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❈5❈

「兆しはあったのですが、声を掛けるのが遅くーー……。」


「じゃあそのまま? 」


「はい……。僕も覚えています、あの人の、亡くなった日を……。」


先生に似た雰囲気のこの人は、つまり僕の兄であるーーと天成は改めて胸の内に念を押すようにした。


「僕は末っ子だったから、知らない……。」


そして、おずおずと小さなく呟く様に、けれど不思議とハッキリと天成の声が居酒屋にぽつりと静かに響いた。


「うん、ーーお父さんのこと、言わないな〜、話さないな〜、って、思ってた。知らなかったんだ? 」


親友のその子が天成に聞き正した。


「うん。名前とか噂とかーー周りの人達から話は沢山聞いてきたけど、僕は知らない……。会ったこともないし……。」


「そっか……。おいで、こっち、」


「うん? 」


素直に隣に来た天成の頭をいつも一緒にいる親友が撫でたーーこの親友はアイスを食べ損ねたことをきっと今は忘れている。


「知らないって、知らないから悲しくも苦しくもないって言う人もいるけどーーちゃんと、悲しくて苦しいってこと、あると思う……。」


「ありがとう……。」


「貴方たちは、良いですねーー仲がという意味もありますが、こうーー、良い子ですね。」


「良い子って褒めて貰えた! 」


「貴方の頭は私が撫でましょうか? それともーー」


先生はチラリと目配せをする様にして友達の父親の方に視線を投げたのと同時くらいに、その人は待ち構えている様子だった。


「俺が撫でるよーー……。おいで」


「今日は行こうかなーー撫でられに……。」


友達は少し照れて恥ずかしそうにしながら、自身の父親の方を見て言うとそちらの方へ近寄っていった。


「(あぁ、『悲しい』『苦しい』より、これはーー『寂しい』かも……。)」


親子の姿を見て、自分には存在しない親子というものを間近にして、今までは気にもしていなかったものがそう感じられるのは、自分の親の話を聞いてしまったからだろう。


「撫でましょうか? 私も貴方の頭をーー、撫でても、良いですか? 」


「ーーえぇっと、無理しなくて良いです。急に先生が先生らしくなくなるのも、なんだか寂しいので……。」


『今更』とか、『違う』とか、そんな否定的な気持ちにもならないけれど、『今まで』が変わってしまうことが勿体無い様な感覚がした。


「なら、教師として、ーーいつもの私なら良いですか? 」


「それなら、はい。」


先生の正面に向き直れば、腕が伸びてきて、その腕の先にある手が頭を撫でた。


「今、『教師になって良かった』とーーそう思いました……。」


「ーーそうですか……。僕の頭を撫でてですか? 」


「はい……。」


「? 」


「天成くん、ーーそれは教師にならないと分からないことのようです……。」


「あ。」


納得した天成は、自分の将来が教師だったらどんな感じだろう? ーーと、想像した。想像していると、頭の良い親友も教師になっている姿が浮かんだ。


「ーー先生、」


「先生って、頭が良くないとなれませんよね? 」


「一概には言えませんがーーそうです。」


「馬鹿でもなれる? 」


「いえ、馬鹿ではなれません。『一概に』と言いましたが、『頭が良い』というだけではなれないという意味でした。」


「頭が良いだけじゃなれない職業ーーか……。確かに。」


「うん、確かに……。」


先生達は皆、頭が良いーーだけど、それだけじゃない。優しかったり、格好良かったり、強かったり、秀でていたり、ーーそれぞれの色みたいな、そんなところがある……。


ーーと、二人は二人とも同じような内容を頭に浮かべた。


「僕たちは、先生って向いていますか? 先生になれそうですか? 」


「君たちーーですか……。向いているとは思います。ですがーー」


「? ーーあ、」


「ノアさんの方は家庭事情が、天成くんは、先刻のような発現してしまった能力のデメリットが、ーー足を引っ張ってしまうでしょう……。」


「自分で気づいた……。でも、これだけはどうしようもない……。って、俺、先生目指してる訳じゃなかった! 」


「僕も。多分なりたいまではいかないだろうなぁ……。」


「なりませんか? お二人とも? 」


「うん……。」


「はい。」


「それは何故でしょう? 」


「ーー他になりたいものがあるから。」


「僕は、それを応援したいから……。」


「ーー決まっているわけですね……。お二人とも、共に決まっているというのであれば、教師として、先生として私はサポートします。」


「「お願いします! 」」


「あ、でもなれなかったら先生になりたい! 」


「その時はどうしよう……。考えてなかった」


「考えましょう、これからまだまだ、貴方たちには時間があります。」


「「はい。」」


「ところでーーですが、」


「「? 」」


「貴方は本当にーー、本当に天照ではないんですね? 記憶も無いのも、本当にーー? 」


「違いますっ! 僕は天成で! 」


“本当にーー? ”


「(え? ……。)」


“貴方は本当の本当に、天照じゃないーー?”


「(まただ……。どこからーー? )」


“まだ、分からないーー貴方は自分に気がついていないっていうこともあるわ”


「声がーー……。」


「? どうしました? 」


「! 干渉を受けているーー呼ばれるかもしれない、」


「干渉? 呼ばれる? ーーあ! 」


“そうね、呼んでみましょう。話はそれからーー”

2025.11.27

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