第18話 廃神さん...傍観する(1)
毎月...3日...13日...23日......更新予定ですが、アルグリア戦記が累計八万字達成するまで3日から毎日更新しています。集英社WEB小説大賞に本作を応募する為です。
作者には夢があります。“妄想ゲームの歴史を現実でゲーム化する”事です。コー○ー○○○ゲームスさんで、○○の野望のファンタジー版歴史シミュレーションゲームとしてゲーム化される中継点になる事を切に願って投稿します。いつから本作が仮想小説だと誤解していた? 本作は作者の妄想ゲームの設定集を備忘録化したものです。勘違いさせたのならお許し下さい。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年二月二十八日
【帝国アダーク領~ダポナ街道】
【ラクトリウス・エルブリタニア】
「何者だ、......名を名乗れ!」
フウマ討伐軍であるエルブリタニア帝国遊撃騎士団《双頭の竜》の天幕で、眠っていた豪奢な衣服を着た容姿端麗な青年が、不審な気配を察し静かに誰何した。
闇から現れた少年らしい影が、跪く。
【ゲンタ・カトウ】
「夜分遅くに失礼します、殿下。おいらはフウマの下忍ゲンタと申します」
震え声で喋る、怖々とした気配の少年に興味を持った青年は、少年を排除しようとする自身の影の護衛を右手一つでその動きを止めた。
少年は訴える。
フウマには帝国に反逆の意思がない事。
フウマは何もしていない事。
理不尽な攻撃を中止して欲しい事を。
青年は告げる。
フウマが、アダーク領で反乱を主導している事。
フウマが、旧ガイアス王国の旧臣を焚き付け、キシソス・ナダリス・ミクタス・デルスの四領で反乱が起こる事。
地精霊人の国とフウマが謀り、五領で反乱を起こし、討伐軍が五領に向かった時にベクシス王国が帝国へ侵攻する事を。
少年は更に訴える。
隠者の手の策略だ、何の弁明も聞かず理不尽だ、再調査をして欲しい、その間の進軍を中止して欲しいと。
青年は更に告げる。
証拠も証人もこちらにはある、お前の言葉だけで取り止め出来る程帝国の剣は易くはない、既にフウマ討伐は帝国の決定事項で覆る事はないと。
少年は俯き、体を震わし声を揚げて泣き出した。
それを見て、唖然とした青年と呆れ顔の影の護衛の二人。
唐突に泣き止んだ少年が告げる。
【ゲンタ・カトウ】
「お許し下さい、殿下。お命頂戴します!」
一瞬の光の攻防、軍配は少年に上がったかに見えた。
しかし、殿下の盾となり絶命した二人の護衛が、体に鉄針を生やして崩れ落ちる。
それでも青年は、何事も無かった様に冷静に答える。
【ラクトリウス・エルブリタニア】
「俺を殺してもフウマ討伐は行われる。只、フウマの反乱の証拠を積み重ねるだけだぞ?」
【ゲンタ・カトウ】
「フウマには時間が必要なんです。でもおいらには...時間が無い」
静かに涙を流しながら、少年は震える声で、震える体で、己の覚悟を目で訴える。
その目の中には、機械仕掛けの絡繰り時計の“○○:三五:○○”から“○○:三四:五九”に減少した真っ赤な数字が重く映っていた。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年二月二十六日
【バロック王国辺境~デンバエ鉱山付近】
【ゲンタ・カトウ】
「ぐっ、......く・そ! (このまま、......じゃ間に合わない!)」
全身血塗れの忍び装束の少年が、ふらふらと揺れながら歩いていた。
全身を襲う激痛で走る事も儘ならない、気持ちだけでは越えられない壁が、少年にははっきりと見えていた。
マルカ王国を発って丸一日、不眠不休の体を引き摺る少年の肉体は限界を疾うに越えていた。
FHSLG【アルグリア戦記】に於いて、才能とは神々の恩寵と言う認識であり、体系すると戦闘系(片手剣・槍・杖・盾等)・魔法系(火魔法・回復魔法・付与魔法・時空魔法等)・能力系(身体強化・疾走・縮地・変身等)・生産系(鍛冶・木工・調薬・練金等)・採取系(採掘・剥ぎ取り・解体・釣り等)・学芸術系(考古学・言語学・歌唱・彫刻等)・身体系(神眼・魔眼・聖痕・髪等)・特殊系(孤独・傲慢・千手観音・放火魔等)等々の各種系統に別れている。
