SCPR
胸にロッドが刺さり、血を吐きながら拓人に支えられているサイラス。
そんな二人の額に手を当てる文翔。
彼らは今、サイラスの頭の中で、彼の記憶を辿っていた。
「……大蔵、これ、どんな状態なんだ?」
何もない場所で半透明になった自分の体を見て、同じく半透明な文翔に問いかける。
「今、私たちの意識はサイラスの頭の中にいます」
拳を握るが、夢の中にいるようで上手く力が入らない。
「精神体ですから、何かを触ることは出来ません」
チャクラも回せない。
「これから私たちは、サイラスの過去を見ることになります。現実世界では一瞬ですが、体感時間はかなり長く感じるでしょう」
妙な無力感に、落ち着かない気分になる。
「サイラスの人生を、私の知り得た情報で補完しながら客観的に観ます。飛び飛びにはなりますが、きっと彼のことを深く知ることになるでしょう」
よくわからないが、映画を観るような感じだろうか。
「その上で、安藤君が彼を説得をして下さい。貴方なら、必ず出来るはずです」
そう言われてもピンと来ない。
俺なんかが、何をどう説得すればいいか見当もつかなかった。
「始まりますよ、サイラスが生まれる前の景色からです」
視界が揺れ、場面が切り替わる。
そこは研究室だった。
白衣を着た連中が、試験管を片手に何かの液体を混ぜたり、顕微鏡を覗いたりしている。
「あれは、エレノアの卵子と、他の異能者の精子を特殊な方法で受精させている場面です」
「……試験管ベイビーってやつか?」
「そうです、これがSCPR計画。彼らはこうして生まれました」
「……彼ら?」
「はい、サイラスの他に、何人もの実験体が造られています」
研究室を見ると、確かに試験管がずらりと並んでいる。
これが全部、サイラスみたいな能力者の元だっていうのか?
「ただ、何百と造られた受精卵で、成長し、産まれることが出来たのは十人くらいですけどね」
なんでこいつはこんなに詳しいんだ?
「さあ、産まれますよ」
再び場面が変わる。
映し出されたのは保育器に入っている赤ん坊たち。
みんな静かに眠っている。
「これ、全員エレノアの子供ってことか?」
「そうですね、父親の遺伝子はそれぞれ違いますが」
自分の子供を兵器として生み出すなんて、どんな気分なんだろう。
エレノアの心は痛まないのか。
きっと、俺の母親は普通の子供が欲しかったはずだ。
それを思うと、どうにもやり切れない気持ちになってしまった。
「次は幼少期です」
場面が変わり、白い部屋に何人かの子供が静かに過ごしている。
髪色が黒いのは二人。
おそらくサイラスとフォンリンだろう。
なんとなく面影がある。
小さいフォンリン、可愛い。
というか、なんで他の子供と一緒にいるんだ?
俺は絶対に他の子となんて遊ばせてもらえなかったのに。
「フォンリンさんは、安藤君ほどチャクラの力を持ってなかったからですよ」
「……え?もしかして心の声とか聞こえるのか?」
「ええ、今の私たちは心が裸の状態で繋がっています」
聞いてないぞ。
ってことはなにか?
俺がさっきフォンリンのことを可愛いとか思っていたのも、全部聞こえてるのか?
「聞こえましたよ。ついでに言えば、サイラスにも聞こえています」
「ちょっと待て!なら、俺の秘密とか恥ずかしいこととかも全部筒抜けじゃねーか!」
マズイ、こんなナリして童貞だってこともバレる。
それに、マリアの髪の匂いでパンパンにしてることとか。
ホンシアのマッサージでパンパンにしてることとか。
アマテの胸を見てパンパンにしてることとかも全部バレちまう。
「私も童貞ですよ。あとマザコンでファザコンです、気にしないで下さい」
「クソッ!気にするなって方が無理だろうが……」
「そんなことより、今はサイラスのことに集中してください」
そんなことって言われても、俺のアイデンティティーに関わる、結構重要なことだと思うが。
しぶしぶ子供たちの方へ意識を向けると、ふと違和感に気付いた。
「あれ?……なんか子供の数が少なくねぇか?」
保育器に入っていた赤ん坊はもっといたような。
「異能を持って育つというのは、とても難しいのですよ」
十人くらいいた赤子が、今は五人に減っていた。
「ましてや、無理矢理造られたなら、余計に育ちにくいのでしょう」
よく考えたら、俺だって母親を壊して超未熟児として生まれたらしい。
普通なら、その時点で死んでいてもおかしくない。
「彼らは物心つく前から、検査や実験を受け続けています」
小さな体に負担が掛かりそうな検査や実験が、目の前で繰り広げられていた。
「やっぱり俺と同じなんだな……」
「ええ。私たちと同じで、実験体として生かされていました」
私たち?
