第38話 ここは託児所ではありません!
「魔王リボンちゃん……」
子供達の輪の中、スオーラに抱えられた女の子の姿を見て、デビィドは呟く。
それは紛れもなく、王都の自宅を徴税業務してきた張本人。
ペコニアと共に家宅捜査をしてきた転生魔王リボンちゃんだ。
来ている服こそ、農村の子供っぽくなっていたが、愛くるしい顔立ちと波打つ豪奢な金髪は見紛う事なき姿。
勇者デビィドからすれば、天敵に等しい。
そして、デビィドの視線に気付いたのか、リボンちゃんはスオーラの手から離れ、トテトテ駆け寄って来た。
本当に見た目は可愛らしい女の子なのだが、勇者の警戒心は最大だ。
自然と手は腰の剣に伸びる。
だが、そんなデビィドの態度に、リボンちゃんは鼻で笑ってきた。
「学習せんな、勇者デビィドよ。“徴税官”には何をしても無駄だと、あれほど念を押したと言うのに……」
「って、お前、普通に喋れんじゃねえか!」
「レベルアップしたからな。それに、この体に魔王の魂が馴染んて来たと言うのもある。それと、ちゃんと“様付け”で呼べ、滞納者よ」
見た目は女の子でも、中身は魔王。
どこまでも偉そうな態度ではあるが、デビィドは魔王に逆らえない。
“徴税官”と“税金を滞納している納税者”の壁は、それほどまでに分厚いのだ。
見た目的には生意気なお嬢様にしか見えないが、それでも“納税者”限定で無敵になれるのが“徴税官”だ。
「ホレ! 見るが良い! 我が『身分証明札』を! (ノ ̄皿 ̄)ノ ⌒=== ■」
そして、リボンちゃんは胸ポケットにしまい込んでいたカードを取り出す。
デビィドにこれ見よがしに示し、驚愕の事実が記されていた。
「うっわ、マジでレベル上がってやがる。出会った時は“レベル1”だったのに、今は“レベル10”だと!?」
「愚かな。職業に則した仕事に従事すれば、経験点が貯まる。極々当たり前の基本仕様を忘れたか?」
「あ~、そうだったわ」
「なにしろ、レベル50の勇者を(徴税業務で)一方的にボコボコにしたからな。凄まじい勢いで経験点が入った!」
「クソッ……。魔王の強化に手を貸す事になるとは!」
「ちゃんと、魔王リボンちゃん様と呼べ、痴れ者が!」
「はいはい、魔王リボンちゃん様」
「ヨシ! (´。•◡•。`) b 」
完全に尻に敷かれている勇者デビィドであるが、これも止む無しであった。
とにかく、まだ“納税義務”が果たされていない。
リボンちゃんとペコニアが算出した“納税金額”を払い終わっていないため、 無敵状態が続いているためだ。
また、仮に無敵状態が解除されたとしても、“国民”になってしまったリボンちゃんやペコニアを攻撃する事は、当然ながら法律違反だ。
あくまで職責の及ぶ範囲で順法闘争で仕掛ける魔王側に対して、勇者が違法な暴力に訴えかけるなど出来はしない。
そんな事をすれば、本当に牢屋行きだ。
それを分かっているからこそ、リボンちゃんもどこまでも強気な姿勢を崩さない。
レベル50の勇者が、レベル10の女の子に手も足も出なかった。
「てか、お前、魔王の気配が完全に消えてんぞ!?」
「何の事はない。徴税官のスキル【潜入捜査】を習得したからな。あんな気配垂れ流しの状態なんぞ、一般人ならともかく、お前らみたいな高レベル冒険者には、『我、魔王也!』と旗指物ぶっ刺して歩いているようなもんだし」
「くそ、また面倒な状態に……!」
「カードもほれ、完全に“一般人”に擬態できている」
『身分証明札』の習得スキル備考欄が、ほぼ空白状態だ。
“魔王の赤子”状態どころか、本当に普通の女の子と変わらない。
なお、唯一記載されているスキルは、【常時発動・魅了(Lv1)】だ。
「なにこれ!?」
「可愛いは正義! Σd(*°∀°)=3 」
「うぜぇぇぇぇぇ! 魔王が可愛いとか、抜かしてんじゃねぇよ!」
「これも必要なスキルだぞ。お子ちゃまが徴税官とか誰も思わんし、潜入捜査とか、囮捜査で極めて有効なスキルだ」
「ちぃ……。あのクソみたいな気配垂れ流しならともかく、この状態では誰も気付かんか、中身が魔王だなんて」
「 (・∀・)ニヤニヤ 」
リボンちゃんの勝ち誇った顔が、デビィドをさらにイラつかせる。
しかし、手が出せない。
納税者による徴税官への攻撃は、全てが無効化される。
支払いが終了するまでは、勇者は何も出来ない。
「と言うか、何をしにここまで来た? 支払いの催促か?」
「いいや。ペコニアがここに置いてった。『お仕事の間はここで静かにしているんですよ』って」
「託児所かよ!? 勇者パーティーの住処を託児所に使う魔王がどこにいる!?」
「ペコニアはそのつもり満々だったぞ」
「あの野郎……。どこまで面倒事、と言うか災厄を置いていくんだ」
デビィドは本気でペコニアと目の前のリボンちゃんに殺意が湧いて来た。
王国法を盾に強気な態度を崩さないが、それ以上に腹が立って来た。
“無敵状態”が解除されたらどうしてくれようかと、本気で考え始めていた。
例え罪に問われようとも、この二人だけは許すまじ、と。
「まあ、あいつも何やら忙しなく飛び回っているようだし、子供の体では激務に差し障るからな。一応、『児童労働』を無視して、と言うか、国王より特別許可を貰って“徴税官”やっているとは言え、やはり子供は子供。体力が持たん」
「だったら、一生、永眠しとけ! その方が世界平和になる!」
「何を言う。ペコニアは日夜勤勉に職務に励み、国内の不穏分子から、蜂起のための資財を削っていると言うのに!」
「俺ら、過激派扱いかよ!?」
「まあ、そうだな。そこの木こりになった聖戦士様は、やる気満々なようだが?」
リボンちゃんの視線はモロコスに向く。
己を鍛え上げて悪を倒す事しか考えていなかった聖戦士は、今や立派な反政府思想に染まり、故あれば一発かまそうと考えている。
そんなモロコスに、リボンちゃんはポンと背中を叩く。
「真面目な奴ほど、道から逸れた時のブレ幅が大きいわな」
「魔王……」
「なんだったら、我のところに来んか? 今ならペコニアに次ぐ地位も確約してやるぞ! 聖戦士から暗黒戦士か、悪くない!」
などと笑いながら、その場に溶け込んだ魔王リボンちゃん。
こうして、ティエラの実家は魔王の託児所へと変わっていった。




