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オリビア視点 1

~オリビア視点~

物心ついた時からわたくしには二人の「兄」がいました。

男女の双子として先に生まれた一人目の兄は二つの巨大で異質な魔力を有する為、その魔力をコントロールできず体調を崩しては、癒し手である母様が付きっ切りで看病することも少なくなく、幼少の頃は寂しさと嫉妬も混じり、あまり兄が好きではありませんでした。


いつの頃からか、私が母様に構ってもらえない時には、お城からお忍びで王妃様がいらっしゃいました。王妃様はお母さまの親友であり、一人息子である皇子様を伴って恐れ多くもわたくしの遊び相手をしてくださいました。皇子様はわたくしととてもよく好みが似ていました。好きな食べ物、好きなおもちゃ、お菓子など、兄様は、私が欲しいといったものは何でも優先してくれましたが、皇子様と私はよく取り合いになって喧嘩しては泣かされましたが、最後には渋々譲ってくれる・・そんな皇子様と兄様と私は幼馴染の兄妹のように仲が良かったものです。


その関係性が崩れだしたのは、いつ頃だったでしょうか・・・・。

ある時、いつものように熱を出して寝込んでいた兄様を見舞った時でした。いつも、兄様の具合の悪いときは近くに寄ってはいけないと言われていたので、熱に浮かされ荒い息を吐く兄をじっと扉の隙間から覗き見ていました。母様はあいにく所要で外出していたため、兄様の部屋付きのメイドが何度も往復しては額の氷袋を替えていました。そんな中うっすらと目を開けた兄様が何か小さく呟きました。氷嚢を代えにメイドのアンが出て行ってしまっていたので、ちょっと迷いましたが、兄のつぶやきを聞き取ろうとして、近くによると苦しい息の下途切れ途切れに、私に目を留め少し驚いたように目を見張り「近・・寄るな」といいます。


アンはなかなか戻ってこないし、ムッとして兄の汗ばんだ手を両手でぐっと握りこむと、吃驚したように振りほどこうとしましたが、体力が極限まで落ちている兄は、力いっぱい握りこむ私に負けたように目を閉じました。


いつもは超然とした兄の苦しそうな姿に私は必至で治るように祈りながら何故かそのまま疲れて私まで寝てしまい、目覚めると端正な兄の顔がまじかにあってギョッとしたのを覚えています。いつから起きていたのかずっと兄に寝顔を鑑賞されていたようでした。恥ずかしくてつい辛辣な態度をとってしまいましたが、どうやら兄の手を放さなかったのは自分であり、戻ってきたメイドに目覚めるまで寝かしておいてあげてほしいと兄が頼んだそうです。大変いたたまれない思いをしましたたが、不思議なことに兄の熱はすっかり下がり、それ以降徐々にあまり魔力の暴走を起こさなくなっていきました。


幼少のみぎりから私達の元には王宮で皇子様を教えていらっしゃる高名な学者や教師が派遣されていました。高位貴族がそういった教師を家庭に招くのは珍しくはないものの、私達は皇子様と同様に帝王学などを幼い頃よりたたきこまれたものです。あまりにも勉強が辛くて逃げ出そうと思ったことも一度や二度ではありません。ですが、兄様はそんな教師らが、感心するほど出来が良く、そつなく何でも物事を最高の出来でこなしていきました。そんな兄はずっとわたくし・・いや私達の自慢でした。


ですが兄様は、今までどこか私達家族の中でも一線を引いて接してこられました。同じ親から生まれた兄妹なのに、何か遠慮があったように思います。ですが兄の部屋で眠りこけた一件があってから、兄様は今まで以上に私を構い倒すようになりました。昔から優しかった兄ではありますが・・今までとは違って、何というのでしょう・・・無駄に色気がダダ漏れというか・・なんというか・・小さい頃とは違った意味で、少し兄が苦手になりそうでしたが、距離を置いていた父や母に対しても少しずつ打ち解けて行ったような感じがしてとてもうれしかったのです。何故かお父様だけは複雑そうな顔をしていらっしゃいましたが・・・なぜでしょう・・??


同時にその頃から、段々ともう一人の兄様であった、皇子様と過ごす時間が減っていきました。もう子供ではありませんから、私達も高位貴族とはいえ、今までのように皇子様と遊ぶ訳に行かないのは分かっていますが、やはり寂しく感じました。すっかり体も良くなってギムナジウム(中等部)へ入学する頃には、兄は国の重鎮も一目置くほどの教育と知識を身に着けていました。ギムナジウムに入ってから私と皇子様も頑張って勉強していましたが、兄には及ばず、いつも兄が1番、2番が皇子、そしてわたくしでした。


そして、運命の聖ランドリギーヌに入学したときから私たちの運命は少しずつ歯車を狂わせて行ったのです。この年に入学を果たした高位貴族は他国からの留学生も含めて10名、そのうちの一人である隣国のサフィア王女と同室になりました。最初は他国のしかも王族との同室だなんて恐れ多くて戸惑いましたが、幸いサフィア様はとても気やすい・・・方で、すぐに打ち解けたわたくし達は親友となり、寮生活、友人作り、そして勉学に一層身を入れるようになりました。


