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夜天に星は煌めいて  作者: 榎元亮哉
~それぞれの試練~
11/44

~それぞれの試練~ 一話

 ――追いつめた。



 蒼い光を照らす月下、住宅街で発見した悪霊。

 それを上手く誘導して市内の小学校へと追いこんだ。ここでなら結界を張ることも出来る。そして勿論戦うことも。

 半ば実体化しかかっている悪霊が小学校の敷地のほぼ中央まで来たところで、結界特有の違和感が襲う。これは彼の術ではない。その後ろ、少し遅れて付いて来てるまどかのものだ。

 パートナーを組んで早や二年。そのコンビネーションはかなりのものになっている。二人ともサポートをする方が得意というのもあるだろうが、それを抜きにしても息が合っているのは間違いなかった。

 彼は常に冷静でいようと努力をしているし、彼女は常に視野を広く持とうと意識している。つまりお互いに現状把握能力に長けているということだ。

 逃げ場を失ったのを悟ったのか、悪霊は移動を止めて良治に向き直る。

 黒い影の中にいくつもの貌カオが浮かんでいる。それを見て黒衣の少年は舌打ちをした。


(手強い、か)


 悪霊の体内に浮かぶ、叫ぶような顔たちの数は、即ち取り込まれた霊の数。ざっと見て十以上はある。ランクとしては中位クラスといったところか。このクラスになると、下位の魔族に匹敵するものもいる。決して油断できる相手ではない。

 瞬時に転魔石を発動させ、左手に愛刀である村雨が現れる。そして速度を落とさずに駆けて行き、抜きざまに一閃。しかし難なく躱わされてしまう。


(――速い)


 呪詛と共に放たれる魔力弾を避け、体勢を立て直す。まどかが追いついたのを確認すると再度前へ出て右手を振るう。

 幾重もの剣閃を放つが、悪霊を捉えることが出来ない。まどかの矢によるサポートのおかげで間合いこそ開かないが、霊特有の慣性の法則を無視した動きを読みきることが出来ない。

 何度目かの――並の相手なら決まっている――攻撃を躱わされ、間合いを開けられたのを機に決断する。

 左半身を前に、両手で持った刀を後ろに構える。額のバンダナに力を集中させ、そこから全身へと行き渡らせる。

 距離は二十m強。闘気が身体を包み込んだのを感じると同時に駆け出す。その速さ、まさに疾風の如く。

 さらに間合いに入った刹那、良治の身体全体が一回り大きくなり、一筋の光が走った。


「え……?」


 完璧に捉えたと思われた渾身の一撃は、悪霊をかすめるに留まっていた。

 そして――


「良治っ!?」


 刀を振った勢いのまま、崩れ落ちる少年。距離を取ろうとしていた悪霊が倒れた良治を見て詰め寄っていくのが視界に入る。相手にしてみれば絶好のチャンス。逃す手はない。

 しかし何とか先に駆け寄って牽制の矢を放ち、安全を確保するのに成功する。横たわる良治の咳き込む声が聞こえ、最悪の事態ではないことに安堵する。だが出来るだけ早い処置が必要なことには変わりない。正直、目の前の悪霊は邪魔者以外の何者でもない。


「仕方ない……っ」


 苦々しく呟くと突如結界を解く。そして、命中させるのではなく、追い払うことだけを目的に矢を放つ。悪霊もその意図を察したのか、白い校舎の向こう側へと消えていった。

 立ち去ったのを目と気配で確認すると、大急ぎでケータイを取り出し、ボタンを押す。しゃがみこんで見る良治の口からは多量の血液。焦ってはいるが動転はしていない。

 ――二度目のことだった。


「もしもし、葵さん!? 良治が発作で倒れたの、すぐに連れて行くから大至急宮森みやもりさんを――」



 ――闇に浮かぶ月は変わらず冷たい光を湛えていた――







「え、リョージが倒れた……!?」


 和弥と綾華がそれを知ったのは翌日の昼になってのことだった。

 学園は既に試験休みに入っており、その結果知るのが道場に来てからになってしまった。


「葵さん、それで良治さんの状態は?」

「命に別状はないわ。さっきまでずっとまどかちゃんが付いてたし、今は宮森くんが傍にいるから」


 それを聞いて安堵の息をつく二人。突然の知らせに驚かせられたが、漸く一安心といったところだ。

 二人に良治のことを伝えた彼女の名は南雲なぐも葵。この東京支部の支部長であり、白神会四流派、碧翼へきよく流を継承している。皆とも歳が近いせいもあり、お姉さん的な存在で慕われている。ショートの黒髪と右目の泣きぼくろがトレードマーク。そしてその強さは言うまでもない。


