~予期せぬ介入者~ 二話
何故、夜の学校とはこうも不気味なものなのだろうか。
錠の掛かった校門を軽く乗り越えた三人の前にそびえる校舎。否応なしにも緊張感が増してくる。気温はそれほどでもなく、和弥はTシャツ一枚という薄着。それなのにじっとりと背中と掌に汗が滲んでいた。
「行くぞ。さっきも言ったが、高等部校舎は一階向かって左端。食堂は入り口向かって左側一枚目、図書館は裏口向かって右側二枚目、それぞれの窓の鍵を開けておいてある。もしかしたら掛け直されてるかもしれないが、その時は各々の判断に任せる。――あと、高等部の敷地からは出ないように」
高等部は学園全体から見て南東に位置している。ちなみに初等部は南西、中等部は初等部と高等部に挟まれた場所にある。北東に大学部、北西には大学院やサークル棟。そして北と南を分けるように、東からグラウンド、体育館、学食、図書館が並んでいる。これだけ広いと当然というかなんというか、迷う人も出てくる。大半は入学・進学したばかりの四月・五月に集中するのだが。
「ちなみに結界は張ってないからな。気を付けてくれ」
いつものメンバーで最も術に長けているまどかがいない。同じ術士である綾華にしても、学園全体を覆うような大規模な結界を形成できる力量に達していない。それが一番簡単な条件のもの結界であったとしてもだ。
「つーことは、発見したらまず結界を張れってことか」
元から張っていないのであれば、見つけ次第結界を張り、閉じ込める。戦闘になった際、周りの被害を考えれば当然の処置だ。
「ああ、そういうことだ。和弥は綾華さんと。俺は一人で行動する。場所は……そうだな、二人はまず校舎を頼む。俺はとりあえず図書館を調べてみるから」
「……随分図書館がお好きなんですね。ちなみに今日はどんな本を?」
「今日読んだのは天使の伝承なんかを集めた本です。最も新しい記録では、中世ヨーロッパに下りてきたっていう話です」
「どんな話なんですか?」
「……?」
和弥は首をかしげた。綾華の性格上、こういう場面では無駄話はまずしない。良治にしても同様だ。ならば、ここで重要なのは一体何なのか。
「では簡単に。天から下りてきた天使が、苦労人の青年に一つの願いを叶えようとするんです。しかしその青年は天使に一目惚れしてしまうんです。天使も彼のことを好きになってしまい、駆け落ちをします。それが神の怒りに触れ、二人の行く先々に地震、大雨、山火事、飢饉といった天災を起こします。二人は転々と渡り歩きますが、最後には天災を恐れた人間によって殺される――と、まだ読み終えてないんですがこんな話でしたね」
突然聞かれたのに関わらず、まるで前々から整理してあったかのように淀みなく説明を終える。
「――私も一度読みたいですね。題名は?」
「すいません、忘れました。今俺が借りているんで読み終わったら貸しますよ」
「それはありがとうございます。ではそのときに」
礼を言いながらもその心中は苦い。結局今の話が嘘なのかどうかも分からなかった。失敗――何も引き出すことができなかった。何か隠してると思ったのだが、見当違いなのか彼のほうが一枚上手なのか。おそらく後者。
程なく高等部校舎入り口に到着する。周囲に気配はなく、まるで別世界のようだった。
「じゃあ、ここで別れよう。綾華さん、発見したらすぐ結界を。和弥、無理するなよ」
「おう、そっちもな」
軽く手を上げ、夜闇に消える。彼が仕事着と称している黒シャツのせいか、すぐに視認できなくなった。こういう場面も考えて溶け込みやすい服装をしていると言っていた気がする。
見送り、夜の中に不安げに浮かぶ白い校舎に目をやる。一つ深呼吸して言われたとおり左端の窓を目指して歩き出す。
「――和弥」
「ん?」
目標の窓が見えてきたところで声をかけられる。迷うような、綾華のものだ。短い付き合いだが彼女にしては珍しいと感じた。
「図書館へ、向かいませんか?」
「……何でだ?」
図書館には良治が向かっている。誰も調査していない食堂に行くなら分かるが、既に調査を開始しているであろう図書館へ向かおうというこの提案。
知らず知らずのうちに綾華の瞳を見つめてしまう。
「きっと良治さんは何か隠しています。多分、図書館に関することで。それが何であるか知りたいと思います」
確かに図書館に固執している節がある。思い当たることもあり、その言葉を一笑に付すことはできなかった。
「……わかった。行こう、図書館へ」
少し時間を空け、指定された窓からまず和弥が入る。
先程までかろうじて出ていた月が雲に隠れたのか、木枠の窓から入る灯りはなく、図書館の内部は闇に支配されていた。
足を踏み出そうとして、気付いた。
「これは……足音か?」
「ええ、それも複数ですね」
床は絨毯が敷き詰められてはいるが、微かに音はする。二人ともそれを確かに聞き取っていた。和弥は人数までは分からなかったが、綾華は聞き分けられているようだ。
