先の未来
たった今、命を削る思いで打ち倒したはずの『貌なき夜』。
それと同等、あるいはそれ以上の不条理な影が、昏い霧の向こうから次々と這い出てきた。
「……クソが」
ルシアンは動かない右脚を引きずり、虫の息のステラを背後に庇って異形の右腕を構えた。
絶望的な包囲網。
魔物を従え、暗闇からゆっくりと姿を現したのは、白いフードを深く被った背の高い男だった。
さらに男の背後、連れている魔獣の一体の背には、修道女のような衣服を纏った金髪の小柄な少女が乗っている。
新たな魔境の不条理。
そう確信したルシアンが魔力を滾らせた瞬間、背の高い男が手にした杖を、軽く地面に突いた。
それだけで、あれほど理不尽だった魔物たちが、まるで主を前にした飼い犬のようにピタリと動きを止め、その場に平伏した。
魔境の怪異を、完全に制御下に置いている。
「警戒を解きなさい、人間。我らに敵意はない。……いや、むしろ君の『味方』だ」
白いフードの男は冷徹な声で告げると、ルシアンの制止を無視して、死にかけているステラに向けて杖で合図を送った。
従えられた魔獣の群れから、淡い光を放つ奇妙な個体が這い出てくる。その魔獣がステラに触れた瞬間、彼女の致命傷が急速に塞がり始めた。
人間の魔術理論とは根本的に異なる、魔獣の生態による強引な回復。
「アタシ……生きて、る……?」
目を覚ますステラを見て、ルシアンは安堵すると同時に、目の前の男の底知れなさに戦慄した。
息を呑み、男へ向けて「何が目的だ」と、ルシアンが唇を動かした、その刹那だった。
「「何が目的だ。お前たちは何者だ」」
洞窟の奥に、二つの声が完全に重なって響いた。
一つは、警戒に声を鋭く尖らせたルシアンの。
そしてもう一つは――魔獣の背から静かに降り立った、金髪の少女の、抑抑のない幼い声。
少女の顔は布で覆われており、その中央には不気味な『一つ目の紋様』が描かれている。
彼女はルシアンが言葉を発するより前に、完全に同じタイミングで、寸分の狂いもなくそのセリフを重ねてみせたのだ。
ルシアンが驚愕に息を詰まらせると、背の高い男が静かにフードを払った。
現れたのは、人間とは明らかに異なる、どこか冷徹な魔族の容貌だった。
「私はゼファール。魔獣を率いる者。そしてこちらに居られるのは我が部族の神子、メルティナ様だ。彼女の神秘は不確定な未来の糸を手繰り寄せる。……今のは、彼女にとってはすでに数秒前に終わった会話なのだよ」
ゼファールと名乗った男は、冷酷な眼光をルシアンに向け、淡々と告げた。
「カラスよ。メルティナ様は、君がこの先で辿り着く『遠い未来』をもご覧になった。未来が遠いほど不確定要素は増えるが……それでも、最も色濃く残る運命の残像だ」
ゼファールは杖を握り直し、残酷な事実を告げる。
「近き未来、君が命を懸けて追う賢者の娘――エレニアは、この世界に大いなる厄災をもたらす。そして、君はその異形の右腕で彼女を殺し、世界を救う『英雄』となる」
あまりに過酷な、最悪の予言。
エレニアを救うために地獄を進んできたルシアンにとって、それは絶対に容認できない結末だった。
「……ふざけるな」
ルシアンは激しい拒絶の魔力を滾らせ、魔族の二人を睨みつけた。
未来が確定していないのなら、その運命ごと、異形の腕で叩き潰してやるだけだ。
だが、ゼファールとメルティナは、その狂気的な拒絶すら予期していたかのように、静かに微笑んだ。
「未来を変えたいかね? ならば行きましょう、第3層へ。君の愛しい娘が、厄災の芽が息吹く前に」
魔族を案内人に据え、ルシアンたちの運命の歯車が、狂いながら回り出す。
ここまで読んでどうでしたか?
ここまで物語を進めておいて続きが気になるかもしれないのですが、近々「改訂版」を並行して作ろうと思ってます!
本編と大きく内容を変更するつもりは無いです(今のところ)。
目的としては、読者の方が読みにくいと思われる点を修正したいという試みです。
物語の進むスピードの調整、情報の量の調整、主要キャラの補足エピソードの追加を予定してます。
思いのまま情熱に任せて書いてしまいましたので、読みにくかったと思います。
より良い作品に仕上げて行きますので引き続きよろしくお願い致します!!




