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第一話 再起動

 永い夢を見ているみたいだ。いや、これは走馬灯というやつなのかもしれない。これまでの人生のすべてを咀嚼するように見返している。自分の人生は長編映画一本分ぐらいは、面白みがあるとは思っていたがこう振り返るとあまりにも中身がない、面白みのない人生だ。もう一度人生をやり直せ、と言われたところで自分の人生に花を添えること不可能だ。花を添えるにも添える場所がなければ、その花に価値はない。自分の人生もそうだ。いくら外見を整えようとも、本質は揺るぐことはない。自分はそれ以上にはなれないのだ。

 だが、それらをすべて一からやり直せるしかも自分に合った世界で。自分はどうなるのか想像もできない。今よりは幾分、マシになっていたい。

 自分はリスタートの権利を得た。すべてをやり直し、始めることができる。

 

「神様、本当にありがとう」


 声になったかどうかはわからない。ただ、届いたような気がした。

 自分は生まれ変わる。

 今、この瞬間から、僕は――僕をやめた。


◇ ◇ ◇


 夢が覚める。二度戻ることのなかった四肢の感覚が戻ってくる。五感の全てが揃い、同時に意識が覚醒する。

 閉ざされていた目蓋が開く。光が体に染み込んでいくようだった。


「お、王が帰還なさった!」


 鼓膜を歓声が揺らす。いい目覚め、かもな。

 王の間には、俺の仲間たちで溢れている。両腕を突き上げ喜する者。感動のあまり泣き出してしまう者。様々だが皆、喜んでいるには違いなかった。

 高鳴る鼓動を抑え、一つ息を吐きそっと立ち上がる。大地を揺るがすほどだった大歓声が、時が止まったように止んだ。

 

「皆、俺を待っててくれて本当にありがとう。心から感謝している。まあ、言いたいことは山ほどある。だが、今俺が言うべきことは一つだと思う」


 仲間たちは、俺のことを待っていてくれた。心の底からうれしさが泉のように溢れる。決してこの気持ちは涸れることはなく、永久に湧きつづけるだろう。


「ただいまー!」


 俺はこの言葉が言いたかった。難しい言葉を並べるよりも、この簡単なこの言葉に全ての感謝を込めた。


「そして、これからもよろしくー!」


 精一杯の声で一人一人の体に響くように叫んだ。

 俺、天空蛍アマソラ・ホタルはもうこの世界の住人だ。


 この世界に来て驚いたこと、それは己の姿だった。これは〈ONLY WORLD〉の世界が現実になったものだ。それに伴い姿もゲームのキャラメイクになっている、はずだった。


「これはすごいな。生きてたころの俺、そのものじゃないか」


 突然、槍が脳天を射るような激しい痛みが襲った。

 俺はまだ、何か肝心なことを忘れている。それがいつからだったのか。ここでひとつの疑問が浮かんだ。本当にこの世界はゲームだったのか。俺がプレイしていたのはこの世界ではなく、あの退屈な人生だったのではないか。

 だが、これより先は濃い霧が立ちこめ、詮索を拒んだ。


 そっと顔に触れてみるが感触は生身の人間その物で、鏡に写る自分の姿は、生前のそれだった。

 しかし、病弱で痩せ細っていた体には程よく筋肉がつき、生きる気力を失ってやつれていた顔がやる気に満ちていた。あれ、俺ってこんな顔だったんだ。結構カッコいいかも。


「なあラル。俺の顔、カッコいいと思うか?」


「はい、とても美しく気品に満ちています」


「いやメイドの回答は受付けない。本当はどう思う?」


「はい、まあ……大丈夫です」


「なんだよそれ!?」


 メイド服を纏った黒髪の女、ラル。ホタルに仕えるメイドの一人であり、武人だ。見た目は清楚系といったところかな。まあ、中身まで清楚かは補償しないが。


「ホタル様、遅くなりましたが帰還していただきありがとうございます」


「そんな大したことじゃないよ。俺はこの世界が好きだし、なにより仲間が大好きだ。帰って来ないほうがおかしだろ」


 俺は好きなものには命を懸ける。この世界に来たのはそのためだ。


「ラルには迷惑掛けっぱなしだな。昔のこともあるのに」


「昔のことはもういいのです。それに私は何も後悔などしていませんし、むしろホタル様には感謝しています。今の私があるのも、あのときホタル様が助けてくれたからです」


 ホタルに仕えるメイドの大半は、奴隷の出。ラルもそうだ。

 奴隷商と呼ばれる業者が、奴隷の売買を行っていた。多くの者は過酷な労働に加え、日々耐えることのない暴力に襲われた。それに加え、奴隷を買う客の中には己が性欲を満たすために女を精神異常状態に至る淫魔法を用い、陵辱する者もいる。

 俺は同情してはいけないと思った。だけど、それ以上に助けなくてはならないとも思った。

 奴隷商を殲滅し、全ての奴隷を国民とし王宮に雇った。


「それ以来、俺には“救済王”って名がついたんだよな」


「あの時、助けにくる人がいるとは思いもしませんでした」


「言っただろ、俺はこの世界が大好きだ。それは、ラルみたいにどんなに過酷でも希望を捨てずに未来を信じるやつがいるからだ。直向さでラルに勝てるやつはいないさ」


 誰だって絶望する。だけど絶望の中に希望を見いだし、それに向かっていく。

 本当の勇気とは希望を見いだし進み続けることだと思う。

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