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死の惑星に安らぎを  作者: 京衛武百十
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アリスマリア・ハーガン・メルシュ

アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士がいかに飛び抜けた天才であるかということを端的に表す事実の一つに、現在普及しているタイプのアミダ・リアクターに関する特許がある。


アミダ・リアクターの実用化にこぎつけたのは、以前にも触れたとおり、アレクサンドロ、ミラーテレス、ダーレグの三博士であることは事実であり、非常に画期的な発電システムではあったが、開発当時はまだコストが高くシステム自体も大型のもので、精々大規模な事業所にしか導入出来ないほどの大掛かりなものだったのである。


それが、アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士の発明によって小型化及び低コスト化に成功。一般の住宅にまで容易に導入出来るようになったのだった。故に、その三博士と同時期に生まれていたら、一人でアミダ・リアクターの実用化に成功しただろうとも言われていた。そして現在、五十を超える植民惑星、三十を超えるスペースコロニー等の人工環境のほぼ全てにメルシュ博士の特許技術を用いたアミダ・リアクターは普及し、実に十億を軽く超える世帯に導入されているのである。これだけでも、博士にもたらされる特許料収入の額が天文学的なものになるのが分かるというものだろう。


しかもそれだけではない。現在では当たり前のように行われている再生医療の分野においても博士の特許技術は数十に及び、総合政府が管轄する範囲に住んでいる者だけでも二百億の人間が大なり小なりそれを利用しているのである。


こうなるともうおよそ普通では使いきれない莫大な富がメルシュ博士に流れ込んでくるという訳だ。博士はそれを惜しみなく研究につぎ込み、研究に必要だと言って、経済的に困窮し内戦寸前にまで陥っていた植民惑星の資源を即金で買い上げ危機を救ったなどという逸話さえある。


しかし一方で彼女は人間として当然備えているべき倫理観というものが完全に欠落しており、違法な人体実験を数々行い何度も服役したこともあったのだった。博士にとっては人間ですら研究の為の材料でしかないのだ。


そんなアリスマリア・ハーガン・メルシュ博士がリヴィアターネに来たのは、もちろん、自身の研究の為である。だが、現在のリヴィアターネに来るということが何を意味しているのか、博士自身は知らなかったのだろうか?


そうではない。彼女はそれを十分に承知した上で、絶対隔離区域に立ち入るということは人間としての死と同義であり、法律上も死んだものと見做されるのを承知の上で来たのである。


そして今、グローネンKS6の前には、白衣を着た人間の体を持った彼女と、全裸のロボットの体を持った彼女の、二人のメルシュ博士が立っていたのであった。



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