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第39話 キリシアさんは多分優しい

「それは、『群れる』という罪です」


 女性の声は続く。


「仲間、絆 心地よい響きです。はるか昔、爪や角、牙を持たない人類は、地球の片隅で怯え震えていました。それが仲間を作り、道具を発明し言葉で伝え合うことで、世界を蹂躙したのです。弱く無力な生物が覇権をとる為には、こんな卑怯な手しかありません。単独では勝てないから群れて他の生物を追いやるとは、何と言う傲慢でしょう」


 シュンは、彼女の声に魅入られていた。

 

「それは神が与えた慈悲でもあり、罪でもありました。不幸にも、人間の群れはふくらみ、街や国を創り上げ、人間同士殺し合いを始めました。他の生物も群れますが、仲間同士で殺しあう愚挙は犯しません。これは、神がお与えになった罰なのです」


 彼女の声が強くなる。でも聴き入る人はシュンだけだ。

 他の仲間も、雑踏の中に紛れている。

 ハルだけが、シュンを気にしてチラチラ見ていた。


「罪深き人間は、地球を破滅へと導こうとしています。滅びの刻はせまっています。それでも、神は許します。私達は神のお導きを受け、正しい場所へ辿り着ける術を持ち合わせています。裁きの刻は近づいています。迷える方々、どうぞ私達と一緒に神の教えを受けましょう」



 一通り演説を終えた彼女は、手に持っていたチラシを道ゆく人々に手渡し始めた。だがコンサートしか眼中に無い群衆は見向きもしない。それでも彼女は根気づよく「お願いします」と言いながら、チラシ配りに精を出した。


 流れで歩いていたシュンは丁度、彼女の前に立った。満面の笑みを浮かべた彼女は「はい」と手渡すと、「はあ」と言って、シュンは受け取った。


「学生さん?」


 チラシを受け取ったシュンを前に、彼女は眼を輝かせていた。


「は、はい」


 学校以外の都会人と話すのは、初めてかも知れない。自分よりは年上で、大学生のような見た目だ。質素なコートにとジーンズ姿だが、化粧っ気が無くても綺麗で、着こなしのセンスは都会的である。


「はじめまして、私はキリシア。あなたは?」

「新未シュンです」

「シュン君ね。私のお話、聞いて貰えた?」


「え、まあ」

「そう、ありがと。神様っていると思う?」


 いきなりストレートな質問に、シュンは面食らった。


「いや、そう言われても」


「そうね、いきなり聞かれても困るわよね。ここに私達の集会所が書いてあるから、今度来る?」


「え? じ、実はここから……」


 そう言いかけた刹那、



 ドッッドーーーーン!!!



 二人の背後で、腹に響く凄まじい爆発音が轟いた。

 地面がたわみ、よろけて倒れそうになる。


 キャー!、ワー!

 爆発だぁ!

 逃げろー!


 悲鳴があちこちから聞こえる。従順に流れていた人の群れは途端に濁流へと変わり、不規則で歪んだ運動を始めた。その流れは、シュンを仲間から完全に切り離した。


「シュン!!!」


 ハルの声が聞こえた気もするが、わずか数mの距離でも人の群れが壁のように立ちはだかる。もうハルの方へ行くのは叶わない。


 ドーーーーン!!!

 ガシャーーーン!!!


 更に爆発が起きた。今度はもっと近い。爆風で吹き飛ばされたシュンは、強い衝撃で地面に叩き付けられた。幸い怪我はしていない。


 何とか起き上がると、先ほどの彼女が傍らに居た。


「大丈夫?」


 手を取って立ち上げてもらったシュンは、「はい、何とか」と言うのが精一杯だった。まだクラクラする。授業の一環で軍の演習見学はあったが、間近での爆発はやはり危険だ。


「あ、」


 ヨロヨロしていたら、装備を入れたバックを落としてしまった。だが拾おうとしても、人混みが邪魔をして、元の場所にはたどり着けない。


「こっちに来て」


 優しい温もりの手に引かれ、シュンは人混みを何とかかき分けて行った。ハル達や装備が気になるが、帰り途も良く分からないし、今の状況ではどうしようもない。


「ここ」


 彼女、キリシアは数百mほど離れた通りにシュンを連れて行くと、古ぼけた扉を開いた。ここが何処なのか、シュンには分からなかった。GPSで確認もしたいが、彼女は目的があるようで立ち止まらない。


 彼女しか頼れないシュンは、先に進むしか選択肢はなかった。

 開いた先には、下へと降りる階段がある。


「ち、地下ですか?」


 シュンは驚いて聞いた。


「そ、お姉さんが良い所に連れてってあげる」


 さっきまでの清純な顔に似合わない少し意地悪を含んだ笑みを浮かべ、キリシアはシュンを連れて下りていった。

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