第28話 廃神さん...傍観する(11)
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●アルグリア大陸暦千三百八十四年四月二十八日
【アレキサンドロス特等学園】
【マルガレーテ・シイトス】
「ミクナーク様、浮かない顔をされていますけど大丈夫ですか?」
【ミクナーク・ベニアス】
「ああ、ごめんレーテ。弟が心配でね......」
地精霊人の男と普精霊人の女が、アレキサンドロス特等学園の花園で語り合っていた。
地精霊人の男は、ベニアス王国第一王子ミクナーク・ベニアス。
普精霊人の女は、シイトス王国第一王女マルガレーテ・シイトス。
ミクナークは本国からの手紙を見詰め、渋い顔をしている。
そんなミクナークを憂うマルガレーテは、ミクナークの苦悩を知るだけに掛ける言葉がなかった。
ミクナークは臨んで、このアルバビロニア大帝国の、アレキサンドロス特等学園に来た訳ではなかった。
全ては己の弟の、将来の為の布石と思い、万感の思いで、この学園に入学したのだった。
それをマルガレーテが知ったのは、二人が出会って暫くしてからだった。
二人の出会いは、ミクナークの大切なお守りを、マルガレーテが拾った事が発端だった。
ミクナークは草臥れた紐も、大切な思い出の為に大事に扱っていたが、その紐も擦り切れてしまい、大切なお守りを落としてしまった。
それに気付いたミクナークは必死にお守りを探すも、そのお守りは子供が作った拙い物だった。
その様な物が落ちていても、清掃され捨てられる。
それ故にミクナークは必死に暗闇の中も、お守りを探し続けていた。
そのお守りとは、ミクナークの弟が作った拙い物だった。
しかし、ミクナークにとってそれはどんな宝石よりも、尊い物だった。
そんなお守りを拾ったマルガレーテは、そのお守りに己が持つ小さき頃より大事にしている人形と同じ、大事にしている想いを感じ取った。
翌日も、そのまた次の日も、探し回るミクナークの姿は学園の者達には、奇異なものに映っていた。
そんなミクナークの存在を知ったのは、心無い噂だった。
ベニアスの王子ともあろう者が、必死に地べたを這いずり回っている。
何を探しているかは知らんが、面目と言うものがあると。
そんな形振り構わないミクナークの様子を、口性無い者達は嘲笑していた。
マルガレーテは己が拾ったお守りが、ミクナークの探している物かも知れないと、声を掛けた事が二人の出会いだった。
ミクナークはマルガレーテに感謝し、そのお守りが国に居る弟が、幼き頃に己に作ってくれた大事な物だと語った。
マルガレーテは己の人形と同じ想いを感じたお守りが、再びミクナークの手に戻った事を我が事の様に喜んだ。
マルガレーテの大切な人形は、無き兄の贈り物だった。
どんなに大事に扱おうと、人形は擦り切れてくる。
マルガレーテの立場で、そんな貧相な人形を部屋に置く事に、侍女達は良い顔はしなかった。
マルガレーテにとって、体面よりも大事な物が、兄の残した人形だった。
そして、ミクナークにとってお守りはまさしく、体面よりも大事な物だった。
それから二人は急速に仲を深めていった、......親友として。
しかし、運命はそんな二人を祝福してはくれなかった。
シイトス王国は、ベニアス王国の隣国の小国だった。
そして、二人の関係を知ったシイトス王国の国王は、己の娘に非情な命を下すのだった。
『王子の心を掴み、王子の伴侶と為れ!』
マルガレーテにとって、ミクナークは初めて出来た親友だった。
しかし、それ以上の感情を、今は持ってはいなかった。
そして、この非情な命が、二人を分かつ事になる。
ミクナークはマルガレーテの苦悩を知り、敢えて知らない素振りで、恋に落ちた振りをする。
そして、マルガレーテも心の機微に敏感だった。
マルガレーテは己の下心を知り、敢えて知らずを演じるミクナークに、心の中で懺悔し感謝した。
小国が生き残る為には、仕方がない。
マルガレーテは、そう思いたかった。
そして、ミクナークは留学期間が終わり、ベニアスに帰って行った。
運命の歯車がコトリと廻った。
ミクナークの帰還後に開催された、アルバビロニア大帝国アレキサンドロス大帝主催仮面舞踏会で、マルガレーテは運命を感じる相手と出会う。
その相手もまた、マルガレーテに運命を感じ惹かれた。
お互いに惹かれ合った二人は、束の間の逢瀬に胸を躍らせた。
暫くしてベニアス王国へと帰ったミクナークと入れ替わりに、ミクナークの弟が学園に留学して来た。
ミクナークから弟の事を頼まれていたマルガレーテは、ミクナークの弟を茶会に誘い絶句する。
その茶会に現れたミクナークの弟は、先日の舞踏会で、己が運命の相手と感じた者だった。
ベニアス王国第二王子、ローグレス・ベニアス。
そして、またローグレスも絶句する。
あの日の運命の相手が、己の兄の恋人だったのだから......。
兄の恋人に恋した、王子の弟。
恋人の弟に恋をした、王女。
そして、二人は己の心に、共に鍵をした。
兄の恋人と恋人の弟。
決して表沙汰には出来ない、隠さねばならない想い。
二人の、苦悩の日々が始まった。
そうしているうちに、ベニアス王国とシイトス王国では、ミクナークとマルガレーテの婚約が正式に結ばれた。
その婚約発表の為に、ベニアス王国へマルガレーテは向かった。
マルガレーテは、これは己に下された罰だと思った。
親友に心無い政略を仕掛け、情けを掛けられながらも、親友の弟に恋をした己への罰だと。