複数の足音がするということはつまり、良治以外にも誰かが建物の中にいることを示している。この状況で味方である可能性は非常に低い。足音を消せないくらいの速さで移動していることから容易に推理することができる。
「とりあえずこの足音の主たちの所へ行きましょう。良治さんが追っているのか追われているのかは分かりませんが」
「そうだな、行こう」
頷き、駆け出す。
聞こえてきたのは上の階から。しかし、二階か三階かは判別できない。とりあえず潜入した裏口から一番近い東側にある階段を上る。二人とも気を付けてはいるが、どうしても微かに足音がしてしまう。しかしこれは仕方ないことと割切る。あの足音のどれかが良治であるとすれば、かなり切羽詰っているだろうからだ。彼ならばまず結界を――せめて図書館内くらいは――張るからだ。それをしない――できない?――状況に陥ってることも十分に考えられる。
「――綾華、念のため結界張っとこう。逃げるにしろ追い込むにしろやっておいた方がいいだろ」
「そうですね。――では」
瞬間、感覚を鋭敏にしていないと分からないくらいの違和感が周りを包む。彼女の結界だ。
綾華が張ったのは術士なら誰でもできる、極簡単なモノ。これで図書館には外からは何も見えず、聞こえず、さらに出入りが制限された。
程なく二階に辿り着く。音は――止んでいた。
「……しょうがない。気配を消して二階から調べよう」
「分かりました」
周りの空気と同化するように気配を散らし、逆に気配を探る。
灯りは無く、本棚のせいで視界は著しく狭い。慎重に慎重を重ね、一歩一歩二階の真ん中を進んで行く。
さほど行かないうちに気配を察知した。その数は二つ、いや三つか。複数なのは分かるがその数まではここからでは分からなかった。
振り向き、綾華に目で意図を伝える。彼女が頷いたのを確認し、背を本棚につけ左後方に神経を集中させる。――話し声が聞こえてきた。
「――全ての霊を天界へと導くのが僕たちの役目です。それは先輩も知っているでしょう? ……その霊を引き渡してください」
僅かに非難の混じった聞き覚えのない声。聞こえる限りでは和弥と同年代のようだ。
「それは知っている。だが彼女は無害だ。ただここ図書館にいるだけ、人間に危害を加えるつもりもない。なら浄化する必要もないだろう?」
こっちのは聞き覚えのある良治のものだ。気付かれない程度に身体をずらして覗き見ると、背を向けた良治と、彼に寄り添う女の子の姿。そうは見えないが、彼女が今話題の中心になっている霊なのだろう。
二人の視線の先には相手の男がいるようだ。しかしこれ以上身を乗り出すと見つかる危険性が高い。仕方なく姿を見るのを断念する。
「しかし――」
「これは彼女自身が望んでいることだ。邪魔をすると言うなら……二人とも容赦はしないぞ」
彼の言葉とともに気配が濃密になる。自分たちに向けられていないのに肝が冷えるほどだ。
そして男以外にももう一人いるらしい。この距離でもほとんど気配を感じられないということはかなりの使い手か。
「姉さん……」
「うん、柊くんがそう言うなら。でも何かあったその時は――」
「解ってる。もしもの時は、俺が責任を取ろう」
「ひーちゃん……」
話が纏まって綻ぶ女子生徒。後方からでも分かるくらいの反応で、こっちも何となくほっとする。
「じゃあ、結界を解いてくれ。まだ件の霊の方は終わってない」
「え? 私たちじゃないよ。……柊くんじゃないの、結界張ったの」
女の子が眉を顰める。確かに現在張ってあるのは、今隣りにいる綾華のものだ。悪戯が見つかった子供のように、ギクッとその身を震わせた。
「なるほど」
振り返った良治と目が合う。反射的に身を隠すが後の祭りだった。
「前の二人に集中していたとはいえ、察知させなかったのは凄いな。修練の成果が出てきたんじゃないか? ……二人とも出て来い」
こうなっては隠れてもいられない。既に意味も失われている。
諦めて二人で通路に出る。そこには見知った人間が――二人いた。
「んな……委員長!?」
「水樹さん……!?」
隣にいる綾華と同時に素っ頓狂な声を上げる。和弥は見慣れた委員長、綾華はその隣の少年を見ながらだ。
「……やっぱり。都筑くんもそうだと思った。学校にいるときとか、気配断ち切れてなかったよ?」
白と朱のいわゆる巫女服を着た、委員長こと水樹真帆が苦笑混じりに言う。
「白兼さん、こんばんは。こんなところで会うとは思わなかったけど」
こちらは白と水色の袴姿の少年――水樹慎也――も姉とそっくりな表情だ。同じクラスに在籍している級友の知られざる一面。予想もしなかった事態に思考が止まったのは仕方のないことだった。
「……そうか。綾華さんと慎也は同じクラスだったか。道理で驚くわけだ。まぁそれはともかく、いつまでも呆けているな」
唯一全員の関係を把握している良治が声をかける。その声に他意はなく、この対面が故意のものでないのが分かった。
弛緩した空気が流れる。その刹那、女子生徒の霊、良治、慎也、真帆のさらに向こう、闇に埋もれたその場所に陰鬱な気配――!
