第7話 佐伯ユズルの取引
午前九時二十九分。
インターホンが鳴った。
予定より一分早い。
俺は松葉杖をつきながら、玄関のモニターを確認した。
映っていたのは、昨日の救助現場にいた管理局員ではなかった。
黒いスーツ姿の女性が一人。
髪を後ろでまとめ、表情はほとんど動かない。
胸元には、ダンジョン管理局の身分証が下がっている。
「黒瀬透真さん。ダンジョン管理局、調査二課です。佐伯の指示でお迎えに上がりました」
昨日の記者ではない。
それだけで少しだけ安心した自分が嫌だった。
「今出ます」
俺はリュックを肩にかけた。
中身はほとんどない。
財布、端末、学生証、探索者資格証。
それから、念のためのモバイルバッテリー。
何か大きなことに巻き込まれる時、人間は意外と日用品を気にするものらしい。
部屋を出る前に、端末を見た。
通知はまだ増え続けている。
SNSは開いていない。開いたらたぶん、管理局へ行く前に気力が死ぬ。
ただ、昨日届いた匿名メッセージだけは、何度も見返してしまっていた。
君の鑑定は、彼女に似ている。
たった一文。
それだけなのに、頭から離れない。
彼女。
それが本当に澪を指しているのかは分からない。
ただの悪質ないたずらかもしれない。
昨日の配信を見た誰かが、俺の過去を掘って送ってきただけかもしれない。
でも佐伯は、電話で言った。
君の妹、黒瀬澪さんについても、少し話があります。
だから俺は行く。
行くしかない。
玄関を出ると、管理局の女性職員が軽く会釈した。
「足元にお気をつけください」
「ありがとうございます」
マンションの外には、黒い公用車が停まっていた。
周囲に記者はいない。
いや、少し離れた電柱の横に、スマホを持った男が一人いた。
こちらを見ている。
管理局の女性職員が、その男へ一瞬だけ視線を向けた。
男はすぐにスマホを下げ、歩き去る。
怖いくらい慣れている。
「乗ってください」
俺は後部座席に乗った。
車が静かに走り出す。
窓の外には、いつもの街があった。
コンビニ。
薬局。
駅へ向かう人たち。
信号待ちの自転車。
昨日までは、全部ただの日常だった。
今は、その中のどこかにカメラがあるんじゃないかと疑ってしまう。
俺は窓から目を逸らした。
女性職員は助手席に座っている。
運転手も無言。
車内には淡々とした空気だけが流れていた。
端末が震える。
佐伯からのメッセージだった。
<<到着後、直接三階の調査二課へ。
余計な取材には答えないでください。>>
俺は返信した。
<<もう家に来ました。>>
すぐ返ってきた。
<<把握しています。
だから車を出しました。>>
ありがたいのか、監視されているのか分からない。
たぶん両方だ。
ダンジョン管理局新宿支部は、第七新宿ダンジョンから少し離れた場所にある。
灰色の大きな建物で、外観だけ見れば役所と研究所の中間みたいだった。
入口には警備員が立っている。
探索者らしき人間も何人か出入りしていた。
そのうちの一人が、俺を見て目を見開く。
「あ……」
気づかれた。
俺は顔を伏せた。
女性職員が、すっと俺の前に立つ。
「こちらへ」
俺は案内されるまま、職員用入口から中へ入った。
エレベーターで三階へ上がる。
廊下は静かだった。
白い壁。
無駄に明るい照明。
ところどころに貼られた安全啓発ポスター。
安全な探索のために、無断侵入をやめましょう。
配信前に、許可区域を確認しましょう。
低ランクダンジョンでも油断しない。
昨日の事件を思うと、どれも皮肉に見える。
調査二課と書かれた部屋の前で、女性職員は止まった。
「佐伯が中で待っています」
「ここから一人ですか」
「はい」
「逃げたら?」
「足、痛いですよね」
「そうでした」
逃げる気はない。
ただ言ってみただけだ。
俺は扉をノックした。
「どうぞ」
佐伯の声がした。
中に入ると、昨日と同じ眼鏡の男が机の向こうに座っていた。
