8話:元剣聖、令嬢を鍛える
――シャルロットが家出した日から数日後。
「アルス。私に剣を教えて」
シャルロットが突然俺にそう言いだした。
「どうして私なのでしょう?」
そこが疑問だった。
「だってあなた、剣は得意なんでしょう? それも相当の腕前」
「どうして私がそこまで実力があると思うのでしょうか?」
「だって剣から刃みたいな何かが出るなんて、上級者よりもさらに上の、姉様くらいしか出せないもの」
そっかぁ……出せるのセルシア様くらいなのかぁ~……
あの技がそこまで上級者向けだとは思いもしなかった。
だが確かに俺の兄たちも出来ていなかった。
「分かりました。私が剣術をお教えしましょう」
「やった! 私を強くしてね!」
「それは勿論です。ですが、途中でやめたいだなんて言わないで下さいよ?」
「勿論です。ならこの時だけは師匠って呼ばせてもらいましょう」
果たしてそれで良いのだろうかと、と思ってしまう。
「師匠って呼ぶのに抵抗は?」
「そんなの無いに決まってますよ? 教えてもらう立場なのですから」
まったく、良く出来た人間だ。
「分かりました。それでは始めましょうか」
「はい! お願いします!」
元気の良い返事をするシャルロット。俺はシャルロットに、普段持つ鉄剣よりもさらに重い木でできた木剣を、バレないように収納魔法から出して手渡した。
「ではこれを使って素振りから始めましょうか」
「わかりました――って何よコレ!? 凄く重いですよ!」
「そうですよ? では始めましょうか」
「わ、わかりました!」
それから素振りを始めたのだが……
「背筋は延ばしてください」
「は、はいっ!」
「あと、上に上げる時はここまで」
そう言って手の角度を調整する。
「はい。もう一度振ってみてください」
「はい!」
先程よりは少しましにはなった。
とは言っても俺は体勢を調整をするのみで、他にやることは無い。
シャルロットは姿勢が良いからだ。
「はい。ではその調子であと千回です」
「せ、千回も!? そんなの腕が――」
「止めるのですか?」
「うっ……や、やりますよ!」
そんなこんなで二週間の月日が経った。
シャルロットは普段と変わらないように木剣を振るっていた。
「お疲れ様です。今日からはこちらの木剣を使って下さい」
そう言って今まで使っていたのと同じ色、形の木剣を手渡した。
「わかったわ――って重い!?」
「はい。前回の1.5倍の重さです。最終的には3倍の重さになります」
「さ、三倍? これの……?」
「はい」
俺は笑顔で返事をした。シャルロットの顔が青くなる。
「毎日素振り素振りって、他にはないの!?」
「今はまだないです。3倍がクリアできたら技の方に入りますから。それまでは我慢してください」
「わ、分かりました……」
見てわかるくらいテンションがガタ落ちするシャルロット。
「もしかして人に重い木剣を持たせて、自分は軽いのを持っている、そんなわけない、よね?」
「勿論です。確かめますか?」
「一応ね。そこは主人として確かめるわ」
「ではどうぞ」
俺は木剣を差し出した。それを受け取った瞬間、ガンッと木剣の切っ先が地面に落ちたのだ。
「な、何コレ、持ち上がらない……もしかしてこれが3倍……?」
どうやらシャルロットは勘違いをしているようだ。
「それは3倍ではないですよ」
「ならどのくらい?」
「そうですね。これを最初の木剣を基準とするならば、これは10倍といったところでしょうか」
「じゅっ……ごめんなさい。聞いた私がバカでした」
「では始めましょうか」
シャルロットの修行はまだ始まったばかりなのである。
それから数週間後。
シャルロットは3倍木剣を扱えるようになっていた。
「では次に入りましょうか」
「技ね?」
「はい。シャルロット様には私が前に放った『飛剣斬』を会得してもらいます」
「……え? だってそれは――」
「できます。いや、させて見せます」
俺はそう言い切ったのだった。
だって、ここからが剣術としての始まりなのだから。




