「似た話」
「似た話」
最近、変な記事に目が止まる。
たぶん、前から世の中には同じくらい変な記事があったのだと思う。
僕が気づいていなかっただけだ。
地方欄の片隅に載るような小さな出来事や、ネットで数時間だけ話題になってすぐ忘れられる動画なんて、毎日いくらでもある。全部に目を通していたら、それだけで一日が終わる。
だから、気にする方がおかしい。
そう思っている。
今のところは。
◇
最初は、編集部で休憩していた時だった。
「時根君、これ見た?」
ミドリがスマートフォンをこちらへ向けてきた。
「何?」
「ちょっと面白い記事」
画面には、住宅街の防犯カメラから切り出したらしい写真が載っていた。
夜。
道路。
画質はあまり良くない。
その端に、何か大きな影が映っている。
「鳥?」
「そう見える?」
「羽っぽいのあるし」
「人じゃないかって話もあるみたい」
「この画質でよくそこまで盛り上がれるな」
記事を読む。
深夜、住宅街で「人間ほどの大きさの鳥のようなものを見た」という通報が何件かあったらしい。
ただし、警察が確認したところ被害はない。
はっきりした写真もない。
近くではイベントの準備が行われていて、大型の装飾物か着ぐるみを運んでいた可能性もある、と書かれていた。
「これがどうしたの?」
「『ビーストギアみたい』って言われてる」
「どの辺が?」
「人間大の鳥」
「それだけ?」
「それだけ」
「じゃあ何でもビーストギアになるじゃん」
「人気作品ってそういうものじゃない?」
また便利な言葉が出てきた。
僕はスマートフォンを返した。
「イベントの何かでしょ」
「私もそう思う」
「じゃあ終わりじゃん」
その時は、本当にそれで終わった。
◇
二日後。
今度は自分で見つけた。
原稿の資料を探していて、ニュースサイトの下の方に表示された小さな記事だった。
河川敷で、十数匹の野良犬が同じ方向を向いて長時間動かなかった。
それだけ。
怪我人もいない。
何かを襲ったわけでもない。
近所の人が気味悪がって動画を撮り、それが少し広がったらしい。
動画を見ると、確かに妙だった。
犬たちがほとんど吠えず、離れた場所をじっと見ている。
何を見ているのかは映っていない。
コメントには、
『地震の前兆?』
『誰か餌持ってたんじゃない?』
『音が聞こえてたとか』
『ビーストギア始まった?』
最後の一文で、僕は画面を閉じた。
「何やってるんだ」
誰もいない部屋で呟く。
犬が集まることくらいある。
何かの音に反応したのかもしれないし、向こうに別の動物がいたのかもしれない。
そもそも動画の前後がない。
撮影者が都合のいい部分だけ切り抜いている可能性だってある。
何でも自分の漫画と結びつけて見始めたら終わりだ。
創作をしている人間が、現実の事件を全部自分の作品へ当てはめ始めたら、それはかなり恥ずかしい。
そう思って、原稿へ戻った。
◇
問題は、そのあとも似たことが続いたことだった。
続いた、と書くと大げさかもしれない。
何日かに一度、気になるものが目に入る程度だ。
繁華街で、全身を奇妙な衣装で覆った人物がビルの非常階段を一気に駆け上がる動画。
後から、動画配信者の企画だったらしいという話が出た。
公園の木に、何者かが大量の金属片を結びつけた事件。
悪質ないたずらとして処理された。
工場近くで、夜中に大型の獣のような影を見たという書き込み。
翌日には「大型犬だったらしい」という話になっていた。
一つ一つなら、何もおかしくない。
説明もつく。
事件ですらないものも多い。
でも僕は、そのたびに一瞬だけ『ビーストギア』を思い出してしまうようになった。
怪人。
動物。
人間と違う動き。
奇妙な現場。
似ていると言えば似ている。
無理やり似せようと思えば、いくらでも似せられる。
それだけの話だ。
◇
「職業病ね」
ミドリに話したら、あっさりそう言われた。
「やっぱり?」
「だって時根君、普段から怪人のことばっかり考えてるでしょ」
「そこまでじゃない」
「動物園行ったら怪人のネタ考えるでしょ」
「考える」
「昆虫見ても?」
「まあ」
「変なニュース見ても?」