才能の階級としては通常才能・固有才能・特異才能の3つに区別される。
フウマの下忍であるゲンタが持つ才能は、通常才能が九枠で、その内戦闘系が《小刀術Ⅲ》《体術Ⅳ》《投擲術Ⅵ》の三枠、能力系が《身体強化Ⅴ》《逃走Ⅸ》の二枠、魔法系が《雷遁術Ⅳ》《火遁術Ⅲ》《隠遁術Ⅵ》の三枠、特殊系が《孤独Ⅸ》の一枠である。
そして、固有才能の特殊系《生贄と代償》の一枠と合計して満枠の十枠になる。
ゲンタは才能の“覚醒”を連続使用し、その敏捷値は現在能力値六十八ポイントに、六重併用効果で瞬間敏捷値二千六百七十七ポイントを実現したが、才能《身体強化Ⅴ》《雷遁術Ⅳ》《火遁術Ⅲ》《隠遁術Ⅵ》はMP(魔力)を消費し、才能《孤独Ⅸ》はSP(精神力)を消費する。
結果、才能の過度の連続使用で、精神的・肉体的に限界を超え、毛細血管が破れ全身血塗れの半死半生の状態になっている。
それでもゲンタは諦めない。
しかし、運命は過酷だった。
ゲンタの血の臭いに誘われ、バロックの辺境山岳地帯に生息する岩狼の群れが襲い掛かる。
「うぉぉぉぉお!」
雄叫び上げゲンタは、逃走する。
小刀では固い防御力の岩狼を倒すには、関節等の急所を狙う必要があり、今のゲンタに岩狼の群れを倒す力も時間も無かった。
才能《逃走Ⅸ》をSP(精神力)を消費して発動させ、七重併用で、瞬間敏捷値五千八十七ポイントを出し群れを振り切り疾走するが、限界を迎える前に本能が才能の発動を解除する。
そして、この山岳地帯には大型の飛行魔物“岩大鷲”が生息している為、空中にも常に意識を飛ばさないといけない。
運命は更にゲンタを追い詰める。
「グッワッ!」
との鳴き声が聞こえたと同時にゲンタは、自分を襲う黒い影から強引に逃げ交わす。
そうして、岩大鷲からの逃走が始まった。
交わしては逃げ出し、逃げ出しては交わす。
永遠にも感じる時間が過ぎる。
しかし、長い逃走にも終止符の時が訪れた。
岩大鷲の爪を交わし損ねたゲンタは、背中を切り裂かれ倒れ伏せた。
そして、ゲンタは己の運命に哀哭する。
その時、極限の中でゲンタの生存本能が叫びを放ち、熱き想いが力を渇望する。
“アルグリア大陸の魔物の職業は、魔物に備わっている生存本能が最適な職業を自動選択する、”そう今、この時にゲンタの職業が極限状態の中で、生と力を渇望し進化を始める。
ゲンタの情報表示の職業は忍者で、“隠されたデータ”の職業習熟レベルは50を越えており、生存本能がゲンタの個体レベルと十枠全ての才能適性と職業習熟レベルから最適な職業を弾き出す、その選択に忍者の“隠されたデータ”である職業階位Ⅵ(職業の希少度により階位分けしている。最高はⅩ)も加算計算される。
そして、生存本能が弾き出した現在の状況を打破する最適な職業は、“隠されたデータ”の職業階位Ⅷにして、特殊系固有職業《運命の反逆者》だった。
ゲンタは、運命の理不尽さに吠える。
岩大鷲がゲンタに襲い掛かり、鳴き声を轟かす。
その時、固有職業《運命の反逆者》の職業効果の一つをゲンタが、無意識に任意発動する。
その効果は、過酷な状況下【HP(生命力)・SP(精神力)・MP(魔力)の全てが満量値の三十パーセントを切った状況】で任意で三十分間(次回発動待機時間二十四時間)、全能力値×百倍の効果と状態固定効果【敵からの攻撃が自分に当たらない限りHP(生命力)・SP(精神力)・MP(魔力)は固定状態となる】だった。
ゲンタは、岩大鷲の攻撃を間一髪で交わし、小刀を岩大鷲の左目から脳髄に達する必殺の一撃を叩き込んだ。
【ゲンタ・カトウ】
「はぁ、はぁ......(ああ、力が抜ける......眠いよ、ばあちゃん)」
岩大鷲との闘いに勝利した少年は、岩大鷲を其のまま討ち捨て高揚感の赴くままに疾走していた。
それは、蝋燭の火が消える瞬間、一瞬の炎の揺らぎだった。
バタリと突然倒れた少年は、動かない体を意識朦朧の中で叱咤したが、指一つ動かない。
ああ、時間がない。
時間がないんだ。