「……おや、二人ともこんにちは。良治くんの話ですか?」

「ああ、宮森さん。リョージは……」

「ええ、大丈夫ですよ。大分安定してますし、すぐ良くなるでしょう。むしろずっと看病していたまどかちゃんのほうが心配ですよ。まぁ、先程無理矢理交代しましたが」


 宮森かける、二十一歳。東京支部所属の医術士だ。医術士とは言葉の通り治癒や回復を専門とする術士で、そのほとんどが宮森の家に連なるものが担っている。宮森家はその術を門外不出とし、その地位を確立させた。しかし宮森のものは多くなく、大きな支部を中心に点在するほどしかいない。宮森翔もそのうちの一人だ。


「そうですか……では話はできますか?」

「いえ、まだ眠っていますので。目を覚ましましたらお二人に知らせましょう」

「はい、ではお願いします」


 ひょろりとした優男といった印象の宮森だが、その手腕には定評がある。和弥や綾華も訓練時に負った傷を何度も癒してもらっている。心配する必要は何もなさそうだ。


「さ、容態も分かったことだし、修練の時間にしましょ。和弥くん、今日は私が相手してあげるから」

「う……よろしくお願いします」


 いつも相手をしてもらっている良治がいないのを恨まずにはいられなかった。








「あれ、まどかちゃん、宮森くん……どうしたの」


 昼過ぎから始まった修練で、いつもよりも多くの生傷をこさえた和弥とその原因である葵、綾華のいる道場に現れた二人。その表情は険しかった。


「あの、葵さん。昨夜取り逃がした悪霊のことなんですけど……なるべく早く退治したほうがいいと思うんです。今のままでも手強いのにこのまま放っておくと大事になりかねません」

「私も同意見です。早急に退治したほうが良いかと」

「う~ん、そうねぇ……そうしたほうがいっか。じゃあ、まどかちゃん、和弥くん、綾華ちゃんの三人でお願い。大丈夫よね?」


 ある意味良治弔い戦。三人に断る理由などありはしない。揃ってはい、と返答した。


「んじゃ、これから睡眠を取ってから出発。ちゃんと打ち合わせもしとくのよ」


 ひらひらと手を振ると宮森と一緒に道場の奥に消えていった。良治の様子を見に行ったのだろう。

 三人が円形に座るとまどかがこほんと咳払いをして説明を始めた。その表情は真剣そのものだ。


「それじゃ早速だけど説明するわね。昨夜の悪霊はまだ近くにいるはずだから、昨日と同じ、市内の小学校に誘導してからそこで戦うことになると思うわ。で、基本的には和弥が接近戦で、私たちが後方支援。いい?」

「ああ。というかそれしか出来ないからな、俺」


 未だに中距離、遠距離の攻撃手段がない。しかしその分、相手に接近しての戦い方は一応サマになってきてはいる。まだ良治や葵の域までには当然達してはいないが。


「私も異存ありません。それでいきましょう。……ところで良治さんの倒れた原因はその悪霊にやられたからなんですか?」


 違うだろうという予想を立てたうえで訊く。もしそうならこのメンバーを選ばないだろう。立場的には下の良治だが、実力的には師範、師範代を超えて東京支部では葵に次ぐ力を持っている。純粋に力の差で負けたのなら葵自ら出て行くだろう。


「え、と……うん、直接やられたんじゃなくて……発作で倒れたの」

「発作?」


 思わぬ言葉にその単語が和弥の口から発せられる。良治が発作持ちだなんて聞いたことがない。一晩寝込んでしまうような重いもの。そしてそれを診たのは組織の人間。それは普通の病院では手に負えない類だという証拠ではないのか。


