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第11話 所有権のスキル

 所有権。


 言葉だけ聞けば、法律の授業で出てくるような、ひどく現実的な単語だ。


 だが九条セイラの手にかかると、それは魔法よりも厄介な力になる。


 翌日、管理局新宿支部の地下訓練室で、俺はそのことを思い知らされた。


「黒瀬さん、あまり前に出ないでください」


 佐伯ユズルが、いつもの淡々とした声で言った。


「分かってます。そもそも前に出たくないです」


「足もまだ治っていませんからね」


「足が治ってても出たくないです」


「正直ですね」


「事実なので」


 俺は松葉杖をついたまま、訓練室の端に立っていた。


 目の前には、広い模擬戦スペースがある。

 床には白線で区切られた区域。

 壁には耐衝撃素材。

 天井には記録用ドローン。

 管理局が探索者のスキル検証に使う場所らしい。


 その中央に、九条セイラが立っていた。


 昨日と同じように、白を基調にした探索者用コート。

 髪はまとめられ、手には細い黒革の手袋。


 戦闘訓練室にいるのに、なぜか舞踏会の前みたいな空気をまとっている。


 横には、管理局員が小さな金属プレートを並べていた。


 番号の振られたプレートが十枚。

 ほかに、訓練用ナイフ、ワイヤー、簡易盾、小型ドローン、鍵のついた箱。


 佐伯はタブレットを見ながら言った。


「現場検証前に、黒瀬さんには九条さんのスキルを確認してもらいます。記録上の説明だけでは分かりにくいでしょうから」


「分かりやすくお願いします」


「それは九条さん次第です」


 セイラがこちらを見た。


「わたくしの説明が分かりにくいとでも?」


「いえ、まだ聞いてません」


「では黙って見ていなさい」


「はい」


 やっぱり偉そうだ。


 昨日の面談で多少印象が変わったとはいえ、話しやすくなったわけではない。


 セイラは床に置かれた十枚の金属プレートを一瞥した。


「まず、これらのプレートはすべて、管理局の所有物ですわね」


 佐伯が頷く。


「はい。現在は管理局所有です」


「では、私は動かせません」


 セイラは右手を軽く上げた。


 何も起きない。


 金属プレートは床に置かれたままだ。


「次」


 佐伯が管理局員に合図する。


 管理局員は、十枚のうち三枚だけを拾い上げ、書類にサインした。


「この三枚は、検証中に限り、九条セイラさんへ一時貸与します」


 セイラが手を伸ばす。


 瞬間、三枚の金属プレートが床からふわりと浮いた。


「……おお」


 思わず声が出た。


 三枚のプレートは、まるで見えない糸で吊られているように宙に浮かび、セイラの周囲をゆっくり回った。


 魔法というより、権利が物理法則を曲げている感じがする。


 セイラは指先を動かす。


 三枚のプレートが、空中でぴたりと並んだ。


「これが《所有権》ですわ」


 彼女は淡々と言った。


「私が法的、契約的、または社会的に所有していると認められた物体を、一定範囲内で操作できます」


「一定範囲?」


「半径二十メートル前後。対象の大きさ、重量、所有状態の明確さによって変わりますわ」


「所有状態の明確さ?」


「曖昧な所有物ほど動かしにくい、ということです」


 セイラはそう言って、今度は床に置かれた別のプレートを見た。


「たとえば、そこに残っている七枚は管理局のもの。私は動かせません」


 七枚は動かない。


「でも、これは一時貸与契約が成立している。だから動かせる」


 三枚のプレートが、彼女の右手の動きに合わせて高速で回転した。


 金属音が訓練室に響く。


 俺は少しだけ後ずさった。


 あれを戦闘中に使われたら、普通に怖い。


「対象は武器だけですか?」


 俺が聞くと、セイラは鼻で笑った。


「そんな単純なスキルでしたら、ここまで嫌われませんわ」


「嫌われてる自覚はあるんですね」


「ありますわよ。騒がしい外野が毎日教えてくださるので」


 嫌味の濃度が高い。


 佐伯が説明を引き継いだ。


「九条さんの《所有権》は、武器、装備、契約書、ドローン、鍵、認証端末、施設設備の一部まで対象になります。条件は、彼女がその物に対して有効な所有権、または使用権を持っていることです」