佐伯ユズル。
ダンジョン管理局、調査二課。
年齢は二十代後半くらい。
髪は整っていて、表情は穏やか。
けれど目だけが妙に冷静で、こちらの反応をずっと記録しているように見える。
「おはようございます、黒瀬さん」
「おはようございます」
「足は?」
「軽度捻挫です」
「鑑定しました?」
「しました」
「便利ですね」
「地味に」
佐伯は少しだけ笑った。
「座ってください」
机の前には椅子が用意されていた。
俺は松葉杖を壁に立てかけ、ゆっくり座った。
部屋の中には、佐伯以外に誰もいない。
机の上には、タブレット端末が一つ。
紙の資料が数枚。
そして、俺の探索者資格証のコピー。
嫌な感じだ。
「まず、昨夜の件について」
佐伯がタブレットを操作した。
空中に半透明の映像が投影される。
昨日の配信映像だった。
リアが短剣を構え、高木が背後で動く場面。
俺が叫ぶ。
リアが避ける。
佐伯は映像を止めた。
「この時点で、君は高木ユウマの攻撃を予測していた」
「見えました」
「何が?」
来た。
俺は少し黙った。
ここで全部を話すべきか。
嘘:安全な企画。
危険:白峰リア。
備考:この配信は、予定された事故になる。
そんな表示が見えたと言えば、どうなる。
管理局は俺をどう扱う。
貴重な能力者として保護するのか。
研究対象にするのか。
それとも、危険人物として管理するのか。
佐伯は急かさなかった。
静かに俺の返答を待っている。
「……高木さんの右手です」
俺は言った。
「短剣の柄に触れていた。視線も魔物じゃなくて、リアさんの背中側を見ていた。だから、危ないと思いました」
嘘ではない。
でも全部ではない。
佐伯は表情を変えずに聞いていた。
「それだけですか」
「それだけです」
「なるほど」
佐伯はタブレットを操作する。
今度は、俺がコメント欄に書き込んだ場面のログが出た。
『今の高木さんの右手、見えた人いる?』
『瀬尾さんの足元、映ってない』
『カメラ、全体映して』
「このコメントも君ですね」
「はい」
「匿名でしたが、接続経路は確認済みです」
「じゃあ聞かなくてもいいじゃないですか」
「本人の口から確認する必要があります」
「はい。俺です」
佐伯は頷いた。
「なぜ、断定ではなく疑問形で書いたんですか」
そこを聞くのか。
俺は少し驚いた。
「断定したら、たぶん反発されると思ったからです」
「なぜ?」
「俺が一番怪しかったので」
佐伯の口元が少しだけ動いた。
「自覚はあったんですね」
「ありました。配信禁止区域に突然出てきた清掃員ですから」
「清掃員ではなく、Fランク探索者でしょう」
「世間的には同じようなものです」
「自虐が多いですね」
「事実なので」
佐伯はペンで資料に何かを書き込んだ。
その仕草が地味に怖い。
「黒瀬さん。君の判断は、結果的に被害を抑えました。高木ユウマ、瀬尾リクト、三枝ナツメの三名は現在拘束中。白峰リアさんは処分待ちですが、少なくとも君の介入がなければ、もっと深刻な事故になっていた可能性が高い」
「……そうですか」
「ただし」
佐伯は顔を上げた。
「君も配信禁止区域に無断侵入しています」
「はい」
「通信妨害があったとはいえ、本来なら地上まで戻って通報するべきでした」
「はい」
「さらに、配信コメント欄に介入し、視聴者の行動を誘導した」
「はい」
「これは、状況によってはかなり危険な行為です」
「分かってます」
分かっている。
今になって、本当に分かる。
俺のコメントで流れが変わった。
それは助けになった。
でも逆に言えば、俺の言葉次第で誰かが追い詰められた可能性もある。
視聴者を動かすというのは、思っていたより重い。
佐伯は俺をじっと見た。
「責められると思っていましたか」
「はい」
「少なくとも今は、責めるために呼んだわけではありません」
「じゃあ、何のためですか」