「……最近は」
「ほら」
反論できなかった。
編集部の机に、僕が保存していた記事をいくつか並べる。
「でも、こうやって並べるとちょっと気にならない?」
ミドリは一つずつ見た。
鳥みたいな影。
河川敷の犬。
奇妙な服装でビルを登った人物。
公園の金属片。
しばらくして、顔を上げる。
「全然」
「即答?」
「だって全部別の話じゃない」
「それはそうだけど」
「場所も違う。時期もばらばら。被害もほとんどない。しかも、だいたい説明ついてるじゃない」
「まあ……」
「共通点、『時根君がビーストギアっぽいと思った』だけでしょ」
ひどいまとめ方だが正しい。
「人気作品なんだから、むしろ影響されて真似する人が出てもおかしくないし」
「それはちょっと嫌だな」
「危ないことするのは駄目だけど、着ぐるみ着て動画撮る程度なら別にいいでしょ」
「確かに」
「最近、時根君の方が現実を漫画に寄せて見てるんじゃない?」
その言い方が妙に引っかかった。
「現実を漫画に寄せて見る?」
「だって、怪人もの描いてなかったら、あの記事見ても『変なの』で終わってたと思うよ」
たぶんそうだ。
僕は少し前から、自分の作品が世の中へ広がっていくことばかり考えていた。
子供がキッドの真似をする。
別の漫画家がキッドを描く。
読者がサクラに感情移入する。
僕自身まで顔を知られる。
その延長で、今度は逆に世の中の方から『ビーストギア』を探し始めているのかもしれない。
「……考えすぎか」
「だと思う」
「ミドリに言われると腹立つな」
「相談してきたの時根君でしょ」
◇
その日の帰り。
電車の中で、また一つ記事を見つけた。
今度は小さな町の商店街。
閉店後の通りで、「動物の頭をした人間を見た」という書き込みが複数出たらしい。
写真はない。
翌朝、近くの店の宣伝用マスコット衣装が倉庫から移動されていたことが分かり、それではないかと記事は結んでいる。
「ほら」
誰に言うでもなく、小さく呟いた。
やっぱり説明がつく。
こういうものなのだ。
変な出来事がある。
誰かが面白がる。
話が少し大きくなる。
後から見れば、たいしたことではない。
僕が怪人の漫画を描いているから、そこだけ拾って見てしまう。
そう考えれば全部自然だ。
記事を閉じる。
その数秒後、また開いた。
どうして戻ったのか、自分でもよく分からなかった。
『動物の頭をした人間』
その一文をもう一度読む。
ただの着ぐるみ。
記事にもそう書いてある。
僕だってそう思う。
それなのに、少しだけ気持ちが悪かった。
◇
家に帰ってから、保存していた記事を全部消そうと思った。
こんなものを集め始めたら、本当にきりがない。
世界中から探せば、一日に何百件だって『ビーストギアっぽい話』を見つけられるだろう。
だから意味はない。
一件目を削除。
二件目も削除。
三件目。
そこで手が止まった。
結局、全部消すのはやめた。
別に調査しようと思ったわけではない。
作品の資料になるかもしれない。
そういうことにして、フォルダの名前を変えた。
『事件』
だと大げさなので、
『参考』
にした。
我ながら苦しい言い訳だと思う。
◇
今日のところ、何かが起きたわけではない。
人間大の鳥はイベント用品かもしれない。
犬たちは何かの音に反応しただけかもしれない。
ビルを登った人間は動画配信者。
動物の頭をした人物は着ぐるみ。
全部、普通に説明できる。
だから、たぶん僕が気にしすぎている。
ミドリの言う通り、職業病なのだろう。
漫画家が自分の描いた世界に引っ張られて現実を見る。
それだけなら、笑い話で済む。
なので、この件は一旦終わり。
少なくとも、今はそうしておく。
ただ。
『参考』という名前のフォルダは、消さずに残した。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
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ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