「!」
「!?」
和弥が感じ取るとほぼ同時に良治と真帆が振り向く。するとそれを待っていたかのようにその残滓を残し、階下へと沈んで消える。
良治と真帆が無言で駆け出し、ワンテンポ遅れて和弥と綾華、そして慎也と女子生徒がついていく。
今のが目撃されていた霊なのだろう。暗く視界の利かない中を走る。しかし、前を行く二人に追いつくどころか、一瞬で見失ってしまった。足を止めかけ、されどまた足を動かす。
霊の気配は希薄で、非常に掴みづらいうえに、消えた二人も気配を絶っているようだ。結局のところ、足で探すしかない。
居場所が分からないまま、上ってきた階段に辿り着く。跳ねるように降り、すぐ二階に着くが通り越して一階まで進む。根拠は――勘。
――かくしてその勘は当たった。
場面はクライマックス。直径一m程の小規模な結界の中にはあの霊。
そしてそれを柔らかく包むように抱く巫女。
「――疲れたでしょう? さぁ、ゆっくり休んでくださいね……」
力持つ浄化の言霊。彼女の腕の中の気配が薄くなっていき、やがて消滅した。
腕の中の気配が無くなった余韻から戻ってきた彼女がこちらに微笑みかける。いつもの教室で見せる、いつもの笑顔。場所や時間、格好は違うが、危機は去り、日常に戻ってきたことを思わせた。
バァァン!!
ほっとしたのも束の間、出し抜けに停滞した空気を揺るがす音。その発生源は、図書館の正門。開かれた場所に立っていたのは不敵な笑みを浮かべた茶髪の少女。
「ふっふっふー。見せてもらったわよ、柊くんに水樹さん?」
「……こんな夜更けに散歩ですか、会長」
無理だろうと解りつつも一応誤魔化す努力をしてみる。
瞬時に辺りの気配を探る。するといつの間にか結界が消えていた。何故、と考えてすぐに全員が顔を合わせた時だと思い当たる。驚きのあまり、結界が消えてしまったのだと。しかし、今更何を言っても無駄だと判断し、目の前の問題に向き直る。
「ま、そんなところね。で、二人は深夜の図書館で何を? お化け退治としか思えないし、見えなかったんだけど?」
にやぁ、と追い詰めるような笑顔。先程の真帆のとは全く対照的だ。
いままで扉の裏で見ていたうえで質問する。意地の悪いのは有名だったが、こんなところで思い知ることになるとは。
和弥たちの位置からはせりなの姿は見えない。良治たちの前方にせりな、右側少し離れた本棚の林の中に彼等は待機している。それでも現在どんな事態に陥っているかは把握できていた。
「――その通りです、会長。ですが、このことは他言無用に願います」
固い口調、一切の無駄がない仕事モードのままで答える。
この前とは違う雰囲気を感じ取り、少し呑まれかける。しかしそこは生徒会長というべきか、気丈にも会話を続ける。
「理由は幾つか予想できるけど、何故?」
「……分かりました。とりあえず場所を変えましょう。真帆、裏口から出て、『遊び場』の『振り子』で待っていてくれ。――さぁ、会長。俺たちはこっちから」
誰の返答も待たずに静穏を取り戻した建物を出る。暫くして、緊張感を伴わせたせりながそれを追っていった。そして重い扉がばたんと音を立てて閉まった。
「さぁ、みんな行こう? ――貴女は……柊くんに免じて見逃します。柊くん敵に回したくないし」
「……そう、一応ありがとうと言っておくわ。じゃあね、後輩さんたち」
言葉が終わらぬ前にその姿が消える。その時になって初めて彼女があの『図書館に出る女生徒の霊』だと気付いた。
「私たちも裏口から出るよ。ほら、話をしてる人より遅くならないうちに」
「そうだな……って、『遊び場』の『振り子』ってどこだよ」
先の良治の残した言葉。その意味を理解しているのは二人、水樹姉弟だ。
彼女はくすっと笑うと謎かけの正解を口にした。
「公園。つまり自然公園の『振り子』……ブランコのこと」
無邪気な笑顔。いつも困った顔しか見ていない和弥にとっては見惚れるに値するものだった。そのコンマ数秒後、綾華の踵が彼の足に振り下ろされ――絶叫。
「――失礼、足が滑りました」
公園の街灯が五つの影を形作る。夜も深まったこの時刻、他に人影はなかった。
遅く到着した良治がブランコを囲む鉄柵に腰を掛け、小さな結界を張る。
