夜天に星は煌めいて
うららかな春の風が心地良い。
季節はようやく長い冬を終え、暖かな春を迎えようとしていた。
あれから二週間近く経った。
羅堂の最後を見届け、駆けつけた浦崎雄也とともに空間転移で脱出。そして外で待っていたまどかたち、別働隊と合流し引き上げたというわけだ。
とりわけ重傷だった隼人と良治はその場で空孝に応急処置をしてもらい、福井支部近くの病院へと運ばれた。今では二人とも回復し、日常生活に支障なく過ごしている。
重傷の良治を見たときのまどかの取り乱しようは驚くほどだったが、命に別状はないのがわかってからは恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべていた。
羅堂道元は倒れ、陰神は滅んだ。
しかしその全てが消えたわけではない。
夜叉・桜・楓・シグマ・真鍋の五人が戦後行方不明。戦死したのは羅堂のほかには魁一人だけだった。下っ端の構成員も含めれば戦死者は幾分増えるが、それでも二桁いくかどうかだろう。
行方不明者の捜索は行われているが、簡単に見つかるわけないと半分諦めていた。特に危険度の高いシグマは魔界に帰ったとする見方が大半だった。
荒島岳はその標高を僅かに下げただけで、そこまで大きな被害は出ることはなく、表向きには地下水が枯れたことが原因の地盤沈下ということになっていた。
「よう、こんなとこでどうしたんだ?」
「ん、いやなんとなくな」
ぼんやりと木に背を預けていた和弥に声をかけたのは良治。ここは和弥の住むマンションの近くの公園。時間は二十時を過ぎた頃だ。
「生き残ったな」
「ああ。というかリョージが回復系の術まで出来るとは思ってなかったよ。あれって確か宮森家秘伝だったろ?」
「そうだよ。でも覚えようとすれば出来ないことはないってことだよ。――まぁホントはあんな状態で使えるものじゃなかったんだけどな」
苦笑して夜空を仰ぐ。
実はあの時、綾華の持っていた紫色の珠を使用していたのだ。非常に地味だったが、あのアイテムがあったからこそ良治は治療術を使用でき、和弥は持ち直し、そして羅堂を撃破することに繋がったのだ。勿論珠を使用した代償として、良治は暫くの間一般人と同じくらいの力しかなくなってしまったが、それも入院中のことだったので大きな代償とはならなかった。
「とにかく、これで当分平和だな」
「ああ。これもお前がもたらせたものだ。そして願ったものでもあるだろう?」
和弥が退魔士となった理由。それを今、もう一度思い出す。
目を閉じている彼を見て、満足そうに微笑む良治。共に戦えたことを誇りに思う。初心を忘れず、成し遂げ、力に溺れることもなく、今この場所に立っている親友を。
「――じゃあそろそろ御暇しよう。待っている人もいることだしな」
「ん?」
そう言うと身を翻し後ろ向きに手を振って出口へと向かいだす。追うように視線を送るとそこには一人の小柄な女生徒。穏やかな微笑を浮かべ佇んでいた。
良治とすれ違うときに軽く会釈をし、こちらへと歩みだした。
「あの夜の、続きの話をしにきました」
頬が赤いように見えるのは、きっと気のせいではないだろう。
覚悟を決めてきた、そんなふうには感じない。ただ、もう答えを予感しているし、それに自信があるから故に現れる爽やかで魅力的な笑顔。
「――私は、貴方のことが好きです。これから先、一緒に歩んで貰えませんか?」
「綾華……」
「答えは?」
「ああ。うん、えっとな」
「…………」
「うん、だから」
「…………」
「俺も……綾華のこと――好きだよ。愛してる。だから――」
大きく深呼吸を一つ。彼女の目を見て心を込めて言う。
「これからもよろしくな、綾華」
照れ笑いを浮かべる彼に対し、彼女は。
「――はいっ」
星の煌めく夜天の下、満面の笑みで彼の言葉に答えた。
「夜天に星は煌めいて」完
ここまでお読みいただきまして本当にありがとうございます。
何も知らなかった一人の青年の進んだ道、辿り着いた場所。それを書き、皆様とともに見届けられたことを本当に幸せに思います。
和弥でなくても、誰か一人でも好きになっていただけたら嬉しいです。
今までありがとうございました。それでは、また。




