帰宅・2
翌朝、ディアナとブレイドはそれぞれの愛馬に荷物を積み、セリーナ町を後にした。町の人間は喜ぶものが大半だったが、別れを惜しんでくれる人間もいた。アリスやラッカだ。たとえ数人でも、やはり惜しまれるのは嬉しい。町に入った時には考えられなかったほど清々しい気分に、自然に笑みが漏れる。
道中、話す内容は今後の事ばかりになっていた。予定では、ガルデア町のディアナの実家の近くに家を建てることになっている。どんな家がいいか、考えだすと希望は尽きない。
「庭に墓を建てたいと言ったら嫌か?」
「え?」
「俺の実の両親の墓。一度はサンド村に行って参っては来るけどさ。母親はともかく、父親はどうせ骨も残って無いんだから、どこに墓を建てても一緒だと思うんだよ。だったら、近くに建てた方が気分いいかなと思って。いつでも参れるしな」
「そうね。いいんじゃない? 賛成」
「うん」
ほほ笑むディアナに向かって、ブレイドが少しだけ弱気な顔をする。見慣れないその表情に、続くはずの言葉を黙って待った。
「……母さんたちはどう思うだろうな」
「ブレイド」
「俺にとっては両親と実の両親は全く別のものだ。秤にかけたら、生んでくれた人たちには悪いが、育ててくれた両親の方が大事だ。二人を傷つけるような事はしたくない」
そんな風にブレイドが考えられるのは、セリカとアイクが彼を慈しんでくれたからだ。優しさや思いやりは伝染する。ブレイドにこの優しさを与えられるくらい、彼らは心優しいのだ。
ブレイドが実の両親の事を知ってから、二人は陰ながら実の父親の事を調べてくれていた。それは、ブレイドに対する愛情と信頼の証のような気がする。
「……私は、二人は安心すると思うけど?」
「ディアナ」
「生きてるならともかく、実の両親は死んでるんだもの。……ブレイドの出生が分かって、一番安心するのはあの二人なんじゃないかな」
「そうだな」
ブレイドが、安心したように笑う。こんな会話が嬉しいなんて言ったら、もっと笑うのだろうか。
ブレイドは、いつも大事なことは胸にしまいこむ。ディアナは結果を言い渡されることはあっても、相談されることはあまり無かったのだ。だからこそ嬉しい。話し合って、二人で答えを出せる。それが家族になるっていうことだ。
「そうときまったら早く帰りたくなってきたね」
「はは、お前か。俺もだ」
「競争しようか。次の村まで」
「お前の馬には負けないだろ。俺の馬は足が強いぞ」
「どうかな。この子だって結構早いわよ」
言うが早いか、ディアナは馬の尻を蹴った。声を鳴らして、馬が足を速める。
「あ、おい。待てよ。ずるいぞ」
遅れて追いかけてくるブレイドの声を聞きながら、見据えるのは前へと続く道。一緒に歩いて行けるはずの未来。
**
二人がガルデア町に到着して、一番に寄ったのはロックの道具屋だ。中に入ると丁度ロックが店番をしていて、呆けた顔で二人を見つめる。
「二人ともどうしたんだよ。しばらく旅をするんじゃなかったの?」
「中止だ。色々あってな。ここでやりたいことができたんだ」
「ただいま、ロック」
ブレイドの後ろからディアナがひょっこり顔をだすと、ロックは変わらない笑顔で笑った。
「お帰りディアナ。旅はどうだった?」
「楽しかった。色んな人に出会えたし。手紙ありがとうね。おめでとう」
「え? ああ」
照れたように笑う。幼馴染の幸せそうな顔に、ディアナの胸は温かくなる。
「今日、サラは?」
「サラも仕事だよ。明日一緒に休みなんだ。会いに行くよ。どっちにいるの? ブレイドの家?」
「うん。その予定」
「じゃあ、明日。ブレイドもお疲れ」
「ああ。じゃあ、明日な」
約束をして、道具屋を出る。何ヶ月か会わなくてもやっぱりロックはロックだ。
「やっぱりわかんねーよな、あいつは。もっと幸せオーラとかでねぇのかな」
「そう? すごく嬉しそうだったよ?」
「お前にはわかんのか。俺には変わらないように見える」
不貞腐れたようなブレイドの口調に笑いながら、今度はディアナの実家に戻った。
「随分予定を変えたんだな。連絡一つできんのか」
祖父の皮肉と、父の笑顔が迎えてくれる。この家も変わらない。
「じいさん。おじさん。お久しぶりです」
皮肉なんかには少しも堪えた様子もなく、ブレイドが家の中にずかずか入る。デルタが、笑いながらブレイドを小突いた。
「はは。おじさんじゃないだろ」
「あ、そうか。……お義父さん、か。うわ、なんか照れるな」
「私もだ。言われ慣れるには時間がかかりそうだ」
照れ隠しにか頭をガリガリかくブレイドに、デルタは笑う。
「お帰り。腹は減ってないか? 昨日の残りものだが、ビーフシチューがある」
「食べます。俺、腹減った」
即決で答えたブレイドに、バジルは笑いながらも冷たく言い放つ。
「相変わらず図々しい男だな、お前は」
「遠慮してたら腹膨れねーよ。ディアナも早く来いよ。すげぇ旨そう」
「うん」
ディアナはブレイドの頼もしい背中を見つめる。こんな風に家族と溶け込めるブレイドが、心の底から愛おしいと思う。
ディアナは幸せな気分で、父親の作ったビーフシチューをよそった。




