交渉 1
ベヘル付近を徘徊中の兵士から無線がはいる。
「緊急事態です! 魔物の軍勢がベヘルに向けて進行中です」
「上位種と思われる個体が先導しているようです」
「魔物がここに向かってきているのか! しかも上位種だと! 周辺の状況は!?」
「周囲の人に目もくれず、一直線にベヘルに向かっています」
「一直線に!? 先に頭を落とすつもりか!」
連絡を受けた、軍の隊長 林 康次 が首相 船崎 一馬 のもとへ走る。
「…………という状況です」
「絶対絶命だな。これで我が国も終わりか」
「弱気なことを言わないでください。先制攻撃で数を減らし撹乱します。その間に逃げてください!」
「私はもう逃げんよ、この国の行く末をここで見届ける」
ベヘル内に無線により康次の声が響きわたる。
「ベヘル内の全兵士へ! この場所で魔物との全面戦争を行う」
「死ぬものもたくさん出るだろう。だがこの戦いに勝利できれば人類の勝利に大きく近づく! 覚悟して臨んでくれ」
「「「おおおおーーーーー!!!」」」
かつてないほどに兵士の士気が高まる。
康次の無線から二時間後、
戦闘準備の整った大量の兵士の前にロディスと隼人、魔物の軍勢が到着する。
その光景を見た瞬間、兵士から驚きの声が上がる。
「なぜ人が魔物と!?」
無線により隊長に報告する。
「隊長、魔物の軍勢の先頭に子供が! 攻撃できません」
「人質か! 致し方ない。自分一人で多くの人が救われるならばあの子も本望だろう」
「全員! 攻撃開始!」
殆どのものが心で謝罪をしながら銃を構える。
戦車 伏兵 機関銃 ありとあらゆるものからの一斉砲火がはじまる。
「まだ隼人がいるというのに。クズどもが!」
「バリア!」
ロディスの言葉とともに透明な何かが魔物たちを包み込む。
三十秒ほど続いた爆音が鳴りやむ。
土煙の中から現れたのは……
「嘘……だろ」
無傷の子供と魔物の軍勢だった。
奴らがいる地面は、ある一定の場所から傷一つなない。
攻撃が防がれたのは間違いないと教えてきているようだった。
「隼人ここでお別れだ。案内ありがとう」
「どういたしまして。ロディスお兄ちゃん交渉がんばってね!」
隼人は手を振りながら去っていく。
「その歳で国にまで見捨てられるなんて」
「がんばるよ。やることがひとつ増えたがな」
ロディスは少々怒り気味に独り言をつぶやく。
「報告は? どうなったんだ!」
報告を待つ康次のもとに驚くべき無線が飛び込む。
「魔物に負傷者はゼロ。我々の攻撃は全て防がれました」
「バカな……そんなことがおきるのか!」
「今まではこんなことなかったのに!? 上位種の仕業か!」
「正解です。察しがいいようですね」
康次が驚きとともに声の方向に振りかえる。
「ガハッ」
その瞬間ふるわれた拳により腹を貫かれ吐血する。
「痛いだろう。これは隼人が受けた心の傷の痛み分だ!」
「大丈夫だ。死にはしない。隼人に言ってしっまたからな人は殺さないと」
康次は痛みに耐えられず気絶する。
「気絶したか、少々強くやりすぎたな。このままでは本当に死にそうだ」
「ヒール」
ロディスがつぶやくとみるみるうちに康次の傷が塞がる。
「さてさて、やっとこの地域の支配者と交渉が出来そうだ」
ロディスは歩いていく。建物のどこかにいる、この地域の支配者を探しに。