ローグレスは己の想いに鍵を掛けてはいたが、その想い故にマルガレーテの後を追いベニアスに帰還していた。
そして、己が想いをマルガレーテに伝え、マルガレーテからは己への偽りの無い想いを受け取った。
しかし、そんな二人の関係に気付いた者がいた。
ベニアス王国第一王子、ミクナーク・ベニアス。
悲壮なマルガレーテの様子に気付いた王子は、事の真相を探り出す。
そして、浮かび上がってきた真相は、己の弟ローグレスとの恋だった。
ローグレスが秘密裏に帰還し、マルガレーテと会ってお互いの想いを通わした事を知ったミクナークは、二人を呼び出した。
苦悩するマルガレーテと弟に、ミクナークは優しくこう言った。
「大丈夫だよ。全て僕に任せておけば良い」
そして、婚約発表の時を迎えた。
シイトスの外交特使も臨席する場で、マルガレーテとミクナークの婚約が発表される。
しかし、発表されたのはローグレスとマルガレーテの婚約だった。
その不可解な、婚約発表の顛末。
ミクナークは、王位継承を放棄したのだった。
シイトス王国の目的は、婚姻同盟だ。
相手は次期国王ならミクナークでなくとも、シイトス王国としては問題はない。
そして、ミクナークの長年の計画により、ローグレスの資質が開花していた。
ベニアス王国としても、予定調和で、ミクナークの長年の計画の前倒しだった。
そして、ベニアス王国はローグレスとシイトスの王女の婚約と、ミクナークの王位継承放棄を発表したのだった。
そして、ミクナークは全てをローグレスに託して、ベニアス王国を出奔した。
何故、ミクナークはそれほどまでに、ローグレスを溺愛していたのか?
何故、王位を放棄しても、側で弟を見守らないのか?
その答えを知るのは、唯一の親友であるシイトス王国第一王女、マルガレーテ・シイトスだけだった。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十六日
【アルバビロニア大帝国~帝城プロロス】
【マルガレーテ・ベニアス】
「貴方は何者ですか? 貴方はミクナーク様ではありません! 何故ならミクナーク様がベニアスを去る理由を、私が知っているからです! そう、ミクナーク様自身からお聞きしたのです! その事実を知らない貴方は、一体何者なのですか?」
マルガレーテの糾弾が、詐欺師に投げ掛けられる。
詐欺師の魔法は、解けた。
しかし、詐欺師は諦めない。
否、諦める訳にはいかない。
今も病に苦しみ、己の心配よりも、己の父親を案じる少女の姿に、詐欺師は亡き己の母の姿を見た。
己が救えなかった母。
その母と重なる少女を救う事に、詐欺師は命を懸ける。
起死回生の一手を打つ!
詐欺師は、諦めない。
もう二度と過ちを、犯さない。
そんな詐欺師の頭に、声が響く。
【カルマ】
『ナークス! 否、ミクナークよ! ......』
そして、刻が止まった。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十六日
【帝都プロロース~ロシナンテ商会百貨店付近】
【カルマ】
『待て! ......』
プロローズの裏社会を牛耳る大男の頭に、声が響く。
良いのか?
本当にそれで良いのか?
お前の娘の為に、一命を懸けている男を裏切るのか?
【キルギルス・ノール】
「誰だ? ......」
そして、刻が止まった。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十六日
【アルバビロニア大帝国~帝城プロロス】
【ジズード・マラッセ】
「はっははははは~! やっぱり偽者だった! 俺は間違ってはいなかった! これでノクレ、お前も終わりだ!」
近衛兵に拘束されたジズードが、唖然としているノクレ・オーディスを嘲る。
【ノクレ・オーディス】
「......」
帝城プロロスの大広間で、姿と気配を消して空中に浮かぶカルマが、静かに様子を見守っている!
その視線の先には、己を嘲笑する親友を、悲しそうに見詰める老商人の姿が映っていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
アルグリア大陸の北西に位置するアッバース王国は、巨精霊人が統治する軍事強国である。
巨精霊人は力を重要視する以上に、誇りを第一義にしている。
卑怯な振る舞いは、巨精霊人は受け入れない。
そして、その高潔なる魂を至高としていた。
それ故に巨精霊人との約束は、絶対であった。
巨精霊人は、約束の為に己が命を、惜しまない。
そんな巨精霊人が統治するアッバース王国には、規範がある。
“正義の剣であれ!”
アッバース王国は、私利私欲の侵略行為を為さない。
しかし、道理を違えた国には、正義の剣を振るう。
喩えその正義の剣が、傲慢の誹りを受けても、アッバース王国は躊躇わない。
傲慢なる正義を振るう力を持ち、傲慢なる正義を説き、己の正義を疑わない国がアッバース王国だった。
アッバース王国は別名《狂国》と呼ばれ、近隣の国々に畏れられ、敬われていた。
To be continued! ......
ご都合主義満載! 【詐欺師飛翔編】の締めの第33話までお付き合い頂ければ、幸いです!
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最後に、読者の皆様に感謝を、お読み頂き、ありがとうです!
【2020/07/21 改訂しました】




