表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルグリア戦記 ~1/31,104,000秒の世界~  作者: 虎口兼近
第4章 詐欺師飛翔編
32/40

第31話 廃神さん...傍観する(14)

毎月...3日...13日...23日......更新予定です。

●アルグリア大陸暦千三百八十年十二月四日 

【ベニアス王国王都ヘテナ~王城ベニアス】






【グレーテス・ベニアス】

「ナーク、......ローグを、た、頼みましたよ......」




【ミクナーク・ベニアス】

「嫌だ、嫌だよ母さま! ごめん、ごべんなざい、が、があざまぁ......(お、俺の、俺の所為(せい)で......)」






 ベニアスの王城の一室で、皆に慕われていた王妃グレーテス・ベニアスが身罷(みまか)った。




 王妃を知る全ての者が涙し、その死を(いた)んだ。




 王妃は最後まで、第二王子の未来を案じていたと人は言う。




 しかし、王妃の想い別にあった。




 神童(しんどう)と言われ、天才と持て(はや)され、ベニアスの明星(みょうじょう)(うた)われる第一王子の未来こそ案じていた。




 第一王子は、正真正銘の天才であった。




 天才故に、挫折を知らなかった。




「母さま、僕が母さまの病気を必ず治して見せます!」




 屈託なく己に告げる、第一王子の未来を、王妃は案じた。




 この子は、心が育っていない。




 まだ、天才の兄を持つ弟の方が、心が強く育っている。




 王妃の病を治癒するには、伝説の秘薬エリクサーが必要だった。




 過去に於いて、不治の病で治癒した者はエリクサーを使用した者だけ。




 ベニアス王国にエリクサーを求める伝手も、財力も無い。




 第一王子は錬金術で、エリクサーを作って見せると豪語する。


 ()の古の錬金王、レジッド・カバデルアでも為し得なかった、錬金術の秘薬エリクサーの作成を、第一王子が為せるとは王妃は思えなかった。




 王妃は唯々、第一王子の未来を案じた。




 それ故に第一王子に、第二王子を頼むと敢えて託した。




 全ては神童と呼ばれる第一王子の為に。




 己は病で、命を落とすだろう。




 それにより、息子の心も折れかねない。




 (たと)え折れたとしても、弟を守ると言う使命(言い訳)があれば、息子は生きられる。




 全ては第一王子、ミクナークの為だった。






 母は亡くなり、第一王子は己の力量を知り、己を嘘つきと(さいな)む。




「ナーク、......ローグを、た、頼みましたよ......」 




 神童は自問自答する、“己は一体何をしている?” “嘆いている暇はない!”




 母を助ける約束を守れなかった第一王子は、母との約束を守る為に動き出す。




 それから、第一王子は第二王子に全てを残す為、動き出した。




 ベニアス王国の地形は攻めるに難く守るに易い、そこで防御特化の騎士団の育成を始めた。




 そして、経済と農業の融合による、国力の増強を推進した。




 全ては第二王子の為に、......。




 (いや)、母との誓いを守れなかった己の贖罪(しょくざい)の為に、......。




 そして、第二王子の未来への布石を、全てうち終わった第一王子は、表舞台から退場した。

 





 FHSLG【アルグリア戦記】のプレイヤーには、ゲームシステムと言う最高の恩恵(おんけい)が与えられている。




 情報表示から個体の相関図を確認すれば、その個体の過去を紐解(ひもと)ける。




 詐欺師ナークス・アエニブスの相関図は、母親のみ。




 その母親の名も、【???】と記載されているだけだ。




 人生の全てをゲームに捧げた 廃人(ゲーマー)の中の廃人(ゲーマー)、【廃神(オーバーアウト)】と呼ばれた変態は、ナークス・アエニブスの人物相関図に不自然さを感じ、それを解き明かす。




 そして、辿り着いた真実。




 その真実により、ナークスは()()、変態は()()()で完全制覇(クリア)を成し遂げたのだった。





 