「ごめん、詳しいことは良治本人から訊いて。私からは……」


 俯き、申し訳無さそうな顔を覗かす。確かに黙っているのは気が重い。それに勝手に言えば良治が怒るだろうことは容易に想像がつく。


「そうだな、後はリョージから訊く」


 なるべく明るく言って気分を切り替える。

 しかし彼は知らなかった。



 親友の命がさして長くないことを。








 この地域にしては珍しく星の瞬きを眺めることのできる夜だった。

 三人は昨夜戦場となった小学校へと来ていた。本来ならば周辺に散らばって捜索をし、発見してからこの場所に誘き出すという手はずになっていたのだが――


「まさか、初めからここにいるとは思わなかったな……」


 そう。

 彼らが見つけたときにはもう、悪霊がいたのだ。この小学校に。

 おそらくあの後一旦どこかへ去り、今日陽が落ちるとともに戻ってきたのだろう。

 これから探すために一度場所の確認のため来た先にいるとは誰も、まどかですらも思いもしなかった。肩透かしを喰らった感もあるが、冷静に考えてみると誘導する手間が省けたのだ。いつもと違い良治がいない。彼に比べて今回加わった二人はこういったことが得意とは言えないのだ。作戦が上手くいっていることには違いない。むしろ歓迎すべきことだった。


「そうね。じゃあ作戦通りに。綾華、結界をお願い」

「はい」


 そう言うと、『力』を集中させ、校庭全体を対象とした結界を張る。それを合図にするように和弥はいつものように袋から木刀を出し、まどかと綾華は転移石でそれぞれ弓矢と短刀を出現させた。

 この一連の行動で敵と判断したらしく、敵意がこちらに向けられる。走りかけた足が止まりかけるが、意志の力を持ってそれを跳ね除けた。良治がいない今回、接近戦ができるのは和弥だけなのだ。こんなところで立ち止まっていては彼に合わせる顔がない。正面の敵を見据え、真っ直ぐに駆けた。


「はぁぁぁぁっ!」


 先手必勝とばかりに、裂帛の気合とともに茶の色をした刀を振り下ろす。しかし素早く避けられ、掠ることもできなかった。続けて切りつけるが一向に当たる気配すらしない。

 およそ二ヶ月訓練を受け続けてきたが、まだ無駄な動作が多い。和弥の知り及ぶところではないのだが、致命傷こそ与えられなかったが捉えることが出来ていた良治に比べるとあちこちに粗が見えた。


 しかし、一概に二人を比べることは愚かであろう。そもそもタイプが違うのだから。

 良治はその体格のせいか、腕力がさほど優れていない。それは彼自身感じていることである。しかしそれを腕力をつけることで解決するのでなく、他の――瞬発力、技術といった――もので腕力の無さを解決したのだ。

 彼の凄いところは、判断力、これ一点に尽きる。自分の力、器を誰よりも理解しているのだ。力で勝てないならば他の何かで補う。技術で勝てないならば、術で勝てないならば……。その結果彼は数多くのモノを手に入れた。まどか以外には話していないのだが、彼は一通りの属性の術、応急処置程度だが治癒効果の術、日光のときに使った防御系列の術など、種類だけなら類を見ないほどの術を習得していた。さらに扱える武器も刀剣に限らず、槍、弓、棒と多岐に渡っていた。勿論、現在使用している刀に匹敵する高い水準でだ。


 このように、器用に何でもこなす良治に比べて和弥はどうか。

 彼は間違いなく天才だった。それは、たった二ヶ月の訓練でかなりのレベルに達したことからも分かる。元から運動神経は良かったが、今まで運動らしい運動をほとんどしていなかった状態から二ヶ月でここまで来てしまったのだ。飲み込みが早いとか、そういった次元を超えている。こと腕力だけに限れば良治と同等と言っても差し支えない。十年という長い年月訓練し続けてきた良治に、たった二ヶ月で追いついた和弥。一体誰が彼を天才で無いと言えるのか。和弥は持っているのだ。友が持たない『唯一』を。如何なる困難を、危機を覆す『武器』を。


 しかしそれを開花させるにはまだ至っていない。それが現実だった。


「……ちっ!」


 後方の二人が弓と術で支援してくれているおかげか、距離こそ初めと変わらないものを維持しているが、こちらの攻撃は相変わらず文字通り掠りもしない。目で追うことも段々と困難になっていくのがわかり、歯がゆさと苛立ちが混じって増殖していく。