「使用権でもいいんですか」


「場合によります」


 セイラが言う。


「所有権ほど強くはありません。借り物は動かせても、重いものや複雑な機械は扱いづらい。けれど、正式な契約があれば、ただ触れているだけの物よりずっと安定します」


「つまり、契約が強いほどスキルも強くなる?」


「雑な言い方ですが、そうですわ」


 法律とスキルが直結している。


 面倒くさい。

 そして、強い。


 普通の魔法なら、魔力が強いか弱いかで済む。

 でもセイラのスキルは、契約、名義、権利関係、社会的認定が関わってくる。


 現代ダンジョンらしいと言えば、これほど現代ダンジョンらしい能力もない。


 セイラは訓練用ナイフを見た。


「このナイフは?」


 佐伯が答える。


「管理局所有です」


「借用手続きは?」


「未実施です」


 セイラが指を動かす。


 ナイフは動かない。


 佐伯が書類にサインする。


「検証中に限り、九条セイラさんへ使用権を付与します」


 次の瞬間、ナイフが床から浮いた。


 セイラの周囲を回っていた金属プレートの隙間を通り、ぴたりと右手の横で止まる。


「こうなります」


「便利ですね」


「便利だから疑われていますの」


 セイラの声は少しだけ冷たくなった。


 佐伯がタブレットを操作し、昨日見た事件資料の一部を投影した。


 死亡した探索者、古町隼人。

 彼が装備していた防具と退避用ワイヤーの所有情報が表示される。


 貸与元:九条セイラ管理装備

 使用者:古町隼人

 契約形態:探索中一時貸与

 遠隔操作権限:九条セイラ


 俺は表示を見た。


「遠隔操作権限」


 佐伯が頷く。


「古町隼人さんが使用していた退避用ワイヤーには、九条さんの《所有権》による補助操作が可能な設定がありました」


「それ、普通なんですか?」


「高額装備ではあります。緊急時に所有者側が引き戻せるようにするためです」


「つまり、助けるためにも使える」


「はい」


 佐伯は少し間を置いた。


「同時に、妨害するためにも使える」


 訓練室が静かになった。


 セイラは何も言わない。


 俺は投影された資料を見続けた。


 古町隼人は危険地帯にいた。

 退避用ワイヤーを使えば、後方へ戻れるはずだった。

 しかし記録映像では、彼は戻れなかった。


 そしてそのワイヤーの所有権は、九条セイラにある。


 世間が疑うのも無理はない。


「ワイヤーは、なぜ作動しなかったんですか」


 俺が聞くと、佐伯が答えた。


「記録上は、接続不良です」


「記録上は」


「はい」


「実際は?」


「分かっていません」


 セイラが静かに言った。


「私は、引き戻そうとしましたわ」


 俺は彼女を見た。


「《所有権》で?」


「ええ。でも反応しなかった」


「なぜ?」


「だから、それを調べるためにあなたを呼んだのです」


 セイラの声には苛立ちがあった。


 だが、それは俺へ向けた苛立ちというより、あの場の状況を思い出した苛立ちに見えた。