「取引です」
佐伯はあっさり言った。
嫌な単語だった。
「取引」
「はい」
「管理局がFランク相手に?」
「ランクは関係ありません。君の鑑定に価値がある可能性がある」
俺は黙った。
佐伯は机の上の紙資料を一枚、俺の前に滑らせた。
そこには、昨日の事件の簡易報告が載っていた。
高木ユウマ。
瀬尾リクト。
三枝ナツメ。
偽装通信端末。
血液パック。
映像編集補助端末。
そして、背後関係の欄は黒塗りになっている。
「昨日の事件は、単純な仲間内の裏切りではありません」
「高木さんたちの背後に誰かいるってことですか」
「その可能性が高い」
「可能性?」
「断定するには証拠が足りません」
「管理局なのに?」
「管理局だからこそ、証拠なしでは動けません」
佐伯の声は淡々としている。
でも、その言葉には少しだけ苛立ちが混じっているように聞こえた。
「高木たちは黙っています。瀬尾は怯えて使い物にならない。三枝は協力的ですが、彼女も全体を知らされていない。白峰リアさんは、裏切りの予兆までは掴んでいたようですが、背後までは届いていない」
「それで俺に何を?」
「君には、今後いくつかの調査に協力してもらいたい」
「嫌です」
即答した。
佐伯は驚かなかった。
「理由は?」
「怖いからです」
「正直ですね」
「昨日死にかけました。今日は記者が家に来ました。ネットでは知らない人に勝手に語られてます。これ以上関わりたくありません」
そう言いながら、鑑定表示が自分の胸元に浮かぶ気がした。
嘘:これ以上関わりたくない。
実際、今朝見た。
俺自身の鑑定で。
佐伯は言った。
「それは本音ですか」
「本音です」
「では、君の妹の話をしても?」
空気が変わった。
俺は佐伯を睨んだ。
「それ、ずるくないですか」
「ずるいですね」
「認めるんですか」
「認めます。ですが、君は聞きたいはずです」
腹が立つ。
この人は、俺がどこを突かれたら動くのか分かっている。
いや、分かっているというより、調べている。
黒瀬澪。
俺の妹。
数年前、ダンジョン事故で死亡。
俺がまだ引きずっていることも、おそらく調べている。
「妹の何を知ってるんですか」
佐伯は机の引き出しから、薄い封筒を取り出した。
古い紙の匂いがした。
「黒瀬澪さんの事故報告書のコピーです」
俺は封筒を見つめた。
手が動かない。
その報告書なら、俺も何度も見た。
家族向けに開示されたもの。
管理上の問題なし。
不慮の事故。
通信途絶。
救助到着時、死亡確認。
綺麗な言葉ばかり並んだ紙。
佐伯は封筒から数枚の紙を取り出し、俺の前に置いた。
「これは、君の家族に渡された開示版ではありません。内部用の一次報告書です」
俺は紙を見た。
黒塗りが多い。
日付。場所。担当部局。
その下に、事故発生時のログ。
ところどころが消されている。
俺の目は、ある欄で止まった。
同行者:黒塗り
現場担当:黒塗り
特殊観測対象:黒瀬澪
「特殊観測対象……?」
声が掠れた。
「家族向けの報告書にはない記載です」
「どういう意味ですか」
「分かりません」
「分からない?」
「少なくとも、通常の低ランク探索者事故では使われない区分です」
佐伯は淡々と言った。
俺は紙を掴んだ。
「妹は、ただの探索者だったはずです」
「公式には」
「公式にはって何ですか」
「それを調べています」
「調べてるって、今さら?」
「今さらです」
佐伯は否定しなかった。
そのせいで、余計に腹が立った。
「何年経ったと思ってるんですか」
「三年と四か月です」
「数字で言うなよ」
「すみません」
謝った。
でも、謝られても困る。
俺は報告書を見下ろした。
特殊観測対象。
黒瀬澪。
そんな言葉、知らない。
俺は妹のことを、どこまで知っていたのだろう。
明るくて、少し無茶で、俺よりよほど探索者らしかった。
俺の鑑定を馬鹿にしなかった数少ない人間。