●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十六日 

【アルバビロニア大帝国~帝城プロロス】






 私を嘲笑(ちょうしょう)し、(さげす)む声が聴こえる。




 ああ、......私の魔法は切れたのか。




 (みじ)めだ、いつものように......土下座し()(つくば)るか。




 頭が朦朧(もうろう)として、判断が出来ない。




 周りの商人達の、己を嘲笑(あざわら)う口だけが見える。




 周りの商人達の、私を(さげす)む声だけが聞こえる。

 



 格好悪いな、......(みじ)めだ。




 このまま全てを放り出せば、......楽になれる。




 目が霞かすみ、......己の息づかいが、大きく聞こえる。




 私の目に矍鑠(かくしゃく)とした、ノクレ・オーディスが、己を安堵の表情で見詰める姿が映る。




 その商人は言った、“親友を助けたい”と“力を貸して欲しい”と。




 そう言った商人は、私を信じ切った眼差しで見詰めている。




 ああ、目が(かす)み、......あの少女の(うな)されている姿が見える。




 健気にも己の未来よりも、父親の未来を案ずる少女。




 ああ、母さん。




 私を助けてくれ。




 (いや)、あの少女を助けてくれ。




 あの少女の未来は、これからなんだ。




 少女は亡き母親の歌声が好きだった。




 少女は母親のように、歌声で人を元気づけるのが、夢だと語った。




 少女に、歌を唄わせてあげたいんだ。




 少女に、幸せになって貰いたいんだ。




 少女の笑顔を見たいんだ、母さん!




 はぁ、はぁ、......己の息づかい()()が、聞こえる。




 苦しい、楽になりたい。




 でも、......少女を助けたいんだ。




 私は諦めない、諦める訳にはいかない、......少女は私よりも苦しんでいる。




 私が諦める訳にはいかないんだ!




 そう己を鼓舞した時に、声が頭に響いた。






 そして、刻が止まった。






 その声は静かに、穏やかに問い掛ける。




 お前は良くやったと。




 もう苦しまなくていいと。




 楽になれと。




 母を助けられなかった想い。




 その想い(ゆえ)に、(わずら)い、(もだ)え、苦悩したのだろうと?




 その想い(ゆえ)に、少女を助けたいのだろうと?




 (いや)、己が楽になりたいからなのだろうと?




 違う、違う、違う。




 私は思わず、強く、激しく、それを否定した。




 図星(ずぼし)だった。




 本当は己が楽になりたいだけで、母への懺悔も、少女への慈悲も、全て偽りだと建前だと暴露(ばれ)るのが怖かったのかも知れない。




 声は(なお)も、優しく問い掛ける。




 この危機を脱する手段は、道は余り多くないと。




 ()()()()()だけでは、無理だ足りないと。




 ()()()()()だけでは、無理だ不足だと。




 周りを、現実を、見ろと。




 明らかに不審なお前の振る舞いを見て、皆は感じ、覚ったと。




 お前が偽物の二枚舌であると、皆が解っていると。




 許容し、現実を認め受け入れ、楽に為れと。




 ...だが、お前は本当にそれで良いのかと?




 満足なのかと?




 静かに、暖かいその声は、私に問い掛ける。


 




 (いや)だ! (いや)だ! (いや)だ!






 楽になれる訳がない! 救われる訳がない! 満足な訳がない!




 私の心の奥底にある“何か”が、(げん)として拒絶し、言霊(ことだま)(つむ)ぐ。




 ()()()は告げる、母さまとの誓いを守れなかった、己を許せなかったと。




 ()()()は叫ぶ、母さまの想いに気付けなかった、己を許せなかったと。




 そう悔しかった、無念だった、後悔したと!




 母さまは死にゆく己よりも、残される(心の声)を案じていたと!