 鑑定。


 対象:九条セイラ

 嘘:私は古町隼人を引き戻そうとしなかった


 表示が出た。


 つまり、彼女は本当に引き戻そうとした。


 少なくとも、本人はそう認識している。


 ただし、そこが難しい。


 本人が本気でそう思っていても、事実が違うことはある。

 白峰リアの時もそうだった。

 彼女は自分が盤面を読めていると思っていた。

 でも、読めていない部分があった。


 九条セイラも同じかもしれない。


「黒瀬透真」


 セイラが俺を呼んだ。


「何か見えましたわね」


「見えました」


「言いなさい」


「あなたは、古町さんを引き戻そうとした」


 佐伯の視線が俺に向く。


 セイラは表情を変えなかった。


「そう言ったでしょう」


「でも、それはあなたの認識です。実際にワイヤーへ操作が届いたかは、まだ分かりません」


 セイラの眉が少し動いた。


「私が嘘をついていると?」


「違います。嘘はついていないと思います。ただ、嘘じゃないことと、事実であることは同じじゃない」


 言ってから、自分でも少し驚いた。


 昨日までの俺なら、こんな言い方はしなかった気がする。


 セイラはしばらく俺を見ていた。


 それから、小さく息を吐いた。


「本当に、面倒な鑑定士ですわね」


「よく言われます」


「褒めていませんわ」


「知ってます」


 佐伯が資料を切り替えた。


 今度は古町隼人の装備ログ。


 ワイヤーの接続履歴。

 緊急起動信号。

 エラー記録。


 そこには、確かに起動信号が出ていた。


 送信者:九条セイラ。

 結果:不達。

 原因:接続遮断。


「接続遮断」


 俺は呟いた。


 佐伯が頷く。


「記録上、九条さんからの操作信号は出ています。しかし、古町さんの装備側に届いていない」


「それなら、九条さんは助けようとしたことになるのでは?」


「そう単純ではありません」


 佐伯が別のログを表示する。


 接続遮断の直前、ワイヤーの所有情報に一時的な異常がある。


 所有者認証:九条セイラ

 使用者認証:古町隼人

 第三権限:不明


「第三権限?」


「本来存在しない権限です」


 部屋の空気が変わった。


 第三権限。


 つまり、九条セイラでも古町隼人でもない、第三者が装備に干渉した可能性がある。


「それ、重要な証拠じゃないですか」


 俺が言うと、佐伯は首を横に振った。


「問題は、このログが裁判で証拠として採用されるか微妙なことです」


「なぜ?」


「一瞬だけの異常値だからです。装備の故障、魔素干渉、ログ破損の可能性がある」


「便利な言い訳ですね」


「はい。便利です」


 佐伯の声は淡々としていたが、少しだけ苦い。


 セイラが腕を組む。


「向こうはその線で来るでしょうね。九条セイラは高価な装備を所有していた。ワイヤーを止めることもできた。本人は助けようとしたと言っているが、証拠は曖昧。古町隼人は死亡。死人は反論できない」


