9話:元剣聖、技を教える
「最初は何をするの?」
俺はシャルロットの質問に、「簡単です」と言ってから説明をする。
「この技は魔力を使用しません」
魔力を使用しないという発言に、シャルロットは驚きの表情を見せた。
「それは本当なの?」
「はい。放つコツですが、空間を切断するイメージです」
「空間を、切断……?」
どうやら理解できていないようだ。
「剣全体で空間を斬るイメージではなく、剣先で斬るイメージです」
「うぅ~……」
目を閉じ頭を捻らせるシャルロット。頭の中でイメージしているのだろうか?
「一度やりますので、よく見といてください」
「はいっ!」
「――飛剣斬」
技名と共に剣を抜き一閃。
剣の軌跡に沿って横一文字に透明の刃が放たれた。
剣を鞘に納めシャルロットの方を確認すると……
「あの、見てましたか……?」
ボーっとしていたのだ。
「……シャルロット様?」
「ハッ!? み、見てた! で、でもわからない……」
「何事も挑戦です。まずはやってみましょう」
「はいっ!」
そうしてシャルロットの訓練は始まった。
まずは久しぶりに剣を握ったシャルロットは、その軽さに驚いていた。
「剣が軽い……」
「そうでしょう? では始めましょう」
剣を構え呼吸を整えるシャルロット。
「――やあっ!」
だが何も起こらなかった。
だが剣速は格段に速くなっていた。最初の頃とは大違いだ。
「剣の動きが以前よりも何倍も早くなった」
「そのようですね。早速訓練の成果が出て良かったですね」
「はい。でも何も出ない……」
「最初は私もそうでした。頑張っていきましょう」
それから数日。
「――やあっ!」
「ん~、あと少しで出来そうですね」
「コツは掴んできたけどまだ難しい」
「極めれば何十本も出すことができますよ」
「そうなの!?」
俺は「ええ」と肯定した。
「まあ流石にここでは使えませんが」
「そう……でもそれだけ分かれば頑張れる気がしてきたわ!」
「その調子です」
シャルロットはやる気に満ちた表情で再び訓練を再開した。
再開して数時間。
「やあっ!」
一瞬だが、出た気がした。いや、気がしたではない。確かにちょこっとだが出たのを俺は見た。
その証拠にシャルロットが、「信じられない」といった具合で呆然と立ち尽くしていたのだから。
「…………い、今、アルス見た!? 出来たわよ!」
我に返ったシャルロットが俺の方を見て子供の様にはしゃいでいた。
「おめでとうございますシャルロット様。一瞬でしたがこの目で見ておりました。今のでコツを掴めましたか?」
「多分。こう、ズバッとやる感じだった」
それはもう感覚だと思う。
でもあれだけの練習をして、やっと出すことができたのだ。
決してシャルロットは『出来損ない』ではないのだ。
「喜んでいる暇はありませんよ。その感覚を忘れないうちにモノにして下さい」
「わかったわ!」
それから日が暮れる頃には、ほとんど出せる状態にまでなていた。
夜の食事にて、シャルロットはエトワールさんとアイーシャさんに自慢していた。
「それでね私、とうとう出来るようになったの!」
「そうなのか。それは凄いじゃないか」
「ええそうね、シャルロットはアルス君が来てから強くなったわ」
「もちろんよ! 私の騎士であり師匠なんだから!」
シャルロットは満面の笑みでそう言い放った。
話を振られたのは俺だった。話を振った方はエトワールさん。
「アルス君。そろそろ君が家に来て5ヶ月になるが家での暮らしは慣れたかね?」
そう。エトワールさんが言うように、俺はあれからルスキニア家で暮らしていた。
シャルロットの騎士となったあの日、正式にエトワールさんからシャルロットの騎士と認めてもらい、給金も出るようになったのだ。
こうして一緒に食事をしているが、最初の方は断っていた。
だがエトワールさんから「私の頼みではなく、みんなからの頼みだぞ?」と言われ、断れるはずもなく俺は承諾した。
「はい。大分慣れました。使用人さんたちとも打ち解けています」
「それは良かった。これからも頼むよ」
「任せてください」
使用人さんたちとも、ちょっとしたことで話すようになり、とても良い関係を築いていた。
「そうだったわ」
そう話を切り出したのはアイーシャさんだった。
「どうしたのお母様?」
「明日、セシリアが帰ってくるのよ~」
どうやらエトワールさんは知っていたようだ。
アイーシャさんは「久しぶりだわ」と言っていたが、シャルロットの先程まで楽しそうだった表情は青くなっていた。
「ご、ご馳走様でした。部屋に戻ります」
「あっ、待ちなさいシャル!」
エトワールさんが静止の声をかけるも、シャルロットは食堂を出て行ってしまった。
「すみません、シャルロット様の様子を見てきます」
席を立ち追いかけようとする俺だったが、それをエトワールさんが止めた。
「待ってくれアルス君。こちらでも理由は分かっているんだ」
「そうね」
エトワールさんの言葉にアイーシャさんも同意し頷く。
「それはもしかして……」
「ああ、君も知っているだろう?」
「……はい。それはセシリア様と比べられていたことですよね?」
「そうだ。聞いていくかい?」
「何を、でしょう?」
大体は予想できる。
「シャルとセシリアの小さい頃の話を」
「いいのですか?」
「なに、これから長い付き合いになるのだ。聞いていきなさい」
「わかりました」
「あれは――」
そう言ってエトワールさんは語り始めるのだった。




