第35話 廃神さん...再会する(11)
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●ブルーアース暦一年二月三十日(アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十二日)
【迷宮都市バベル~迷宮バベル~十階軍事教習施設】
【バルベルデ・ウォルフ】
「くっ、副団長! 此れでは、訓練にならんぞ?」
【エンプレス】
「甘いぞ、バル! 【十の災厄】は、我の他に九体いるんだぞ? お前達は相手が十の災厄なら、逃げ出すのか? 我がバベル黒騎士団に、臆病者は要らん! 弱音を吐くなら、立ち去れ!」
銀狼の獣精霊人の問いに、容姿からは想像出来ない、無表情の美女から激烈な言葉が飛ぶ。
其の言葉に、闘志を蘇らせていく獣精霊人達。
【エンプレス】
「死んでも蘇る訓練場所で、甘えた事を言うな! 実戦ならば、お前達は疾うに死んでおったぞ!」
【氷狼エンプレス】の感情の無い、鋭い言葉に、辺りは静まり返る。此処は、迷宮【バベルの塔】の十階に位置する軍事演習施設【無限の戦場】。
此の軍事演習施設【無限の戦場】の領域内ならば、死んでも蘇る事が可能。効率的に死の恐怖に打ち勝ち(麻痺するとも言う)、戦闘経験値も積み重ねていく、戦闘中毒者には垂涎の場所だった。
【ミラ・ブレイギィ】
《《ねえねえ、カルマさま。私も参加したら駄目かな?》》
軍事教習施設の上空から、演習場を見下ろしていた俺に、甘えた声で問い掛ける金髪碧眼の幼女。紅い衣に、額に紅い真緋石、頭の上には狐耳がぴょこんと生える。背後でぶんぶんと振られている尻尾は、ふんわりと黄金色の綿菓子のように揺れていた。
「ミラ、お前は此の異界【ブルーアース】のシステムメッセージなんだぞ? 解っているのかな、自分の仕事が?」
《《解っています、......よ?》》
疑問形で俺を見つめる金髪幼女【ミラ】に嘆息する。システムメッセージに姿と意志を持たしたのは、何を隠そうカルマ自身だった。
否、此の世界を創造した時に、面白いと想った事が現実と為っただけだった。
後悔はしていない。愛苦しい姿と、確りと仕事をしているミラに、非常に満足はしている。
だが、天真爛漫な性格故に、心配して案じているのも事実だった。
「ミラ、参加するには最低でも、戦える技術を身に付けてからで頼むよ。此の軍事演習施設内なら、死ぬ事は無いから良いけど。ミラも姿形が在ると言う事は、死んでしまう事だって在るんだからね?」
《《は~い♪ 解ってますよ~カルマさま♪》》
解っていると言いながら、軍事施設へ降りて行こうとするミラに、俺は再び嘆息する。
解ってないじゃないか、......ったく、仕方の無い奴だ。
え? 技術は在るって? へえ~、いつ何処で、誰に教わったんだい?
え? 先生は今地上で演習している者、全員からだって?
え? 私は【システムメッセージ】だから、此の【ブルーアース】に生きる全てのものの経験が、知識となっているだって?
へぇ~、システムメッセージって、凄い不正行為な存在なんだね......
......俺もびっくりだよ!
FHSLG【アルグリア戦記】に於いて、システムメッセージが意志を持つ事は、有り得ない事だった。
もし、システムメッセージが自分の意志で話し、プレイヤーを助けるならば、システムメッセージ其の物が【埒外不正行為】な存在に為るだろう。
幾千万の住民の経験の全てが、システムメッセージの知識として蓄えられる。
否、【ブルーアース世界】だけではなく、【アルグリア世界】では、どうだろうか?
もし、アルグリア世界のシステムメッセージに、【ミラ・ブレイギィ】と同様に意志があったとしたら、【アルグリア大陸に生きる全ての存在】と、【幾千万ものプレイヤーの経験】を知識として持つ、其れは埒外不正行為を超える存在なのでは?
そう、言うなれば【究極不正行為】に他ならない......