「まずは紹介からか。まぁ、水樹姉弟そっちは大体のことは分かってるようだけどな」
多分ね、と姉の方から返事がくる。すると彼女は和弥と綾華に向きなおった。
「水上神社神主代行兼巫女を務める水樹真帆です。こっちは弟の慎也」
「水樹慎也です。以後お見知りおきを」
頭を下げる二人。ちなみに慎也も姉と同じでメガネをかけている。デザインも似通っていたりする。
驚くというか、困惑に似た感情が渦巻く。そして今聞いた言葉で反応した言葉は一つ。
「水上神社って……『あの』?」
「その言い方がすっごく気になるんだけど……うん、多分その水上神社」
細井との馬鹿話に出てきたあの山奥の辺鄙な場所にある、石段の恐怖が言い伝えられる神社。――これからはあまり話のネタにするのはやめようと思った。バチが当たらないとも限らない。主に人為的な意味で。
「――なるほど。それで『力』を扱えるわけですか。代々神職を務めてきた家系ならありえることですね。しかし貴方たちは……」
「はい、私たちは組織には所属してません」
はっきりと、誇るように答える。いや、それは間違いなく誇りだった。
遠い昔、各地に利権争いから組織が生まれた。様々な神社、仏閣、力を持つ勢力が取り込み、取り込まれた時代。今では幾つかの大勢力が組織され、大きな意味での動きはほとんどない。しかし、今でも何処の組織にも入らず残っている者たちも確かに存在している。
「珍しいですね。成り行きとはいえ私たち白神会の者と一緒に行動するなんて」
じろり、と二人を睨む。殺気じみたその眼光に少年は怯むが、少女はそれを軽く笑みさえ浮かべ、受け流す。
「別に私たちは白神会に協力したわけじゃないよ? 柊くんに助力しただけ。前にも何回か一緒にやったことあるし」
「そうなんですか?」
なんでそんなことをしているのですか、とその目が語っている。
組織に属することを良しとしないフリーランスの者たちは、敵対こそしていないがお互い基本的には不干渉ということになっている。そもそも組織に入らないのは、その組織のルールや命令に従うことを嫌うからであり、組織側としてもいつ反抗するか分からない不穏分子を内包したくはない。
「――その通りです。こっちから頼むこともありますけど。……そんな怖い顔しないで下さい、綾華さん。人々を守るという目的の前では建前なんて必要なものではないです」
ちょっと大げさかもしれないですけど、と付け加える。
彼の言うことはもっともだ。彼女自身、体面ばかりを気にする大人に嫌悪感を少なからず持っている。
「……確かにその通りですね。私たちも規則に引っかからない程度ならお手伝いしましょう。それでいいですね、和弥」
「そーだな。というかむしろ協力したい。……委員長、これからもよろしくな」
真帆、そして慎也と握手を交わす。
こんなところにも同じ思いをしている人たちがいる。共に同じ目的に向かっていける。それは――本当に素晴らしいことだ。
「そういえば、会長はどうしたんですか、結局」
良治と発言者である綾華を除く全員が『あ』と気付く。綾華が言わなければこのまま散会していたかもしれない。
「会長には口止めしておきました。なんで、まぁ、安心です」
言葉通り安心する男二人と、苦笑する眼鏡の少女、そして苦虫を噛み潰したような表情の小柄な少女。
目撃者は基本的には記憶操作、記憶の消去。もしくはこの世界からの抹消。それを口頭による口止めだけで済ませている。もし、せりなが故意でないにしろ口にして、周囲に知られてしまったら彼はどう責任を取るつもりだろうか。 しかし、こうも思う。自分が同じ立場だったらできるかどうかと。
(多分無理でしょうね)
自分だったら出来ない。和弥にしてもそうだろう。最善でなく、次善でもない、悪くはないかもといった程度の策。それを綾華は非難するつもりにはなれなかった。
「なら大丈夫だな。と、あとはあの幽霊についてか。結局何だったんだ、あれ」
一年程前に噂になった図書館の幽霊だと気付いてはいるが、何故それを良治が庇い、真帆たちがそれを追っていたのか。そもそも彼等は初めから協力体制にあったのか。