動け、動け、動けよ! 糞! くそ、く...そ...ね、ね、眠い、お、重い、目蓋が重い。
こ、ここで寝たら気持ち良いだろうな。
一瞬の意識の消失、はっと少年は思い出す。
......冬の寒い日だった。
口の悪いばあちゃんと一緒に眠った。
ばあちゃん、あったかかったな、気持ち良かったな。
ばあちゃん、ごめんよ。
おいら間に合いそうにないよ。
ごめんよ、ばあちゃん。
素直に慣れなくて、ばあちゃんを嫌いって悪口言って、ごめんよ。
本当は大好きだよ、ばあちゃん。
ごめんよ、能無しの孫で、ごめんよ。
ばあちゃん、一緒に食べた芋の田楽。
甘くて美味しかったね、また一緒に食べたいね。
ばあちゃん、ごめんよ。
で、でも! 嫌だ、嫌だ、嫌だよ~、ばあちゃ~ん。
死なないでよ、ばあちゃん。
ご、ごめんよ。ばあちゃ......ん。
ああ、岩狼だ。
逃げないと、おいらが死ねば、ばあちゃんも里も終わりだ。
岩狼達の群れが、がおいらを遠巻きに囲む。
おいらはまだ死ねない、死ねないんだ。
岩狼が少年の命を喰らい尽くそうと、虎視眈々と機会を窺う。
岩狼の包囲が狭まるその時、少年の頭の中に直接声が響き、時が止まったと少年は確かに感じた。
【カルマ】
『ゲンタ! ......』
あの声は、優しく静かに少年に問うていた。
これからフウマの里は、皆殺しになる。
幼子一人として許されない、虐殺が始まる。
戦える者は決死の覚悟で、戦えない者を逃がす為、最後の最後まで戦い続け死ぬだろう。
しかし、誰一人として生き残れない、お前の祖母もだ。
でも、お前は頑張った。
よく頑張った。
ここまですれば十分だ。
お前はよくやった。
もう眠れよ、目蓋を閉じて意識を無くせ。
苦しかったな、楽になれ。
もうここで十分だ、お前は良くやったよ。
......だが、お前はそれで本当に良いのか?
満足なのかと?
少年は、朦朧とする意識の中ではっきりと拒絶し、慟哭する。
嫌だ、嫌だ、嫌だと!
そして、あなた様は一体誰ですかと少年が問うと、その声はこう答えた。
『俺はお前で、お前の願いを叶える者だ』
そして、刻が動き出す。
【カルマ】
「あぅあぅあぅあぁぁ~!! (立て! ゲンタ!)」
山肌が剥き出しの山中で、空中に浮かぶカルマが真っ裸で叫ぶ!
その視線の先には、狼の群れに囲まれながらも小刀を杖にして、必死に立ち上がろうと藻掻く血塗れの漢が映っていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
アルグリア大陸の東北東の端に位置するフューダー大王国は、馬精霊人が統治する超軍事大国である。
肥沃で広大な領土を有し、経済は農業・工業・商業其々が、高い技術力と直向きで貪欲な意思を具現化した国家体制を取っていた。
また、軍事力でも大陸一の総兵力を誇る圧倒的物量攻撃を自負する騎馬軍団が、エステム大草原を席巻しており、近隣の小国を飲み込むのは時間の問題と言われていた。
近年は、十の災厄の一角、『麒麟』により消滅した旧アサン皇国領を併合して、その復興に力を注いでいる。
しかしながら、不可避の神罰と言われる無慈悲な一撃により、旧アサン皇国は全盛期の百分の一まで人口が激減し、旧アサン皇国民は細々と暮らしているが復興の兆しは未だに見えなかった。
そして、旧アサン皇国に騎士階級として仕え生き残った者達も浪人となり、アルグリア大陸各地へと仕官を求め旅立った。
だが、新しい未来に向かう者達とは反対に、過去に囚われ麒麟討伐の為、己の武術を極めんと大陸各地へ武者修行の旅に出た者も少なくなかった。
アルグリア大陸の東方に、侍の国と呼ばれる、滅私奉公を是とする規律と秩序を重んじた国があった。
その国には、理不尽に亡くなった者の魂に安らぎを齎す儀式、“仇討ち”が存在した。
To be continued! ......
ご都合主義満載! 新章の締めは、第20話!
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最後に、読者の皆様に感謝を、お読み頂き、ありがとうです!
【2020/07/18 改訂しました】