●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十五日
【エルブリタニア帝国デルス領~領都ブリュンヒルト~水の神殿《ネロノーズ》】
【フィアルス・ビクトール】
「此のままでは、ブリュンヒルトで暴動が起こってしまうでしょう。其処の対応策は、大丈夫なのですか?」
【マイト・ニス】
「巫女様、デニス領の代官は逃げだし、統制を指揮すべき者が居りません。しかしながら、キシソス領・ナダリス領・ミクタス領の反乱に参加しない領民の多くが、此処ブリュンヒルトに逃げ集まって来て居ります。現状でも施し(食事)が滞って居ります。また、食料不足に喘ぐブリュンヒルトの住民に不穏な空気が流れております!」
デニス領ブリュンヒルトは、【水精霊人】と【海精霊人】にとって、特別で神聖な場所だった。
海竜様を奉る【水の神殿《ネロノーズ》】は、水と共生する者達の心の拠り処であり、信仰する者にとって救いの場所なのだから。
「マイト、ネロノーズの名の下に、ブリュンヒルトを掌握します。此のままでは、座して死を待つだけです。お前達、神殿騎士団【ネロウ】の協力を要請します!」
「はっ! 【水の巫女】様!」
デニス領ブリュンヒルトは、急激な人口増加により、食料が枯渇しようとしていた。其の現状を、正確に理解して、其の対策を指揮する者が居ない現状では、水の神殿が指揮を執るしかなかった。
水の神殿《ネロノーズ》の迅速な行動により、デニス領以外の三領から、糧食がブリュンヒルトに運び込まれた。
しかし、民の安寧を憂いた此の行動が、後に在る災いを生む事になるのだった。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十三日
【エルブリタニア帝国~帝都エルシィ~貴族街】
【???】
「くっくくく! 馬鹿共が、我が手の上で、良く踊りおるわ!」
帝都【エルシィ】の一画にある館の一室で、蝋燭の明かりが差す中。葡萄酒の入ったグラスを片手に、眉目秀麗な顔を醜く歪ませながら、若い男は独り言ちる。
「我が念願が叶う日も近い、......」
其の若い男は、自らの首元から、銀色の細い鎖の首飾りを手繰り寄せ、徐に目を瞑ったのだった。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十五日
【エルブリタニア帝国~帝都エルシィ~元老院】
【アレグス・エルヴィス】
「真だな、間違いは無いのだな?」
【伝令兵】
「はっ! ラクトリウス殿下の生存を確認致しました、......」
アダーク領からの伝令兵を下がらせると、黒檀の長机を前にして九つの椅子に腰を掛ける、九人の元老から安堵の声が漏れた。
エルブリタニア帝国第一皇子、ラクトリウス・エルブリタニア殿下の存命が確認された。しかし、殿下は昏睡の状態で、眠りから一向に覚めないと言う。
遊撃騎士団【双頭の竜】にも生存者は居るようだが、殿下と同じように眠りから覚めない。
予断を許さない状況ではあるが、殿下が存命ならば、今後の動き次第で挽回出来る機会もあると、元老達はアダーク領の反乱鎮圧と並行して、旧ガイアス公国の反乱の鎮圧軍を派遣する事を決定した。
「さて、旧ガイアス四領の反乱討伐軍の指揮を、誰に執って頂くかだが?」
エルヴィス侯爵の問い掛けに、他の元老達は思案の素振りも見せない。
「レクトリウス殿下に一票!」
「ベリトリアス殿下に一票!」
皇族派のアルスシア・サントーリ公爵が、北部帝国騎士団副団長の【レクトリアス・エルブリタニア】第二王子を推挙する。
対して、中立派のニックス・バルブルッチ辺境伯が西部帝国騎士団副団長の【ベリトリアス・エルブリタニア】第三王子を推挙する。
其々の派閥が推す、次期皇帝候補の名が挙がる。票数は現状で、実質三対三である。
貴族派の票で、旧ガイアス四領への討伐軍の指揮官が決定される。
「では、評決を取ろう! ......」
議長であるエルヴィス候の言葉に、他の元老達が賛成の意を返す。
評決の結果は五対四で、ベリトリアス第三皇子の出陣が決まったのであった。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十六日
【エルブリタニア帝国~ナダリス領~グルト城砦】
【アダム・ギエロア】
「計画の進捗状況は、どうなっている?」
【ミリウス・ゾロ】
「はっ! 現在、ナダリス領五千、キシソス領六千、ミクタス領五千、デルス領二千の計一万八千。懸念すべきは、デルスの水の神殿《ネロノーズ》に、反乱を忌避した住民が移動している事です!」
晴天の蒼が何処までも続く空の下。城砦の城壁の上から、見渡すグルト平原。吹く風は、何故か纏わり付くようにネットリとしている。
副官であるミリウスの言葉に、己が巻き起こし、此れから更に巻き起こす惨劇を想像する。もう後戻りは出来ない。闇森精霊人であり、元ギエロア大王国の直系の王族である我の道は唯一つ。
エルブリタニア帝国と、アルバビロニア大帝国を滅ぼす事。
其れだけを生き甲斐に、恥を晒し生き永らえて来たのだ。
我の進む道は、血の滴り落ちる冥府道。宿願が達成しても、アルグリア大陸に血が流れ、怨嗟の呪縛が紡がれる。
全てを飲み込む。罪も罰も全ては、我【アダム・ギエロア】が為し、受けるべきものなり。
「帝国の動き次第だな。ナダリス領に討伐軍が入ったと同時に、同盟国に繋ぎを取れ!」
「はっ!」
復讐の炎により、己の身処か、アルグリア大陸其の物を、戦火の渦に叩き込もうとしている男は、苦悶の想いを隠しながら、悪魔の所業を実行に移していくのだった。
【カルマ】
「アダム、......」
蒼天の青空を背景にして、クルト城砦の上空に浮かぶカルマが真っ裸で呟く!
其の視線の先には、古き戦友が、血の涙を流しながら、修羅の道を突き進む姿が映っていたのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
アルグリア大陸の北東中央寄りに位置するバロック王国。
王国を統治する山精霊人は、大の酒好きで、頑固で職人肌の者が多かった。
在る時、東方の旧アサン皇国訛りの集団が訪れ、在る装備の作成を依頼した。
其の装備は、雷を防ぎ、雷を斬るものだった。
そして日が経ち、職人の矜持と意地が、其の装備を完成させた。
其の装備を身に纏った集団は、東を眺め、静かに歩き出した。
其の装備を作成した職人は、後日仲間に語った。
俺は“とんでもない物”を作ったのかも知れないと。
其の職人の名は、【サクエル・アスウォーカー】。
曾て、バロックの鍛冶聖と呼ばれた男の息子だった。
To be continued! ......
新章【傭兵騎士団乱舞編】、まだ始まったばかりですが、如何だったでしょうか?
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