 心の声()は後悔した、苦しかった、楽になりたかったと、懺悔した。






 ああ、......母さまと重なる、母さまの面影(おもかげ)を、想いを、少女に感じる。




 母と少女が重なる。




 あの少女を、助けるんだ!




 己よりも父を案じるあの少女を、助けたいんだ!






 頭に響く声は、静かに呟く。




『少女を助けても、お前の母は生き返らない......』




 ()()()()と、私の想いが融合し、それを強く()ね付ける!






 ()()()()()()()






 あの少女を、助けたい!




 己よりも父親を案じる、あの少女の想いを、願いを、少女自身を、私は救いたいんだ!




 私は問い掛ける。




 あなたは、一体誰なのかと。




 声は答える。

 



 “俺はお前で、お前の願いを叶える者だ”と。




 ならば助けて下さい、あの少女をと。




 あの余命幾ばくも無い、あの少女を、助けて下さいと。




 それが無理ならば、この危機を脱する力を、()にくれと。




 その為なら、()の命も、心も、全て捧げると。




 母と重なる少女を助けたいと、......どうか、どうか!




 どうか、助けてくれ(心の想い)! お願いします(私の想い)




 ()()は、その声に乞い願った!






【カルマ】

『その願い聞き届けた......』






 そして、刻が動き出す。






 商人達の視線は嘲笑と蔑みに(あふ)れ、詐欺師に本性を見せろと浴びせ掛ける。




 只、矍鑠(かくしゃく)とした老商人ノクレの視線だけが、詐欺師を信じる意志に満ちていた。




 詐欺師は脂汗を流し、震え、その(かよわ)い姿は、覚束(おぼつか)ない。




 だが、詐欺師の目だけが異様な光を(とも)し、朦朧(もうろう)とした様で声を紡ぐ。






【ナークス・アエニブス】

言霊(ことだま)に、......想いを。言霊(ことだま)に、......願いを。我は、さ、詐欺師な、り。......我は、人を欺き、己を欺く者なり!」






 『アルグリア戦記』でナークス・アエニブスを選択するプレイヤーの多くは、称号《二枚舌》の効果である嘘・虚言の効果(極大)【交渉時の成功率が八十パーセント上昇する】と言う超不正行為(スーパーチート)な博打性に、夢を見る。




 そして、交渉失敗時に嘘・虚言が必ず露見する効果(極大)【失敗時に(なにがし)かの罰則が付与される。罰則は交渉内容により変化する】の現実に、打ち(ひし)がれる。






 では、......詐欺師は王妃マルガレーテの糾弾によって、“何を”失敗時の代償として、払ったのか?




 詐欺師が払った代償は、()()()()()だった。




 その封印は、決して解かれる事がない()()だった。




 本来の罰則は、“詐欺罪による詐欺師の死”だった。




 それ故に、“詐欺師の死”と同様と見做(みな)された罰則が適用され、“封印の解除”が罰則として、()()()()()




 ......封印されていたのは、“ミクナーク・ベニアスの記憶(きおく)”だった。






 詐欺師は称号《二枚舌》の罰則として、己から()()を選択した。




 罰則が選択出来ないと、誰が決めた?




 思い込みによって歪められた、真実(可能性)




 【廃神(オーバーアウト)】と呼ばれた変態は、覚っていた。




 【アルグリア戦記】の、この【アルグリア世界】の隠された(マスク)可能性(データ)を。




 詐欺師に(ささや)いたのは、記憶を呼び覚ます切っ掛けの【言葉(文言)】だけだった。






 詐欺師は、言霊(ことだま)を紡ぐ。




 その言葉に、想いを、願いを、込めて紡ぐ。




 詐欺師が言霊(ことだま)を紡ぐと、(あたた)かい朱色の光が、母親の(よう)にその身を、優しく包み込んだ。






 詐欺師は、人を欺く者である。




 そして、()()()()()()()()()()()()()()である。






 詐欺師の発した言葉に、周囲の者達は、騒然とし詐欺師を罵倒する。




「やはり二枚舌だったのか! この詐欺師め!」




 その様子を見守っていた、大帝が採決を下す。

 