「向こう?」


「私を有罪にしたい人間たちですわ」


「具体的には?」


「たくさんいます」


 セイラは即答した。


「九条家を嫌う者。私を嫌う探索者。私の失脚で利益を得るギルド。古町隼人の死を利用したい人間。数えれば面倒ですわ」


 嫌われすぎだろう。


 でも、彼女の態度を見ていると、納得もできる。


 佐伯が言う。


「九条さんの無罪を証明するには、少なくとも三つ必要です」


「三つ?」


「一つ。九条さんが救助操作を行ったこと。これはログである程度示せます」


 佐伯は画面を指す。


「二つ。ワイヤーが作動しなかった原因が、九条さんの故意ではないこと」


 次の資料。


「三つ。古町隼人さんがなぜ待機命令を無視し、危険地帯へ進んだのか」


 俺は古町の名前を見た。


 そこが一番引っかかる。


 逃げ遅れたのではない。

 勝手に突っ込んだのでもない。


 昨日見た静止画の古町は、何かを待っているように見えた。


「古町さんは、どういう人だったんですか」


 俺が聞くと、セイラが少しだけ表情を変えた。


「真面目でしたわ」


「嫌っていたんですよね」


「嫌っていました」


「でも真面目?」


「ええ」


 セイラは面倒そうに言った。


「真面目すぎたのです。実力以上の役目を背負いたがる。誰かに期待されると断れない。無理だと言えばいい場面で、できますと言う。そういう人間でした」


「九条さんとは合わなそうですね」


「最悪ですわ」


「即答」


「私は、できないことをできますと言う人間が嫌いです」


 言い方はきつい。


 けれど、少しだけ理解できる。


 ダンジョンでは、できないことをできると言う人間は危険だ。

 本人だけでなく、周りも巻き込む。


「でも、古町さんはなぜ九条さんのパーティーに?」


「契約です」


 セイラは言った。


「彼の所属ギルドが、九条側の装備支援を受けていました。古町隼人は、その実地試験メンバーとして参加した」


「所属ギルドは?」


 佐伯が資料を出す。


 ギルド名:ブルーライン探索者協会。

 提携企業:複数。

 主な契約先の一つに、アルカディア・ゲート関連企業。


 まただ。


 アルカディア。


 俺は資料を睨んだ。


「ここにも出るんですね」


 佐伯が小さく頷く。


「直接の契約先ではありませんが、装備流通と研修プログラムで関係があります」


「偶然ですか」


「現時点では、偶然とも言えます」


「そう言うと思いました」


 セイラが俺を見る。


「アルカディアに興味がありますの?」


「少し」


「少しという顔ではありませんわ」


「顔に出てますか」


「ええ。非常に分かりやすい」


 昨日から、俺の嘘は下手だと言われ続けている。


 嘘を見る能力を持ち始めた本人が嘘下手なの、どうなんだ。


 セイラは佐伯へ視線を向けた。


「黒瀬透真に、どこまで話していますの?」


「必要な範囲です」


「つまり、かなり隠していると」


「はい」


「堂々としていますわね」


「嘘をつくと嫌がられますので」


 佐伯とセイラの会話は、妙に相性が悪くない。

 どちらも性格は良くなさそうだが、回りくどい嘘が少ない分、会話は速い。


 俺は資料に視線を戻した。


「古町さんの装備は、九条さんの所有物。でも使用者は古町さん。そこに第三権限が出た」


「そうです」


 佐伯が答える。


「第三権限が誰か分かれば、かなり進む」


「はい」


「それを調べるには?」


「現場検証です」


 出た。


 やっぱり現場ダンジョンへ行くらしい。


 俺は自分の足首を見た。


「怪我人なんですけど」


「補助具を用意します」


 佐伯が即答する。


 セイラも当然のように言う。


「安心なさい。あなたに戦闘力は期待していません」


「それはそれで傷つくんですが」


「事実でしょう」


「俺の台詞を取らないでください」


 セイラは少しだけ口元を緩めた。


 笑ったのかと思ったが、すぐに元の表情へ戻る。


「明日の現場検証では、私の所有物だった装備を実際に確認します。古町隼人が立っていた位置、私が立っていた位置、後方の二名の位置、魔物の進路。それらを再現する」


「危険では?」


「管理局が封鎖した区域で行います。魔物は排除済みです」


 佐伯が答える。


「ただし、ダンジョンですから絶対安全とは言えません」


「絶対安全じゃないなら、怪我人を連れていくべきではないのでは」


「安全靴と補助具を出します」


「便利な道具で全部解決しようとしてません?」


「できる範囲では」


 嫌だ。


 ものすごく嫌だ。


 でも、古町隼人の装備ログに出た第三権限。

 アルカディア関連企業。

 九条セイラの嘘。


 全部が引っかかる。


 俺は深く息を吐いた。


「分かりました。現場検証には行きます」


 佐伯が頷く。


 セイラは当然のような顔をする。


