第31話 廃神さん...傍観する(14)
毎月...3日...13日...23日......更新予定です。
●アルグリア大陸暦千三百八十年十二月四日
【ベニアス王国王都ヘテナ~王城ベニアス】
【グレーテス・ベニアス】
「ナーク、......ローグを、た、頼みましたよ......」
【ミクナーク・ベニアス】
「嫌だ、嫌だよ母さま! ごめん、ごべんなざい、が、があざまぁ......(お、俺の、俺の所為で......)」
ベニアスの王城の一室で、皆に慕われていた王妃グレーテス・ベニアスが身罷った。
王妃を知る全ての者が涙し、その死を悼んだ。
王妃は最後まで、第二王子の未来を案じていたと人は言う。
しかし、王妃の想い別にあった。
神童と言われ、天才と持て囃され、ベニアスの明星と謳われる第一王子の未来こそ案じていた。
第一王子は、正真正銘の天才であった。
天才故に、挫折を知らなかった。
「母さま、僕が母さまの病気を必ず治して見せます!」
屈託なく己に告げる、第一王子の未来を、王妃は案じた。
この子は、心が育っていない。
まだ、天才の兄を持つ弟の方が、心が強く育っている。
王妃の病を治癒するには、伝説の秘薬エリクサーが必要だった。
過去に於いて、不治の病で治癒した者はエリクサーを使用した者だけ。
ベニアス王国にエリクサーを求める伝手も、財力も無い。
第一王子は錬金術で、エリクサーを作って見せると豪語する。
彼の古の錬金王、レジッド・カバデルアでも為し得なかった、錬金術の秘薬エリクサーの作成を、第一王子が為せるとは王妃は思えなかった。
王妃は唯々、第一王子の未来を案じた。
それ故に第一王子に、第二王子を頼むと敢えて託した。
全ては神童と呼ばれる第一王子の為に。
己は病で、命を落とすだろう。
それにより、息子の心も折れかねない。
喩え折れたとしても、弟を守ると言う使命があれば、息子は生きられる。
全ては第一王子、ミクナークの為だった。
母は亡くなり、第一王子は己の力量を知り、己を嘘つきと苛む。
「ナーク、......ローグを、た、頼みましたよ......」
神童は自問自答する、“己は一体何をしている?” “嘆いている暇はない!”
母を助ける約束を守れなかった第一王子は、母との約束を守る為に動き出す。
それから、第一王子は第二王子に全てを残す為、動き出した。
ベニアス王国の地形は攻めるに難く守るに易い、そこで防御特化の騎士団の育成を始めた。
そして、経済と農業の融合による、国力の増強を推進した。
全ては第二王子の為に、......。
否、母との誓いを守れなかった己の贖罪の為に、......。
そして、第二王子の未来への布石を、全てうち終わった第一王子は、表舞台から退場した。
FHSLG【アルグリア戦記】のプレイヤーには、ゲームシステムと言う最高の恩恵が与えられている。
情報表示から個体の相関図を確認すれば、その個体の過去を紐解ける。
詐欺師ナークス・アエニブスの相関図は、母親のみ。
その母親の名も、【???】と記載されているだけだ。
人生の全てをゲームに捧げた 廃人の中の廃人、【廃神】と呼ばれた変態は、ナークス・アエニブスの人物相関図に不自然さを感じ、それを解き明かす。
そして、辿り着いた真実。
その真実により、ナークスは化け、変態は詐欺師で完全制覇を成し遂げたのだった。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十六日
【アルバビロニア大帝国~帝城プロロス】
私を嘲笑し、蔑む声が聴こえる。
ああ、......私の魔法は切れたのか。
惨めだ、いつものように......土下座し這い蹲るか。
頭が朦朧として、判断が出来ない。
周りの商人達の、己を嘲笑う口だけが見える。
周りの商人達の、私を蔑む声だけが聞こえる。
格好悪いな、......惨めだ。
このまま全てを放り出せば、......楽になれる。
目が霞かすみ、......己の息づかいが、大きく聞こえる。
私の目に矍鑠とした、ノクレ・オーディスが、己を安堵の表情で見詰める姿が映る。
その商人は言った、“親友を助けたい”と“力を貸して欲しい”と。
そう言った商人は、私を信じ切った眼差しで見詰めている。
ああ、目が霞み、......あの少女の魘されている姿が見える。
健気にも己の未来よりも、父親の未来を案ずる少女。
ああ、母さん。
私を助けてくれ。
否、あの少女を助けてくれ。
あの少女の未来は、これからなんだ。
少女は亡き母親の歌声が好きだった。
少女は母親のように、歌声で人を元気づけるのが、夢だと語った。
少女に、歌を唄わせてあげたいんだ。
少女に、幸せになって貰いたいんだ。
少女の笑顔を見たいんだ、母さん!
