第38話 コンサートまで後少し
ホームに降り立ったシュンは、派手な格好をした女子達の大群に驚いた。ハル達二人が地味に見えるほど少女達の衣装は異次元で、非日常を満喫している。服も髪もピンクや紫、金や緑や赤に青とまさに色とりどりで、目がチカチカした。
「ここが《カワイイストリート》、世界中の女の子達のあこがれよ!!」
駅前広場では沢山の人々がパフォーマンスをして、飛び跳ねたり踊ったりしている。普段以上に生き生きした目をするハル達二人は、中央の大通りをどんどん先へと進んだ。
「おい、邪魔だっ!」
「うわっ!」
頭上を飛び交うホバーボートに乗る人達に、ぶつかりそうになる。驚いて上を見ると、エアローラーでビルの谷間を滑走する人達もいた。
大通りには、ファッション関係の大小様々なビルが雑多な不協和音の調和を奏でていた。重力に反した不思議なデザインの建物もある。どの色合いも派手で自己主張が強い。スケッチブックがあれば描きたいが、こんな混雑では無理そうだ。
(ユキも来たかっただろうな……)
ユキとの会話を思い返すシュンだった。
でもやっぱり、此処はユキにあわない気がする。
女子二人は店に入り、あちこち物色している。
開演前の早くに来たのも、これが目的なんだろう。
彼女達はじっくり買い物にいそしむので、シュンも雑貨屋に入ってみた。ミェバとは五倍以上、置かれている品の量が違う。とにかく、どこもかしこも沢山の品物で溢れている。こんなに誰が買うのだろうかと、不思議な気分になった。
そんなシュンが、驚愕すべき物を見つける。
(ホントだ!)
イチイチの図書館にあった猫ニャン像が、ランクA以上の購入コーナーにあった。その事実にシュンは感動を憶えた。本川の勝ち誇った顔が、目に浮かぶ。
飽きない人はずっと遊べそうな街だが、あまり興味のない男子三人はいい加減飽きてきたので、先に進み始めた。コンサートの開始時間までは未だ2、3時間あるから、ゆっくりと歩く。
「会場はどこ?」
やはり自分と同じく所在なげにフラフラと歩くコウに、聞いた。コウも、この混雑した雰囲気は苦手のようだ。
「この先にあるウラハ通りを抜けて、橋を渡った向こうの丘にあるよ。ほら、此処からも少してっぺんが見えるだろ?」
コウが指差す向こうには森で囲われた丘があり、銀色の屋根が反射して煌めいていた。確かに目立つ建物だ。その昔、お金を出してスポーツを見る習慣があった頃に作られた名残と聞く。一人の選手に異常なくらいの大金が注ぎ込まれた時代が、昔はあったらしい。
もうそんなイベントはないものの頑丈な建物は避難所として残り、時折こういったコンサートや自由市場が開催される。有名だけど実物は想像以上に大きく、宇宙船みたいだ。
相変わらずキャーキャー言いながら縦横無尽にお店をはしごする女子二人に引き連れられて、道中シュン達も他の店を覗いたり食べ物を食べながら、一行はスタジアム跡へと向かった。
途中渡った橋は応急処置のままなのか粗末な作りで、かなり撓んでギシギシ鳴る。高所恐怖症のシュンは怯みながらゆっくり歩いた。足下にある川は浅く、昔は商店街だったらしき両岸のビル群は一部が水没していた。
同じコンサート目的なのだろう、多くの人がシュン達と同方向に流れている。
橋を渡った先にも、多数の商店街とビルが建ち並んでいた。
シュンは初めての風景に辺りをキョロキョロ見廻しながら歩いて行く。遥かタイリュー山まで広がるミェバと違い、猫のひたいほどの空しか見えない。みんな遊んでいるのか時々小道に入って遠回りしながら、漸く目的地にたどり着いた。
やはり間近に見ると格別だ。壁のようにそびえる建物は、五階分の高さはある。入り口には既に大勢の人がいて、開場を待ちわびていた。
「どうする、入る?」
「まだ時間あるし、まわり歩こっか」
「りょうかい」
会場の中からは、マイクテストの大音響がする。スタジアム周辺には来場者向けに、色んな食べ物やグッズが売られていた。
「ハイこれ、チケット。はぐれても、これ持ってたら中に入れるから」
そう言われてシュンはハルからチケットを受け取り、ユニコンに読み取らせた。何処で手に入れたのかハルはウサギ耳の帽子を被り、身につけたアクセサリーが輝いている。未だ食べ足りないようで、ハルはもう一足先に人混みの中に紛れ込んでいった。
シュンは皆を遠目で見ながら付いていく。結構な人だかりだ。チケットを持ってない人も居るようで、沢山の女の子達が、何かを書いたプレートを持って立っている。特に好きでもないのに貰ったチケットで入る自分が、少し居心地悪かった。
最初に見た入り口の丁度反対側辺りまで来た。裏通りの向こうには銀杏並木が見える。この時期では既に散っているがNAGSSの坂と同じく、少し前に訪れたら紅葉が綺麗だったろう。
「全ての人間は、罪を背負って生きています」
突然、よく通る声が響き渡った。
一瞬何事かと静まったが、群衆は直ぐに元のざわめきへと戻った。