「ただし」


 俺は続けた。


「俺は九条さんの味方として行くわけじゃありません」


「構いませんわ」


 セイラは言った。


「私が犯人だと見えたなら、そう言いなさい」


 鑑定表示が浮かぶ。


 嘘:構いません


 やっぱり構わないわけではない。


 でも、言葉の根っこにあるものは分かる。


 都合のいい鑑定士はいらない。

 そういうことだ。


「それと、九条さん」


「何?」


「古町さんを嫌っていた理由、もう少し詳しく聞かせてください」


 セイラの表情がわずかに固まった。


「今必要ですの?」


「必要かどうかは、まだ分かりません。でも、あなたが嫌っていた相手を本当に助けようとしたなら、そこは確認したい」


 セイラはしばらく黙っていた。


 それから、視線をそらして言った。


「彼は、私を善人だと思っていました」


「……それが嫌だったんですか」


「ええ」


 思っていた答えと違った。


 セイラは低い声で続けた。


「金で人を動かし、契約で縛り、所有物を操る女です。世間が言うように、私は支配的で、傲慢で、嫌な人間なのでしょう」


「自分で言うんですね」


「自覚のない傲慢よりはマシですわ」


 セイラの指が、手袋の端を軽く握る。


「でも古町隼人は、私の支援は優しさだと言いました。私が装備を貸すのは、下位探索者を守りたいからだと。契約も管理も、全部そのためだと」


「違うんですか」


「違いますわ」


 セイラは即答した。


 だが、鑑定表示が浮かぶ。


 嘘:違いますわ


 俺は何も言わなかった。


 言えば、彼女は怒るだろう。


 セイラは続ける。


「私は投資をしているだけです。役に立つ探索者に装備を与え、成果を出させ、利益を回収する。それ以上でも以下でもない」


 また表示。


 嘘:それ以上でも以下でもない


 この人、嘘が多いのか少ないのか分からない。


 いや、本人が一番自分に嘘をついているのかもしれない。


「古町さんは、その考えに反発した?」


「いいえ。むしろ感謝していました。だから嫌だったのです」


「感謝されたくなかった?」


「感謝は負債になります。受け取れば、返さなければならないと思う。彼はそういう人間でした」


 セイラの声が、ほんの少しだけ重くなる。


「だから、私の装備で誰かを守ろうとしたのでしょうね。自分の実力では無理だと分かっていても」


 俺は黙った。


 古町隼人は、九条セイラを善人だと思っていた。

 九条セイラは、それを嫌っていた。


 嫌っていたというより、怖がっていたのかもしれない。


 自分の行動に、善意という意味を勝手に与えられることを。


 鑑定は何も表示しなかった。


 嘘ではないのだろう。


 佐伯が資料を閉じる。


「続きは現場で確認しましょう」


 面談はそこで終わった。


 セイラは立ち上がり、何事もなかったように扉へ向かう。


 しかし出ていく直前、俺の方を見た。


「黒瀬透真」


「はい」


「あなたは、私を嫌っても構いません」


「また構わないって言いましたね」


「実際、構いませんわ」


 俺はセイラを見た。


「嫌うかどうかは、もう少し見てから決めます」


 セイラは少しだけ目を見開いた。


 それから、ふん、と鼻を鳴らした。


「変な人」


「よく言われます」


「でしょうね」


 彼女は今度こそ部屋を出ていった。


 俺は椅子に座ったまま、天井を見上げる。


 疲れた。


 本当に疲れる。


 だが、頭の中ではさっきのログが何度も浮かんでいた。


 第三権限:不明。


 古町隼人は、何を待っていたのか。

 九条セイラの所有物に、誰が割り込んだのか。

 そして、アルカディアはどこまで関係しているのか。


 佐伯が言う。


「黒瀬さん」


「はい」


「今、帰りたいと思っていますね」


「はい」


「ですが、帰っても考えるでしょう」


「最悪なことに、その通りです」


 俺は松葉杖を手に取った。


 現場検証は明日。


 ダンジョンへ行けば、また何かが見えるかもしれない。


 見たくない。


 でも、見たい。


 その矛盾に、もう慣れ始めている自分が嫌だった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。


今回は、九条セイラのスキル《所有権》と、事件の疑惑を掘り下げる回でした。


《所有権》は、単純な念動力ではなく、契約や名義、使用権によって強さが変わる能力です。

便利で強い一方で、今回のような事件では、疑われる理由にもなってしまいます。


セイラは態度も言葉もきついですが、その奥にあるものはまだ全部見えていません。

古町隼人の死、動かなかった退避用ワイヤー、謎の第三権限。

次回は現場ダンジョンでの検証に入ります。


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