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死の惑星に安らぎを  作者: 京衛武百十
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生理機能

人前に出るのは基本的に白衣を纏った生身のメルシュ博士の方だが、もう一つの、全裸のロボットの体を持ったメルシュ博士が普段何をしているかと言えば、ほぼ毎日、朝から深夜までCLS患者の解剖を行っていたのだった。いや、解剖などという生易しいものではないか。幼すぎたり高齢すぎたりでメイトギア人間の素体としては適さないCLS患者を、全身くまなく徹底的に完全に人間の形が失われるまで細切れにしてその肉体の成り立ちを知ろうとしていたのだ。丸洗いできて感染などの心配もないロボットの体を活かした運用方法と言えるだろう。


それによって分かったことの一つが、<CLS患者は排泄を行わない>ということである。摂取した食料は全て完全に分解され、本来の人間の肉体なら利用できない筈の成分まで分解、変質させて徹底的に利用するので、無駄になる部分が存在しないのだ。しかし、食品に不要な部分がなくとも、人体は元来、大量の腸内細菌を保有しており、それらの死骸が大便として排出されるのだが、その腸内細菌自体がほぼ存在しなくなっているのが分かったのだった。代わりに、消化器官の各部にCLSウイルスによって微小な器官がびっしりと形成され、それが食品を分解、体内に吸収していた。


その器官は腎臓内にも作られ、ろ過して排出される筈の老廃物さえ分解、再利用され、浄化された水分は尿になることなく体内に戻された。その能力は、ある程度の毒物さえ分解して無害化し、肉体の維持に利用することを可能にしていた。それでも利用しきれない重金属などの微量な不要物は皮膚に蓄積されて垢として排出される。


エレクシアYM10が出会った少年の姉が地下室に監禁されていても排泄物の臭いがしなかったのは、この為であった。排泄自体をしなくなるのだから当然だ。


しかし、このような不自然な肉体の変化をもたらすこともまた、CLSウイルスが人為的に生み出されたものであるという推測の基にもなった。それは、宇宙船内など、限定された環境で生存することに適した肉体に改造されるということを表しており、わざわざそのようにしなくても十分に生存できる筈の豊かなリヴィアターネの環境の中でこのような変化をもたらすウイルスが自然発生すること自体が不自然と考えられたからである。


とは言え、脳を破壊し知能も人間性も失わせては意味がない筈なので、過酷な環境に適応する為の肉体改造を目的に作り出されたもののそれは失敗作であり、その失敗作を更に改造して生み出されたのがCLSウイルスであるというのが現在の仮説であった。


それもまた、メルシュ博士の徹底した非人道的な実験の結果導き出されたものでもあったのだった。



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