その言葉と同時に、文翔の記憶が流れ込んでくる。
あの研究施設の庭園。
拘束具でガチガチに固められた俺が、ぼんやり空を見上げている姿。
「私もあの施設で育ちました、安藤さんを見かけたこともあります」
「マジかよ……」
っていうか、客観的に見ると俺の扱いってヤバくね?
なんだあのガッチガチに固められた姿、かわいそ過ぎるだろ。
普通に泣けてくるわ。
「当時は、手助けできなくてすみませんでした」
伝わってきたのは後悔の気持ち。
どうやら、文翔は手を差し伸べたいと思ってくれていたらしい。
「いや……あれがあるから俺は研究所から逃げてアキラに会えたし、いいよ」
もし、あの頃にもっと哲也と仲良くなってたら、文翔に助けて貰っていたら。
——友達がいたら、俺はあそこから脱出していない。
結果オーライだが、そこに恨みはなかった。
「そう言ってもらえれば、多少は気が楽になれます」
人生というのは巡り合わせだ。
今、文翔に助けてもらっているのも、きっと縁があってのことだろう。
「サイラスには、兄弟や友達がいました」
見ていると、彼らは支え合って生きていた。
「フォンリンさんは、外部から来たイレギュラーな存在でしたが、幼少時から一緒に過ごしています」
そこにあるのは、紛れもない家族愛。
俺が心から求めていたもの。
「サイラスは、私と同じ魔眼の能力を持って生まれていますが、その力はかなり弱かったみたいです」
魔眼ってのが、文翔の能力か。
実験施設にいる子供たちは、それぞれ特殊な異能を持っていた。
発火能力や、身体変化、念動力、怪力などわかりやすいものだ。
そんな中で、サイラスは人の魂の色や感情が見えるくらいの力しか持っていなかった。
戦闘兵器を育成する研究所としては、あまり使い道のない存在だった。
それでも、子供たちの中では人気者だった。
自分たちの感情へ敏感に反応し、彼らを深く理解してくれる存在だったからだ。
特に、親に捨てられたフォンリンはよく懐いている。
彼女が寂しく思っていると、サイラスはそっと隣に座り、手を握って安心させていた。
「めっちゃイイ奴じゃねーか……」
先ほどの殺戮兵器の姿が嘘のような、優しい少年。
「彼は今も変わりませんよ、諦めてしまっただけで」
「何を諦めたんだ?」
「それはすぐにわかります」
場面が変わり、彼らの戦闘訓練が始まる。
チャクラの力は、負荷が掛かれば掛かるほど力が増す。
そのせいでフォンリンは、俺と同じような過度な訓練を課せられていた。
俺と違ったの彼女には仲間がいたこと。
そして、訓練を自分の意思で積極的に受けていたことだ。
そんなフォンリンをサイラスが全力でサポートしていた。
彼女だけじゃなくて、兄弟ともいえる子供たち全員だ。
戦闘に不向きなサイラスは、子供たちのメンタルケアをする役割を与えられていた。
まるで彼らの親のように。
子供たちは、サイラスの居場所を作るために必死で訓練を行っていた。
自分たちががんばれば、それだけ彼の評価に繋がることを理解していたのだ。
サイラスのおかげで、訓練は順調に進んでいった。
だがそれは、兵器としての完成を意味する事となる。
皆が十二歳を超える頃には、異能部隊ネメシスが完成した。
彼らの結束は固く、人類最大の脅威へ対するアメリカの切り札として、目覚ましい成長を遂げていた。




