第10話 馬の悩み
私は普通の牧場の厩舎で生まれた。
私は兄弟達とすくすくと育っていった。
親は私たちを産むとしばらくして人間に使役されるようになった。
私は親と過ごす時間は少ないと思うことはあったが決して寂しいとか悲しいとか考えるようなことはなかった。
親がいなくなっても人間が餌をくれたし、兄弟達とは毎日一緒に遊んだりして楽しく過ごしていた。
ある時かなり裕福そうな人が牧場へとやってきた。
私はなんか見慣れない人が来たな、と思いつつもそれ以上興味も惹かれなかったので、いつも通り柵の中で兄弟達と追いかけっこをしていた。
その裕福そうな人は子供を連れていた。
裕福そうな人物はここら一帯を管理する城主だった。
子供は城主の娘で名をエミリーという。
2人は私たちがいつも遊んでる場所へと近づいてきた。
広場にいる数匹の馬達がそれ気づき興味津々と言ったように見つめている。
牧場主と2人は何かを話していた。
「ようこそおいでくださいました」
「ああ、良い馬を見せてくれるのを期待しているよ」
どうやら馬を買いに来たようだ。
「あちらの方で走っている漆黒の馬はかなり優秀です。この牧場で1番の速さを誇ります。性格は少々荒いですが長い間世話をしてあげると懐いてくれる結構素直な子です」
「ほうほう、なかなか立派そうではないか」
「あちらの茶色い毛の馬は走りが軽快で軽い障害物なら余裕で乗りこえます。スピードは黒毛のよりおとりますが森の中を走る時や瓦礫の上などでは1番早く走ります」
「なるほど、この世界は森が多いしの。かなり良い馬を揃えているようじゃないか」
「えぇ、満足いただけるように育てるのが私の仕事ですから」
2人の話を聞いているのに飽きたのか、エミリーが1人で馬のいる柵へと近づいてきた。
柵に手をかけ馬たちを眺める。
キョロキョロと馬たちを見渡したあとで私をじっと見つめてきた。
しばらく見つめていたかと思うと次は親の方へかけて行った。
「ねーお父さん!」
「ん?どうしたんだい。エミリー」
「あの真っ白なお馬さんがいい!」
「あの他の馬と戯れている奴か?」
「『奴』じゃないわ。『アレグレッツァ』よ!」
「ハッハッハッ!余程あの馬が気に入ったようだな。ではアレグレッツァを貰い受けるとしようか」
「いいのですか?まだあれは子供ですよ?性格は大人しいですがかなりの未熟者で、乗馬されるには訓練を致しませんと」
「私がしっかり面倒を見て育てるわ!」
「し、しかし…大丈夫ですか?」
「あぁ、うちの者にも馬を育てた経験のある者もおるしそいつに鍛えて貰おう。構わんよ。それにエミリーのための馬なのでな」
「そうですか。承知しました。ではこちらへどうぞ」
そう言うと小さな小屋へと入っていった。
『なんで僕が選ばれたんだろ?』
『さぁ?』
兄弟達に聞いてみたがあまり明確な答えは見つからなかった。
私自身あまり家族や友達との別れが寂しかったりということは無かったため、人に飼われるのは全く苦ではなかった。
不思議に思っているとエミリーがやってきて話しかけられた。
「お馬さん!」
(なんだろ。僕達と話しても別に会話とか出来ないのに…)
「あなたにはアレグレッツァって名前をあげるわ!これから私の家に来て一緒に人生を過ごすのよ。毎日撫でたりお世話をしてあげるからね。
アレグレッツァっていうのは陽気って意味よ。何だかとても楽しそうな雰囲気だったからその名前を選んだの。
それにしてもあなたはとっても綺麗な鬣をしているわね。あたしの一番のお気に入りはその真っ白でフサフサそうな鬣よ。
まぁ、鬣だけで選んだ訳では無いのだけれどね。あなたには可能性を感じるわ。大きくなったら色んなとこに連れていってね」
エミリーはそう言って私に話していた。
何が楽しいんだか全くわからなかった。
しばらくして2人は契約書や支払い方法などを話し合って帰ってきた。
私はこうして名前を貰い飼われることになった。
私は手綱を繋がれ牧場を出た。
牧場の外は広かった。牧場も広いのだがそれ以上の広さに圧倒された。牧場の外を想像したこともあったが現実は予想を遥かに超えていた。
森があり川がありそれに人も沢山いた。
初めて見るものばかりだ。
しばらく歩くと町へと入った。町は凄かった。街は美しいし人々は活気がいいしそして色んなものがあった。
屋台の食べ物の匂いに釣られてフラフラとそちらへ行こうとすると「だめよ、アレグレッツァ」と言われて怒られた。
行き先は遠くからも存在感が認識できるような大きな城だ。
私は最初、連れられて行かれた先が城だったから大層驚いたもんだ。
その後、城で育てられ、町一番の駿馬と言われるようになった。
エミリーお嬢様が私に乗れるようになってからは2人でいろんな所へ行った。
お嬢はかなり活発な性格だった。
野を駆け、森を抜けいろんな所へ遊びに行った。
魔物と出会うこともあった。
街道を通っていたらいきなりとび出て来たのだ。
あまり強くはなさそうなやつだったがお嬢様の身を守るために全力で逃げた。
そんな日々を過ごしてはや10年。私は既におじさんだった。
人間でいうと50歳ぐらいだ。
お嬢は15歳。そろそろ結婚を考える時期だ。
私は体力がなくなってきて、もう引退かと言われ始めていた。
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そして現在。
『近々この町でもっとも早く長く走れる駿馬を決める大会をするらしい。私が勝たねばお嬢の馬として走れなくなるかもしれない。だから私はどうしても勝たなければならないのだ。私はお嬢と約束されたのだ。大人になっても一緒にいろんな所へ行こうねと。だから…』
『なるほどね。おっさんもいろいろ大変なんですね』
『むむっ…他人事じゃと思いよって…』
『いえいえ、僕もそこそこ大変な思いしてますから』
『ん?そうなのか?』
『まぁそれは置いといて、私があなたの悩みを解決しましょう』
『本当か?私はまた若かりし頃の時のように早く走れるようになるのか?』
『えぇ。まぁ、アレグレッツァさんの努力次第ですけど』
『よし、私は頑張るぞ!力を貸してくれ!』
『はい。一緒に大会で1位を取りましょう』
大会は3日後。それまでにアレグレッツァさんにはさらに頑張ってもらわないといけない。
まずはアクセサリーを何とかして憑依できるようにしないとな。
アレグレッツァがつけているアクセサリーは魔除けの魔法が付与された魔道具です。
悪魔などの憑依を防ぐためのものです。




