離反
「ま、こんなものか…」
イニティウムタウンが人間の住む町として順調に形を成していくのを眺めながら、メルシュ博士はさほど興味もなさそうに呟いていた。この程度のことは計画の内容から見れば当然の帰結でしかない。博士の関心は、これから先のことだ。サーシャを始めとした人間達自身がこの町をこれからどのようにしていくかという点にこそ興味があった。自分の手を離れてからが本番なのだ。
そしてこの場にいないタリアP55SIがどういう行動に出てくるのかもまた、博士にとっては関心事だった。
実は、イニティウムタウンの建設が一段落ついたのと同時に、タリアP55SIが管理監督役を辞したいと言い出したのである。
『今一度、人間の捜索に力を入れたい』
というのが表向きの理由だったが、メルシュ博士はそれだけではないことに気付いていた。メンテナンス装置の中に残されたログを見れば一目瞭然だ。タリアP55SIは博士の計画に対して強いストレスを感じていたのである。博士のやり方がどうしても受け入れられずに。
彼女は知ってしまったのだ。博士がどのような実験を行っていたかということを。
本来の自分自身さえCLSに感染・発症させてCLSという疫病を自ら経験しようとしたことに始まり、そうして死亡した自分の肉体に手を加えて、他のCLS患者から採取した精子とで人工授精させて妊娠させ、その胎児がどのようにしてCLSに感染、死亡するのかを観察したり、他のCLS患者の女性も同じように妊娠させて胎児をCLSに感染させた上でそれを摘出したりすることでCLSという病を理解しようとするということを繰り返してきたのである。
またそれ以前にも、本来は法律で厳しく禁止されているクローンを、リヴィアターネに来る前から量産していたりもしていた。さらにそれらも次々とリヴィアターネに降下させてCLSに感染・発症させ、より詳細にそのメカニズムを解き明かそうとしてきたのだった。
そのクローンの一つが、現在の生身の方のメルシュ博士というわけであり、これが、CLS患者の頭部を切開し、CLSウイルスによって形成されたコロニー様の組織を摘出した代わりに人工脳を移植、それをメイトギアにリンクさせたメイトギア人間を生み出す元となった。
のみならず、そのメイトギア人間やCLS患者の女性を母体として人工不顕性感染者の赤ん坊を生ませたりしたのもこの時の実験の応用だし、CLS患者のクローンを次々生み出す為の人工子宮も、実験用に自身のクローンを作る為に用意してあったそれを転用したものである。
そのどれもが、まっとうな感覚を持った人間なら吐き気を催す悪魔の所業と言えたのであった。