 まどかは前日と同じく、間合いから逃げられないように牽制重視、逆に綾華は悪霊本体を狙って水の矢を放つ。が、相手の素早さゆえに全て躱わされ続けていた。


「――!?」


 今まで回避行動しかとっていなかった黒いもやの動きが突如止まり、その体内から、呪わしい響きとともに発現する魔力の塊。それも複数。

 接近してでの攻撃法しか持っていなかったのが災いした。この近距離では避けようもなく、右肩と胸に直撃を受け、もんどりうって転がる。

 ダメージは大きく、すぐに立ち上がることができない。


「和弥っ!?」


 その言葉に反応したのか、今度は二人のほうへと風となり迫る。


「くっ!」


 まどかの雷光を纏った矢を難なく躱わし、構えることしか出来なかった綾華にそのまま体を叩きつける。


「ぐぅっ!?」


 強かに打ちすえられ、砂を巻き上げながら校庭を転がっていく。


「綾華! っ!?」


 迂闊にも転がっていく綾華を見送ってしまった彼女の真横に気配。

 辛うじて防御が間に合い、数m飛ばされるだけに止める。と言ってもそのダメージは軽いものではない。両手でブロックしたため、弓矢を使うことが出来なくなってしまったのだ。

 まずい。和弥と綾華は命の危険が無いとしても、既に戦力として計算できない。無論、まどかにしてもいないよりはマシという程度だ。絶体絶命、その言葉がよぎった。

 ふわふわと揺れる悪霊を油断なく睨みつけながら思考を高速で巡らす。

 戦況は圧倒的不利。逆転の手立てもない。


 ――こんなときに良治がいれば。


 思い浮かぶのはパートナー、そして最愛の人でもある彼のことだった。

 彼がもし万全の状態でこの場に現れたならば、きっと一人で打開できるだろう。それだけの実力を確かに持っているのだ。

 しかし現実には到底無理なことだ。そんなことを望める状態でないのは彼女自身重々承知している。

 こんな現実味のないことを考えてしまっている時点で、負けだなと思う。いつもは良治が上手く支えているのだが、今日はいない。彼女にとって彼はとても大きな、掛け替えのない存在だった。


 永遠にも思える時間の中、先に動いたのは悪霊だった。

 三人に戦闘を継続できる力がないのを悟ったのか、昨夜と同じように立ち止まることなく静に去った。その後姿には何の未練も感じさせなかった。

 ようやく立ち上がった和弥の心中に苦いものが込み上げる。いや、和弥一人だけではない。三人の共通するものだった。


 ――惨敗。


 彼らは己の力量不足を再度痛感せざるをえなかった。







「みんな久しぶりだね。元気だったかい?」


 道場の上座でにこやかに話しかける男。そして向かい合う形に座るのはいつもの面々。


 ――あの夜から一週間が経っていた。


 それぞれがようやく敗戦のショックから立ち直り、良治の身体も問題ないところまで回復していた。

 塞ぎこんでいた三人に、良治は何も言わなかった。自分自身、以前負けて得るものがあったこと、そしてこの三人がたかだか一回負けたくらいでどうにかなるとは思っていなかった。彼、彼女らには這い上がる力があると信じていた。

 そのショックから立ち直った直後という、計ったかのような――実際そうなのかもしれない――タイミングで東京支部に来たのは白神会総帥・白兼隼人だった。

 いつのときも絶やさぬ柔和な笑みを湛え、一同を見渡す。

 和弥は、いや全員がこの突然の来訪が吉報ではないと感じていた。


「じゃあ早速本題に入るとしよう。さて、みんなはこの日本の勢力図がどうなっているか知っているかな」


 頷く三人に、首を傾げる一人。その一人は言うまでもない。その様子を見た隼人はそのままの笑みで解説を始めた。


「最北端にあるのは北海道連盟。活動地域はもちろん北海道全域。ここは親交がないから情報が全くない。次は霊媒師同盟。ここは恐山を本拠地として、青森・岩手・秋田と、山形・宮城のそれぞれ半分程度を有している。構成している中心メンバーは、そのほとんどがイタコだ。……そして白神会。北は霊媒師同盟と接していて、西の境界は兵庫と京都。兵庫から向こうは陰陽陣おんみょうじんが指揮している。あと、四国は北斗七星、九州は神党しんとうが治めている」