兄妹なのに、たまに姉みたいに説教してきた。
その澪が、管理局の内部資料では特殊観測対象と呼ばれている。
吐き気がした。
「黒瀬さん」
佐伯が言う。
「昨日の匿名メッセージ。内容を教えてください」
俺は端末を取り出した。
画面を開き、佐伯に見せる。
君の鑑定は、彼女に似ている。
佐伯はそれを見ても、大きく表情を変えなかった。
ただ、目が少しだけ鋭くなった。
「やはり、その文面でしたか」
「知ってたんですか」
「予想はしていました」
「誰が送ったんですか」
「現時点では不明です。アカウントは削除済み。経路も偽装されています」
「管理局でも分からない?」
「分かることもあります。分からないこともあります」
「役所っぽい返事ですね」
「役所ですから」
佐伯はタブレットを操作し、別の資料を出した。
昨日の配信ログではない。
過去の事故記録一覧だった。
「黒瀬澪さんの事故と、昨日の配信禁止区域事件。直接つながっている証拠はありません」
「じゃあ何で妹の話を?」
「共通点があるからです」
「共通点?」
「通信妨害。配信または記録映像の欠損。事故処理の早さ。そして、鑑定系スキル保持者の関与」
最後の言葉で、俺は顔を上げた。
「鑑定系スキル保持者?」
「君です」
「妹も?」
佐伯は少しだけ沈黙した。
俺は身を乗り出した。
「妹も鑑定だったんですか」
「そこは、まだ断定できません」
「またそれですか」
「今ここで断定すれば、君はそれを真実として扱うでしょう。だから言えません」
腹が立つほど冷静だった。
でも、分かってしまう。
俺はたぶん、佐伯が「澪も鑑定士だった」と言えば、その言葉にしがみつく。
どんな証拠より先に。
だから佐伯は言わない。
信用できないのに、妙なところで誠実だ。
「取引の内容を言います」
佐伯は資料を閉じた。
「君には、管理局の外部協力者として、いくつかの案件に参加してもらいたい。主に探索者間トラブル、契約不正、配信事故の検証です」
「危険なやつですか」
「危険なものもあります」
「正直ですね」
「嘘をつくと君が嫌がりそうなので」
「嘘をつかれても、全部見えるわけじゃありません」
「そうですか」
佐伯の目が、ほんの少しだけ動いた。
しまった。
また余計なことを言った。
佐伯はすぐに話を戻した。
「協力してもらう代わりに、黒瀬澪さんの事故資料を段階的に開示します」
「全部じゃなくて?」
「全部は私にも見えません」
「調査二課なのに?」
「調査二課だからこそ、見えないものがあります。上の承認、他部署の管理、民間ギルドの秘匿情報。いろいろあります」
「つまり、俺を使ってそのへんを掘るってことですか」
「はい」
はっきり言った。
俺は思わず笑った。
「もうちょっと隠しません?」
「隠した方がいいですか」
「いや、今さらいいです」
佐伯は俺を利用するつもりだ。
それは間違いない。
俺の鑑定に価値があるかもしれないから。
昨日の事件で、それが見えたから。
妹の件を餌にすれば、俺が動くと分かっているから。
最低だ。
でも、管理局の資料に一人で辿り着けるわけがない。
アルカディアだか企業ギルドだか知らないが、そういう相手に俺一人で近づけるわけもない。
佐伯を信用する必要はない。
利用できるなら、利用すればいい。
たぶん、相手も同じことを考えている。
「断ったら?」
俺は聞いた。
「昨日の無断侵入について正式な処分手続きに入ります」
「脅しですか」
「取引です」
「最悪ですね」
「よく言われます」
この人、絶対わざと同じ返しをしている。
俺は深く息を吐いた。
断りたい。
本当に断りたい。
だが、机の上には澪の事故報告書がある。
特殊観測対象。
黒瀬澪。
それを見てしまった。
もう見なかったことにはできない。
「……分かりました」
俺は言った。
「協力します」
佐伯は頷いた。
「ありがとうございます」
