❈8❈ / ※※※
パラレルワールドでは、誰かが、誰かの役を演じていることがある。
呼び出せない代わりに、失われた代わりに、補われ繕われる。
ここは、そういう物語。
そして舞台と同じ様にーー……。
「天照くん! 」
「ーー……。」
「天照! 」
「……。」
「ーーおい天照、呼ばれているぞ? 」
「え? ーー誰か僕のことを呼んでいたかい? 」
「皆呼んだんだけどな……。」
「ーー御免……。」
「まぁ、天照のぼ〜っとはいつものことだ。早く決めようぜ? 」
「班行動! 」
「ーーーーいつもの班じゃ駄目なのかな? ……。 」
「そのいつものを真新しくしたいらしいぞ。」
「真新しくーーお前ちょっと人の話をーー、俺の話を聞かな過ぎじゃないか? グレるぞ? 」
「グレるな教師が! 」
「駄目だろ教師が! 」
「教師だってグレるもんだ。残念だったな。」
「それは残念過ぎる……。」
「折角昇進の話もあったのによぅ、残念だな! 」
「待て! 言葉の綾だ! 昇進の話は消さないでくれーー! 」
「消えねぇよバァカ! 」
「先生昇進おめでと〜! 」
「僕はーー本当に昇進したら祝うよ。」
「何処に行くんだ? 」
「次は移動だから。」
「先生が言ったんすよ? 覚えてます? 」
「ーーあぁ、そうだったな……。」
「あんだけ口酸っぱくして言った言葉忘れる〜? 」
「先生もぼ〜っとしてたんだ。」
「そっか! 」
「世界はーー今日も平和だよ。大丈夫。」
何事も滞り無くーーとはいかない世界だけれど……。
そして君の願いは叶わない世界だけれど。
ハロー、転生前の僕。
僕は君の言う通りには生きないよ。
だからサヨナラ、思い出の君。
「平和ーー? 平和か? 」
「平和じゃなかったかな? 」
「ああ、概ね平和だ。」
「欠伸が出るくらいには平和だ。」
「退屈なのかい? それとも昨晩は夜更かしを? 」
「あー……。夜更かしだな。」
「なら欠伸は平和とは関係が無いよ。」
「全く関係が無いって訳じゃないだろ? 」
「来るのに時間が掛かったじゃないか。」
「足止めを食らったんだよ。ーーお前はいつも極端だ。」
「ふらふらしている先生と居るからじゃない? 」
「ーーそれもそうか……。そうだな。」
「ふらふらっていうか、ふわふわしているんだ。その先生の頭の中はね。」
「確定出来ない理由の一つが何言ってる? 」
「僕の所為にするのかい? 」
「ああ。お前の所為だ。ーー大きな中の沢山の中の一つ分はな……。」
「それ半分くらいはいかない? 」
「そんな少し? 」
「天照、今からでも遅くないから実家に帰れよ。」
「そうしようかな……。片思いみたいだし」
「沢山の中の占める割合は大きいがーー? 」
「取り繕うなよ先公〜」
「先生と呼べ。先公はやめろ。やめとけ。」
「先ハム。」
「ハムスターには見えないけど? 」
「(ーー心の中は意外と似ているかもしれない……。)」
「天ちゃん、漏れてる心の声。」
「あ。」
「もういい、今その場、付近に居る奴で組め。出来た組みで更に近い奴らと班になれ。」
「うぃ〜っす! 」
「……。」
「天ちゃん、一番近いのは私でしょ? ほら、組みーー」
「僕はこの教科、サボらせて貰うよ。」
「えっ!? 」
「眠いのか? 天照」
「眠くはないよ。夜更かしもしていない。欠伸も出ないさ。」
「良いぞ? お前の通信簿に初のペケがーー付けられるかと思うと楽しみだ。」
「通信簿? 」
「古くは通信簿、現代は通知表。」
「時代には関係無いな。ーー! 天照お前! まさか俺に関係無いって言わせる為か!? 」
「さぁね? 」
ここは弟の夢の中だーー。
弟、オリバーの……。
オリバーは今、病院のベッドで昏睡状態だ。
僕も同じく目を覚まさない状態でいる。
所謂危篤。
助かっても良くて植物状態、悪くて不随ーー不随の方が良い状態だろうって?
