三面記事
三面記事
編集部へ行った。
理由は原稿。
いつものことだ。
「はい、これ」
ミドリに原稿を渡す。
「今回は早かったわね」
「だろ」
「締切当日だけど」
「今日中なら早い」
「それを早いとは言わないのよ」
知っている。
たぶん。
原稿を渡してしまえば、今日の仕事はひとまず終わりだ。
次の原稿が始まるまで、ほんの少しだけ自由になる。
「コーヒー飲んでいい?」
「いいけど、自分で入れて」
「客なのに」
「担当作家でしょう」
「客じゃない?」
「少なくとも私は接客してるつもりないわよ」
仕方なく自分で入れた。
◇
コーヒーを持って、空いている椅子へ座る。
机の上には新聞が置かれていた。
誰かが読んで、そのままにしたらしい。
特に読むつもりはなかった。
ただ、一つの記事が目に入った。
大きな記事ではない。
一面でもない。
社会面の端。
三面記事と呼ぶのも大げさなくらいの、小さな記事だった。
「……また?」
思わず声が出た。
前にも似たような記事を見た気がする。
◇
内容を読む。
奇妙な目撃情報についての記事だった。
小さな騒ぎはあったらしいが、けが人はほとんどいない。
被害も大きくない。
だから記事も小さい。
読んでみても、よく分からない話だった。
見たことのないものがいた。
変な格好の人間だった。
動物みたいだった。
目撃者によって証言も違う。
「何見てるの?」
ミドリが来た。
「これ」
新聞を見せる。
「ああ」
「前にもなかった?」
「似たようなの?」
「たぶん」
ミドリも記事を読む。
「最近、変な人多いから」
「そういうものか?」
「そういうものじゃない?」
軽い。
まあ、俺も同じくらいの感想だった。
◇
「でも、似てるんだよな」
俺は記事を見ながら言った。
「何が?」
「前に見たやつと」
「覚えてるの?」
「何となく」
前の記事も小さかった。
今回も小さい。
大事件ではない。
世間が騒いでいるわけでもない。
「場所は?」
ミドリが聞く。
確認する。
「違うな」
「じゃあ偶然じゃない?」
「だよな」
新聞を置く。
それで終わるはずだった。
◇
「ジコン」
「何?」
「まさか漫画に使おうとしてないでしょうね」
「何で分かった?」
「やっぱり」
「こういうの面白いだろ」
正体不明。
証言がバラバラ。
大した被害はない。
でも、何かいる。
「都市伝説っぽく使える」
「実際の記事でしょう?」
「だから、そのまま使わない」
「そういう問題?」
「場所も変えるし」
「そういう問題でもない気がする」
ミドリが新聞を取り上げた。
「人が困ってる話を、そのままネタにしないの」
「そのままじゃない」
「分かったから」
取り上げられた。
残念。
◇
少しして、編集部の別の人が記事を見た。
「ああ、それ?」
「知ってるんですか?」
俺が聞く。
「朝ちょっと話題になってたよ」
「話題?」
「ネットでね。でも、もう別の話題に流れてるんじゃない?」
そんなものらしい。
「写真とかないんですか?」
「さあ。ぼやけたのなら見た気がするけど」
「見せてください」
「ジコン」
ミドリが低い声を出した。
「何?」
「息抜きは?」
「今してる」
「また仕事にしようとしてるでしょう」
「好奇心だ」
「あなたの場合、その好奇心が全部漫画になるのよ」
否定できない。
◇
結局、写真は見なかった。
というより、その人もどこで見たのか覚えていなかった。
ネットではよくある。
流れてくる。
見る。
次を見る。
そして忘れる。
今回の記事も、たぶんそういうものなんだろう。
「まあ、いいか」
俺はコーヒーを飲む。
冷めていた。
「何が?」
ミドリが聞く。
「記事」
「気になる?」
「ちょっと」
「じゃあ調べる?」
「いや」
そこまでではない。
前にも似たようなものがあった。
今回もあった。
それだけ。
偶然と言われれば、そうなんだろう。
◇
「それより」
ミドリが原稿を持ってきた。
嫌な予感がした。
「何?」
「ここ」
指を差す。
「直して」
「今?」
「今」
「原稿渡したから今日は終わりじゃないの?」
「終わってない」
「三面記事調べる時間は?」
「ない」
「さっき調べるか聞いたじゃないか」
「あなたが調べないって言ったんでしょう」
そうだった。
俺は原稿を受け取る。
修正箇所を見る。
確かに、直した方がいい。
「分かった」
「お願い」
新聞は机の端へ戻された。
◇
修正を終えた頃には、記事のことはほとんど頭から消えていた。
「じゃあ帰る」
「お疲れさま」
「次の締切は?」
ミドリが日付を言う。
「早くない?」
「いつも通り」
「時間って早いな」
「それ、前も言ってた」
荷物を持つ。
編集部を出る前、一度だけ新聞が目に入った。
小さな記事。
前にも似たようなものがあった。
今回も、またあった。
少しだけ気にはなる。
けれど、本当に大きな事件なら、もっと大きく載るだろう。
警察も。
テレビも。
世間も騒ぐ。
こんな小さな記事で終わるはずがない。
そう思って、俺は編集部を出た。
次の原稿の方が、今の俺にはずっと大きな問題だった。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