はぁ、はぁ、......己の息づかいだけが、聞こえる。
苦しい、楽になりたい。
でも、......少女を助けたいんだ。
私は諦めない、諦める訳にはいかない、......少女は私よりも苦しんでいる。
私が諦める訳にはいかないんだ!
そう己を鼓舞した時に、声が頭に響いた。
そして、刻が止まった。
その声は静かに、穏やかに問い掛ける。
お前は良くやったと。
もう苦しまなくていいと。
楽になれと。
母を助けられなかった想い。
その想い故に、煩い、悶え、苦悩したのだろうと?
その想い故に、少女を助けたいのだろうと?
否、己が楽になりたいからなのだろうと?
違う、違う、違う。
私は思わず、強く、激しく、それを否定した。
図星だった。
本当は己が楽になりたいだけで、母への懺悔も、少女への慈悲も、全て偽りだと建前だと暴露るのが怖かったのかも知れない。
声は尚も、優しく問い掛ける。
この危機を脱する手段は、道は余り多くないと。
お前の想いだけでは、無理だ足りないと。
お前の願いだけでは、無理だ不足だと。
周りを、現実を、見ろと。
明らかに不審なお前の振る舞いを見て、皆は感じ、覚ったと。
お前が偽物の二枚舌であると、皆が解っていると。
許容し、現実を認め受け入れ、楽に為れと。
...だが、お前は本当にそれで良いのかと?
満足なのかと?
静かに、暖かいその声は、私に問い掛ける。
否だ! 否だ! 否だ!
楽になれる訳がない! 救われる訳がない! 満足な訳がない!
私の心の奥底にある“何か”が、儼として拒絶し、言霊を紡ぐ。
心の声は告げる、母さまとの誓いを守れなかった、己を許せなかったと。
心の声は叫ぶ、母さまの想いに気付けなかった、己を許せなかったと。
そう悔しかった、無念だった、後悔したと!
母さまは死にゆく己よりも、残される俺を案じていたと!
心の声は後悔した、苦しかった、楽になりたかったと、懺悔した。
ああ、......母さまと重なる、母さまの面影を、想いを、少女に感じる。
母と少女が重なる。
あの少女を、助けるんだ!
己よりも父を案じるあの少女を、助けたいんだ!
頭に響く声は、静かに呟く。
『少女を助けても、お前の母は生き返らない......』
心の想いと、私の想いが融合し、それを強く撥ね付ける!
そ・れ・が・ど・う・し・た?
あの少女を、助けたい!
己よりも父親を案じる、あの少女の想いを、願いを、少女自身を、私は救いたいんだ!
私は問い掛ける。
あなたは、一体誰なのかと。
声は答える。
“俺はお前で、お前の願いを叶える者だ”と。
ならば助けて下さい、あの少女をと。
あの余命幾ばくも無い、あの少女を、助けて下さいと。
それが無理ならば、この危機を脱する力を、俺にくれと。
その為なら、私の命も、心も、全て捧げると。
母と重なる少女を助けたいと、......どうか、どうか!
どうか、助けてくれ! お願いします!
私達は、その声に乞い願った!
【カルマ】
『その願い聞き届けた......』
そして、刻が動き出す。
商人達の視線は嘲笑と蔑みに溢れ、詐欺師に本性を見せろと浴びせ掛ける。
只、矍鑠とした老商人ノクレの視線だけが、詐欺師を信じる意志に満ちていた。
詐欺師は脂汗を流し、震え、その孅い姿は、覚束ない。
だが、詐欺師の目だけが異様な光を灯し、朦朧とした様で声を紡ぐ。
【ナークス・アエニブス】
「言霊に、......想いを。言霊に、......願いを。我は、さ、詐欺師な、り。......我は、人を欺き、己を欺く者なり!」
『アルグリア戦記』でナークス・アエニブスを選択するプレイヤーの多くは、称号《二枚舌》の効果である嘘・虚言の効果(極大)【交渉時の成功率が八十パーセント上昇する】と言う超不正行為な博打性に、夢を見る。
そして、交渉失敗時に嘘・虚言が必ず露見する効果(極大)【失敗時に某かの罰則が付与される。罰則は交渉内容により変化する】の現実に、打ち拉がれる。
では、......詐欺師は王妃マルガレーテの糾弾によって、“何を”失敗時の代償として、払ったのか?
