第24話 廃神さん...傍観する(7)
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●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十一日
【アルバビロニア大帝国~帝都プロローズ】
【アレキサンドロス・アルバビロニア】
「チェックメイト! 我の勝ちだ......」
自信満々の、得意顔の少年が告げる。
相手の執事が、両手を挙げ降参する。
ここは、帝都プロローズのロシナンテ商会の建物。
今、プロローズをその品質と品揃えで、巷の人気と噂を席巻している、“百貨店”の二階の遊戯施設である。
少年は唸る。
この六種盤戯は、心理戦争を体現している。
この遊び方帳を見ても、それは解る。
六種盤戯とは八×八マスの盤上で、六種の王・女王・僧侶・騎士・砦・兵士の、十六個の駒をお互いに動かし合い、最終的に王の駒の逃げ道を無くす遊戯。
只、この遊戯には、勝利と引き分けが存在し、戦略として引き分けを狙い易い遊戯でもある。
そして、変則遊びも出来る。
これは面白い、戦場に赴く指揮官の教育に適している。
実際に遊び、気に入ればその遊戯を買い家で遊べる。
これは凄い。
強くなるには経験を積み、戦術を練る必要がある。
それには、この六種盤戯を買った方が良い。
上手い商売だ。
他にも紙数札・紙絵札・白黒対決・八種盤戯・白黒盤戯・紙絵札対決遊戯等々があり、それらも遊んで気に入れば購入する商売のやり方には、驚愕の一言である。
それに場所を取らずに遊べるのも良い。
それとは別に場所を取る遊戯で、玉突き遊び台と言う遊戯もある。
これは色々な遊び方が出来るが、九玉と言う遊び方が楽しみ易いと、この遊び方帳には書いてある。
九個の数字玉を白玉を突き棒で突き、台の穴に最小の数字玉から順番に落として最後に、九の数字玉を穴に落とした者の勝利と言う遊戯だ。
ほう、壁に当てて弾ませるか。
玉の軌道の先読みと、玉を突く技術を持つ者が勝つ遊戯だな。
むむむ、玉を玉で当て、その軌道の先読みも必要か。
これは白玉の突いた後の位置取りも重要だな。
全てを計算して台上の戦場を掌握する、先読みの戦略と技術の戦術との総合遊戯だ。
なんと突き棒も自分専用の物も作れると。
この台も、勿論販売している。
凄い、ワクワクする。
なんだここは、凄い久しぶりに興奮する。
あの玉で柱を倒す遊びは、十柱戯と言うらしい。
全て遊び方帳に書いてある。
何々、十柱戯とは十本の柱を倒す遊戯。一組最大二回投げられ、一組を十回して合計点数を競う遊戯。
一投目で、十本全て倒すと全倒しと言い。
二投目で、合計十本全て倒すと合計倒しと言う。
全倒し時の組の獲得得点計算は、次の組の一投目の倒した柱と二投目の倒した柱の合計得点を加算出来る。
合計倒し時の組の獲得得点計算は、次の組の一投目の倒した柱の得点を加算出来る。
つまり、一遊戯十組の、合計得点の最高は三百得点になる。
これも売ってるのか? ヤバいなここは。
本当にヤバい。
え、自分専用の玉と靴も作れるだと。
え、この遊び方帳も売ってるだと。
凄い商売だ。
何でも売るんだな、ここは。
FHSLG【アルグリア戦記】は一人用やり込み型戦争ゲームであり、歴史シミュレーションゲームでもある。
但し、このゲームには製作運営会社“インダストリア”の『アルグリア戦記』を“遊ぶ人”に、別の異世界でもう一つの現実世界として人生を楽しんで貰いたいと言う、“創り手”の“本物”を創り上げた“本気”と、“売り手”として“本物”を沢山の人々に楽しんで貰いたいと言う“本気”が、仮想現実世界で無限の可能性を広げる激熱の作品でもあった。
特に製作運営会社“インダストリア”の販売戦略として、秀逸な点であり、良い意味で厭らしい点は、“遊ぶ人”に敢えて真髄を伝えない選択をした事である。
それは、“本気”で創った“本物”が、もう一つの現実世界《アルグリア大陸》で初めて知る驚きが、何倍もの感動に変わる瞬間を不意討ちしてくれるのだ。
そして、カルマはその真髄を覚り、理解し、応用する。
元商人奴隷ノクレ・オーディスは、平均寿命二百歳程の地精霊人種で、生活開始時で既に百六十歳であり、残り四十年間程で大陸制覇するか、次世代の己の子供に、己の才能を一つ継承して引き継ぎプレイするかである。