「……? 陰神かげがみはどこなんだ、出てこなかったけど」


 隼人があげた組織の中に、今最も厄介な問題であるはずの陰神のなが発せられていない。

 その疑問に彼は微かに苦笑いを浮かべて答える。


「陰神の所在はまだ掴めていないんだ。おそらく白神会の領内には本拠地があると予想しているんだけどね」

「あ、そうなのか」

「――で、さっき言った中の神党と言えば何を思い浮かべるかな?」


 そんなことを言われても和弥には全く分からない。何せ、白神会以外の組織があることすら知らなかったのだ。それについて聞いたことも今までの記憶にはない。

 始めから考えることを放棄した、和弥の左隣に座った良治が思い出しながらなのか、少しずつ言葉にしていく。


「神党……党首は確か、立花。あとは……如月きさらぎ、島津、有間……千草ちぐさくらいが有名でしたね。あと知っていることと言えば、一年半くらい前に党首が変わったことくらいです」

「うん、それだけ知っていれば十分だね。で、実は現党首の立花雪彦たちばなゆきひことは旧知の仲でね、それで一つ頼まれたことがあるんだ」

「頼まれごと……?」


 眉間に皺を寄せ、人差し指を立てた兄に訝しげな視線を送るのは右に座る綾華だった。左側に座る二人も、これが本題か、と構えているようだ。表情が一際厳しくなっている。


「内容は『優秀な人材を一人貸して欲しい』だそうだ。特に期間は決められていないが短い期間だそうだ。多分一週間程度だろうね。そして、適任と思われるのは――」

「ちょ……!? まだ病み上がりですよっ!?」


 隼人の視線が止まった先を見たまどかが叫んだ。まるで間違っていると知っている選択を選んだのを強引に引き止めるような激しいものだった。

 それを間近で聞いているはずの良治は座したまま、抗議の声を上げ続ける彼女の横で静に黙考している。


(――自分を選んだ理由は何だ?)


 隼人お気に入りの都筑和弥ではなく、柊良治が選ばれたのは何故か。

 まず、条件に『優秀な』という言葉がついていることから神党から何らかの依頼があったのは間違いないだろう。そしてその条件に和弥が当てはまらないと判断し、次点の自分が選ばれた。そう考えれば和弥が選ばれなかったことも納得できる。

 しかし、仕事として考え、神党に恩を売っておくことを優先するならば、和弥や自分たちでなく他の支部から、もしくは現四流派の継承者たちを派遣すればいいのではないか。

 つまり、今回の件は仕事というより試練という意味合いが強いのではないか。それなりに危険で、和弥にはまだ荷が重い。ならば実力的に上の自分に訓練として派遣する。もし反対するようなら、成功率は落ちるが和弥に賭けてみるのも悪くない――

 結論に至り、苦い思いが胸を突く。数瞬考えたあと、相変わらず全てを見透かしたような微笑みの隼人に良治はこう答えた。


「……お受けします」

「良治、本気!?」

「うん、良治君ならそう答えてくれると思っていたよ。攻・防・魔、そして判断力に優れた君なら必ずできると信じているよ」

「ありがとうございます。……出発日時はいつでしょうか」


 この手のお世辞を嫌悪している彼は、礼を感情を込めず返す。今回のでさらに不信感が増したのは今更説明するまでもないことだ。


「三日後の予定になっている。しっかり準備はしとくように。まぁ、心配はいらないと思うけどね。……他の三人は各々修行しておくこと。そこで和弥くん、京都本部に来てもらいたい」

「は? 京都に?」


 突然の誘いに目を丸くする。まるで帰りのHRの最後に、このあと職員室に来なさい、と言われた気分だ。もちろん心当たりはない。


「そう。僕が稽古をつけてあげよう」

「な……!?」


 驚いたのは和弥だけではない。他の皆も驚愕一色だ。


 白神会総帥直々の稽古。

 彼の答えはすぐに出た。

 これは、チャンス。



「――望むところだ。俺は、もっと強くなりたい」









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