1年目は特に何事もなく過ぎ去り、2年目からは何故か兄の強い勧めで、将来自国の王妃、または他国へ王妃・測妃として嫁ぐ子女が受ける特別なコースも教養の為、受けるようになりましたが、それが元で、なぜかわたくしが、この国の王妃の座を狙っているなどという噂が立ち始めたのです。最初にそれを教えてくれたのは同室のサフィア様でした。


「ねえ、オリビアは将来この国の王妃になりたいの?」


「え?」


「最近、ちらほら・・そういう話を聞くのよね。誰が流しているんだか知らないけど、かなりアグレッシブに王妃の座を狙ってるって・・。でもオリビアってそんなタイプじゃないでしょ?一年こうして一緒に暮らしているとわかるもの。」


「わたくしがこの国の王妃に・・?あり得ないですわ。そんなこと考えたこともありませんもの。それに・・・アルお兄さ・・あいえ、皇子様は、わたくしにとっては、兄も同然で恋人や伴侶のような対象には見れませんわ。」


「ああ、確か幼馴染なんだっけ?そうだよねぇ・・こういっちゃなんだけど、安心したわ。うん・・だってあいつにオリビアは勿体ない!でもせっかくオリビアも一緒に特別コースとってるんだから、この際、私の兄に嫁ぐってのはどう?!そしたら私とオリビアは義姉妹になるでしょ!でもオリビアって身分的にも素質も問題ないどころか競争率高いからなあ・・兄上にはすでに正妻がいるから、【側妃】って立場になっちゃうし・・・あー、それだったら下の弟って手もあるけど、まだ10歳だからなぁ・・・ぶつぶつ」


「いやだわ、ソフィア様の兄君と言えば、愛妻家で有名なご夫君ではありませんか・・・そんなお二人の仲を裂くなんてことはできませんわ。ふふ、わたくしの場合は、お父様が国内外も併せて相応しい嫁ぎ先を探してくれていると思いますわ。わたくしは女ですし、お兄様のように家督を継ぐ訳ではありませんもの・・・貴族である以上、結婚するなら多かれ少なかれ、国や領地の利益になる為、精一杯頑張りますわ!」


「あ~ん!なんていい子なの!オリビアったら!もう、本当に欲しくなっちゃうわ・・私が男だったら、あんたのお兄さんに決闘申し込んでも連れていきたいぐらいよ!それにいっちゃ悪いけど、あんたこのままじゃ行き遅れる可能性もあるわよ?」


「ええっ?何故ですの?」


「えっ・・・てか、うん・・・まあいいや・・ごめん、気にしないで忘れて?」


<<心の声>> だってあんたの兄貴ってぶっちゃけ異常なシスコンじゃん・・オリビアは美人だし、教養も高くていい子で、引く手あまたなのに片っ端からあのシスコン男がフラグ折まくるわ、圧力かけまくるわ・・・マジで腹黒いし・・・うわっなんか今寒気した・・。どっからか覗いてるんじゃないだろうな、あの変態・・。いや、それはさすがに無い・・・か?

それにこの国の皇子とその近辺も何かときな臭いし、正直この子には近づいてほしくないのよねぇ・・まあ、でもその辺はあいつが手を回してるか・・


その後、確かに学院内において、私が王妃の座を狙っているだとか、音も葉もない噂がありましたが、お兄様は気にしなくてよいと言いますし、その他のわたくしと仲の良いお友だちは皆わかってくださってましたので、あまり気にはしていませんでした。


2年目の2学期を終えて、冬休みに久しぶりに兄と実家へ帰った折に、急きょ王宮からの呼び出しの手紙がわたくし達宛てに届きました。久しぶりにお会いする王妃様でしたが、何やら内密な話があるとのこと、ドキドキしながら、迎えの馬車に乗り込みました。

道すがら、対面に座る兄に聞きます。


「ねえ、兄様・・王妃様とお会いするのは久しぶりですわね。アル兄様もいらっしゃっているのかしら?ギムナジウムを卒業して以来ほとんどお会いすることもなくなりましたもの。でもお兄様はいくつか同じ講義をとっていらっしゃいますのよね?」


「ああ・・」


「もし今日お会いできたら学院内で変な噂が広まっていることについて謝らないといけませんわね・・」


「まだあの噂の事を気にしていたのか?オリは何も気にしなくていいと言っただろう?」


「でも、わたくしなんかが恐れ多いですわ・・王妃様にも謝罪しないと。それにしても、王妃様からの内密のお話しって一体何なのかしら?」


「まあ・・・ある程度予想はつくが・・あの馬鹿の事とか・・な」


「馬鹿のこと・・・????」


お兄様に適当にはぐらかされたまま、馬車は王宮内にある一角、「冬の館」と呼ばれる白い大理石で建てられた離れの館の前で止まった。この館は現国王が、プロポーズと共に他大陸の王家から嫁がれた王妃様の為に贈ったものである。


すぐに出迎えた執事に案内され、私達は客間へ通された。室内は王妃様がご実家から持ち込まれた質の良い家具や、祖国の特産品のひとつである、豪奢で緻密なレース編みのタペストリーなどが飾られてある。皇子様も幼い頃は、この屋敷で育てられ、わたくしも幼い頃に、母に連れられて、何度かお邪魔させていただいたこともある思い出の館だ。


ですが、久しぶりにお会いした王妃様から語られた内容はわたくしの想像を遥かに超えたものだったのです。

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