【アレキサンドロス・アルバビロニア】

「化けの皮が剥がれたか、......二枚舌よ? 我とミクナーク殿が以前からの知人と知らない愚か者よ!」






 大帝の雷の如き威圧が、詐欺師に直撃するも、詐欺師は何食わぬ様子で大帝に告げる。






【ミクナーク・ベニアス】

「愚か者はお前だ! 俺を忘れるとは()けたな、爺さん!」






 大帝を罵倒(ばとう)し、周りの群衆(エキストラ)をも居丈高に罵倒(ばとう)する。






【ミクナーク・ベニアス】

「馬鹿ばっかりか? 俺はミクナーク・ベニアス。お前達、愚か者に二枚舌と呼ばれる男だ!」






 そして、詐欺師の逆襲(蹂躙)が始まった!






●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十六日 

【帝都プロローズ~ロシナンテ商会百貨店付近】






 今まさに号令を掛けようとした、プロローズの裏社会の首領(ドン)の頭に、()()響く。 






【カルマ】

『待て! ......』






 首領(ドン)が、




「野郎共、い......」




 と襲撃の号令を掛ける途中で、瞠目(どうもく)した表情で固まった。




 号令を待っていた配下の男達が当惑して、首領(ドン)を問い質すと、首領(ドン)は、




「待て、少し待て!」




 と発したまま瞑目(めいもく)した。




 首領(ドン)の頭に、声が響く。




 お前の娘の為に、命を賭けて戦っている者がいると。




 今お前達が百貨店を襲撃すれば、全てが無駄になると。




 今少し待てば、お前の娘は助かると。




 首領(ドン)は問う。




 あの三流の詐欺師に全てを賭けれない、(いな)、待てないと。




 娘は、死ぬ運命だと。




 娘の母親と同じ、運命だと。




 娘の母親と同じ様に、神に祈って待つ訳には、いかないと。




 声は告げる。




 あの詐欺師は、何故お前に正体を明かしたのか、何故己から命を賭ける様な真似をしたのかと。




 お前の思考世界は、“その答え”が解ったのかと。




 人の感情を色で見えるお前の目には、“何が”見えたのだと。




 首領(ドン)は、再度問う。




 一体お前は、何者なのかと。




 声は告げる。




 “俺はお前で、お前の願いを叶える者だ”と。




 首領(ドン)は願う。




 娘を助けて欲しいと。




 ベスティアを助けて欲しいと。




 その為なら何でもするし、己の命も捧げると。




 声は告げる。






【カルマ】

『その願い聞き届けた......』






 首領(ドン)の目の前に、一枚の封筒が舞い落ちてきた。




 その封筒の中には、ロシナンテ商会への入場券と、高級回復薬の引き換え証と、手紙が入っていた。




 その手紙には、“今は詐欺師を信じて、その薬で刻を稼げ!”とあった。




 (いぶか)しがる配下を抑え、首領(ドン)は襲撃中止を命じ、百貨店に走り出した。






【カルマ】

『間に合え! ......』






 百貨店の上空で、空中に浮かぶカルマが真っ裸で呟く!




 その視線の先には、娘の為に必死に走る、父親の姿が映っていた。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






 アルグリア十二柱神、......【創造神カリダド】が創りし神々達。


 その一柱である法と秩序を司る、【天空神ライブラ】が呟く。


 “面白い、実に面白い”と。








 To be(続きは) continued(また次回で)! ......

ご都合主義満載! 出来れば【詐欺師飛翔編】の締めの33話まで、お付き合い頂ければ、幸いです!


ミクナーク、早く話を進めろと思った人は、★評価・ブックマーク登録・感想よろしくお願いします!


最後に、読者の皆様に感謝を、お読み頂き、ありがとうです!


【2020/07/21 改訂しました】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