「それについてはまず彼女についての説明からか。彼女は八年前図書館にいたとき、地震によって命を落としたらしい。直接の原因は本棚上部からの多数の厚い本の落下による脳挫傷。どうやらあそこの本を全部読みたかったらしく、自縛霊になったみたいだ。まぁ、話が通じることから分かるとは思うが、自我があるから害はない」
水樹姉弟を意識してか、はっきりと害がないことを強調する。わざとそういう言い方をする良治に苦笑する。
「分かってるって。少なくとも柊くんの許可を得てからじゃないと何もしないよ。……私としては早く浄化してあげた方がいいとは思うけど」
でも頑固だから絶対考えを曲げないだろうけどね、と諦めた口調で付け加える。
「そう言ってくれると助かる。俺だって敵対したいわけじゃないしな。……それにしてもこんなところで遇うとは思わなかったが」
どうやらイレギュラーだったらしい。何故今夜図書館に来たかと聞くと、慎也のクラスメート――つまりは綾華のクラスメートでもある――から今回の話を聞いたとのことだった。出来るだけ早くという結論に達して早速調べてみようとしたところ、良治たちと遭遇して今に至る――ということだった。
「それにしても、なんでこの学園に来たんでしょうね」
悪霊になりかけていた浮遊霊。すでに自我はなく、本能で活動している状態だった
。たまたま迷い込んだのか、それとも他の何かに惹かれて来たのか。今では確かめる術はない。
「もしかしたら真帆の『巫女の力』に惹かれて来たのかもしれないな。自我がなくなれば『救い』と『破壊』の両面の本能が強く出る。浄化のという光に惹かれて来た可能性もある」
「う~ん、私はちゃんと隠してるつもりだったんだけどなぁ……」
いまいち納得いかないが、前述のように答えの出ることはなくなっている。もしかしたらそうかもね、と話を切り上げる。
「さて、じゃあ解散するか。明日――というか今日も学校あるしな」
「そーだな。んじゃ、また学校でな、委員長」
「うん、じゃあね」
「では先輩方、失礼します」
「それでは。……和弥、帰りましょう」
皆、思い思いの別れの言葉で散っていく。
公園を出、間もなくマンションに着く。エレベーターを待っている間、今まで黙っていた向かいの部屋の住人が口を開いた。
「……また何もできませんでしたね」
「……そうだな」
エレベーターの扉が開き、いつものように和弥から乗り込みボタンを押す。
今回、二人がいなくても何ら結果に影響しなかっただろう。それは言われなくても分かっていることだった。多分、まどかなら上手くサポートできたりするのだろう。二人はまだ力量、コンビネーションともに劣る。それが痛いほど分かってしまった。これではもし良治が欠けてしまったらどうなるか。
この先のことを不安に感じる。しかしそうならば自分たちがどうにかするしかない。思考をプラスに切り替える。今回良かったと思えることは。
「でも、少し見直しました。図書館に入ったとき、貴方が指示を出して動くとは思いませんでしたから」
「……ああ、あのときか。何となく、自分でもやらなくちゃって思っただけで別に深い意味はない」
そんなことで褒められるとは思っていなかっただけに少々照れる。
ただ彼女といると頑張ろうという思いが湧いてくるだけの話。――その理由は一体なんなのだろうか。
やがて四階に到着したエレベーターを降り、それぞれ部屋へと別れる。
「――和弥」
「ん?」
背を向けたままの綾華に振り向くと、彼女は言葉を続けた。
「今後ともよろしくお願いします。――パートナーとして」
それだけ言うと顔を見せないように急いで自分の部屋に逃げてしまった。扉の閉まった音がやけに反響してる気がした。
「――ああ、こちらこそな、綾華」
知らないうち、そのときの心象を表すように彼は微笑を浮かべていた。
「予期せぬ介入者」完
皆様こんにちは。今回は短いお話ということで早くお届け出来たかと思います。
今回割とどたばたしてましたが、次回はシリアス満載です。出番のなかった彼女も出てきます。楽しみにしてください。
更新する度お読み頂いてる方々には深い感謝を。長く続けて行けるように頑張ります。
それでは。