詐欺師が払った代償は、封印の解除だった。
その封印は、決して解かれる事がない想いだった。
本来の罰則は、“詐欺罪による詐欺師の死”だった。
それ故に、“詐欺師の死”と同様と見做された罰則が適用され、“封印の解除”が罰則として、認められた。
......封印されていたのは、“ミクナーク・ベニアスの記憶”だった。
詐欺師は称号《二枚舌》の罰則として、己から罰則を選択した。
罰則が選択出来ないと、誰が決めた?
思い込みによって歪められた、真実。
【廃神】と呼ばれた変態は、覚っていた。
【アルグリア戦記】の、この【アルグリア世界】の隠された可能性を。
詐欺師に囁いたのは、記憶を呼び覚ます切っ掛けの【言葉】だけだった。
詐欺師は、言霊を紡ぐ。
その言葉に、想いを、願いを、込めて紡ぐ。
詐欺師が言霊を紡ぐと、暖かい朱色の光が、母親の様にその身を、優しく包み込んだ。
詐欺師は、人を欺く者である。
そして、超一流の詐欺師は、己をも欺く者である。
詐欺師の発した言葉に、周囲の者達は、騒然とし詐欺師を罵倒する。
「やはり二枚舌だったのか! この詐欺師め!」
その様子を見守っていた、大帝が採決を下す。
【アレキサンドロス・アルバビロニア】
「化けの皮が剥がれたか、......二枚舌よ? 我とミクナーク殿が以前からの知人と知らない愚か者よ!」
大帝の雷の如き威圧が、詐欺師に直撃するも、詐欺師は何食わぬ様子で大帝に告げる。
【ミクナーク・ベニアス】
「愚か者はお前だ! 俺を忘れるとは呆けたな、爺さん!」
大帝を罵倒し、周りの群衆をも居丈高に罵倒する。
【ミクナーク・ベニアス】
「馬鹿ばっかりか? 俺はミクナーク・ベニアス。お前達、愚か者に二枚舌と呼ばれる男だ!」
そして、詐欺師の逆襲が始まった!
●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十六日
【帝都プロローズ~ロシナンテ商会百貨店付近】
今まさに号令を掛けようとした、プロローズの裏社会の首領の頭に、声が響く。
【カルマ】
『待て! ......』
首領が、
「野郎共、い......」
と襲撃の号令を掛ける途中で、瞠目した表情で固まった。
号令を待っていた配下の男達が当惑して、首領を問い質すと、首領は、
「待て、少し待て!」
と発したまま瞑目した。
首領の頭に、声が響く。
お前の娘の為に、命を賭けて戦っている者がいると。
今お前達が百貨店を襲撃すれば、全てが無駄になると。
今少し待てば、お前の娘は助かると。
首領は問う。
あの三流の詐欺師に全てを賭けれない、否、待てないと。
娘は、死ぬ運命だと。
娘の母親と同じ、運命だと。
娘の母親と同じ様に、神に祈って待つ訳には、いかないと。
声は告げる。
あの詐欺師は、何故お前に正体を明かしたのか、何故己から命を賭ける様な真似をしたのかと。
お前の思考世界は、“その答え”が解ったのかと。
人の感情を色で見えるお前の目には、“何が”見えたのだと。
首領は、再度問う。
一体お前は、何者なのかと。
声は告げる。
“俺はお前で、お前の願いを叶える者だ”と。
首領は願う。
娘を助けて欲しいと。
ベスティアを助けて欲しいと。
その為なら何でもするし、己の命も捧げると。
声は告げる。
【カルマ】
『その願い聞き届けた......』
首領の目の前に、一枚の封筒が舞い落ちてきた。
その封筒の中には、ロシナンテ商会への入場券と、高級回復薬の引き換え証と、手紙が入っていた。
その手紙には、“今は詐欺師を信じて、その薬で刻を稼げ!”とあった。
訝しがる配下を抑え、首領は襲撃中止を命じ、百貨店に走り出した。
【カルマ】
『間に合え! ......』
百貨店の上空で、空中に浮かぶカルマが真っ裸で呟く!
その視線の先には、娘の為に必死に走る、父親の姿が映っていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
アルグリア十二柱神、......【創造神カリダド】が創りし神々達。
その一柱である法と秩序を司る、【天空神ライブラ】が呟く。
“面白い、実に面白い”と。
To be continued! ......
ご都合主義満載! 出来れば【詐欺師飛翔編】の締めの33話まで、お付き合い頂ければ、幸いです!
ミクナーク、早く話を進めろと思った人は、★評価・ブックマーク登録・感想よろしくお願いします!
最後に、読者の皆様に感謝を、お読み頂き、ありがとうです!
【2020/07/21 改訂しました】