不随になるくらいなら植物状態の方がマシだ。
そして幸せに生きていけるのならーーこの概ね平和な夢の中の方が良い……。
この世界の人物ーー生きている人々は、全員が同じ目を覚まさない人達だ。
夢の中で生きている。
僕たちの様に危篤状態の人もいれば、植物状態の人もいる。昏睡しているだけの人も。
夢の案内人が、オリバーの夢だと教えてくれた。
そして、僕はその中へ飛び込んだ。
起こす気で来たのに、起こせずにいる……。
ーー現実を生きるより、夢を見続けている方が幸せだと思えるからだ。
実際、眠る前に『起こすな』と言われていた。
夢の中で叶うことのない夢を叶えて生きているーー絶望する前の弟……。
医師は何度か起きては弟の夢の世界の話をする僕に『君の弟くんの治療を夢の中でしよう』と提案した。
心の治療だ。
夢を叶える事が出来ないと告げられ絶望した弟は、自殺に近い形で昏睡した。
自ら首を絞めて眠ったのだ。
『あぁ、もう自分は要らないーー必要無いんだ……。』
首を絞める直前、仰向けでそう言い残して……。
僕が危篤状態になったのは、それから少ししてーー霊体で道に立っていたオリバーに見付かった後だ。
「天照、」
「ーーッ、オリバー? 」
「お前もこっちに来い、楽しいぞ! 」
引っ張られたーーそして、車に轢かれた。
「ーー楽しいって何が? 」
「何が楽しいのかはーーこれから分かる。」
「そこは僕が車に轢かれて、それでも楽しめる世界かい? 」
「あんな世界ーー……。あそこよりマシだ。あんな場所にお前を置いて行くよりはーー」
「一緒に死んで欲しいって? どこまで我が儘なんだろうな、僕の弟は……。」
「天照、」
「何さ? 」
「お前の探していた、ーーお前の家族も居る。」
「それを探していたのは僕じゃない。」
「本人だな。ーーなら、そのお前じゃない奴が探していた家族が居る世界と、自分自身の家族が居る世界と、どっちが良い? お前はどっちを選ぶ? 」
「ーーーーーーどちらも選ばない。」
「選ばないーーか……。じゃあこっちで選んでやるか。」
「どこへ連れて行くつもりなんだ? 」
「言語が変わったな? こっちじゃないーーあっちに行こう」
「おいーー! まさかーー、世界を渡っているのか? しかもこれはーー夢の世界ーー、皆の夢の世界が繋がっている!? 」
「そうだ! 橋を掛けたんだ。手当たり次第に、知り合いも、家族も居る! 」
「それはハッピーなーー……。面白可笑しな場所だね。」
「今は夢の世界の狭間だ。丁度境界の橋を渡っているところだーー次の夢はーー、良くない、飛ばそう。」
「オリバー! 夢を無闇矢鱈と繋げるのはそれこそ良くない! 」
「ーーお前も彼奴等と同じ事を言うんだな……。」
「いずれ縺れて崩壊するんだ……。夢と夢のぶつかり合いは精神にくるって教えてくれたのはオリバーだろ? 」
「それは小さい頃だったからだ! 今はもう」
「今も変わらないよ、大人になんてなってない……。」
「でもあの頃よりは大きいーー成長した姿だ。」
「現実を見てくれなんて僕には言えないけど、成長した君が夢に閉じ籠もっているのは退化していくのと変わらない行動だと思う。幼児退行しているよ、言動も行動もーー今の君は……。」
「それは、ーーそれならいつものお前だろ? 」
「僕と君じゃ性質が違うだろ? 」
「ーー確かにそうだな……。だけど、きっと、お前も気に入る。」
「気に入らないな……。誰が君に入れ知恵をしたんだい? 」
「ーーーーーー医者が……。」
「お医者さんが犯人? 」
「何か話してる……。静かにしてろーーよく聞こえないなーー……。あぁ、今お前が死んだって。」
「そうか。ならオリバー、お前は立派な悪霊だ。」
「悪霊じゃない。」
「人を殺した霊は悪霊になるんだよ。」
「お前を救ったんだ! あの世界から! 」
「あの世界の何が気に食わないんだ!? 」
「全部だよっ!! 」
「嘘を吐くなよ……。」
「ーー楽しい事はある……。だけど、あの世界じゃ俺もお前も苦しいだけだ。」
「苦しいだけな訳が無い。お前の言う様に楽しいことだってある。」
「それは俺の話だ。お前には楽しい事が無い。ーー俺が死ぬからだ。」
「オリバーが死んだら俺には楽しみが無いっていうのか? 」
「そうだ。そうだろ? 」
「僕が薄情だって忘れたのかい? 」
「お前は薄情だ。だけど、ーー家族には優しい。友達にも、本当は」
「僕を作り上げるのはやめてくれ。君の理想になんて成れやしない。」
「ーー成れよ。」
「……。無茶を言うなよ。」
「無茶だったな。確かにーーお前は自由を好む……。ここには自由があるぞ? 」
「話を戻すなよ。転生しても夢には生きない。夢の世界を彷徨い囚われるのは懲り懲りなんだ。」
「お前も夢渡りをしていたもんな。なら楽しさだって覚えているはずだ! 」
「そこに生き、根を張るつもりは無いよ。それとも君はまた僕を醜悪な悪魔にでもしたいのか? 」
「醜悪とか言うな。」
「兎に角、僕が死に体が失くなるというのなら、僕は実家に帰るか転生をする。お前は好きに夢の中で遊んでいれば良い。」
「ーー地獄に帰るのか? 」
「そうだよ。」
※※※
「転生する際の注意点はありますか? 」
「ーー夢渡りはしない方が良い。」
「『夢渡り』ーーですか……。」
「あぁ。あれは色々危険なんだよ。」
「危険ーーわかりました。」
「素直だな、本当お前」
「閻魔が危険と言うのなら危険な行為なのでしょう? 」
2025.12.27 2026.1.3




