんて挨拶と、あと精一杯の笑顔と共に、今度は正面から、彼女の手を取り、軽く握った。


 よし、これでとりあえず当面の棲家(すみか)確保……っとと、まだ聞いてないことがあったな、


「おっと、一応聞いておきたいんだが……そっちの村って一体どこら辺にあるんだ? 人間でも普通に住めるトコか?」


「あー、そういえば言ってなかったわね、いや元々言うつもりはなかったんだけど……」


 えっとね、と、彼女は軽く思い出す素振りを見せ──しかし。


「あたしたちの村は、確か……あんたたち人間でいうところの……


──魔の大陸ってとこにあるわよ」


 そこは奇しくも──俺が終の棲家と定めた場所と同一であった。

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