ノクレの才能枠は、《交渉Ⅶ》《算術Ⅸ》《話術Ⅵ》《接客術Ⅶ》《観察術Ⅸ》《信念Ⅷ》《革新Ⅴ》《馭者Ⅶ》《直感Ⅸ》《指揮Ⅵ》の十枠で満枠である。
商人特化才能構成の為、ノクレをプレイするプレイヤーは少ない。
商人に戦闘は難しいと言う、固定概念が理由の一端かも知れない。
好事家でも態々奴隷身分の老人をプレイ選択しなくても、若い商人見習いから大商人を目指す、成り上がり物語の方が胸が踊るに違いない。
ノクレは、ベニアス王国の辺境のヘッサ村に生まれた。
両親は共に地精霊人で、農業を生業にしていた。
ノクレは子供の頃から村に来る行商人に憧れ、いつか己の荷馬車を持って様々な国へ行くのが夢だった。
十二歳になるとノクレは、両親に己の夢を語るも、現実を見て農家を継ぐ様に諭される。
そんなノクレに転機が訪れる。
いつも村に来る行商人に、ノクレは己を売り込んだのだ。
その行商人は、ノクレの熱意以上に的確な商売への展望と目的意識に驚いた。
この行商人こそ、ベニアス王国一の大商人ジノル・オーディスだった。
そして、ノクレの商人としての才能に感嘆し、己のオーディス商会に雇い入れた。
ノクレは、オーディス商会で着実に己の価値を上げていく。
ノクレがオーディス商会の番頭になる頃には、オーディス商会は商売の規模を、何十倍にもしていた。
ベニアス王国だけではなく、アルバビロニア大帝国・エルブリタニア帝国・フューダー大王国・デソロモア王国等々、アルグリア大陸に百五店舗を展開したのは、間違いなくノクレの手腕だった。
その後、ノクレはジノルの娘婿になり、オーディス商会を継承する。
そして、田舎から両親も呼び寄せ、商売も順風満帆だった。
息子も娘も生まれオーディス商会は、これからも一層の繁栄が、皆の目には映っていた。
但し、ノクレの成功を妬む男が、謀略の指揮棒を振るうまでは。
ジズード・マラッセとノクレは、オーディス商会で互いに競い合う親友だった。
運命の歯車が二人を別けたのは、ノクレがジノルの娘婿になった事だった。
ジズードは誠実な上に、頭脳明晰で商会での人望もあった。
只、ノクレと結婚したジノルの娘アリンに強く深い特別な感情を抱いていた。
その感情がオーディス商会に暗い陰を落とし、惨劇を生む。
ジズードは全ての段取りと根回しの完了を待って、指揮棒を振り下ろす。
ノクレは己の直感が危険だと警告を発していた。
しかし、ある負い目と親友ジズードとの人情を取り、全てを失い、物理的にも精神的にも全てを喪った。
【ナークス・アエニブス】
「お客様、お楽しみ頂いていますか? ......」
執事と歓談している少年に、地精霊人の従業員に扮した詐欺師が問う。少年は肯定を示し詐欺師に告げる。
【アレキサンドロス・アルバビロニア】
「お前の主と話がしたい......」
【カルマ】
(......)
喧騒と歓声が凌ぎ合う中、空中に浮かぶ気配と姿を消したカルマが沈黙する!
その視線の先には、詐欺師に微笑む少年の姿をした“巨獣”が、大きく顎を開けた真の姿が映っていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
アルグリア大陸の南南東に位置するオルスカ王国は、獣精霊人種が統治する軍事強国である。自然主義を唱い極力自然を損なわない範囲での国家運営が為されていた。
アルグリア大陸暦千四百六十七年七月、エルブリタニア帝国がメロウ王国に侵攻し、メロウ王国の同盟国であるオルスカ王国が救援軍を派遣した。
その後、メロウ戦争と呼ばれたその戦で、時の獣王を討ち取られ敗戦したオルスカ王国は、その屈辱と怨嗟を忘れてはいなかった。
その遺恨が同じくエルブリタニア帝国を怨讐の片割れとする、闇森精霊人種を母体とした武装集団『ギエロア傭兵騎士団』と繋がるのに、時は必要無かった。
アルグリア大陸に“凪の時”が訪れ人々の生存本能が弛む時、“大きな禍い”が忍び寄る。
“禍福倚伏”が吟じる二元性にこそ、人々が望求するある真実が隠されている。
To be continued! ......
ご都合主義満載! 出来れば【詐欺師飛翔編】の締めの33話までお付き合い頂ければ、幸いです!
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最後に、読者の皆様に感謝を、お読み頂き、ありがとうです!
【2020/07/21 改訂しました】




