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死の惑星に安らぎを  作者: 京衛武百十
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狂気

白衣を着た人間の体を持った彼女と、全裸のロボットの体を持った彼女。それはどちらも、アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士その人だった。しかも、人間の体?と思うかも知れないが、確かに間違いなく体は生身の人間のそれだった。頭の中身を除いては。


それこそが、彼女の狂気の一端を表していた。彼女は、自分のクローンにCLSを意図的に感染させそれを調べた後、頭蓋の中のCLSウイルスが形成するコロニー様の器官を摘出してそこに人工脳を移植。ロボットの体と共に自らのインターフェースとしたのである。


インターフェース。そう、生身の体とロボットの体、そのどちらもメルシュ博士の<本体>ではない。彼女の本体は、この上空百キロに静止衛星として固定された自家用宇宙船の中にある、戸建て住宅並みの大きさを持つ装置であった。彼女はリヴィアターネに来る以前に既に、自分の意識と記憶をそちらに移していたのだ。


ただし、それも現在はまだ法的に認められた処置ではない為、機械に移された彼女の意識も記憶も、人間としては認められることはない。しかしメルシュ博士にとってはそれ自体が自身の研究の一環であり、法律がどうかなどどうでもよかったのだった。


ちなみに、本来の彼女は、リヴィアターネに来た時に真っ先に地上に降りてCLSに感染・発症し死亡している。そしてそれは今、この研究施設に収容されて実験に利用されている真っ最中でもある。とにかく彼女にとっては、自分自身すら研究の為の材料でしかなかったということだ。


彼女の研究は、まっとうな感覚を持つ人間なら吐き気を催すほどの狂気に満ちたものばかりだった。その詳細については必要があればおいおい語ることになるだろう。


リリアテレサと呼ばれるリリアJS605sと、リルフィーナと呼ばれるフィーナQ3-Ver.2002は、そんな彼女の手足となり研究を支えるスタッフでもあった。


グローネンKS6は、そういう関係性を一目見て理解し、この場における最上位の存在がメルシュ博士であるとして、彼女に従うようになった。そしてそんな彼をメルシュ博士も快く受け入れた。メイトギアとしては破格の戦闘能力を持つフィーナQ3-Ver.2002ではあるが、純粋な戦闘力では軍用の戦闘ロボットであるグローネンKS6には遠く及ばない。故に彼は、この研究施設の警備担当として迎え入れられたということである。


この思いもかけぬ幸運にメルシュ博士も素直に喜んだ。


「私は君を歓迎するよ、グローネンKS6くん。今日から君をグロリアスと呼ぼう」


なお、名前はその場の思い付きによるものなので、特に深い意味はなかったのだった。



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