「ただし、条件があります」
「どうぞ」
「妹の資料は、出せるものから全部見せてください。小出しにするのは仕方ないとしても、嘘はつかないでください」
「約束します。私が知っている範囲では、嘘はつきません」
「その言い方、抜け道ありますよね」
「あります」
「ありますって言うな」
「実際ありますから」
俺は頭を抱えたくなった。
だが、これくらいの方がいいのかもしれない。
優しい顔で騙されるよりは、最初から利用すると言われた方がまだ分かりやすい。
佐伯は資料を封筒に戻した。
「今日のところは、昨日の詳細な事情聴取と、協力者登録の仮手続きだけ行います」
「今日のところは」
「はい。明日以降、もう一件相談したい案件があります」
「もう?」
「早い方がいい。昨夜の事件で、君の名前は広がりました。良くも悪くも、依頼が来るでしょう」
「さっき家に記者が来たばかりなんですけど」
「なので、管理局を通した方が安全です」
「うまいこと巻き込もうとしてません?」
「しています」
「認めすぎなんですよ」
佐伯はタブレットを操作し、別の画面を見せた。
そこには、いくつかの相談案件が並んでいる。
探索者同士の契約トラブル。
配信中の事故検証。
ギルド内のパワハラ疑惑。
装備レンタル詐欺。
その中の一つに、俺の目が止まった。
相談者:九条セイラ
分類:探索者裁判関連
容疑:同行探索者の見殺し
備考:本人より外部鑑定士の同席希望
「九条セイラ……?」
名前だけは知っている。
探索者界隈で、よく炎上している令嬢探索者だ。
高飛車。
金持ち。
悪役令嬢。
そんな呼ばれ方をしていたはずだ。
佐伯は画面を閉じた。
「まだ正式に君へ依頼するかは未定です」
「今、見せましたよね」
「たまたまです」
俺の視界に、佐伯の横へ小さく表示が浮かんだ。
嘘:たまたま
「……嘘じゃないですか」
思わず言ってしまった。
佐伯は一瞬だけ、目を見開いた。
それから、ゆっくりと笑った。
「なるほど」
しまった。
完全に誘導された。
佐伯は、わざと見せた。
そして俺の反応を見た。
鑑定が出るかどうかを。
「今、何が見えました?」
「何も」
「嘘ですね」
「あなたに言われたくないです」
佐伯は楽しそうではなかった。
ただ、何かを確認した研究者みたいな顔をしていた。
「黒瀬さん。やはり君の鑑定は、普通ではない」
俺は何も言えなかった。
佐伯は立ち上がり、窓の外を見た。
新宿の街が見える。
その地下には、昨日のダンジョンがある。
「君は昨日、配信の中の嘘を見ました」
佐伯は言う。
「次は、法廷と証拠の中の嘘を見ることになるかもしれません」
九条セイラ。
悪役令嬢と呼ばれる探索者。
同行探索者の見殺し。
俺は嫌な予感しかしなかった。
でも、佐伯の机の上には、まだ澪の事故報告書がある。
黒塗りだらけの紙。
特殊観測対象という言葉。
俺は、その黒塗りの先を見たい。
見たくない。
でも、見たい。
佐伯は振り返った。
「取引成立ですね、黒瀬さん」
俺は深く息を吐いた。
「最悪の取引ですけどね」
「よく言われます」
やっぱり、わざとだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
第7話では、佐伯ユズルとの本格的な会話を書きました。
佐伯は善意だけで動いている人物ではありません。
透真の鑑定を利用する気がありますし、妹・澪の情報を取引材料にもしています。
ただし、完全な悪人というよりは、嘘をつくより不都合な事実をそのまま突きつけてくるタイプです。
今回、澪の事故報告書に「特殊観測対象」という不穏な記載が出ました。
まだ澪の能力までは明かしていませんが、ただの事故ではなかった可能性が強まりました。
ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。




